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四章 ハクハ領の救出作戦
46話 似た者同士は反発する
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「へっ……。喧嘩売ってきたくせに、大したことねぇーな! そんな力で、よくも俺を殺せるなんて言ったもんだなぁ、クロタカ! そこだけは褒めてやるよ!!」
逆立てた赤い髪と、両目の下に刻印された青い入れ墨が象徴的な男――カズカが狂ったような笑い声と共に言う。
「君こそ、そんな血塗れな体で強がっても惨めなだけじゃないのかな?」
対して、我らが狂人のクロタカさんは、あくまでも冷静に応じる。
白い髪と右目の入れ墨。
眼の下に入れ墨を入れていると言うことと、戦いが大好きな狂人という共通点はあるが、二人が仲良くなることはなさそうだった。
同じ趣味でも仲良くなれない事ってあるよね。
「あぁん? 言っとくけど、お前の方が傷は多いぜ?」
正直、今、二人の特徴的な入れ墨は、無数の切り傷と流れる血で隠れてしまっている。
それほどまでに、二人は血塗れで欲に塗れて戦っていた。
二人がにらみ合っているのは城の上。
どうやら、音を聞きつけて、俺が暮らす小屋に駆け付けたカナツさん達とは、すれ違うようにして移動したようだ。
三角の頂点を跨いで立つ二人。
ていうか、皆、よく平然と立ってられるな……。足場も悪いし、高いしで、俺は気を抜けば落ちてしまいそうになる。
この高さから落ちたら即死だろうなー。
転落死は嫌だなー。
高い所から落ちるなんて考えただけで足が竦む。
「……ここに来るまでで死にかけたっていうのに」
そう。
ここは城の屋上。
普通に俺が登れるわけがない。ならば、どうしたのかと言えば、カナツさんに担がれて宙を舞ったのだ。
流石はレベル108の大将。
俺一人担いでの跳躍は、軽いようで、ぶんぶんと俺を振り回しながら屋上までホップ、ステップ、ジャンプと木々や天守閣を伝ってやってきた。
俺は繊細な人間なので、割れ物注意で運んで頂きたかったが、まあ、運んで貰えただけ感謝しなければならないか。
俺は乱雑に運んだカナツさんが、向かい合う二人に向かって大きく手を振る。
「おーい、クロタカ! もう、十分楽しんだでしょー! 帰るよー!」
「……5時に公園に迎えに来た、お母さんみたいに呼ばなくても」
「リョータ、何言ってるんだ?」
「あ、いや、独り言、気にしないでくれ」
呼び方はともかく、例え人を乱雑に扱うカナツさんでも、カラマリ領の大将であることには違いない。
シンリのように『命令は絶対』と言わなくとも、それなりの権限はあるはずだ。
だが、一度狂人モードに入ってしまったクロタカさんは、カナツさんの声には耳を傾けずに、ただ、ひたすら戦闘を貪ろうとしていた。
予備動作なしにカズカに斬りかかる。
「はっ……。だから、お前の斬撃は俺には通じないんだよぉ!」
カズカの使う刀。
蛇のようにしなり、ありとあらゆる方角からの斬撃が可能な技巧剣。そしてそれは、攻撃だけでなく防御でも厄介なものだった。
自分の周囲にとぐろを巻く刃。
それは壁となって、クロタカさんの攻撃を防いだ。
否、防げるはずだった。しかし、相手は狂人でありながらも、戦闘に関しては天武の才を持つクロタカさんだ。
渦を描く刃に、僅かに存在する隙間に、迷うことなく手を突き出した。自分の突き出した腕が裂かれるのを覚悟してカズカの顔面を貫こうとした。
「ちっ……」
「おわっ、あぶねぇー。この状態で当てに来るとか、お前狂ってるねぇー」
だが、相手もハクハの幹部。
そう簡単に殺せる相手ではない。
いくら早くても、『渦の隙間』からの『直線的な突き』ならば躱せるようだった。
「身体能力と一撃の速さならクロタカさんが上ですが、あの刀を扱うカズカとは、相性があまりよくないかもしれません」
サキヒデさんが二人の攻防を見て呟いた。
攻撃を防がれたクロタカさんが、大きくバックステップで後退するが、蛇腹と化した刃がうねりながら追撃する。
城の屋上に並べられた瓦が、切り裂き、吹き飛ばされていく。
正直、俺には凄すぎてどちらが有利なのか、全然分からない。二人共強いってことくらいは分かるけどな。
カズカの持つ剣は、扱いは難しそうではあるが、その分、自分が移動しないでも敵を狙えると言う利点がある。
その圧倒的なリーチを前に、クロタカさんは、二つの小刀で受けはしているものの、細かな傷が増えていく
まるで、カズカを中心に竜巻が起こっているようだった。
暴風さながらの攻撃。
響き続ける金属音。
「駄目だねー、全然聞いてないや。このままじゃ、城の方が先に壊れちゃうよ! やっぱ、力づくで止めるしかないか……。ケイン、サキヒデ! 準備は良い?」
カナツさんが仕方ないと武器に手を掛ける。
それに続くように、サキヒデさんは矢を背から抜き、ケインは薙刀を振り回した。
おお!
いいな、これ!
なんか、チームっぽいじゃん!
俺も何かした方がいいかと、手短に武器になりそうなものを探すが、何もなかった。大人しく傍観者に専念しよう……。
武器を取り出した三人は、互いに戦う意志を確認し合うと、即座に攻撃に移った。
最初に攻撃を仕掛けたのは、サキヒデさんだった。カズカに対して矢を放つ。
ただ、一矢を放つだけだ。
俺でも一か月も練習すれば前に飛ばすくらいは出来るぜ? と揶揄おうとしたが、直ぐに自分の愚かさに気付く。余計なこと言わなくて良かったと。
嵐のような刃の暴撃。
その軌道を計算して、カズカを狙う正確さ。
まるで、飛燕のごとく優雅に嵐をすり抜けた。
暴風域を抜ければそこは安全地帯。
確実にカズカに突き刺さるはずだ。
だが、「喰らうかよ!」と、剣をしならせて矢をはたき落とした。
「ふふ、それも踏まえて計算通りですよ」
不敵に笑う策士。
最初から、撃ち落されるのは――計算済みだった。
サキヒデさんの狙いは、カズカの攻撃を誘導し、軌道を変えることにあったのだ。大将が無傷で懐に飛び込めるように、道を作ったのだ。
「よーし、捕らえた!」
カズカの元に飛び込むカナツさん。
直ぐに斬撃をカナツさんに定めようとするが、反応を遅らされた状態で大将を防げるはずもない。
カナツさんが、手首を峰で押さえた。
手首を支点に軌道を変えるカズカの剣。
ならば、そこを抑えればいいだけのこと。
理屈は簡単だが、それを一人で実行するのは難しい。現にサキヒデさんもケインも手を出せなかったのが証拠だろう。
まあ、二人が、手を出せなかった理由はそれだけじゃないのだろうけど。
カズカの方は大丈夫そうだと、クロタカさんに視線を移した。
「クロタカさん、落ち着いてください」
「そうだぜ! 戦いたいのは分かるけど、流石にここでカズカと戦うのはマズいって」
ケインとサキヒデさんが暴れる狂人を押さえつけていた。
じたばたと足掻き、味方に刃を向ける。
……敵味方関係なく刃を向けるクロタカさん。
それもまた、理由の一つだろうな。
本当なら、カズカ一人を止めればいいだけなのに、クロタカさんまで止めなきゃいけないんだもん。
「……はぁ」
しばらくすると、狂人モードが収まったようで、静かに立ち上がり、大きく欠伸をした。
そして、そのまま、屋上から飛び降りようとする。
「おい! 俺との戦いはどうすんだよ! 逃げんのかぁ!」
動きを封じられたままの姿勢で叫んだ。
「……うーん。もう、いいかな。なんか、眠たくなっちゃった」
ふざけんなよ?
カズカだけじゃなくて、この場にいる全員が同じ感想を抱いたことだろう。カナツさんまで表情変わってるじゃないか。
そう言い残して、屋上から消えた。
着地に失敗して大怪我しろと願うが、軽やかに着地して闇に消えていった。
「ちっ。久しぶりに楽しい戦いが出来たのによー。ま、戦う気がないならいっか。じゃあ、代わりに大将とでも戦おうかなぁ!」
クロタカさんと違って、カズカは常時狂っている。
まだ暴れたりないと、次の狙いをカナツさんに定めたようだ。
「それは止めといた方がいいんじゃないかなー。私には勝てないと思うよ?」
どう足掻いても勝てないからやめておいた方が良いと――カナツさんが口角を歪めた。こんな好戦的なカナツさんを見たのは、俺は初めてだった。
逆立てた赤い髪と、両目の下に刻印された青い入れ墨が象徴的な男――カズカが狂ったような笑い声と共に言う。
「君こそ、そんな血塗れな体で強がっても惨めなだけじゃないのかな?」
対して、我らが狂人のクロタカさんは、あくまでも冷静に応じる。
白い髪と右目の入れ墨。
眼の下に入れ墨を入れていると言うことと、戦いが大好きな狂人という共通点はあるが、二人が仲良くなることはなさそうだった。
同じ趣味でも仲良くなれない事ってあるよね。
「あぁん? 言っとくけど、お前の方が傷は多いぜ?」
正直、今、二人の特徴的な入れ墨は、無数の切り傷と流れる血で隠れてしまっている。
それほどまでに、二人は血塗れで欲に塗れて戦っていた。
二人がにらみ合っているのは城の上。
どうやら、音を聞きつけて、俺が暮らす小屋に駆け付けたカナツさん達とは、すれ違うようにして移動したようだ。
三角の頂点を跨いで立つ二人。
ていうか、皆、よく平然と立ってられるな……。足場も悪いし、高いしで、俺は気を抜けば落ちてしまいそうになる。
この高さから落ちたら即死だろうなー。
転落死は嫌だなー。
高い所から落ちるなんて考えただけで足が竦む。
「……ここに来るまでで死にかけたっていうのに」
そう。
ここは城の屋上。
普通に俺が登れるわけがない。ならば、どうしたのかと言えば、カナツさんに担がれて宙を舞ったのだ。
流石はレベル108の大将。
俺一人担いでの跳躍は、軽いようで、ぶんぶんと俺を振り回しながら屋上までホップ、ステップ、ジャンプと木々や天守閣を伝ってやってきた。
俺は繊細な人間なので、割れ物注意で運んで頂きたかったが、まあ、運んで貰えただけ感謝しなければならないか。
俺は乱雑に運んだカナツさんが、向かい合う二人に向かって大きく手を振る。
「おーい、クロタカ! もう、十分楽しんだでしょー! 帰るよー!」
「……5時に公園に迎えに来た、お母さんみたいに呼ばなくても」
「リョータ、何言ってるんだ?」
「あ、いや、独り言、気にしないでくれ」
呼び方はともかく、例え人を乱雑に扱うカナツさんでも、カラマリ領の大将であることには違いない。
シンリのように『命令は絶対』と言わなくとも、それなりの権限はあるはずだ。
だが、一度狂人モードに入ってしまったクロタカさんは、カナツさんの声には耳を傾けずに、ただ、ひたすら戦闘を貪ろうとしていた。
予備動作なしにカズカに斬りかかる。
「はっ……。だから、お前の斬撃は俺には通じないんだよぉ!」
カズカの使う刀。
蛇のようにしなり、ありとあらゆる方角からの斬撃が可能な技巧剣。そしてそれは、攻撃だけでなく防御でも厄介なものだった。
自分の周囲にとぐろを巻く刃。
それは壁となって、クロタカさんの攻撃を防いだ。
否、防げるはずだった。しかし、相手は狂人でありながらも、戦闘に関しては天武の才を持つクロタカさんだ。
渦を描く刃に、僅かに存在する隙間に、迷うことなく手を突き出した。自分の突き出した腕が裂かれるのを覚悟してカズカの顔面を貫こうとした。
「ちっ……」
「おわっ、あぶねぇー。この状態で当てに来るとか、お前狂ってるねぇー」
だが、相手もハクハの幹部。
そう簡単に殺せる相手ではない。
いくら早くても、『渦の隙間』からの『直線的な突き』ならば躱せるようだった。
「身体能力と一撃の速さならクロタカさんが上ですが、あの刀を扱うカズカとは、相性があまりよくないかもしれません」
サキヒデさんが二人の攻防を見て呟いた。
攻撃を防がれたクロタカさんが、大きくバックステップで後退するが、蛇腹と化した刃がうねりながら追撃する。
城の屋上に並べられた瓦が、切り裂き、吹き飛ばされていく。
正直、俺には凄すぎてどちらが有利なのか、全然分からない。二人共強いってことくらいは分かるけどな。
カズカの持つ剣は、扱いは難しそうではあるが、その分、自分が移動しないでも敵を狙えると言う利点がある。
その圧倒的なリーチを前に、クロタカさんは、二つの小刀で受けはしているものの、細かな傷が増えていく
まるで、カズカを中心に竜巻が起こっているようだった。
暴風さながらの攻撃。
響き続ける金属音。
「駄目だねー、全然聞いてないや。このままじゃ、城の方が先に壊れちゃうよ! やっぱ、力づくで止めるしかないか……。ケイン、サキヒデ! 準備は良い?」
カナツさんが仕方ないと武器に手を掛ける。
それに続くように、サキヒデさんは矢を背から抜き、ケインは薙刀を振り回した。
おお!
いいな、これ!
なんか、チームっぽいじゃん!
俺も何かした方がいいかと、手短に武器になりそうなものを探すが、何もなかった。大人しく傍観者に専念しよう……。
武器を取り出した三人は、互いに戦う意志を確認し合うと、即座に攻撃に移った。
最初に攻撃を仕掛けたのは、サキヒデさんだった。カズカに対して矢を放つ。
ただ、一矢を放つだけだ。
俺でも一か月も練習すれば前に飛ばすくらいは出来るぜ? と揶揄おうとしたが、直ぐに自分の愚かさに気付く。余計なこと言わなくて良かったと。
嵐のような刃の暴撃。
その軌道を計算して、カズカを狙う正確さ。
まるで、飛燕のごとく優雅に嵐をすり抜けた。
暴風域を抜ければそこは安全地帯。
確実にカズカに突き刺さるはずだ。
だが、「喰らうかよ!」と、剣をしならせて矢をはたき落とした。
「ふふ、それも踏まえて計算通りですよ」
不敵に笑う策士。
最初から、撃ち落されるのは――計算済みだった。
サキヒデさんの狙いは、カズカの攻撃を誘導し、軌道を変えることにあったのだ。大将が無傷で懐に飛び込めるように、道を作ったのだ。
「よーし、捕らえた!」
カズカの元に飛び込むカナツさん。
直ぐに斬撃をカナツさんに定めようとするが、反応を遅らされた状態で大将を防げるはずもない。
カナツさんが、手首を峰で押さえた。
手首を支点に軌道を変えるカズカの剣。
ならば、そこを抑えればいいだけのこと。
理屈は簡単だが、それを一人で実行するのは難しい。現にサキヒデさんもケインも手を出せなかったのが証拠だろう。
まあ、二人が、手を出せなかった理由はそれだけじゃないのだろうけど。
カズカの方は大丈夫そうだと、クロタカさんに視線を移した。
「クロタカさん、落ち着いてください」
「そうだぜ! 戦いたいのは分かるけど、流石にここでカズカと戦うのはマズいって」
ケインとサキヒデさんが暴れる狂人を押さえつけていた。
じたばたと足掻き、味方に刃を向ける。
……敵味方関係なく刃を向けるクロタカさん。
それもまた、理由の一つだろうな。
本当なら、カズカ一人を止めればいいだけなのに、クロタカさんまで止めなきゃいけないんだもん。
「……はぁ」
しばらくすると、狂人モードが収まったようで、静かに立ち上がり、大きく欠伸をした。
そして、そのまま、屋上から飛び降りようとする。
「おい! 俺との戦いはどうすんだよ! 逃げんのかぁ!」
動きを封じられたままの姿勢で叫んだ。
「……うーん。もう、いいかな。なんか、眠たくなっちゃった」
ふざけんなよ?
カズカだけじゃなくて、この場にいる全員が同じ感想を抱いたことだろう。カナツさんまで表情変わってるじゃないか。
そう言い残して、屋上から消えた。
着地に失敗して大怪我しろと願うが、軽やかに着地して闇に消えていった。
「ちっ。久しぶりに楽しい戦いが出来たのによー。ま、戦う気がないならいっか。じゃあ、代わりに大将とでも戦おうかなぁ!」
クロタカさんと違って、カズカは常時狂っている。
まだ暴れたりないと、次の狙いをカナツさんに定めたようだ。
「それは止めといた方がいいんじゃないかなー。私には勝てないと思うよ?」
どう足掻いても勝てないからやめておいた方が良いと――カナツさんが口角を歪めた。こんな好戦的なカナツさんを見たのは、俺は初めてだった。
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