タイムトラベラー主婦

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敬子、再び

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 あれからどれだけ時間が経ったのだろうか。

 敬子は、目を覚ました。

 眠っていたのか、気を失っていたのか、ぼーっとしていたのか、自分でも分からない。

 なんだか肌寒い。周囲を見回してみる。

 自分の家にいた。ユウさんと結婚して住み始めた家。

 昭和にいた時の夢を見ていたのか、と思ったが、すぐそうではないことに気が付く。

 肌寒いのも当然。春先なのに夏の服装をしている。

 手にはカバンを持っていた。絶望して、家を出る時持ち出したカバン。平成の今では持っている人などほぼいない、古めかしいデザイン。

 家の中なのに、靴を履いている。慌てて脱ぐ。

 新聞を確かめる。昭和に戻った日だ。間違いない。

 「戻って来たんだ」

 ほっとする。自分の居場所はここにある。

 忘れていたことに気が付いた。

 「そうだ。報告しなきゃ」

 妊娠検査薬で調べたことにすればいいけど、お墨付きがあった方がいいだろう。とりあえず報告だけはして、明日は仕事だから、休み時間に診てもらおう。勤め先の病院には産婦人科がある。

 絶望の種だったことが、戻ってきたことで明るい話の元になった。

 それにしても。

 どうやって私は平成に飛ばされてきたんだろう?どうして昭和に戻って来たんだろう?どうやって再び平成に戻ってこれたんだろう?

 確実なのは、昭和に戻った日と場所は平成にタイムスリップした日と場所だったということ。歩は私が半年以上未来で過ごしていたことなど知らない。「戻る」時にはその時代で最後にいた場所に戻ってくるようだ。

 再び昭和50年に戻ることがあるのかは分からないけど、もしその時駅前に戻ってくればそれが確定することになる。

 「ただいま」

 ユウさんが帰ってきた。急いでカバンを開けて春物の長袖を取り出す。春先に夏の服装をしているのはどう考えても不自然。

 「お帰りなさい」

 何とか着替え終わったところにユウさんが現れた。ギリギリセーフ。

 今日は何とかなったけど、お腹が目立つようになった時にまた昭和50年にタイムスリップしてしまうのは困る。それまでに法則を見つけ出さなければ。

 まずはユウさんに報告。
 
 「できたみたい」

 表情ですぐ分かったようだ。昭和の夫は鈍感な人だから、自分のことを察してくれることなどまず無かった。

 「そうか、よかった」

 「明日、検査を受けて来るね」

 ユウさんは敬子の服をまくって、まだ膨らんでいないお腹を愛おしそうに撫でてくれた。ちょっとした心遣いが嬉しい。

 「風呂に入ってくる」

 ユウさんが風呂に入っている間に確認しておきたいことがある。

 昭和50年に戻ったのは、残してきた子供たちのことを思い出して会いたいと思った時。ということは・・・・。

 心の中で思い返してみる。

 「子供たちに会いたい」





 
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