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ビースト共和国

ガラカス街

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 七月二二日、今日は列車が来ないので他の場所を観光することになった。
 教会を巡り、神に感謝するとともに、僕たちは鍛錬を行う。強そうな者を狙ってくる強盗はいない。なので、僕達は武力で抗いますよと言う意思表示を見せると、強盗が寄り付かなくなった。黄蛇は現れず、一日が終わる。明日の朝、列車に乗り、ミアの生まれ故郷へと移動する。

「はぁ……。明日に迫って来てしまいました。明日列車に乗ったら一〇年ぶりの故郷です」

 ミアは手を胸に当て、何度も腹式呼吸を繰り返していた。心臓がどきどきして仕方が無いのだろう。

「明日列車に乗って、一日経てば今回の旅の目的地だ。出発が六月のはじめだったから、ほぼ二カ月間移動しているんだね。いやー、ここまで長かったなー」

「ニクス、まだついていないんだから安心しちゃ駄目」

 ルパは目を細め、僕に手厳しく忠告してきた。

「そうだね。ちょっと安心しちゃってたよ。ありがとう、ルパ」

 僕は感謝の気持ちを込めてルパの頭をそっと撫でる。

 今日は早めに寝て明日の出発に備えよう。

 七月二三日、僕達は駅に到着した。ガラカス街からやってくる獣族は大勢いるものの、ホコダ街からガラカス街に向かおうとする者はあまり多くなかった。普通に車両に乗れそうだったが、治安の面を考えて個室の車両を選ぶ。一日列車に乗り続け、ガラカス街に到着した。

「…………ここがガラカス」

「な、なんか思っていたよりも……、怖い」

「懐かしい……。すごい懐かしい臭いがします」

 僕とミアは恐怖を覚え、ミアだけは表情を明るくしていた。駅から足を踏み出し、辺りを見るととても多くの建物が経っているのだが、雰囲気は暗い。獣族は多くいるものの、表情が硬いというか、怖いというか……不満を持っているような表情で、話し掛けにくい雰囲気だ。

「じゃあ、ミアが住んでいた場所まで案内してもらおうか」

「えっと……。一〇年前ですし、記憶があいまいで……。一〇年で凄い成長してますし、街の風景が変わりすぎてて……」

 ミアは辺りを見渡し、どこに何があるのかを探していた。

「あ、あの丘は見覚えがあります。と言うことは……こっちです!」

 ミアは土地勘を思い出してきたのか僕たちを誘導し始めた。ガラカス街の中を走り、僕たちはミアの実家を目指して走る。周りの景色は先ほどよりもなだらかになっていた。
 民家が増え、家の作りもトタンのような安っぽい作りだ。ミアはもう迷いなく突っ走り、泣いていた。きっと色々思い出しているのだろう。周りの獣族は人族がいることに驚きながらも、どこか見覚えのある少女の方に注目していた。子供はわからないだろうが、大人なら知っているのではなかろうか。
 ミアはもう、こらえきれなくなったのか今以上に涙を流し、腕を大きく振って足を前に出す。僕とルパが追い付けないくらいの速度で走っており、彼女の可能性を見た。

 ミアが向かった先は何かのお店だった。朝から、獣族でにぎわっており楽し気な声が聞こえる。

「え……。メルルさん。メルルさん! な、なんか、幻覚が見えるんですけど!」

 とある獣族の男性が声を大きくだし、叫ぶ。僕も大分ビースト語に慣れたようで、理解できていた。

「もう、なに……。朝から、大きな声を出して……」

 お店から出てきたのは猫族の女性。ミアと同じ茶虎色の髪に飽満な胸。背丈もほぼ同じ、雰囲気は瓜二つだ。

「おかあさああああんっ!」

 ミアは回りを気にせず、お店の入り口から出てきた女性に叫ぶ。

「み、ミア……。う、嘘でしょ……。そ、そんな……」

 女性は持っていたお盆と木製の皿を地面に落とし、走り出した。

「おかあさああああんっ!」

 ミアは両手を前に出し、少しずつ減速しながら女性に向かう。

「みあああっ!」

 女性もミアの名前を叫びながら、泣き、ミアのもとに走る。
 両者は抱き合い、道の中央で大泣きしながら尻尾をうねらせていた。

「う、うう……。お母さん、会いたかったよ……」

 ミアは聞いたこともないほど弱々しい声で呟いた。

「ええ……。私も、ずっとずっと会いたかった……」

 女性はミアをぎゅっと抱きしめ、言う。周りの獣族は泣き、ルパもわんわん泣いている。どうやら、獣族は感情が伝達しやすいらしく、両者の再開に心震わされたのだろう。僕も鼻水を啜りながら、手の甲で眼元をぐしぐしと擦っていた。

「ミア、お帰りなさい。ほんと、大きくなったわね。もう、一七歳かしら」

「うん。もう一七歳だよ。もう少しで一八歳になる……」

「よかった……。ミアが無事でいてくれて。本当によかった」

 ミアとミアのお母さんが抱き合い、僕達はどうしたらいいのか、途方に暮れていた。雰囲気を壊したくないし、かと言ってずっと立ち呆けているわけにもいかない。沈黙を破ったのはルパのお腹だった。お腹が空いてしまったらしく、とても大きな腹の虫が鳴る。

 ルパはお腹を抱え、恥ずかしそうに頬を赤らめた。

「すみません。朝食がまだなので、あちらのお店でいただけますか?」

 僕はビースト語でミアのお母さんに話した。

「ま、まあ。お上手なビースト語。もちろんです、ぜひ食べて行ってください」

 ミアのお母さんの背丈は一五五センチメートルほどで、ルパより小さいくらいだ。腕を振りながらお店の方に向かい、走る。

「ミア、ごめん。私のお腹が鳴っちゃった……」

 ルパはミアに謝り、雰囲気を壊したことを後悔していた。

「ううん。確かにお腹空いたもん。気にしないで」

 ミアの表情は軽くなり、お母さんが生きていたという事実に安どしていた。今までのミアとはすでに別の方のように見える。

 僕たちはミアの実家と思われる料理屋に入った。

「み、ミア……。ほ、本当にミアなのか……」

 身長がミアのお母さんより少々高い男性の猫族が目を丸くし、泣きながら厨房を出てくる。

「お父さん、ただいま。だいぶ老けたね」

 ミアはお父さんを見ながら微笑み、ギュッと抱き着く。どうやらミアの両親は生きていたようだ。
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