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ビースト共和国

離れるのが怖い

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「ルパっ! 相手の動きをよく見て、考えるんだ。でも、考え過ぎたら攻撃を食らう。考えながら動いて戦えっ! ルパ、殺さなくてもいい。相手を戦闘不能にするんだ!」

「ニクス……。う、うん! やってみ……、くっつ!」

 ルパと話している最中、相手の青年は話を待ってくれない人間らしい。ルパは長い槍の穂先を紙一重で回避し、短剣で切りつける。だが、硬く折れなかった。

「ナガバナシサレテモ、コッチハツマラナエエンダヨッ!」

 青年は叫び槍を巧みに振り回す。攻撃方法がディアさんのランスと違い、穂先に鉈状の刃がついており、先端にだけ気を付ければ決定打にはならないものの、武器の長さが段違い。懐に入ってしまえば、勝機は見える。でも、そう簡単に入らせてくれない。

「くっ! 初めて見る槍の使い方。うざいっ!」

 ルパは短剣を使いながら槍の攻撃を回避していた。青年は刺す、振るう、薙ぎ払うと言った具合にルパの体に的確に攻撃を放っていた。ルパの方が防戦一方。でも、防御できているので、負けてはいない。

「ルパ、焦らず、じっくり見極めるんだ。槍の動きは単調だから、見極めればさほど怖くない。弾丸を躱せるルパなら、容易いはずだ」

「はぁ、はぁ、はぁ……。うんっ!」

 ルパは青年の槍の動きをしっかりと見極めていた。

「ちっ……。ちょっとまずいな。嬢ちゃんも思ったより強い……。やはり獣族なだけはある。この嬢ちゃんを倒したとしても本命はこの嬢ちゃんよりもはるかに強いときた。赤鳥、今回は運が回って来たか!」

 黄蛇は声を上げ、プルスに話し掛けた。

「はははっ! どうやら、そのようですね! あなたは野生児を主に選んだようですが、あなたの得意とする戦法が苦手なようです。もったいないですねっ! 駄目じゃないですか。もっと腹黒い人間を選ばないと」

「うるせえ。こいつは成長段階なんだよ。こいつは何度も何度も脱皮して強くなっていく。体に受けた傷も脱皮して元通りだ。次会う時は別人だと思ったほうが良いぜ!」

「脱皮……。なるほど、あの青年はまだ成長段階なのか。なら、ここで倒しておかないとあとあと手が付けられなくなるかもしれない。でも、成長段階なのはルパも同じだ」

「脱皮なんてさせる前にぶっ殺せば終わりですよっ!」

 プルスは血気盛んに口から火を噴き、やる気を見せる。ヒヨコの発言とは思えない。

「はああああっ!」

 ルパは攻め時だと感じたのか、槍を弾いた後、青年の懐に飛び込む。

「オラッ!」

 青年は槍を振り、持ち手でルパを弾き飛ばそうとした。だが、ルパは体を捻らせ、空中で回避。そのまま、短剣を突き刺しに向かう。

「ちっ!」

 青年は黄蛇の右手を突っ込み、リボルバーを取り出した。ルパの眉間を狙うかと思ったら、僕の方を狙ってほぼ同時に二発打った。

 僕は僕の眉間とプルスの体に飛んでくる鉛玉を炎を纏った手で防ぐ。

「ははっ、ここからじゃ無理か」

 黄蛇を連れた青年は後方に飛び、ルパを狙い撃つ。回転弾倉が六回動いたころ、鉛弾が尽きたらしい。ルパは全ての鉛弾を躱し、攻撃を繰り出す。このまま、進めばルパの持つ短剣が青年の体に突き刺さる。そうなれば少なからず重症になるはずだ。

「はああああっ! つっ!」

 ルパは短剣を青年の腹部に突き刺そうとした。だが、黄蛇が大口を開け、青年を攻撃から守る。あのまま、口の中に入れば、ルパは出てこれないだろう。ルパは後方に下がるしかなく、後退した。

 黄蛇と青年はそのまま逃亡し、僕達の前から姿を消す。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 ルパは地面にペタンと座り込んだ。恐怖から解放され全身の力が緩み、今になって短剣を落とした。力が完全に抜けてしまい、剣の柄を持つことすら困難なのだろう。僕はすぐに駆け寄り、怪我をしていないか確認した。

「に、ニクス……。わ、私、戦えたよ……。す、すごいでしょ……」

 ルパは全身を震わせながら言う。死地を乗り越え、生き残った者の表情とは思えないほど涙を流していた。

「うん。すごい。本当にすごいよ。ルパは生き残ったんだ。恐怖に打ち勝ったんだよ」

 僕はルパを抱きしめ、背中を摩った。

「や、やった。やった。私も戦えた。すごく強い人間と戦えたよ!」

 ルパは成長段階とはいえ、黄蛇を扱う青年と互角に渡り合い、退けた。これは快挙と言ってもいいのではないだろうか。

「プルス、ルパは凄いよね」

「はい。まさか、一人で黄蛇を後退させるなんて快挙ですよ。身体能力が高いだけの獣族が黄蛇と互角に戦うだけでもすごいのに、後退させるなんて……。普通あり得ません」

「プルスも凄いと言ってる。ルパ、ほんとにすごいことをしたんだね」

「えへへ…………。でも、あいつは生きてる。だから、またニクスを狙ってくる。次会った時は絶対に殺す。だから、ニクスの傍にいさせて……」

 ルパは僕にしがみ付いてきた。彼女にとって死ぬことよりも僕と離れ離れになる方が怖いらしい。

「ルパ、あの青年を殺さなくてもいい。本当は殺したくないはずだ。僕はもうルパに無理強いをしない。離れてなんて言わない。ルパにとって辛い日々かもしれないけど、良いの?」

「うん……。ニクスと離れ離れになる方が……、死ぬよりも何倍も怖い……。ニクスが私とはなれなきゃいけない理由があるなら、その理由を無くせばいいって思った」

 僕は力が抜けているルパを立ち上がらせ、ミアと共に昼食に向かった。

「はぐはぐはぐはぐはぐっ! うまっ! うまっ!」

 ルパは肉を貪り食い、勝利の美酒ならぬ、勝利の肉を味わっていた。ルパの成長をありありと感じ、二年前よりも明らかに強い。

「ルパ、一度勝ったからと言って次も勝てるとは限らない。相手は一皮も二皮も剥けて戻ってくる。出来ればもう戦わないでほしい。見ている方がヒヤヒヤして生きた心地がしなかった」

 僕は本心を口にした。

「戦わないといけないなら、戦うし、戦わなくてもいいのなら、戦わない。次はニクスが戦うの?」

 ルパは骨付き肉に噛みつき、顎の力で骨ごと食す。
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