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ライバルの疑問点 (明神 公人)
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「継之介があそこまで怒ったのは、ただ、街が破壊されたからじゃない。飯田 宇美との戦いで竜の〈悪魔〉が人質もろとも殺そうとしたことが関係している」
あの〈悪魔〉は人質がいるのに、助けようともしなかった。
結果だけを見れば、人質を助けはしたが――それは恐らく「ついで」で助けただけのことだ。
僕がそう考える根拠は一つ。
飯田 宇美を人質ごと殺そうとした時、竜の〈悪魔〉は間違いなく本気だった。
〈ポイント〉を得るためならば、人質ごと殺そうとしていた。
僕と継之介はそんな〈悪魔〉のやり取りを、ただ、言われるがままに、能力を解除し隙ができるのを待った。
結果的に人質は助かった訳だが――、
「しかし、どうしても気になる点がある」
時刻は22時。
誰もいなくなった職場で、僕は一人資料に目を落としていた。今見ている物は情報をまとめたファイルではなく、僕達が〈悪魔〉と戦ってきた記録だ。
〈悪魔〉の能力、姿、擬態時の名称を全て記録し収めていた。
いつか、どこかで役に立つかもしれないと。
「いや、これは、ただの癖か……」
自身が動いた行動は記録して報告しろ。
幼い時から僕はそうやって育ってきた。〈並行世界〉だろうと、癖はそう簡単には抜けない。
だが、そのお陰で気付けることはいくつもある。
今回の戦いもそうだ。
後になって読み返せば不自然な部分がいくつも浮かび上がってくる。もっとも、継之介みたいな一直線の正義漢は気付けないだろうが――それでも彼は、直感的に何かを感じ取っていた。
だからこその――あの激高だ。
「資料も何もなく、感覚だけでなにかに気付いてるんだよね、継之介は」
野性的な本能とでも言うべきか。
僕にはない本能だ。
故に、こうやって地道に振り返り、穴を埋めていくしかない。
自分に言い聞かせながら、抱いた疑問点を資料に書き込んでいく。
まずは最初の疑問点だ。
そもそも、何故、飯田 宇美は人質なんて取ったのだろうか。僕達だけならば、その行為は卑劣ではあるが有利な選択になるのは確かだ。
現に僕達は力を解除し、なにもできなかった。
だが、しかしだ。そこには同族の〈悪魔〉がいた。
〈悪魔〉同士ならば、人間がどうなろうと関係ないと答えるのは、〈悪魔が〉一番理解している筈だ。
そして、二つ目の疑問点。
「竜の〈悪魔〉が人質を助けたこと」
いや、見えない物体を操ることが竜の〈悪魔〉の力だったのであれば、それはなんら不思議な行為ではない。しかし、直前までの殺気と、見えない物体によって姿勢を崩した時の対応が、意図したもので無かった。
継之介もそれを感じ取ってはいるだろう。
「つまり、別の〈悪魔〉があの場にいた……?」
〈ポイント〉を集めている〈悪魔〉は一人ではないということか?
なんにせよ、『情報』でも教えて貰えないならば、自力で答えに辿り着くしかない。
ならば、僕が今調べるべき対象は――、
「牛岩(うしいわ) 縁(えにし)か」
〈ポイント〉を集めている者同士、〈悪魔〉と戦っていればまた出会えるはずだ。
その時に〈ポイント〉も情報も、全て手に入れれば問題ない。
僕は広げていた資料を片づける。
そして、デスクに置かれているパソコンの電源を入れた。パスワード入力画面の壁紙は、清野さんの笑顔の写真。
〈並行世界〉の僕が設定した画面だった。
ロックを解除し、怪しいとされる人物欄に「牛岩(うしいわ) 縁(えにし)」の名前がないか検索する。
そこに牛岩 縁の名前はなかった。
なら、次はSNSで検索をしてみよう。
望みは薄いけど、今日できることはこれくらいだ。
「よう、遅くまでお疲れ様。純さんが中々帰ってこないって心配してたぜ……公人」
「……心配していたのは僕の方だ。怪我はもういいのかい……継之介?」
「ああ。悪かったな、〈ポイント〉まで使わせてよ」
「気にしないでくれ。僕には継之介が必要だからね」
それはどの世界にいようとも変わらない真実だ。
継之介は「すまなかった」と二度目の謝罪をして、僕のデスクに近づいてくる。そんな継之介に僕は開いていた画面を見せた。
「丁度良かった。幸いなことに牛岩(うしいわ) 縁(えにし)は承認欲求が強いのか、SNSで愚かにも投稿をしているようだ。これを遡り調べれば彼が住む場所の把握もできるだろう。それに――あの暴れ方をみると恐らくではあるけど、またすぐに行動を移す。それを見越して、明日、皆には外を出回るように指示しておいた」
牛岩 縁のアカウントには生活区域で取ったであろうカフェや、駅前の画像が毎日のように投稿されていた。
酷い物は拡大すれば住所が見えるような場所もカメラに収めていた。
〈悪魔〉の割には、現代に馴染み過ぎた悪影響化か。
「流石だな、公人」
「牛岩(うしいわ) 縁(えにし)が目立ちたがり屋で助かっただけのことさ」
〈悪魔〉の力を持ちながら、自身の欲望を満たすために人間の世界に溶け込む〈悪魔〉。
明石(あかし) 伊織(いおり)のように他人に化けて、性欲を満す〈悪魔〉。
または、高級な装飾品やブランド品を欲しがり、人に配って欲求を満たしていた飯田(いいだ) 宇美(うみ)。
牛岩 縁は僕達を倒して自分の力を誇示しようとした。その性格からも分かる通り自己顕示欲が強く負けず嫌い。
ネットで他人に絡み、争っているコメントもいくつか残っていた。
SNSの画面に映る牛岩 縁は、〈悪魔〉であることを隠して、友人たちと笑っていた。僕は彼を〈悪魔〉の姿でしか知らないが、擬態時は大学生に化けているらしい。
キャンプをしている彼はテントの前で複数人の友人と肩を組んでいた。
その本性は――〈悪魔〉であることを隠して、友人たちを見下していたのだろうな。
写真を見つめて継之介が言う。
「許せないな。共に過ごした人間を騙していたなんて。こいつにとっては遊びかもしれないが、この写真に写っている友人たちにとっては、楽しい時間だったかもしれないのによ」
「そうだね。でも、だからって今から熱くなってたら、また負けちゃうよ? 過去は変えられないんだから、未来を変えるために牛岩 縁を倒すんだ」
怒りを露わにする継之介に僕は言う。継之介は分かってると軽くデスクを叩くと背を向けて天を仰いだ。
あの〈悪魔〉は人質がいるのに、助けようともしなかった。
結果だけを見れば、人質を助けはしたが――それは恐らく「ついで」で助けただけのことだ。
僕がそう考える根拠は一つ。
飯田 宇美を人質ごと殺そうとした時、竜の〈悪魔〉は間違いなく本気だった。
〈ポイント〉を得るためならば、人質ごと殺そうとしていた。
僕と継之介はそんな〈悪魔〉のやり取りを、ただ、言われるがままに、能力を解除し隙ができるのを待った。
結果的に人質は助かった訳だが――、
「しかし、どうしても気になる点がある」
時刻は22時。
誰もいなくなった職場で、僕は一人資料に目を落としていた。今見ている物は情報をまとめたファイルではなく、僕達が〈悪魔〉と戦ってきた記録だ。
〈悪魔〉の能力、姿、擬態時の名称を全て記録し収めていた。
いつか、どこかで役に立つかもしれないと。
「いや、これは、ただの癖か……」
自身が動いた行動は記録して報告しろ。
幼い時から僕はそうやって育ってきた。〈並行世界〉だろうと、癖はそう簡単には抜けない。
だが、そのお陰で気付けることはいくつもある。
今回の戦いもそうだ。
後になって読み返せば不自然な部分がいくつも浮かび上がってくる。もっとも、継之介みたいな一直線の正義漢は気付けないだろうが――それでも彼は、直感的に何かを感じ取っていた。
だからこその――あの激高だ。
「資料も何もなく、感覚だけでなにかに気付いてるんだよね、継之介は」
野性的な本能とでも言うべきか。
僕にはない本能だ。
故に、こうやって地道に振り返り、穴を埋めていくしかない。
自分に言い聞かせながら、抱いた疑問点を資料に書き込んでいく。
まずは最初の疑問点だ。
そもそも、何故、飯田 宇美は人質なんて取ったのだろうか。僕達だけならば、その行為は卑劣ではあるが有利な選択になるのは確かだ。
現に僕達は力を解除し、なにもできなかった。
だが、しかしだ。そこには同族の〈悪魔〉がいた。
〈悪魔〉同士ならば、人間がどうなろうと関係ないと答えるのは、〈悪魔が〉一番理解している筈だ。
そして、二つ目の疑問点。
「竜の〈悪魔〉が人質を助けたこと」
いや、見えない物体を操ることが竜の〈悪魔〉の力だったのであれば、それはなんら不思議な行為ではない。しかし、直前までの殺気と、見えない物体によって姿勢を崩した時の対応が、意図したもので無かった。
継之介もそれを感じ取ってはいるだろう。
「つまり、別の〈悪魔〉があの場にいた……?」
〈ポイント〉を集めている〈悪魔〉は一人ではないということか?
なんにせよ、『情報』でも教えて貰えないならば、自力で答えに辿り着くしかない。
ならば、僕が今調べるべき対象は――、
「牛岩(うしいわ) 縁(えにし)か」
〈ポイント〉を集めている者同士、〈悪魔〉と戦っていればまた出会えるはずだ。
その時に〈ポイント〉も情報も、全て手に入れれば問題ない。
僕は広げていた資料を片づける。
そして、デスクに置かれているパソコンの電源を入れた。パスワード入力画面の壁紙は、清野さんの笑顔の写真。
〈並行世界〉の僕が設定した画面だった。
ロックを解除し、怪しいとされる人物欄に「牛岩(うしいわ) 縁(えにし)」の名前がないか検索する。
そこに牛岩 縁の名前はなかった。
なら、次はSNSで検索をしてみよう。
望みは薄いけど、今日できることはこれくらいだ。
「よう、遅くまでお疲れ様。純さんが中々帰ってこないって心配してたぜ……公人」
「……心配していたのは僕の方だ。怪我はもういいのかい……継之介?」
「ああ。悪かったな、〈ポイント〉まで使わせてよ」
「気にしないでくれ。僕には継之介が必要だからね」
それはどの世界にいようとも変わらない真実だ。
継之介は「すまなかった」と二度目の謝罪をして、僕のデスクに近づいてくる。そんな継之介に僕は開いていた画面を見せた。
「丁度良かった。幸いなことに牛岩(うしいわ) 縁(えにし)は承認欲求が強いのか、SNSで愚かにも投稿をしているようだ。これを遡り調べれば彼が住む場所の把握もできるだろう。それに――あの暴れ方をみると恐らくではあるけど、またすぐに行動を移す。それを見越して、明日、皆には外を出回るように指示しておいた」
牛岩 縁のアカウントには生活区域で取ったであろうカフェや、駅前の画像が毎日のように投稿されていた。
酷い物は拡大すれば住所が見えるような場所もカメラに収めていた。
〈悪魔〉の割には、現代に馴染み過ぎた悪影響化か。
「流石だな、公人」
「牛岩(うしいわ) 縁(えにし)が目立ちたがり屋で助かっただけのことさ」
〈悪魔〉の力を持ちながら、自身の欲望を満たすために人間の世界に溶け込む〈悪魔〉。
明石(あかし) 伊織(いおり)のように他人に化けて、性欲を満す〈悪魔〉。
または、高級な装飾品やブランド品を欲しがり、人に配って欲求を満たしていた飯田(いいだ) 宇美(うみ)。
牛岩 縁は僕達を倒して自分の力を誇示しようとした。その性格からも分かる通り自己顕示欲が強く負けず嫌い。
ネットで他人に絡み、争っているコメントもいくつか残っていた。
SNSの画面に映る牛岩 縁は、〈悪魔〉であることを隠して、友人たちと笑っていた。僕は彼を〈悪魔〉の姿でしか知らないが、擬態時は大学生に化けているらしい。
キャンプをしている彼はテントの前で複数人の友人と肩を組んでいた。
その本性は――〈悪魔〉であることを隠して、友人たちを見下していたのだろうな。
写真を見つめて継之介が言う。
「許せないな。共に過ごした人間を騙していたなんて。こいつにとっては遊びかもしれないが、この写真に写っている友人たちにとっては、楽しい時間だったかもしれないのによ」
「そうだね。でも、だからって今から熱くなってたら、また負けちゃうよ? 過去は変えられないんだから、未来を変えるために牛岩 縁を倒すんだ」
怒りを露わにする継之介に僕は言う。継之介は分かってると軽くデスクを叩くと背を向けて天を仰いだ。
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