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本編

46,もう一度 ※

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 唇が離れるとセシルは顔を赤らめ視線を外した。
 デュレクは肩を抱いて、彼女の顎に手をかける。
 上向かせるなり、かぶさるように口づけた。

 セシルはデュレクの服をぎゅっと握る。
 
 口内に押し入ってくる舌を伝い、唾液が流れ込んでくる。喉の奥に水が溜まる。喉を開き、飲み込んだ。混ざり合った唾液が溢れ、唇全体を濡らしていく。
 応えるように、デュレクの舌の横腹をセシルの舌が撫でた。絡め合い、逃げて、追われる。

 少し口を離して、息を吸う。
 水音を響かせ、むさぼりあう。
 繰り返すうちに、セシルはデュレクの身体に身を押し付け、つま先立ち、彼の背に腕を回していた。唇が離れる時、それはとても寂しくて、引いていく彼の唇に追いすがるように、唇を押し当てて離した。

 精一杯のセシルの瞳が濡れている。

(デュレクに触れられるのが気持ち良い。もっと触れてほしい)

 そんな風に思っていても、素直になれなかった。体の方が、先に反応し、心が追いついて来ない。先に体を繋げたセシルは、デュレクに対して抱く感情が分からない。
 ただ体が寂しいのか、恋しいのか、愛なのか、なにか。体だけが素直に反応するさまに、乗り切れずに、戸惑う。

 好き、とか、愛している、とか。
 淡い感情や、胸の高鳴りのような、恋情から始まっていない関係だけに、捉えどころがわからなかった。

 ずっと懸命に走ってきた。こう生きざる得なかったセシルの背に、矢のように突き刺してきた元婚約者の言葉。それを払しょくする目的で、デュレクに抱かれた。

 触れられて、撫でられて、全身の皮膚から伝わる感触にまるで作り替えられるような気持ちよさだった。
 蕩(とろ)けて、再構成されて、今、ここにいるセシルは、屋敷を飛び出してきた時のセシルとどこか違う。どう違うかはうまく説明できない。
 
 分かっているのは、セシルはデュレクに触れてほしくて、キスしてほしくて、胸で遊んで欲しい、というどうしようもない衝動がある、ということだけだった。

 そんなセシルを知ってか知らずか、デュレクは優しくセシルを抱く。崩れ落ちそうなところ、縋り付くように彼の肩口に、首筋に頬と額をすり寄せる。

「ベッド行く」

 セシルはこくこくと頷く。

「朝までやる」

 左右に首を振る。
 
「明日は仕事だから、夜は寝る」
「そこは真面目だなんだねえ」

 二人はそのまま、デュレクの寝室へと転がり込む。



 
 衣類をさっと脱ぎ去り、セシルがデュレクに背を向ける。
 セシルの背をデュレクは後ろから包み込む。

 肌がふれあうだけで、セシルの心音は高くなり、体は火照る。
 後ろから回した腕と手で、胸を触ってほしいのに、デュレクは二の腕を摩るばかりで、なにもしない。求めることも恥ずかしいセシルは、回されるデュレクの腕に手を添えて、無性に男を求めようとする体を持て余した。

 デュレクは昨日、こめかみを打たれた経験を覚えている。
 あまり急くと、何も知らないセシルが驚くと思っていた。
 ぴったりと当てた陰茎が硬くなり、セシルの背で押しつぶし軽くする。人肌が気持ちよかった。
 
 デュレクは人肌が好きだ。ぬくもりは安心する。ろくに母にも抱かれたことがないであろう過去を埋めるように、ぬくぬくとするのも嫌いではなかった。

「後ろからしよっかな」
「後ろ?」
「そう」

 怪訝な声を発するセシルの耳を食む。
 驚いたセシルの背筋が伸びた。

 くぐもった音が耳奥にこだまする。セシルはその音が何かわらなかった。片耳に湿った温もりが通ってくる。
 振り向こうとしても、男の腕に拘束されている。
 
「デュレク、ねえ、デュレク」

 呼びかけても返答はなく。くぐもった音が響き続ける。違和感を覚える耳に指を伸ばす。人の頭部に触れた。
 頬、瞼、額、前髪、鼻、口元を指で辿る。デュレクの口が耳に触れていた。その口から伸びる舌が、耳朶を舐め、耳奥を遊んでいる音が響いていたのだとセシルも悟る。

 急に体が熱くなり、いたたまれなくなる。
 その恥ずかしさに悲鳴を上げて、身をよじった。


 
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