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仲間が増えた生活

久しぶりの泉

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 火山の近くにある泉に到着し、プルスに泉の周りを燃やしてもらって魔物の侵入を拒み、明かりの代わりにする。

「はわわ~、すごい、広い場所ですね。これ、全部お湯なんですか?」

 ミアは満面の笑みを浮かべ、僕に訊いてくる。

「そうだよ。これは全部お湯なんだ。だから、とても心地いいんだよ」

「は、早く入りたいです!」

 ミアは眼を輝かせながら言う。

 僕は微笑み、服を脱いで全裸で入った。ミアは体に大きな布を撒き、裸体を見せないようにしてからお湯に入る。ルパはすっぽんぽんで飛び込んだ。プルスは小さな翼をばたつかせ、通常では飛べないのに無理をする。そのまま水面に着水し、アヒルのように浮いていた。

「はぁ~」

 僕たちは同じ瞬間に息を深く吐き、お湯に肩までつかる。長い間、この場所のお湯につかっていなかったが、骨身に沁み込んでくるような心地よさがあった。

「どお、ミア」

「さ、最高です……。こんなに心地いいお湯に初めて浸かりました……」

「でしょでしょ、やっぱりここはすごいんだよ」

 ミアが蕩けた表情で呟くと、ルパがミアに寄り、抱き着く。

「ほぼ毎日使い放題、入り放題。雨の日、雪の日、どんな時でも入れる。最高の場所だよ」

「ほんとですね……。あぁ……、毎日来たくなる気持ちがわかりました……」

 ミアは心地よすぎて体を撒いている布を取ってしまった。全身でお湯の心地よさを感じたくなったのだろう。僕は視線を反らしてミアの裸体を見ないようにする。
 ミアの心地よい時間を邪魔しないために必要な配慮だ。僕がミアに背を向けていると、ルパが背後から抱き着いてきた。抱き着き癖が出てしまったのか、僕は遠くに投げ飛ばす。

「もう、何で投げるの。せっかくおっぱいの柔らかさを堪能させてあげようと思ったのに」

「ルパがそんなことするわけないでしょ。抱き着く癖は夜だけだって言ったでしょ」

「むぅ~。なら、夜にいっぱい抱き着いちゃうんだからね」

「ほどほどにね。今日からは家に、ミアもいるんだから」

「はぁ~い」

 ルパは気の抜けた返事をして仰向けになりながら泉に浮いている。前部分が全部見えてしまっているのに気にしていないのだろうか。来年で成人だと言うのに、大人のおの字もない雰囲気で、体だけが成長している。少し意識しただけで下半身が反応してしまうので、即座に無心になり、気持ちを整える。

 体をしっかりと暖めたら、お湯から出てプルスに体を乾かしてもらえば、水分が一瞬で乾き、潤った肌に変わる。

 夕食は久しぶりの角ウサギの肉だ。ルパの大好物で、今にも食べたくてうずうずしている。
 四羽狩り、角と皮を取った後、三羽は内臓を取り、もう一羽はそのままプルスにあげた。

 プルスは火を吐き、角ウサギを炭にしてから、つつくようにして食べた。僕とルパ、ミアの分の肉は焚火の炎を使って遠火でしっかりと焼いていく。焼き上がったら、三人で食した。
 ほろほろと柔らかい肉、取り立てで臭みがない。新鮮がよく、とても美味しかった。ルパがお替りしてしまうほどの美味しさで、僕の品を分けてあげる。食事を終え、僕たちは歯を磨き、木の家に入る。カンデラに火を灯し、家の中を明るくした。

「ここがニクスさんとルパちゃんのお家ですか。素敵な場所です。私、ここで住めるんですか?」

 ミアは案外気に入ってくれた。部屋の中をクルクルと回り、尻尾を振っている。

「もちろん。今日からミアもここで暮らしてもらう。トイレがないから外でしてもらうしかないけど、許して。トイレをした後は水と石鹸で手を洗って衛生面に気を使ってほしい」

「は、はい。わかりました」

 ミアは大きくうなずき、理解してくれた。

「じゃあ、久しぶりに勉強しようか」

「うわ~い、勉強だ~!」

 ルパは大きく万歳し、尻尾を振る。ほんと、勉強が好きなんて珍しい。ミアの方は苦笑いを浮かべながら少したじろいでいる。ミアはルークス語と計算が一通りできるため、ルパと同じ勉強をさせても問題ないはずだ。ルークス語以外の言語を勉強したり、少し難しい数学の問題を解いたり、道徳の勉強をしたりと、夜の静かな時間を使って二名に教育を施す。

「すぴぃ……、すぴぃ……」

「むにゃむにゃ……、むにゃむにゃ……」

 ルパとミアは勉強と疲れからか、眠ってしまった。僕は二名を干し草の敷かれた床に寝かし、羽毛布団をかぶせる。その中にプルスを入れ、暖かくした。

 僕は回りの見回りをして魔物が増えていないか調べる。二カ月間も放置していたのだ。何かしら、魔物が増えていてもおかしくない。剣を新調し、予備として持っておく。今使っている剣が折れた時ようだ。

 ひとりで森に入るのも久しぶりだ。慣れているので、恐怖はないが、体は震える。すでに冬が近いので、魔物や動物の数が少なかった。
 森と荒野、家周りに魔物はおらず、ほっと一息つく。焚火を作って久しぶりに夜更かししようと思い、綺麗な石を削り、磨いていく。
 僕の作った品を受け取って物凄く嬉しそうにしていたマリアさんの顔が忘れられず、誰かに品を送って感謝されると言う快感がたまらないと再度知った。別に誰かにあげるために作っているわけではないが、ふとした瞬間に渡せるよう、作っておいても悪くない。
 僕は石を削っている時間が好きなのだ。出来上がった品はどうなっても構わない。

 石を夢中で削っているといつの間にか東の方から日が昇って来た。少し疲れたので、地面に寝ころび、眼を瞑る。数分眠って目を覚ますつもりだった。だが、思ったよりも長く眠ってしまい、午前七時ごろ、何かしら心地よい感覚を得ながら目を開けると、ミアが目の前におり、口づけして来ていた。何なら、大人の口づけだ。

「ちょ、ミア。なにしてるの」

「あ、おはようございます、ニクスさん。朝は主様をキスで起こすと言うのが性奴隷の仕事の一つでして、駄目でしたか?」

 ミアは泣きそうな顔で呟いた。仕事を褒められず、怒られそうだからだろうか。
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