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ビースト共和国

ミアの実家に向かう

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「旅行と言ってもどこがいいかな。んー、ミアの実家があるビースト共和国に行こうか」

「ビースト共和国に行っても楽しめる場所なんてありますかね……」

 ミアは苦笑いを浮かべながら呟いた。

「実は前々から行く予定はしていたんだよ。ビースト共和国の冊子も買ってあるんだ」

 僕は引き出しからビースト共和国の観光地が書かれている冊子を取り出し、ミアに見せる。

「太古の文明遺跡、マチェピチュ。遺跡の玄関口の街、グズゴ。巨大な川と森、豊富な動植物が存在するアメゾン。日が沈むニユリ塩湖。森を飲み込むスアグイの滝……。まだまだありますね……。結構沢山の観光地があったなんて知りませんでした」

「ビースト共和国に人族が行くかは別として、普通に観光できる場所もあるし、自然が沢山あるところだから、楽しいいんじゃないかな。あと、ミアの両親や兄弟たちがいれば挨拶しに行こうよ」

「私の家族にですか……。私のこと、覚えていますかね……」

「覚えているに決まってるでしょ。七歳まで一緒にいたんだ。忘れているわけないよ」

「うう……。もう、九年は会っていません。こんなに会っていないと会うのも怖くて……」

「家族がいるなら、会った方が良い。もう、二度と会えなくなるかもしれない。そうなったら後悔する」

 ルパはミアに助言した。あまりにも心臓に突き刺さる。

「うう……。ルパちゃんが言うと、説得力が違うよ」

「じゃあ、決まりだね。二人共、旅の準備をして明日には出発しよう」

「わかったー」

 ルパは両手を上げ、返事をする。

「了解です」

 ミアは大きく頷き、理解した。

 僕とルパ、ミアは六月に入ったころから、旅に行くことになった。去年、大地震に見舞われたブレーブ街から船に乗って四〇日懸けてビースト共和国まで行くか、プルウィウス街から飛行船に乗って一〇日ほどかけて行くか。二名に選ばせる。

「うう……。飛行船に一〇日も乗らないといけないの辛すぎるよ……」

「でもでも、船で四〇日は長すぎるでしょ。飛行船よりも船の方が酔いやすいし、良い気がしない……」

「豪華客船に乗れば、移動もそこまで辛くはないと思うけど、結構時間がかかるね」

「豪華客船……?」

 ルパとミアは首を傾げた。

「そう。もう、一つの街の楽しい所が全て詰まっているような船だよ。四〇日でも、凄く楽しめるかも。なんなら、旅行しなくてもいいぐらい」

 ルパとミアは顔を見合わせ、頷いた。

「船にする!」

「私も凄い船に乗ってみたいです!」

「わかった。今回は結構な長旅になるのかな……。でも、ルパの誕生日が船の上で迎えるかもね」

「ううー、それはそれで思い出に残るから良い。ただ、船の上で動けるのかっていうのが一番問題」

「きっと運動施設もあるから、体を動かすだけなら、問題ないと思うよ」

「ほんと! なら、早く行きたい、乗りたい!」

 ルパは大きく飛び跳ねた。元気があり余っている。

「まあまあ。まずは券を買わないといけない。多分、もの凄い額が必要だから、虹硬貨を使うかも」

「あ、あの……。お金はあんまり使わなくても……」

「た、確かに……。ニクスがお金を使うとか、いくらでも出しそう……」

「僕の記憶が正しければ、一部屋金貨六〇〇枚だった気がする。でも、四〇日乗るわけだし、一泊の値段は金貨一五枚くらいだよ。一人金貨五枚だ。旅行は楽しむものだし、辛い思いをしてまでお金を渋る必要もない。この前、飛行船に乗った時、ルパとミアが辛そうだったし、そんな思いはさせたくないんだ」

「私達のためにお金を使ってくれるの?」

 ルパはぽつりとつぶやいた。

「うん。ルパとミアが楽しく旅行してくれるのなら僕はお金をいくらでも出す」

「うう……。ニクスさん、凄い男気……」

 ミアは手を目の下に当て、微笑みながら泣く。

「これまでに沢山手伝ってもらったし、これからも二人には家を作るために手伝ってもらわないといけないからね」

「うわーんっ!」

 ルパとミアは抱き合いながら泣いた。うれし泣きと言うよりかは旅行後に待っている家づくりの方が嫌なのだろう。

 僕達は旅行の準備を開始する。ボンサックに数日分の内着を入れ、虹硬貨八枚……はもっていきすぎか。とりあえず、一人一枚の虹硬貨を持って行く。僕の場合はもう終わりだ。ルパとミアは少し選びながら下着をボンサックに入れ、明日の出発の準備を終える。

 今日は早めに寝て明日、炎の翼でブレーブ街まで飛んで行く予定だ。

「ああ……。大丈夫かな。私のこと覚えているかな……」

 ミアは布団の中でぼそぼそと呟き、寝にくそうにしていた。ルパはすっかり眠り、心地よさそうだ。

「大丈夫。ミアのお父さんとお母さんはミアに会いたがっているに決まってるさ」

「でも、もう死んじゃってたら……。皆、奴隷になってたら……」

 ミアは家族思いなので、とても心配していた。ほんと優しい子だ。

「亡くなっていたら拝めばいい。奴隷になっていたら助け出せばいい。未来のことは今は考えず、旅行のことだけを考えよう。何かあってもその時にならないとわからない。今、辛い思いをしていたらもったいないよ」

「は、はい……。でも、どうしても頭の中で怖い未来が浮かんで……しまうんです。だから……。んんっ」

 僕はミアにお願いされる前にキスをした。これなら恐怖を感じる前に今を得るはずだ。

「ぷはっ……。はぁ、はぁ、はぁ……。足りません」

「ミア、がっつきすぎると明日に響くよ……」

「ニクスさんからして来たんですからね。いつも優しく接してくれるニクスさんが悪いんですから」

 ミアは僕にがっつき、一時間は口づけをして安心したのか、眠りについた。僕も疲れたので眠る。

 六月六日の朝。梅雨真っ盛りで、大雨。炎の翼は雨の中でも使えるが、魔力が一定数必要らしい。僕とルパ、ミアは雨具を着て、外に出た。もう、あまりにも暴風雨なので、いち早く豪雨地帯を抜けたい。
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