私の中の4人の令嬢

ぽんぽんぽん

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始動

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あれから10日あまり。

部屋に戻ったリアは、文官試験勉強で培った交渉術<えがおで譲らず決めさせる>戦法で、脳内エリゼを説得した。
ひとつ 人間関係をレクチャーする
ひとつ 作法などで、困った時は
「身体を動かしてほしいのです。そのうち、私も覚えますから」
(そんな、うまく、コントロールしたり抜けたり、できるものでしょうか)

あら。

リアは、ちょっと驚いた。
太っちょ甘やかし令嬢だと、少し軽んじていたエリゼだったが、
ひょっとしたら、賢いのでは?

・・・・・・あの剃刀先輩と腹黒会長の、妹ですものね。

「実践してみましょう」

その後、部屋にこもって一人きりになるときは、常に二人で練習を繰り返した。
疲れて本体が眠ったときは、エリゼが家族の歴史や人物関係をリアに教える。

やっぱり、エリゼ様、賢い方だわ。
めっちゃ、わかりやすいレクチャー。

学年は1つ下だし、エリゼ嬢が才媛であるなどという噂は、聞いたことがなかった。
おとなしい白豚令嬢。その外見を揶揄されても、反論1つせず、穏やかに過ごしていたように思う。

(わたくしが、ふとっているのも、見た目がわるいのも、ぼんやりさんなのも、本当のことですもの)

・・・・・・そうねえ。あの二人のお兄様を基準にしたら、学園の9割がぼんくらよ。
彼女の自己肯定の低さは、彼女のよさを見いだせない周りが悪い。
でも、ここまで卑屈だと、いじめたくなる人物もいたかもね。

「エリゼ様は、素敵なかたよ。
しばらく、身体をお借りする間に、私が実証してあげる」

(いえ!一生使ってほしいの。
でも・・・・・・貴女が生きていきやすくするには、貴女のおっしゃっていることも、理解できますわ}

この頃は、自然に身体を動かすために、エリゼ様は棺から出て、お姿を見せていた。
時折、
「そのようにエリゼを困らせるのでしたら、しばらくはいらっしゃらなくてもよろしくてよ」
わんこの耳のように、うなだれる二人の兄に、ぐっさり刺す言葉を代弁してくれることも。


 そろそろ、学園にも戻らなくちゃね。

「そなたがイヤなら、学園なぞやめてもいいのだ。好奇の中に無理に入らなくとも」
部下にも自分にも、もちろん兄たちにも厳しい侯爵は、夫人とエリゼ様には、アマアマで。
とくにエリゼ様は、砂糖につけこんでもかまわない勢いだ。

「そうもまいりませんわ。授業もずいぶん受けておりませんし」
「送迎は、わたしが守るよ。風評も父の働きで、君の責任は問われないはずだし」
「ありがとうございます、ヴォルフにいさま」
「・・・・・・それでも」

ちょっと困った仕草をして、薄荷色の目が細まる。
「教室や女生徒たちの輪までは」
「にいさま」
私は、毅然と遮った。
「いずれ、どのようなかたちでも、向き合わなくてはなりませんわ。
 大丈夫です。お友達もいますし、騒がしいところへは、もともと近寄りませんもの」

それよりも。

私は、調べ上げなくてはならない。
リゼを殺した犯人。私を階上から押した犯人、を。
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