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21世紀
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除夜の鐘を聞くころになるとさすがに眠くなった。ユウさんはまだ起きているつもりらしい。
「先に寝るわね」
昭和にいた時にも、そんなに遅くまで起きている習慣は無かった。「おせち料理」を作るため、やむを得ず起きていたことはあったけど、できればさっさと寝たいと思っていた。
目が覚めると、朝6時前。敬子の胸の上に隣で寝ているユウさんの手があった。
「相変わらずだな」
今夜あたり、早速世紀初めの相手をしてあげようか。
昨夜何時頃まで起きていたのか、普段なら早起きのユウさんはまだ熟睡している。
ユウさんの寝姿を見ながら思う。
この平成の世界において、「敬子」の夫であることは間違いない。でも、生年月日から見れば「慶子」の子供のような歳。
普段は意識することは無いけど、時々「慶子」の目線で見てしまうことがある。
そっとどけて外に出てみる。冬の朝は寒いけど、我慢できないほどではない。朝日はまだ出ていないが、晴れ渡っている様子。
タイムスリップして来た敬子のことなど無視するように、時代は過ぎていく。
他の人にとって20世紀というのは過ぎ去った時代になってしまったけど、敬子が慶子に戻ることは何時でも可能らしい。
そんなことを思いながら、雑煮を作り始める。この地域で普通に食べられている雑煮。昭和にいた時には出身地の雑煮を作っていた。夫も同じ町の出身だったから、それでよかった。
こちらではあえてそんなことをしない。雑煮というのは地域性が強いから、そんなことをすれば要らぬ詮索を受けないとも限らない。
ユウさんは音楽大学の助教授だから、家には音楽関係のものが多い。敬子は幼い子供たちがいたずらしたりしないよう仕事部屋に入れないようにしていたが、それでも影響はされるらしく、大声で歌ったりする。普通の子供みたいに外れた音ではなく、結構音感がいい。
やはり子供というものは環境に左右されるらしい。昭和の家では夫が音楽など全く興味が無かったこともあってか、上の子二人は興味を示さなかった。音楽好きにしようと思ってオルガンを買い与え、教室にも通わせたが、初めから明らかに嫌がっていてすぐ辞めてしまった。こんなにがっかりしたことは無い。
ユウさんとの子供たちは間違いなく音楽好きに育つだろう。楽しみになってきた。
そんな空想をしながら朝ごはんの支度が調った。出来合いのおせちと合わせて今年初めての食事。メイとアオイも起きてくる。
「ごはんにしましょ」
さすがにまだ大人と同じ物は無理。メイには細かく千切って、アオイには潰して離乳食にしたものを食べさせる。
昭和にいた時には幼子に自分の噛んだ物をあげたりするのが普通だったけど、虫歯菌が伝染るということで今はタブーらしい。医療の常識も随分変わった。
ユウさんはあまり年中行事にこだわる人ではない。
「いただきます」
とだけ言って、普段の朝食と同じように食べ始める。
敬子もこの方が堅苦しくなくて楽。家の伝統の正月のしきたりなんかあるようではそれだけで面倒。
食べ終わると、ユウさんが言った。
「これから初詣に行ってこようか」
敬子にも異論は無かった。決して信心深い方だとは思っていないけど、今世紀初めくらいは行ってもいいと思った。
家の近くに小さな神社がある。明治神宮などの大きな神社と違って、元日でも訪れる人はそれほど多くない。
車で行くこともできるけど、敬子の提案で歩いて行くことにした。アオイはユウさんが抱きかかえ、メイは敬子が手を繋いで歩く。
それでも何家族かお参りに来ていた。人ごみを嫌う人もいるのだろう。
敬子は、柏手を打ってから心の中で願う。
「この幸せが続きますように」
ユウさんが聞いてきた。
「何をお願いしたの?」
「家族みんな無事に過ごせますようにって」
こういうことにしておけばいいだろう。
家に帰ると、ユウさんの両親が来ていた。ユウさんや敬子が留守の時でも入れるように合いカギは持っている。
「あけましておめでとうございます。昨年はメイやアオイの面倒を見ていただいてありがとうございます。今年もよろしくお願いします」
「あら、いいのよ。こちらこそよろしくね」
年齢を考えると、もう生きていない可能性も高いけど、敬子は自分の両親のことを思い出していた。
「先に寝るわね」
昭和にいた時にも、そんなに遅くまで起きている習慣は無かった。「おせち料理」を作るため、やむを得ず起きていたことはあったけど、できればさっさと寝たいと思っていた。
目が覚めると、朝6時前。敬子の胸の上に隣で寝ているユウさんの手があった。
「相変わらずだな」
今夜あたり、早速世紀初めの相手をしてあげようか。
昨夜何時頃まで起きていたのか、普段なら早起きのユウさんはまだ熟睡している。
ユウさんの寝姿を見ながら思う。
この平成の世界において、「敬子」の夫であることは間違いない。でも、生年月日から見れば「慶子」の子供のような歳。
普段は意識することは無いけど、時々「慶子」の目線で見てしまうことがある。
そっとどけて外に出てみる。冬の朝は寒いけど、我慢できないほどではない。朝日はまだ出ていないが、晴れ渡っている様子。
タイムスリップして来た敬子のことなど無視するように、時代は過ぎていく。
他の人にとって20世紀というのは過ぎ去った時代になってしまったけど、敬子が慶子に戻ることは何時でも可能らしい。
そんなことを思いながら、雑煮を作り始める。この地域で普通に食べられている雑煮。昭和にいた時には出身地の雑煮を作っていた。夫も同じ町の出身だったから、それでよかった。
こちらではあえてそんなことをしない。雑煮というのは地域性が強いから、そんなことをすれば要らぬ詮索を受けないとも限らない。
ユウさんは音楽大学の助教授だから、家には音楽関係のものが多い。敬子は幼い子供たちがいたずらしたりしないよう仕事部屋に入れないようにしていたが、それでも影響はされるらしく、大声で歌ったりする。普通の子供みたいに外れた音ではなく、結構音感がいい。
やはり子供というものは環境に左右されるらしい。昭和の家では夫が音楽など全く興味が無かったこともあってか、上の子二人は興味を示さなかった。音楽好きにしようと思ってオルガンを買い与え、教室にも通わせたが、初めから明らかに嫌がっていてすぐ辞めてしまった。こんなにがっかりしたことは無い。
ユウさんとの子供たちは間違いなく音楽好きに育つだろう。楽しみになってきた。
そんな空想をしながら朝ごはんの支度が調った。出来合いのおせちと合わせて今年初めての食事。メイとアオイも起きてくる。
「ごはんにしましょ」
さすがにまだ大人と同じ物は無理。メイには細かく千切って、アオイには潰して離乳食にしたものを食べさせる。
昭和にいた時には幼子に自分の噛んだ物をあげたりするのが普通だったけど、虫歯菌が伝染るということで今はタブーらしい。医療の常識も随分変わった。
ユウさんはあまり年中行事にこだわる人ではない。
「いただきます」
とだけ言って、普段の朝食と同じように食べ始める。
敬子もこの方が堅苦しくなくて楽。家の伝統の正月のしきたりなんかあるようではそれだけで面倒。
食べ終わると、ユウさんが言った。
「これから初詣に行ってこようか」
敬子にも異論は無かった。決して信心深い方だとは思っていないけど、今世紀初めくらいは行ってもいいと思った。
家の近くに小さな神社がある。明治神宮などの大きな神社と違って、元日でも訪れる人はそれほど多くない。
車で行くこともできるけど、敬子の提案で歩いて行くことにした。アオイはユウさんが抱きかかえ、メイは敬子が手を繋いで歩く。
それでも何家族かお参りに来ていた。人ごみを嫌う人もいるのだろう。
敬子は、柏手を打ってから心の中で願う。
「この幸せが続きますように」
ユウさんが聞いてきた。
「何をお願いしたの?」
「家族みんな無事に過ごせますようにって」
こういうことにしておけばいいだろう。
家に帰ると、ユウさんの両親が来ていた。ユウさんや敬子が留守の時でも入れるように合いカギは持っている。
「あけましておめでとうございます。昨年はメイやアオイの面倒を見ていただいてありがとうございます。今年もよろしくお願いします」
「あら、いいのよ。こちらこそよろしくね」
年齢を考えると、もう生きていない可能性も高いけど、敬子は自分の両親のことを思い出していた。
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