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ビースト共和国

気持ち悪い鼠と雑魚の兎

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「僕の最大の利点は空が飛べることだ。すぐ離脱できる。まあ、逃げるのは情けないけど、死なないことの方が大事だ」

「まあ、死んでしまったら元も子もありませんから、生き延びる方針で行くのは悪くない選択だと思います。ルパとミアを連れ、すぐに逃げるのが先決かと」

 プルスは翼を羽ばたかせ、同じ考えを伝えてくる。

「うん。じゃあ、ルパ。逃げるよ」

「わ、わかった」

 僕はルパの手を握り、ミアの両親がいるお店に向かう。

「ニクスさん! またやつらが!」

 ミアも黄蛇の気配を感知したらしく、ぶるぶると震えていた。

「ミア、僕は逃げる。ミアは敵に狙われているわけじゃないからここに残ってもいい。騒動が納まったらまた戻ってくる。僕と一緒にいる方が危険だ。来るか来ないか、ミアが決めてほしい」

「わ、私は。に、ニクスさんについていきます!」

 ミアはすでに決心しているようで、言った。

「お母さん、お父さん。今日、泊っていきたかったけど、ごめん。急用ができたみたい。弟たちの学費は絶対に持ってくる」

「気にしないで。ミアが生きていると言うのがわかっただけで、明日も元気に生きていける」

 メルルさんは微笑み、ミアに心配をかけないよう配慮していた。

「ミア、元気でな」

 カイトさんも寡黙ながらミアに微笑みかけた。

「うん。お父さんも元気でね」

 ミアと家族はたった半日で面会を終えた。神獣の襲来が無ければもっと長い間対話できたのに。

「ルパ、ミア、すぐに離れよう。ここに被害が及ぶ可能性がある」

 僕達は炎の翼を使わず、ルパの鼻と耳、ミアの耳を使い、神獣たちから距離をとっていく。それでも、神獣は追って来た。どうやら、三体の狙いは僕らしい。

「主、どうやら三体とも主を狙っているようです。モテモテですねー」

「最悪だけどね。なんで僕を狙うんだ。他を狙えばいいのに……」

「私達の能力は複数人相手だと分が悪すぎます。罠に嵌められて大人数と戦った時は防戦一方でした。燃やしたら勝ちですが、簡単に当たってくれるわけありません」

「そうだろうね。じゃあ、そろそろ炎の翼で逃げてもいいかな……。くっ!」

 僕はルパとミアを軽く跳ねのける。炎の衣で覆い、攻撃されても即死しないよう配慮した。その瞬間、真っ白な司祭服を着た白髪の男が顔の真横を擦過する。

「ほんと、人間技じゃねえな……」

 白鼠は白髪の男の肩に乗っており、僕にも聞こえるくらいの声で呟いた。

「また、殺し損ねた……。他の奴らより先に殺したかったのに」

「ちょ、ちょっと待って。い、いったん話し合おう!」

 僕は青年から一〇メートル離れ、先制攻撃と言う能力の効果範囲外に移動する。

「話し合うことなんてない。俺達は殺し合うだけだ……」

 生気のない青年の表情は氷のように冷たく、目が死んでいる。もう、話す気なんてさらさらなさそうだ。

「うわーいっ、真っ赤なヒヨコさんに、白い鼠さん、どっちも私のものにしたーい!」

 地面から現れたのは欲求が強すぎる女の子と肥大化した橙兎だった。

「うげ、白鼠だ。気持悪……、その尻尾、どうにかならないの?」

「おい、橙兎。口を慎め。お前みたいな雑魚に用はない」

「はあ? 雑魚だとごらっ! ざっけんじゃねえぞ!」

「お前は雑魚だが、少女の方は限りなく面倒臭そうだ。ワイツ、あの少女から殺した方が良い。糞雑魚が何羽にも増える」

 白鼠が少女の方に視線を向ける。やはり、魔力量が多いのは神獣にとっても都合が悪いらしい。

「わー、可愛いこどもだー。じっくりじんわり殺すのがいいよね」

 青年は顔色に生気が戻り、灰色の瞳に光りが宿る。狂気のロリコンだ。

「お兄さん、私と遊んでくれるのー。うわーい、やったやった! あーそーぼーっ!」

 少女の方も狂っているのか、刃物を持った青年の方を向き、笑っていた。

「この二名は中々珍しいくらい狂った人間のようです」

 プルスも引き気味だ。僕はじりじりと下がりながら、ルパとミアのもとに戻る。

「に、ニクス……。ご、ごめん、腰、抜けちゃって動けない……」

 ルパは二名の狂人を前に、腰を抜かし漏らしていた。やはり黄蛇の方はまだ真面らしい。

 ――あの二人がなんでビースト共和国にいるんだ。理由がわからない。でも、ガラカス方面にいると言うことはルークス王国の東側から来たと考えられる。いや、水の都アクアテルムも近い。あの少女の出身地だったはず。神獣に反応してやって来たのか。

「おい白鼠! 今からお前をぶっ殺してやる!」

「もう兎ちゃん。ぶっ殺してやるなんて怖いこと言っちゃ駄目だよ。今からペットにするの。私、白い鼠さんが欲しくなっちゃった!」

「ワイツ、あの少女が暴走する前に殺せ。手が付けられなくなるぞ」

「わかってるよ」

 白髪の青年は僕が止めるよりも早く少女の首に刃物を当て、瞬時に下がる。

「ありゃ……。刃が折れてる……。やばい魔力量だな」

「お兄さん、私の髪、切っちゃったの。せっかく伸ばしてたのに……」

 橙兎を肩に乗せたゴスロリ衣装の少女の顔が暗くなる。加えて魔力と思われる黒い靄が全身から溢れ出していた。

「ははははっ! 魔力こそすべて! 魔力が多ければ多いほど、俺は強くなれる!」

 橙兎はボコボコと膨らみ始め、ざっと一八メートル長の巨大な橙兎になった。だが、兎と言うのは名ばかりで見かけは全く兎じゃない。筋肉ムキムキの兎族っぽい人型の見かけだ。

「ちっ……。魔力が多すぎて刃が割れ、橙兎の肉体をあそこまで権限させるとは……」

「白、どうするの……。なんか、やばそうだけど……」

「実際にやばいからな。その感覚は正しいぞ、ワイツ。しっかり覚えておくんだ」

 僕は白髪の青年と橙髪の少女から距離をとる。ルパとミアだけでも安全そうな場所に隠しておかなければ。神獣を従えている者から距離を取り、茂みの中に両者を隠す。
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