タイムトラベラー主婦

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ぎっくり腰

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 慶子が昭和に戻ってから1年半が経過した。1978年(昭和53年)春。

 慶子としてはまだ37歳だけど、敬子として平成で過ごした期間を合わせればもう40代である。

 歩、泰代は中学校に入学する。

 小学校の卒業式は中学の制服を着るのが普通のようだが、慶子は夫の二番目の姉から送られてきた子供用の礼服を着せた。歩は不満そうだったが、慶子としては小学校の儀式に中学の制服という方が理解できない。

 保は前の年に幼稚園に入った。入ったけど、体が弱いのは相変わらずで、通えているのは半分も無い。体を強くしようとして水泳教室にも通わせているが、こちらも通える日の方がはるかに少ない。相変わらず添い寝で面倒を見る夜が多い。呼吸器系統が弱いので、ようやくボックスティッシュが安く買えるようになったのがありがたい。今更ながら体が丈夫で病気と無縁のメイ、アオイを思い出さずにいられない。この世に生まれ出るのはまだ20年も先なのだが。

 家には歩、泰代が幼稚園の時にやらせたオルガンがある。幼稚園を会場にしているオルガン教室だったのだが、二人とも興味がなかったようで結局短期間でやめてしまった。どちらかといえば、慶子が興味があってやらせたようなもの。やらせれば熱心にやると思っていたが、結局慶子が言うから嫌々やっていたのに過ぎないらしい。メイやアオイなら喜んでやるだろうに。

 保にもやらせているが、どうもあまり興味はない様子。何より体調が悪くてほとんど通えていない。

 保は幼稚園を休んで家にいることが多いから、どうしても甘くなってしまう。上の二人は、

 「小さいとき欲しいものをこんなに買ってもらえなかったのに、保だけ不公平だ」

 と文句を言っている。双子だとどうしても同時期に金がかかってしまい、我慢ばかりさせてきたのは間違いない。

 歩と泰代は反抗期に入った。特に歩は夫とぶつかることが多くなり、ますます仲が悪くなっている。歩は夫が帰ってきても、ほとんど口を利かない。よほど嫌いらしい。夫も歩のことがますます嫌いらしく、顔を合わすと何かと言いがかりをつけては暴力を振るっている。気の毒だとは思うけど、慶子にできることは何も無い。こんな家庭に産んでしまったことだけを心から詫びる。

 歩はものの考え方も平成流だ。昭和の時代には合っていない。

 「あなたは早く生まれ過ぎたのね。あと20年間だから、それまで我慢して」

 歩に直接話すことができないのが何とも悲しい。生まれたのが平成で父親がユウさんだったら、もっと楽に生きられたことだろう。

 泰代はもう完全に女性のカラダになっている。生理用品は何時初潮が来ても使えるように渡しておいた。ブラジャーはまだだが、本人がいつ言い出すか時間の問題だろう。もう、「貧乳」を自認している慶子より明らかに胸囲は大きい。

 夫は近くの工場から東京の本社に転勤になって家を早く出るようになった。長時間家に居られてもありがたいことは何一つないから、むしろその方がいい。

 通勤に使われない自動車が狭い庭に鎮座している。こちら側の世界では無免許の慶子は運転できないのが残念。もっとも、当然のようにマニュアルだから、無免許で運転することすら不可能だが。「オートマ限定免許」が登場するのは10年以上も後のことである。

 狭いし、快適さでは平成の家とは比較にならない。時々懐かしく思うこともあるけど、こちらも慶子の家であることは確か。

 新年度を迎えたある日、突然、腰に稲妻が走った。

 「ぎっくり腰ってやつ?」
 
 元々、腰の調子がいい方ではなかった。平成にいた時の家は座ったりすることがない洋間の生活だったので特に意識していなかったのだが、こちらの戸籍上はまだ30代とは言え、からだの実年齢が40を越したこともあって無理が効かなくなったのかもしれない。

 トイレに起きるのがやっと。家事は泰代と歩に頼むしかない。布団だから起き上がるのも一苦労。もちろん仕舞うことなどできない。

 「平成の家みたいに椅子とベッドの生活だったらこんなことにならないのに」

 こんな状態では平成に戻るわけにもいかない。

 何とか歩けるようになったのは、1ヶ月も経ってからのことだった。

 「からだが平成の生活に適応してしまったのかも?」

 昭和の時代では私は「未来人」なのかもしれない。そう思い知らされた。

 
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