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離れた生活

全額投入

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 現在の時刻は午後九時。午前中から遊んでいたのに、もう、夜になっていた。それだけ、時間の流れを忘れていたらしい。午後九時から競売りが開催されるらしいので、もうすぐ始まるだろう。僕は椅子に座りながら、舞台を見る、カーテンに丸い光が見えた。照明が当てられているのだろう。カーテンが開くと黒いタキシードを身に纏った男が頭を下げる。

「皆さま、こんばんわ。今夜はお集まりいただき誠にありがとうございます。今晩もまた、選りすぐりの商品をご用意足しました故、楽しんでいってくださいませ。では早速、参りましょう」

 男性は競い売りを始めた。会場にいる者は手を叩き、開催を喜ぶ。

 出てくる商品は様々だった。秘宝や絵画、彫刻、珍しい種族の奴隷、剣など、種類が豊富で多くの者が手を上げながら値段を押し上げ、最高値を出した者が買っていく。
 ざっと一〇品が出たところ、一番高かった品は宝石の金貨一〇〇〇枚。大きめのダイアモンドだったのだが、プルスの糞の方が大きく、質が良かった。

「では、そろそろ出しましょうか」

 男性が手を叩くと、両腕を縛られ、もう、泣き疲れてしまったようなよれよれの表情をした金髪の少女がオリハルコンの鉱石を両手で包み込むようにして持ち、歩いていた。年齢にしてまだ三歳程度。オリハルコンは虹色の輝きを放ち、明らかに本物だ。

「ゲンジさん……。あのオリハルコン、本物です……」

 僕はゲンジさんの耳元で、小さな声を出す。

「あの子共も本物の貴族の子だ……。肖像画と全く同じ顔をしている。どうやら、当たりだったみたいだな。ついてるぜ……」

 ゲンジさんは葉巻を吸い、白い煙を吐きながら言った。

「では、皆さん。現在、高騰が止まらない希少金属、オリハルコンと貴族のご令嬢でございます。金貨二〇〇〇枚から参りましょう」

 男が呟いた瞬間。

「金貨三六〇〇〇〇枚」

 ゲンジさんは他の者を一切寄せ付けない、手持ち金、全てを提示した。競い売りで一番面白くないやり方だが、彼は楽しそうに声を上げた。

「き、金貨三六〇〇〇〇枚以上の方、おられますか」

 男性は声を少々強張らせながら呟く。だが、誰も手を上げず、目当ての少女とオリハルコンの購入を終えた。

「はぁー。俺の金貨三六〇〇〇〇枚が、ぱあだぜ」

「僕のお金ですけどね」

「まあまあ、そう硬いこと言うなって。ちゃーんと使い切ったんだから、ここの運営も文句はないだろうよ。あと……。金貨三六〇〇〇〇の大金を受け取りに来たメリー団を捕まえることが出来れば、一〇〇点だな」

 ゲンジさんは葉巻を吸いながら微笑んだ。どうやら、大金をつぎ込んだのにも訳があるっぽい。

「なるほど……。悪いことをしている者達が銀行なんて使えるわけありませんもんね。大金を受け取りに来る……。金貨三六〇〇〇〇枚なんてとんでもない枚数ですし、虹硬貨換算でも、三六〇枚。軽く持てるだけの枚数じゃない」

「虹硬貨なんてほとんど使われねえ硬貨だ。ここの店が大量に持っているとも思えん。馬車はいるだろうな。今夜から張り込みだ……」

 ゲンジさんはメリー団に相当恨みがあるようで、瞳の奥が笑っていない。復讐心に捕らわれているようだ。

 競い売りは続き、最後の商品が発表された。

「本日最後の品となります。灰色の石です」

 男性は台の上に何の変哲もない大きめの石を置いた。最後の最後でなぜ、ただの石なんて……。と言う声が至る所から上がる。

「金貨五〇枚からです」

「金貨五五枚!」

 僕は迷わず手を上げる。周りの者は誰も手を上げず、僕の金額が通った。

「ニクス、なんで、あんなただの石なんて買ったんだ?」

 ゲンジさんは呟いた。

「ただの石? とんでもない、あれはパワーストーンですよ!」

「パワーストーン? なんだそら……」

「パワーストーンと言うのはですね、宝石とは違いますが不思議な力を持った石のことです。この眼で見るのは初めてだったのでつい買ってしまいました!」

「……お前、鉱物が好物な人間か」

「はいっ!」

「はは……、見た目によらないな……」

 商品を買った者は特別室に移動する。僕とゲンジさんは同じ部屋に移動した。

「このカードにさっきのチップの料金が入っている。そっから払うぜ」

 ゲンジさんは応接室のソファーにどっしりと座り、ローテーブルにギルドカードに似た品を置く。

「かしこまりました。では、商品を持ってまいります」

 運営側の男性がカードを受け取り、金額が入っているか確認した後、他の部屋から手錠を付けられ、オリハルコンを手に持った少女が部屋に入って来た。

「嬢ちゃん、ティニア・サイエンか?」

「へ……。う、うん……」

 少女はゲンジさんの声を聴き、軽く頷いた。

「ティニア・サイエン……。って、え……。サイエン家? えっと、君のお父さんの名前はスグル・サイエン?」

 僕はティニアと言う少女に聞いた。

「お父さんの名前はスグルだよ……」

「や、やっぱり……」

 僕が通っていた騎士養成学校の同級生で、知り合いのスグルさんの娘さんだったとは。取り返せて本当によかった。

「んじゃ、ニクス。ガキの方は頼んだぜ」

 ゲンジさんは少女の手からオリハルコンを奪い、革袋に入れた後、応接室をあとにした。

「……ちょ! 僕に子供を押し付けないでくださいよ!」

「うぅ、お兄さん、怖い人、ですか……」

 ティニアはずっと怖い思いをして来たのか、僕がちょっと大きな声を出した途端、黄色の瞳を潤わせ、恐怖してしまった。

「ご、ごめん。えっと、僕は怖い人じゃないよ。もう、大丈夫。すぐ、家族に会えるからね」

 僕はティニアを抱きしめ、安心させる。

「もう一方のお方、こちらの石の料金をお支払いください」

 男性はメロンほどの大きさの灰色の石をローテーブルの上に置き、声を掛けてきた。

「あ、わかりました」

 僕は中金貨五枚と金貨五枚のチップを出し、支払う。

「ありがとうございます」

 男性はチップを受け取り、商品を差し出してきた。

「はわわ……。本物のパワーストーンだ。確か、フェニクス島にもあったよな。一回り小さいけど、僕の手もとに来るなんて」

 僕がパワーストーンに触れると、プルスが燃えた。

「ぴよー、オオオオオオッツ! 力が漲ってきました!」

 プルスの体が一回り大きくなり、真っ赤な炎の鳥が顕現する。他の者には何が起こっているのかわかっていない。実際、僕も何が起こっているのかわからない。僕が手を放すと、プルスは元に戻り、気分よさげに頭部に座る。
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