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四章 ハクハ領の救出作戦
52話 仕組まれていた天使の死
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良太やカナツが玉座の間で戦っている時、シンリは『武器庫』にいた。
ユウランたちは一人で向かったと思っているようだが、シンリの他にもう一人、線の細い男が立っていた。
「いやー、まさか、本当に殺してくれるとは思ってなかった」
ハクハの城にある『武器庫』。
剣や盾、それにランスといった、元来よりこの世界に存在している武器の横に、『拳銃』や『狙撃中』といった、異世界の『武器』が並べられていた。
ここにある『武器』の殆どは、池井 千寿の持つ力によって造られた。
数えれば数千はあるだろう。
これだけの武装が揃ったからこそ、シンリは池井 千寿を殺すに踏み切ったわけなのだが。
池井を殺したシンリに対して、軽く頭を下げる一人の男がいた。
ホストのように髪を伸ばしていた。本人もそれを意識しているのだろう、スーツにネクタイといった出で立ちだ。
当然、異世界にホストも存在しないし、スーツもない。
それがどういうことなのかといえば、答えは決まっている。この男もまた――異世界人だ。
名を良木(らぎ) 竜哉(りゅうや)という。
ハクハの大将であるシンリに対しても、気負うことも委縮することもなく、ヘラヘラとした態度で話しかける。
「……感謝するのであれば、何故、騎士たちが倒れている? 戦う気があるのであれば、俺が相手になるが?」
放している最中に前髪を弄り続けることよりも、軽薄な態度よりも、『武器庫』に来るまでに倒れていた騎士たちが気になっていた。
倒されたことは別に構わない。騎士が弱かっただけのこと。
だが、倒したのであれば、戦う意志があるということだ。
ならば、すぐにでも、この場で相手になると、シンリは『拳銃』を構えた。
「あー、ちょっと、待って。別に戦いたくて挑んだわけじゃないよ。ま、いうなら保険だよ。少なくとも、これで俺がハクハの騎士たちを倒せる力はあるって証明になったろ?」
それに何も殺したわけじゃない。
意識を奪っただけで、あくまでもアピールだと言う。
「シンリさんの強さと冷静さは、よーく分かった。だから、俺の強さも分かってもらおうとしただけだよ」
「勘違いしているようだから教えてやる。俺は、貴様に言われてセンジュを殺したわけじゃない。ハクハの害になるから殺しただけだ」
「言われなくても分かってるって。理由はどうであれ、千寿ちゃんを殺して貰えただけで感謝したいんだ」
「……それは本心か? 貴様らは知り合いだったんだろう?」
ならば、何故、殺したがるのか。
その理由を問うシンリ。
「へー、意外だな。シンリさんがそんなこと気にするなんて。てっきり、俺のことを使えるのかどうかで判断してくれると思ったんだけど?」
「カラマリの奴が必死だったから、異世界人は皆そうなのかと思っただけだ。まさか、死んでる奴のために、殺されに来るとは――余りに愚か過ぎてな」
「よく言うよ。そうするように自分たちが利用したくせにさ。でも、ま、良太(あいつ)が可笑しいってことは同意だけど」
たまたま、この世界に来る前に遊んでいたからと言って、同じ職場だからと言って、その関係を異世界にまで持ち込む気はないと竜哉。
「俺は至って普通の人間だからな。自分が生き残るために、工夫をしているだけだ」
自分が〈統一杯〉で優勝するためにはどうすればいいのか。
竜哉はそれだけを考えているのだと。
そして、それはハクハも同じじゃないのかと問う、
「……」
「とはいえ、俺もまだ非情に成りきってないんだよね。ほら、俺って好青年じゃん? 好きな人を殺すっていうのには抵抗がさ」
「だから、俺を利用した。……か?」
「利用だなんて、そんな……。俺はたまたま、池井さんが裏切っているのを知ったから、ハクハに教えただけ」
池井 千寿を、シンリが殺すに至った理由は裏切りだ。自分の領に現れた異世界人は、あろうことか、他の領にも『武器』を横流ししていたのだ。
そのことを偶然知った竜哉が、ハクハに伝えたことで、池井は死ぬ羽目になった。
裏切者がいたらハクハは殺す。故に自分が、異世界人たちの中で唯一殺すことができない相手を、シンリに始末して貰ったわけだ。
「好きな人の死は悲しいけどさ、でも、悪いことをしてたんじゃしょうがないよな」
「胡散臭いな……。貴様ならば恋などと言う感情で、仲間を殺すのを躊躇う人間には見えないんだがな」
「やだなー。本当だよ。でも、まあ、実はもう一つだけお願いがあるから、千寿ちゃんを殺して貰ったって理由もあるんだけどな」
シンリの探る通り、好きだからという理由だけではないと竜哉。
「もう一つ……?」
「ああ。これ、多分、この世界で俺しか知らないんすけど、実は今回の〈統一杯〉――寝返りが出来るみたいなんだよね」
自分の領から他の領にへと――異世界人たちは、寝返る権利があるのだと。
「ま、色々条件はあるんですけど、見事にシンリさんはクリアしたわけだ」
異世界人が別の領にへと寝返るための条件。
それは、シンリがしたように、大将が自分たちの領に現れた異世界人を殺すことだった。
そして、条件を満たしたハクハに、竜哉が所属できるようになると言う。
普通ならば良太も考えていた通り、自分たちの助っ人を殺そうとは思わない。
異世界人が殺されるとしたら、戦場で、他の領に負けた時だけ。
そうなってしまっては、寝返ることができなくなる。
だから、竜哉は――池井の裏切りをシンリに告げたのだ。
大将の手で殺させるために。
「その言葉を俺が信じると思うか? もし、そんな方法があるなら、何故、センジュは俺に教えなかった?」
池井の力は〈戦柱《モノリス》〉に触れて共に、何度も確認していた。
『武器』を自在に生み出せると言うこと以外、有用な情報は無かったはずだ。
「そうっすねー。それは多分、俺が寝返ろうとしたからじゃないかな?」
その為の条件を、手段を〈戦柱《モノリス》〉が教えてくれたのではないかというが、竜哉の見解だった。
他の仲間達は誰一人として領を変えるという発想は持っていなかった。
良太はカラマリの皆が好きだから、何があっても裏切ることはないだろう。
土通 久世は良太を優勝させるために戦っているのだ。故にどこの領でも同じだ。
真崎 誠に至っては、どこの領にも属する気はない。
求めていないことを教えてくれるほど〈戦柱《モノリス》〉は親切ではないようだ。
「俺達の中で最も寝返る可能性が高いのは、俺ともう一人なんだけど――千寿ちゃんから『武器』を貰っていた所を見ると、留まるつもりみたいだけど」
「だとしても、何故、お前は寝返ろうとしている?」
「あのさ、普通に考えてもみてよ。この〈統一杯〉どこが優勝に近いんだ? しかも、俺が今属してるの『ロザ領』だぜ?」
ロザ領は現在ランクは3位。
順位だけ聞けば、まだ、優勝は狙え圏内なのだが、既に竜哉は見限っていた。
「……なるほどな。確かに『ロザ領』では優勝はできないだろう。そして、ハクハは〈統一杯〉を制する」
「だろ? じゃあ、どうするのか。俺はハクハに行けばいいって思い付いたわけだ」
しかも、幸いなことにハクハの異世界人は池井 千寿だった。
自分で殺すのを躊躇う相手だったし、丁度よかった。
寝返るのは運命だったのだと、シンリに縋りつく。
「『武器』も残ってるし、俺は強い。それにこうやって他の領に忍び込む力を持ってる? ハクハに取っても悪いことじゃないと思うんだけどなー」
「ああ、確かにそうだな。お前は少なくとも千寿やカラマリの馬鹿とは違うみたいだな」
「だろ?」
「しかし、お前は裏切ってハクハに所属しようとしている。裏切った人間を信用することは出来ないと思わんか」
「それは……」
裏切者は殺す。
ならば、裏切って入った時点でその人間は信用できない。慌てて弁解を試みるが、シンリに反論する言葉が思い付かないだろう。
前髪を何度も素早く触り続ける竜哉。
その光景を見てシンリは不敵に笑った。
「だが、好きにしろ。お前がハクハを裏切ろうとも、俺達の勝利は揺るがない」
池井 千寿を殺したかった竜哉と殺したシンリが手を組んだ。
ハクハへと所属する権利を得た竜哉。
「あ、ありがとうございます! 一生ついて行きます!!」
背を向けたシンリに、髪が乱れるのも構わずに深く、何度も頭を下げた。
伏せたその顔は〈統一杯〉の勝利に近づいたからか――かみ殺せない笑いで満たされていた。
ユウランたちは一人で向かったと思っているようだが、シンリの他にもう一人、線の細い男が立っていた。
「いやー、まさか、本当に殺してくれるとは思ってなかった」
ハクハの城にある『武器庫』。
剣や盾、それにランスといった、元来よりこの世界に存在している武器の横に、『拳銃』や『狙撃中』といった、異世界の『武器』が並べられていた。
ここにある『武器』の殆どは、池井 千寿の持つ力によって造られた。
数えれば数千はあるだろう。
これだけの武装が揃ったからこそ、シンリは池井 千寿を殺すに踏み切ったわけなのだが。
池井を殺したシンリに対して、軽く頭を下げる一人の男がいた。
ホストのように髪を伸ばしていた。本人もそれを意識しているのだろう、スーツにネクタイといった出で立ちだ。
当然、異世界にホストも存在しないし、スーツもない。
それがどういうことなのかといえば、答えは決まっている。この男もまた――異世界人だ。
名を良木(らぎ) 竜哉(りゅうや)という。
ハクハの大将であるシンリに対しても、気負うことも委縮することもなく、ヘラヘラとした態度で話しかける。
「……感謝するのであれば、何故、騎士たちが倒れている? 戦う気があるのであれば、俺が相手になるが?」
放している最中に前髪を弄り続けることよりも、軽薄な態度よりも、『武器庫』に来るまでに倒れていた騎士たちが気になっていた。
倒されたことは別に構わない。騎士が弱かっただけのこと。
だが、倒したのであれば、戦う意志があるということだ。
ならば、すぐにでも、この場で相手になると、シンリは『拳銃』を構えた。
「あー、ちょっと、待って。別に戦いたくて挑んだわけじゃないよ。ま、いうなら保険だよ。少なくとも、これで俺がハクハの騎士たちを倒せる力はあるって証明になったろ?」
それに何も殺したわけじゃない。
意識を奪っただけで、あくまでもアピールだと言う。
「シンリさんの強さと冷静さは、よーく分かった。だから、俺の強さも分かってもらおうとしただけだよ」
「勘違いしているようだから教えてやる。俺は、貴様に言われてセンジュを殺したわけじゃない。ハクハの害になるから殺しただけだ」
「言われなくても分かってるって。理由はどうであれ、千寿ちゃんを殺して貰えただけで感謝したいんだ」
「……それは本心か? 貴様らは知り合いだったんだろう?」
ならば、何故、殺したがるのか。
その理由を問うシンリ。
「へー、意外だな。シンリさんがそんなこと気にするなんて。てっきり、俺のことを使えるのかどうかで判断してくれると思ったんだけど?」
「カラマリの奴が必死だったから、異世界人は皆そうなのかと思っただけだ。まさか、死んでる奴のために、殺されに来るとは――余りに愚か過ぎてな」
「よく言うよ。そうするように自分たちが利用したくせにさ。でも、ま、良太(あいつ)が可笑しいってことは同意だけど」
たまたま、この世界に来る前に遊んでいたからと言って、同じ職場だからと言って、その関係を異世界にまで持ち込む気はないと竜哉。
「俺は至って普通の人間だからな。自分が生き残るために、工夫をしているだけだ」
自分が〈統一杯〉で優勝するためにはどうすればいいのか。
竜哉はそれだけを考えているのだと。
そして、それはハクハも同じじゃないのかと問う、
「……」
「とはいえ、俺もまだ非情に成りきってないんだよね。ほら、俺って好青年じゃん? 好きな人を殺すっていうのには抵抗がさ」
「だから、俺を利用した。……か?」
「利用だなんて、そんな……。俺はたまたま、池井さんが裏切っているのを知ったから、ハクハに教えただけ」
池井 千寿を、シンリが殺すに至った理由は裏切りだ。自分の領に現れた異世界人は、あろうことか、他の領にも『武器』を横流ししていたのだ。
そのことを偶然知った竜哉が、ハクハに伝えたことで、池井は死ぬ羽目になった。
裏切者がいたらハクハは殺す。故に自分が、異世界人たちの中で唯一殺すことができない相手を、シンリに始末して貰ったわけだ。
「好きな人の死は悲しいけどさ、でも、悪いことをしてたんじゃしょうがないよな」
「胡散臭いな……。貴様ならば恋などと言う感情で、仲間を殺すのを躊躇う人間には見えないんだがな」
「やだなー。本当だよ。でも、まあ、実はもう一つだけお願いがあるから、千寿ちゃんを殺して貰ったって理由もあるんだけどな」
シンリの探る通り、好きだからという理由だけではないと竜哉。
「もう一つ……?」
「ああ。これ、多分、この世界で俺しか知らないんすけど、実は今回の〈統一杯〉――寝返りが出来るみたいなんだよね」
自分の領から他の領にへと――異世界人たちは、寝返る権利があるのだと。
「ま、色々条件はあるんですけど、見事にシンリさんはクリアしたわけだ」
異世界人が別の領にへと寝返るための条件。
それは、シンリがしたように、大将が自分たちの領に現れた異世界人を殺すことだった。
そして、条件を満たしたハクハに、竜哉が所属できるようになると言う。
普通ならば良太も考えていた通り、自分たちの助っ人を殺そうとは思わない。
異世界人が殺されるとしたら、戦場で、他の領に負けた時だけ。
そうなってしまっては、寝返ることができなくなる。
だから、竜哉は――池井の裏切りをシンリに告げたのだ。
大将の手で殺させるために。
「その言葉を俺が信じると思うか? もし、そんな方法があるなら、何故、センジュは俺に教えなかった?」
池井の力は〈戦柱《モノリス》〉に触れて共に、何度も確認していた。
『武器』を自在に生み出せると言うこと以外、有用な情報は無かったはずだ。
「そうっすねー。それは多分、俺が寝返ろうとしたからじゃないかな?」
その為の条件を、手段を〈戦柱《モノリス》〉が教えてくれたのではないかというが、竜哉の見解だった。
他の仲間達は誰一人として領を変えるという発想は持っていなかった。
良太はカラマリの皆が好きだから、何があっても裏切ることはないだろう。
土通 久世は良太を優勝させるために戦っているのだ。故にどこの領でも同じだ。
真崎 誠に至っては、どこの領にも属する気はない。
求めていないことを教えてくれるほど〈戦柱《モノリス》〉は親切ではないようだ。
「俺達の中で最も寝返る可能性が高いのは、俺ともう一人なんだけど――千寿ちゃんから『武器』を貰っていた所を見ると、留まるつもりみたいだけど」
「だとしても、何故、お前は寝返ろうとしている?」
「あのさ、普通に考えてもみてよ。この〈統一杯〉どこが優勝に近いんだ? しかも、俺が今属してるの『ロザ領』だぜ?」
ロザ領は現在ランクは3位。
順位だけ聞けば、まだ、優勝は狙え圏内なのだが、既に竜哉は見限っていた。
「……なるほどな。確かに『ロザ領』では優勝はできないだろう。そして、ハクハは〈統一杯〉を制する」
「だろ? じゃあ、どうするのか。俺はハクハに行けばいいって思い付いたわけだ」
しかも、幸いなことにハクハの異世界人は池井 千寿だった。
自分で殺すのを躊躇う相手だったし、丁度よかった。
寝返るのは運命だったのだと、シンリに縋りつく。
「『武器』も残ってるし、俺は強い。それにこうやって他の領に忍び込む力を持ってる? ハクハに取っても悪いことじゃないと思うんだけどなー」
「ああ、確かにそうだな。お前は少なくとも千寿やカラマリの馬鹿とは違うみたいだな」
「だろ?」
「しかし、お前は裏切ってハクハに所属しようとしている。裏切った人間を信用することは出来ないと思わんか」
「それは……」
裏切者は殺す。
ならば、裏切って入った時点でその人間は信用できない。慌てて弁解を試みるが、シンリに反論する言葉が思い付かないだろう。
前髪を何度も素早く触り続ける竜哉。
その光景を見てシンリは不敵に笑った。
「だが、好きにしろ。お前がハクハを裏切ろうとも、俺達の勝利は揺るがない」
池井 千寿を殺したかった竜哉と殺したシンリが手を組んだ。
ハクハへと所属する権利を得た竜哉。
「あ、ありがとうございます! 一生ついて行きます!!」
背を向けたシンリに、髪が乱れるのも構わずに深く、何度も頭を下げた。
伏せたその顔は〈統一杯〉の勝利に近づいたからか――かみ殺せない笑いで満たされていた。
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