24 / 38
天真爛漫な新人 (明神 公人)
しおりを挟む
僕は現在、車を運転していた。
助手席には継之介、そして後部座席の中央には春馬 莉子ちゃんが座っている。
この車は僕の所有車だ。
最新のハイブリットカーは、どこかスポーツカーのようでもある。そのデザインが受けたのか世間では一番売れている車種だ。
車に詳しくない僕は一番売れているからという理由でこの車を買った。
それは――既に〈悪魔〉に殺されてしまった〈並行世界〉の僕も同じだった。
世界が違っても変わらない部分もあるということか。
後部座席から身を乗り出した春馬 莉子ちゃんが大袈裟な声で継之介と言葉を交わす。車内は二人の興奮した声で満ちていた。
「ええー!! 継之介さんたちって〈並行世界〉から来たんですか!? それって異世界ってことですか!?」
「ああ、そうだ。ま、〈並行世界〉って言っても、全く別の世界じゃないんだけどね」
「え、ええ!? それって逆にどういうことなんですか! 凄い気になりますよ!!」
二人が盛上っている話の内容は、僕達が〈並行世界〉から来たということだった。
なんでも、引き籠っていた時に、異世界を舞台としたアニメや漫画を好んで呼んでいたらしい。現実から逃避しなければ、彼女の心は崩れてしまったのだろう。
僕達が過ごしていた世界に興味を示す春馬 莉子ちゃん。
彼女は、完全には異世界と言えない僕達の世界を知りたっていた。子犬のように目を輝かせて継之介に視線を送る。
だが、視線を受けた継之介は窓を開けて顔を背けて僕に助けを求めた。
「えっと……。俺達の世界と〈並行世界〉はどうなってるんだっけか? 公人?」
「何度も説明していると思うけど?」
「あー、俺は興味ないことは全く覚えられないんだわ」
「分かります! 私も興味ないことには脳の容量を使えないんですよ! 私のメモリーは最新型なので、セキリティはしっかりしてますからね!」
「さ、流石、女子高生。今どきの言葉だぜ」
いや、春馬 莉子ちゃんの言葉は全く今どきでもないのだが、継之介にはそう聞こえたみたいだ。ようするに嫌いなものは覚える気がないと言ってるだけなのに。
僕はバックミラー越しに胸を張って得意げに鼻を鳴らす莉子ちゃんを見る。
そして、小さな溜息と共に『世界』について説明をする。
「簡単に言えば〈悪魔〉が現れたことで、世界が分岐したんだよ。僕たちが暮らしていた〈悪魔〉がいないルートをA。この世界はルートBだ」
本来ならば分岐した世界は混じることはない。
独立した世界となって時を進めていくはずだったのだが、その境界を越えて人間を呼び出す力を持った〈神〉によって僕達は呼び出された。
なぜ、わざわざ〈並行世界〉から僕達を呼び寄せたのか、その理由は分からないが、ここでこうして暮らしていることは事実だ。
春馬 莉子ちゃんは僕の言葉から〈悪魔〉の力によって呼び出されたことに気付いたのか、「えっ? じゃあ、〈並行世界〉を超えることのできる〈悪魔〉がいるってことですか!?」と目を見開いた。
そんなに驚くことじゃないと思うけど……。
まあ、確かに世界を超えると考えれば――その力は凄まじい。
「ああ。少なくとも僕はそう思っているよ」
そう答えながらも、僕と継之介の表情は曇っていく。
『世界』について話をすると、どうしても嫌なことを思い出す。
初めて〈並行世界〉に来たときのことを。
この世界に連れて来られた人間が次々と〈悪魔〉に殺されていく。
頭を握りつぶされ、首を切られ、四肢を削がれて、胸を抉られる。僕達の前には血の海と死体の山が築かれていった。
理不尽な死の中で、僕と継之介は生き残った。
〈神〉が用意した『ファーストゲーム』をクリアして。
ゲームをクリアし、悪夢は終わったと安堵した僕達に〈悪魔〉は言った。
『お前たちは〈プレイヤー〉として選ばれた』
そして、四国に人々が囚われていることを知った。
ならば、そのゲームは受けるしかないと継之介は迷うことなく挑戦を受け――今に至る。
重い空気が流れる車内。
空気の変化を察したところまでは良いが、その空気を読むことはなく、変わらず明るいままに春馬 莉子ちゃんが言った。
「あれ? なんかお二人共、暗くないですか? ひょっとして私、聞いちゃいけないこと聞いちゃいましたかねー? ごめんなさい。私、いっつもこうなんですよね!!」
いや。
彼女はなにも悪くない。
勝手に過去に引きずられた僕たちが悪いのだ。
それは分かってはいるが、どこか楽しそうに謝る春馬 莉子ちゃんに少しだけ苛立ってしまう。若さ故の表情だろうと、感情的になる自分を反省する。
「いや、別になんでもないよ」
「その通りだ。莉子ちゃんはなにも悪くない」
継之介は春馬 莉子ちゃんに苛立ったりはしないだろう。
怒るとしたら、『ファーストゲーム』で人々を助けられなかった自分にだ。そこが僕と継之介の違いだ。
継之介は僕を「天才」だとか「優秀」だと言うが――そんなことはない。
僕は至って普通の人間だ。
僕からすれば継之介の方が――超人に思える。それは、〈並行世界〉に来てから、更にそう感じるようになっていた。
僕達の言葉に春馬 莉子ちゃんは、胸に手を当てて気持ちのいい笑みを浮かべた。
「そっかー。良かった。てっきり、この世界に来たときに、何かあったのかと思っちゃいましたよー。〈悪魔〉とのゲームに巻き込まれたとか!」
決して遠くはない春馬 莉子ちゃんの予想に、錆びた機械のような音を立てる継之介。
動揺が隠せないようだった。
春馬 莉子ちゃんは意外な所で鋭いらしい。
「はっは。ま、世界を越えてるから色々あるさ。それより――目的地に着くぜ?」
継之介が答えながら指差した。
それは僕達が目指していた場所――『烏頭総合高等学校』だった。
木々に囲われた新築の建造物は、アンバランスで異様な存在感を放っていた。
助手席には継之介、そして後部座席の中央には春馬 莉子ちゃんが座っている。
この車は僕の所有車だ。
最新のハイブリットカーは、どこかスポーツカーのようでもある。そのデザインが受けたのか世間では一番売れている車種だ。
車に詳しくない僕は一番売れているからという理由でこの車を買った。
それは――既に〈悪魔〉に殺されてしまった〈並行世界〉の僕も同じだった。
世界が違っても変わらない部分もあるということか。
後部座席から身を乗り出した春馬 莉子ちゃんが大袈裟な声で継之介と言葉を交わす。車内は二人の興奮した声で満ちていた。
「ええー!! 継之介さんたちって〈並行世界〉から来たんですか!? それって異世界ってことですか!?」
「ああ、そうだ。ま、〈並行世界〉って言っても、全く別の世界じゃないんだけどね」
「え、ええ!? それって逆にどういうことなんですか! 凄い気になりますよ!!」
二人が盛上っている話の内容は、僕達が〈並行世界〉から来たということだった。
なんでも、引き籠っていた時に、異世界を舞台としたアニメや漫画を好んで呼んでいたらしい。現実から逃避しなければ、彼女の心は崩れてしまったのだろう。
僕達が過ごしていた世界に興味を示す春馬 莉子ちゃん。
彼女は、完全には異世界と言えない僕達の世界を知りたっていた。子犬のように目を輝かせて継之介に視線を送る。
だが、視線を受けた継之介は窓を開けて顔を背けて僕に助けを求めた。
「えっと……。俺達の世界と〈並行世界〉はどうなってるんだっけか? 公人?」
「何度も説明していると思うけど?」
「あー、俺は興味ないことは全く覚えられないんだわ」
「分かります! 私も興味ないことには脳の容量を使えないんですよ! 私のメモリーは最新型なので、セキリティはしっかりしてますからね!」
「さ、流石、女子高生。今どきの言葉だぜ」
いや、春馬 莉子ちゃんの言葉は全く今どきでもないのだが、継之介にはそう聞こえたみたいだ。ようするに嫌いなものは覚える気がないと言ってるだけなのに。
僕はバックミラー越しに胸を張って得意げに鼻を鳴らす莉子ちゃんを見る。
そして、小さな溜息と共に『世界』について説明をする。
「簡単に言えば〈悪魔〉が現れたことで、世界が分岐したんだよ。僕たちが暮らしていた〈悪魔〉がいないルートをA。この世界はルートBだ」
本来ならば分岐した世界は混じることはない。
独立した世界となって時を進めていくはずだったのだが、その境界を越えて人間を呼び出す力を持った〈神〉によって僕達は呼び出された。
なぜ、わざわざ〈並行世界〉から僕達を呼び寄せたのか、その理由は分からないが、ここでこうして暮らしていることは事実だ。
春馬 莉子ちゃんは僕の言葉から〈悪魔〉の力によって呼び出されたことに気付いたのか、「えっ? じゃあ、〈並行世界〉を超えることのできる〈悪魔〉がいるってことですか!?」と目を見開いた。
そんなに驚くことじゃないと思うけど……。
まあ、確かに世界を超えると考えれば――その力は凄まじい。
「ああ。少なくとも僕はそう思っているよ」
そう答えながらも、僕と継之介の表情は曇っていく。
『世界』について話をすると、どうしても嫌なことを思い出す。
初めて〈並行世界〉に来たときのことを。
この世界に連れて来られた人間が次々と〈悪魔〉に殺されていく。
頭を握りつぶされ、首を切られ、四肢を削がれて、胸を抉られる。僕達の前には血の海と死体の山が築かれていった。
理不尽な死の中で、僕と継之介は生き残った。
〈神〉が用意した『ファーストゲーム』をクリアして。
ゲームをクリアし、悪夢は終わったと安堵した僕達に〈悪魔〉は言った。
『お前たちは〈プレイヤー〉として選ばれた』
そして、四国に人々が囚われていることを知った。
ならば、そのゲームは受けるしかないと継之介は迷うことなく挑戦を受け――今に至る。
重い空気が流れる車内。
空気の変化を察したところまでは良いが、その空気を読むことはなく、変わらず明るいままに春馬 莉子ちゃんが言った。
「あれ? なんかお二人共、暗くないですか? ひょっとして私、聞いちゃいけないこと聞いちゃいましたかねー? ごめんなさい。私、いっつもこうなんですよね!!」
いや。
彼女はなにも悪くない。
勝手に過去に引きずられた僕たちが悪いのだ。
それは分かってはいるが、どこか楽しそうに謝る春馬 莉子ちゃんに少しだけ苛立ってしまう。若さ故の表情だろうと、感情的になる自分を反省する。
「いや、別になんでもないよ」
「その通りだ。莉子ちゃんはなにも悪くない」
継之介は春馬 莉子ちゃんに苛立ったりはしないだろう。
怒るとしたら、『ファーストゲーム』で人々を助けられなかった自分にだ。そこが僕と継之介の違いだ。
継之介は僕を「天才」だとか「優秀」だと言うが――そんなことはない。
僕は至って普通の人間だ。
僕からすれば継之介の方が――超人に思える。それは、〈並行世界〉に来てから、更にそう感じるようになっていた。
僕達の言葉に春馬 莉子ちゃんは、胸に手を当てて気持ちのいい笑みを浮かべた。
「そっかー。良かった。てっきり、この世界に来たときに、何かあったのかと思っちゃいましたよー。〈悪魔〉とのゲームに巻き込まれたとか!」
決して遠くはない春馬 莉子ちゃんの予想に、錆びた機械のような音を立てる継之介。
動揺が隠せないようだった。
春馬 莉子ちゃんは意外な所で鋭いらしい。
「はっは。ま、世界を越えてるから色々あるさ。それより――目的地に着くぜ?」
継之介が答えながら指差した。
それは僕達が目指していた場所――『烏頭総合高等学校』だった。
木々に囲われた新築の建造物は、アンバランスで異様な存在感を放っていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ざまあ~が終ったその後で BY王子 (俺たちの戦いはこれからだ)
mizumori
ファンタジー
転移したのはざまあ~された後にあぽ~んした王子のなか、神様ひどくない「君が気の毒だから」って転移させてくれたんだよね、今の俺も気の毒だと思う。どうせなら村人Aがよかったよ。
王子はこの世界でどのようにして幸せを掴むのか?
元28歳、財閥の御曹司の古代と中世の入り混じった異世界での物語り。
これはピカレスク小説、主人公が悪漢です。苦手な方はご注意ください。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
転生したら、犬だったらよかったのに……9割は人間でした。
真白 悟
ファンタジー
なんかよくわからないけど、神さまの不手際で転生する世界を間違えられてしまった僕は、好きなものに生まれ変われることになった。
そのついでに、さまざまなチート能力を提示されるが、どれもチートすぎて、人生が面白く無くなりそうだ。そもそも、人間であることには先の人生で飽きている。
だから、僕は神さまに願った。犬になりたいと。犬になって、犬達と楽しい暮らしをしたい。
チート能力を無理やり授けられ、犬(獣人)になった僕は、世界の運命に、飲み込まれていく。
犬も人間もいない世界で、僕はどうすればいいのだろう……まあ、なんとかなるか……犬がいないのは残念極まりないけど
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
転生管理局局員三日月ほまれと天の声
ぽぬん
ファンタジー
異世界転生。
死んだ人間が死の直後と転生して異世界で目覚めるまでの間の空白の時間が存在していてその間で何かが行われてたとしたら…。
こんなところあったら面白いなという話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる