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ビースト共和国

豪華客船での生活

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 僕はとりあえず一〇〇キログラムの重りを持ち上げる。あまりにも軽く、鍛錬になって無さそう。
 重りを追加し、八〇〇キログラムくらいにすると、器具が壊れかけた。
 器具で鍛錬をするのは少し難しいらしい。
 無限回廊(キャタピラー)が付いたその場で走ることができる機械もあり、試してみる。速度を変えると、早く回転し、ずっと走り続けないとこけてしまう。この機械はとてもいい。広い空や海を見ながらどれだけでも走れるのだ。ずっとずっと先を見続けてただ走る。体の脂肪が落とされて筋肉がほどよく緊張し、動きやすい体になっていく。僕たちは永遠に走り続けられる器具に乗り、夕食までの五時間駆けた。

「ふぅー、いい汗を掻いた。プルス、汗を燃やしてくれる」

「了解です」

 プルスは僕の体に火を噴き、汗を燃やした。水分補給をした後、筋肉が育ちやすくなると言う大豆製の飲み物を購入し、飲む。疲労した筋肉に沁み渡るようで、とても美味しかった。

 ルパとミアも同じように飲み、鍛錬後の柔軟を行う。

「んんんんんんっ! ああああっ! に、ニクスさん、駄目、だめぇっ!」

 ミアは回りの者が振り向くくらいいたいけな声を出し、痛がった。

「大丈夫、大丈夫。ミアの筋肉はしっかりと解せば、もっと動きやすくなるはずだ。今、痛いかもしれないけど、痛みが出るくらいまで引かないと効果が無いんだ」

「はぁ、はぁ、はぁ。き、キス、してください……。痛いの、我慢しますから……」

「何でそうなるの……。はあ、仕方ないな」

 僕がミアとキスしようとすると、ルパが怒り、ミアの腰を押しながら床に胸を付かせる。

「ぎゃわああああああああああああああっ!」

 ミアの股関節に激痛が走ったらしく、切れていないか心配になったが、問題なさそうだ。

「うう……。痛かったです……」

「よく頑張ったね。少しずつ柔らかくしていこう」

 僕達は服装を着替え、食事処に移動する。多くの料理屋があり、どこのお店も超高級。僕たちじゃ入りにくくて仕方がないお店ばかりだった。でも、人が騒いでいるわけではないので、ルパやミアにとっては落ち着ける空間だった。

 高級な肉料理を振舞ってもらえるようでお願いする。
 葡萄酒が出され、僕とミアは飲酒、ルパはぶどうジュースを飲む。少しすると、大きめの白い皿に、小さな肉の塊が乗っている料理が出て来た。長々しい料理名のため、覚えられず、美味しそうな肉と言うことだけはわかった。あとは量が限りなく少ない。

「うう……。一口で終わっちゃう……」

「きっと大量に食べるのは品が無いって思われるんだろうね。この一瞬の美味しさを感じてほしいんだよ」

「にしても小さすぎます……」

 僕たちはフォークを持って肉に差し込み、口に運ぶ。ものすごく美味しい肉だった。泣きたくなるような美味しさで、身が震えた。もっと食べたいと思う心が本当に美味しい料理だと言わんばかりに口内から消えていく。

「終わっちゃった……」

 ルパとミアは俯き、さらに肉を欲した。その後、何個か肉が運ばれてきたが、彼女らは舌よりもお腹を満たしたいのだ。高級料理はお腹に溜まらず、不完全燃焼。もっと多くの料理が食べられるバイキング料理店に入り、ようやくルパとミアの心が満たされた。

 部屋に戻り、お風呂に入る。汗を掻いた体を綺麗にした後、眠る準備をする。歯を磨き、トイレを済ませたら二名の髪をブラッシングしてベッドに倒れ込んだ。

「はぁー、今日は疲れたー」

 ルパは僕に抱き着きながら言う。

「ううー、ニクスさん。頭がぽっぽしますー」

 ミアは酔っぱらいながら僕の体に抱き着き、言った。ベッドは広いのに、なぜこんなにもくっ付いてくるのだろうか。あまりくっ付かれると、少し暑苦しいんだよな。

 僕は二名を抱きしめながら静かに目を閉じ、眠りに落ちる。

 次の日、豪華客船の中で舞台を見て、鍛錬を行い、食事して眠る。その次の日、豪華客船内で映画鑑賞。その後、鍛錬をして食事……。三日、四日してくると……。

「ううん……。すごくいい所なんだけど、飽きちゃった」

 ルパはベッドの上で寝そべり尻尾を振りながら呟いた。

「まあ、良い所でもずっといたら飽きるよ。もうすぐ補給所の街に着くから、地上に出るのも悪くない。観光してもう一回、船に乗れば気持ちが変わるはずだよ」

「それもそうかー。はー、ビースト共和国に早くつかないかな」

 ルパは脚を動かしながら顔を枕に埋め、お尻を振る。

「ニクスさん、そんなところ、触っちゃらめです……。むにゃむにゃ……」

 ミアは寝言を呟き、ベッドの上を転がる。

 現在の時刻は午前八時。僕は早くから起きて石を磨き、集中力を高めていた。プルスは僕の頭の上で、寝ている。

「ニクス、ミアを待っていたら時間がどんどん過ぎちゃうよ。私達だけでも鍛錬しよう」

「んー、そうだね。ミアには悪いけど、ずっと待っているわけにもいかないし、鍛錬を先に始めようか」

「うんっ!」

 ルパは大きな声で返事をした。寝間着から、全裸になり、水着を着る。上から日焼け防止用の上着を羽織る。

 僕は外で鍛錬をしていると言うことをミアに知らせるために置手紙と合鍵を残し、部屋から出た。扉の鍵を閉め、プールに向かう。

「ふふん、ふふん、ニクスとプール、ニクスとプール」

 ルパは尻尾を振り、機嫌がよかった。

「ルパ、最近は機嫌が良いね。昔は機嫌がずっと悪かったのに」

「べ、別にニクスと一緒にいるのが嬉しいとかじゃないから。勘違いしないでよね」

 ルパは頬を赤らめながら僕に言った。そんなこと、僕は一言も言っていないのに……。

「そうですかー。ま、ルパがそう言うならそうなのかもね」

 僕はルパの肩を抱き寄せ、頬擦りをする。そのまま耳もとに口を持っていき、呟く。

「ルパ、大好きだよ」

 ルパは尻尾を真っ直ぐ伸ばし、驚いた。そのまま、僕の体をぽこすかと殴ってくる。痛みはない。弱弱しい一撃で、どれだけ食らっても効果はなかった。

「わ、私も……嫌い。大っ嫌い」

 ルパは口をもごもごさせたあと、視線を背けながら話す。

「はは……、なら、仕方ないね」

 僕はルパの肩から手を放した。僕が手を差しだすと、握ってくれるので、振れたくないほど嫌いと言う訳ではないようだ。
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