タイムトラベラー主婦

zebra

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タイムトラベラー敬子

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 敬子は夏の盛りの駅前にいた。

 周りには半袖を着た人たちがいる。長袖を着ているのは自分だけ。自動車のバックミラーはボンネットの左右にある。

 敬子は確信した。自分は「慶子」に戻ったのだ。昭和があと13年で終わることも、20年後、神戸に大地震が起きることも、自分以外は誰一人知らない。

 再びやらなければならないことがある。平成の世界に戻ること。

 目を瞑って心の中で祈る。

 「ユウさんと妊娠の喜びを語り合いたい」

 敬子は平成のリビングに戻っていた。

 「よかった」

 冷静になって、体中が震えてくる。

 タイムトラベルできることは分かったけど、確実に戻ってこれる保証などどこにも無かった。今思えばとんでもない賭けをしてしまったもの。

 「歩、泰代、保、しばらくお別れよ」

 昭和と平成を行き来できることが分かったと言っても、この子を無事に出産し、少なくとも授乳が終わるころまでは、昭和50年に戻るわけにはいかない。

 その後どうするか、すぐに決断はできなかった。まあ、それは後でゆっくり考えよう。

 翌日、出勤した敬子は職場の仲間に妊娠したらしいこと、午後は仕事前に産婦人科で診てもらってくることを伝える。

 敬子の中では「確認」ではなく、「確信」だったけど、これも儀式のようなもの。

 午前中の勤務が終わって産婦人科で診てもらった敬子はお墨付きを得て勤務先の仲間に報告する。

 記憶喪失の女としてここに来て以来の仲間たちは、自分のことのように喜んでくれた。

 「これからは気をつけなきゃ」

 うっかり子供たちのことを懐かしんで、また昭和50年に飛ばされたらたまらない。

 「今は、私の子供はこの子だけ」

 子供たちのことは心の奥にしまっておく。

 いけない。また飛ばされるかもしれない。危ない、危ない。

 終業後、自宅に向かう車の中で考える。

 こちらでは車の運転もできるし、使い捨ておむつもある。昭和にいた時とは比べ物にならないくらい子育ての労力は軽減されそう。

 「無事に生まれて来てね」

 それだけが願い。

 帰ると、夕食の支度をする。いつもよりちょっと贅沢なメニュー。敬子もユウさんもお酒は飲まないので、子供に悪影響は無い。

 間もなくユウさんも帰ってきた。テーブルを見てすぐ分かった様子。

 「2ヶ月目。間違い無いって」

 「よかった。性別はいつごろ分かるの?」

 敬子は驚きを隠せなかった。生まれる前にそんなこと分かるようになっていたの?

 先生は何も言っていなかったのだから、まだ分からないのだろうと解釈。

 「それは聞いてこなかったわ」

 まだまだ平成の常識で知らないことが山のようにありそうだ。

 

 



 

 

 

 

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