私の中の4人の令嬢

ぽんぽんぽん

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ココ

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なによ、この女。


あたしに歯向かうなんて、上等じゃない。

いつも、いつも、太った体を馬鹿にされて、なんの反応もせず、静かに受け止めていた、
お高く留まった侯爵令嬢。

どんなに身ぎれいにしていても、
どんなに男たちにちやほやされても、
私は平民。

醜い豚であっても、あいつは卒業すれば、相応の家に嫁ぎ、
相応の身分を得て、
相応の暮らしをするのよ。

今もそう。
車いすなんて、最新式だし、
脚を覆うひざ掛けは、凝りに凝ったレース。


わかってるわよ。
学生の身分だから、私は教室で君臨できる。

(自分の魅力を盾にして、何が悪いのよ!)



あたしは、自分の席から前にでたわ。
前のクラスメイト達が、両方に分かれて道をつくる。

この白豚が、ゆがんで泣く姿を見るまで、やめるもんですか!

私は、目を潤ませた。


「ひ、ひどすぎます……
わ、わたし!
亡くなったイーストエンドさんの!
イーストエンドさんの、ぬ、ぬれぎぬを
払おうと」
わああっ、と掌で顔を覆った。
小刻みに震える肩に、
周りの視線を感じる。



「そ、そうですわ!
どなたも言ってるわよ、サウスウッド様が、イーストエンドさんの上に落ちたせいで、
彼女は死んでしまったと」

「言い方はわるかったけど。
ココを責めるのは、お門違いではないだろうか」

「本当に。
まずは、サウスウッドさんが、詫びるべきでは?
今回の事件で、みんな心を痛めてるんです」
「その陳謝がないから、
ココが口火を切った、それだけでは?」

口々に、饒舌に、彼らはココをかばった。

(ふん)
保身よね。
この全員が、エリゼの悪口を言ってたんだもの。
エリゼをいじめることに、なんの抵抗もないのは、
あたしと同じ。
そんな風に、こいつらと、付き合ってきたんだもの。


「それに、なんだ?愛人、なんて、下世話な言葉をよくもご令嬢が」
「ココと殿下の純愛をなんだと思って」

「み、みんな……」
あたしは、話題がそっちに向かったので、乗っかることにした。
「あり、がとう……お味方がいるって、こんなに、心強いのね」

まだ濡れている頬をそのままに、微笑を向けると、男たちは顔を赤らめ、
女生徒はうなずく。

(ふふ……)

あたしは、1対多に追い込まれた侯爵令嬢をチラ見する。

ぽっちゃりとした白い顔は、無表情。

「き、貴族、らしく、謝罪、を、ひくっ」
あたしは、集団の導火線に火をつけてやったわ。


「謝れ」
「謝れ謝れ!」
「謝罪くださいなあ~侯爵令嬢さま~」

(泣けばいい!さあ!
いじめられっ子はいつでも敗者よ!)



エリゼの背後の従者は、怒りに今にもとびかからんとしてた。
それを、掌で制したのは、

「おだまりになって」

(……え?)


サウスウッドは、聞いたことのない冷たい声を発した。
伸びた背中。
固い唇。
揺るがずにらんでくる目。

「あなた方、ただいまお言葉を発した皆さん、
この従者とお座りになっているクラスメイトが証人となりますが、よろしいですわね?
こたびの事件は、サウスウッド家の威信にかけて、
真実を明らかにするために、すべての事実をそろえて、
わたくしの汚名返上と、
第二王子の婚約者たるノースフォース公爵令嬢の経歴になんら瑕疵のないよう、
図らうと誓っております。
もとより」

令嬢は、さらに凛とした声を張った。
「あなた方の言動は、わたくしと、公爵令嬢への無礼とご承知ですか?
陰で言うのもはばかられる誹謗中傷を
面と向かっておっしゃったココ嬢を皆さんはかばいましたわ。
なにゆえにサウスウッドの娘が、
事実無根の非難を受けなくてはなりませんの?
わたくし、
いえ、
サウスウッドは、家を通して皆様に抗議いたします。
そして」

つらつらとよく動く口に、あっけにとられているうちに、
ご令嬢は、あたしに指を突き立てた。

「なにが純愛ですか。
ノースフォース様こそが、王家がお認めになった婚約者ではありませんか。
そのエレノア様をも、ないがしろにするお言葉、
公爵家にも通報いたします。
皆様」

微動だにしないままの早口に、内容が追い付かなかった周りは、
少しばかりたじろいだ。

「社会通念を思い知ることですね。
本日は、授業を受ける気になりませんので、
失礼しますわ。
ごきげんよう」

そうして、ぽっちゃり令嬢は、従者を促して扉から去っていったの。


(殿下!……殿下!)

なんとかしなくちゃ。

あたしは、儚い仮面を取り去って、
次の一手を考えていたわ。





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