11 / 35
タイムトラベラー敬子
しおりを挟む
敬子は夏の盛りの駅前にいた。
周りには半袖を着た人たちがいる。長袖を着ているのは自分だけ。自動車のバックミラーはボンネットの左右にある。
敬子は確信した。自分は「慶子」に戻ったのだ。昭和があと13年で終わることも、20年後、神戸に大地震が起きることも、自分以外は誰一人知らない。
再びやらなければならないことがある。平成の世界に戻ること。
目を瞑って心の中で祈る。
「ユウさんと妊娠の喜びを語り合いたい」
敬子は平成のリビングに戻っていた。
「よかった」
冷静になって、体中が震えてくる。
タイムトラベルできることは分かったけど、確実に戻ってこれる保証などどこにも無かった。今思えばとんでもない賭けをしてしまったもの。
「歩、泰代、保、しばらくお別れよ」
昭和と平成を行き来できることが分かったと言っても、この子を無事に出産し、少なくとも授乳が終わるころまでは、昭和50年に戻るわけにはいかない。
その後どうするか、すぐに決断はできなかった。まあ、それは後でゆっくり考えよう。
翌日、出勤した敬子は職場の仲間に妊娠したらしいこと、午後は仕事前に産婦人科で診てもらってくることを伝える。
敬子の中では「確認」ではなく、「確信」だったけど、これも儀式のようなもの。
午前中の勤務が終わって産婦人科で診てもらった敬子はお墨付きを得て勤務先の仲間に報告する。
記憶喪失の女としてここに来て以来の仲間たちは、自分のことのように喜んでくれた。
「これからは気をつけなきゃ」
うっかり子供たちのことを懐かしんで、また昭和50年に飛ばされたらたまらない。
「今は、私の子供はこの子だけ」
子供たちのことは心の奥にしまっておく。
いけない。また飛ばされるかもしれない。危ない、危ない。
終業後、自宅に向かう車の中で考える。
こちらでは車の運転もできるし、使い捨ておむつもある。昭和にいた時とは比べ物にならないくらい子育ての労力は軽減されそう。
「無事に生まれて来てね」
それだけが願い。
帰ると、夕食の支度をする。いつもよりちょっと贅沢なメニュー。敬子もユウさんもお酒は飲まないので、子供に悪影響は無い。
間もなくユウさんも帰ってきた。テーブルを見てすぐ分かった様子。
「2ヶ月目。間違い無いって」
「よかった。性別はいつごろ分かるの?」
敬子は驚きを隠せなかった。生まれる前にそんなこと分かるようになっていたの?
先生は何も言っていなかったのだから、まだ分からないのだろうと解釈。
「それは聞いてこなかったわ」
まだまだ平成の常識で知らないことが山のようにありそうだ。
周りには半袖を着た人たちがいる。長袖を着ているのは自分だけ。自動車のバックミラーはボンネットの左右にある。
敬子は確信した。自分は「慶子」に戻ったのだ。昭和があと13年で終わることも、20年後、神戸に大地震が起きることも、自分以外は誰一人知らない。
再びやらなければならないことがある。平成の世界に戻ること。
目を瞑って心の中で祈る。
「ユウさんと妊娠の喜びを語り合いたい」
敬子は平成のリビングに戻っていた。
「よかった」
冷静になって、体中が震えてくる。
タイムトラベルできることは分かったけど、確実に戻ってこれる保証などどこにも無かった。今思えばとんでもない賭けをしてしまったもの。
「歩、泰代、保、しばらくお別れよ」
昭和と平成を行き来できることが分かったと言っても、この子を無事に出産し、少なくとも授乳が終わるころまでは、昭和50年に戻るわけにはいかない。
その後どうするか、すぐに決断はできなかった。まあ、それは後でゆっくり考えよう。
翌日、出勤した敬子は職場の仲間に妊娠したらしいこと、午後は仕事前に産婦人科で診てもらってくることを伝える。
敬子の中では「確認」ではなく、「確信」だったけど、これも儀式のようなもの。
午前中の勤務が終わって産婦人科で診てもらった敬子はお墨付きを得て勤務先の仲間に報告する。
記憶喪失の女としてここに来て以来の仲間たちは、自分のことのように喜んでくれた。
「これからは気をつけなきゃ」
うっかり子供たちのことを懐かしんで、また昭和50年に飛ばされたらたまらない。
「今は、私の子供はこの子だけ」
子供たちのことは心の奥にしまっておく。
いけない。また飛ばされるかもしれない。危ない、危ない。
終業後、自宅に向かう車の中で考える。
こちらでは車の運転もできるし、使い捨ておむつもある。昭和にいた時とは比べ物にならないくらい子育ての労力は軽減されそう。
「無事に生まれて来てね」
それだけが願い。
帰ると、夕食の支度をする。いつもよりちょっと贅沢なメニュー。敬子もユウさんもお酒は飲まないので、子供に悪影響は無い。
間もなくユウさんも帰ってきた。テーブルを見てすぐ分かった様子。
「2ヶ月目。間違い無いって」
「よかった。性別はいつごろ分かるの?」
敬子は驚きを隠せなかった。生まれる前にそんなこと分かるようになっていたの?
先生は何も言っていなかったのだから、まだ分からないのだろうと解釈。
「それは聞いてこなかったわ」
まだまだ平成の常識で知らないことが山のようにありそうだ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
グラディア(旧作)
壱元
SF
ネオン光る近未来大都市。人々にとっての第一の娯楽は安全なる剣闘:グラディアであった。
恩人の仇を討つ為、そして自らの夢を求めて一人の貧しい少年は恩人の弓を携えてグラディアのリーグで成り上がっていく。少年の行き着く先は天国か地獄か、それとも…
※本作は連載終了しました。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ふたつの足跡
Anthony-Blue
SF
ある日起こった災いによって、本来の当たり前だった世界が当たり前ではなくなった。
今の『当たり前』の世界に、『当たり前』ではない自分を隠して生きている。
そんな自分を憂い、怯え、それでも逃げられない現実を受け止められるのか・・・。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる