並行世界で悪魔とゲーム

誇高悠登

文字の大きさ
上 下
27 / 38

若さの特権 (正大 継之介)

しおりを挟む
「うーん。見た感じ普通の高校生って感じですけど? 本当に〈悪魔〉なんですか!?」

 莉子ちゃんがトラックを走る遠藤 旺騎を眺めていた。
 部活動が始まってまだ30分。
 彼ら陸上部はまだ、準備運動の段階である。
 たったそれだけの時間で判断するのは、いくらなんでも早過ぎる。
 というか、俺達の前で走ってもいない。

 莉子ちゃんは今回が初めての調査だ。
 俺達に仕事ぶりをアピールしたいのは分かるが、〈悪魔〉を調べるのはそんな簡単なことじゃないぜ?

「いいか、莉子ちゃん。探偵は忍耐が必要なように、俺達もまた、それが求められているんだ。堪えることが大人の魅力を深めるスパイスになるのさ」

「……よく分からないこと言ってないで、もっとちゃんと観察してくださいよ。ねぇ、公人さん」

「あ、おい、公人に助けを求めるのはズルいぞ、莉子ちゃん!」

「莉子ちゃんの言う通りだよ、継之介。怪しい相手はしっかり見張らないと」

「……お前なぁ」

 俺達は学校視察という項目で内部に招き入れてもらった。故に堂々とした態度で部活動見学を行っていた。
 勿論、学校側と交渉をしたのは公人だ。

 最初は〈悪魔〉と関わるのを拒んでいた教師陣だったが、調べる対象が遠藤 旺騎だと知った途端に、俺達の調査を快く受け入れてくれた。

 どうやら、教師陣たちも遠藤 旺騎が〈悪魔〉ではないかと思っていたようだ。
 とは言え、流石に遠藤 旺騎だけを監視していたら、相手に勘付かれる可能背もある。だから、昼間は全てのクラスの授業を見て回り、部活動の見学も他の部活も周る予定だ。

「ま、確かに〈悪魔〉って感じはしないな」

 恐らく、遠目からの観察にはなるが一番、アップを入念にしているのは遠藤 旺騎だった。準備運動もまた、自身のパフォーマンスに影響することを良く知っているのだろう。
 熱心に打ち込む姿は〈悪魔〉とはかけ離れているように感じた。

 遠くから眺めている俺達には気付いてもいないようだし。

 これなら、まだ、他の部を回ってアリバイ工作した方がいいな。
 他の部活動に行こうと視線で公人に合図して、俺達は歩き出そうとした。
 だが――地道な調査に痺れを切らした女子高生が俺の横にいた。

「いつまで見てればいいんですかー? こんなことして意味はあるんですかー?」

 怪しいと分かっているのだから、本人を問い詰めた方が早いのではないか。
 莉子ちゃんは頬を膨らませて俺達に訴える。
 やれやれ。
 やっぱり、まだまだ甘いな。
 莉子ちゃんがプロ意識を持つまで俺が厳しく教えてやるか。

「もし、遠藤 旺騎が〈悪魔〉じゃなかったらどうする? いいか? 人を疑うってことはその人の人生を変えてしまうかもしれないんだ。些細なことで人生は変わる。ましてや子供の内は尚更だ」

 俺の言葉を受けて、「うーん」と首を捻る莉子ちゃん。
 どうやら、納得できないことがあるようだ。
 反抗と葛藤は若者の特権。
 莉子ちゃんだって本当は、部活動に勤しむ彼らと同年代なのだ。
 むしろ、その方が自然である。

 だからと言って、不満を放置するのも良くはない。
 公人が言葉足らずの俺をフォローするように莉子ちゃんに問いかけた。

「どうしたんだい?」

「え、いや……。私的になんですけど、だったら疑われることをしなければいいんじゃないですか? 例え誤解だったとしても疑われること自体に問題がある方が多いと思うんですけど」

 普通に生きていれば疑われることはない。
 普通じゃないから疑われるんだ。
 莉子ちゃんは若さゆえの勢いで言った。

「ああ。本当はそれが一番だ。でも、そうは問屋が卸さないのが世の中ってもんだ。いつかきっと、莉子ちゃんにも分かるときがくるさ」

 俺はそう言って莉子ちゃんの頭に手を置いた。

「……」

 格好つけた俺の手を、視線だけで動かせるんじゃないかという形相で睨まれた。

 しまった。
 年齢が誠子と近いもんだから、ついつい同じような態度で接してしまった。
女子高生の頭に手を置くなんて、現代においてはセクハラとして逮捕されてもおかしくない。
 慌てて手を放して「あ、いや、違うんだ」と誤魔化す。

 相棒である公人は助けるつもりがないのか、笑いながら遠藤 旺騎の監視を続けていた。
 俺の子供扱いが気に入らなかったのか、莉子ちゃんは更に頬を膨らませて、「私、行ってきます」とグラウンドに向けて走っていった。

 どうやら、遠藤 旺騎に直接話を聞きに行くらしい。
 駄目だ。
 あの子、ちっとも分ろうとしていない。

 確かに俺も高校生ぐらいのときは反骨精神バリバリの捻くれ者だったけど、もうちょっと聞き分けは良かったぞ!?
 頼もしいけども、この時ばかりはそうも言っていられない。

 予想外に自意識が強い莉子ちゃんの行動に俺達の反応は遅れた。

「あ、ちょっと待って!」

 慌てて後を追うが、莉子ちゃんの脚は意外に早く俺の手が届くころには遠藤 旺騎の元に辿り着いてしまった。
 マズいな。
 俺がそう思った時――学生たちから悲鳴が上がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

補助魔法しか使えない魔法使い、自らに補助魔法をかけて物理で戦い抜く

burazu
ファンタジー
冒険者に憧れる魔法使いのニラダは補助魔法しか使えず、どこのパーティーからも加入を断られていた、しかたなくソロ活動をしている中、モンスターとの戦いで自らに補助魔法をかける事でとんでもない力を発揮する。 最低限の身の守りの為に鍛えていた肉体が補助魔法によりとんでもなくなることを知ったニラダは剣、槍、弓を身につけ戦いの幅を広げる事を試みる。 更に攻撃魔法しか使えない天然魔法少女や、治癒魔法しか使えないヒーラー、更には対盗賊専門の盗賊と力を合わせてパーティーを組んでいき、前衛を一手に引き受ける。 「みんなは俺が守る、俺のこの力でこのパーティーを誰もが認める最強パーティーにしてみせる」 様々なクエストを乗り越え、彼らに待ち受けているものとは? ※この作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアッププラスでも公開しています。

闇の世界の住人達

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
そこは暗闇だった。真っ暗で何もない場所。 そんな場所で生まれた彼のいる場所に人がやってきた。 色々な人と出会い、人以外とも出会い、いつしか彼の世界は広がっていく。 小説家になろうでも投稿しています。 そちらがメインになっていますが、どちらも同じように投稿する予定です。 ただ、闇の世界はすでにかなりの話数を上げていますので、こちらへの掲載は少し時間がかかると思います。

異世界転生? いいえ、チートスキルだけ貰ってVRMMOをやります!

リュース
ファンタジー
主人公の青年、藤堂飛鳥(とうどう・あすか)。 彼は、新発売のVRMMOを購入して帰る途中、事故に合ってしまう。 だがそれは神様のミスで、本来アスカは事故に遭うはずでは無かった。 神様は謝罪に、チートスキルを持っての異世界転生を進めて来たのだが・・・。 アスカはそんなことお構いなしに、VRMMO! これは、神様に貰ったチートスキルを活用して、VRMMO世界を楽しむ物語。 異世界云々が出てくるのは、殆ど最初だけです。 そちらがお望みの方には、満足していただけないかもしれません。

処理中です...