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新年になり、心が入れ替わる。暖かくなったら、旅に行こう。

何でもうまく行くとは限らない

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「さ、さすがにこの状態では戦えない……。こ、降参だ……」

 リリルさんは顔を赤面させながら呟いた。

「うわぁ~い、やった~!」

 ミートさんはぴょんぴょんと飛び跳ねると、千切れかかっていたショートパンツが千切れ、白いパンティーの紐も外れていたのか、大切な部分が見えそうになる。

 ミートさんもすぐさましゃがみ、両者共に恥ずかしい失態を受けてしまった。

 だが、会場の方は大盛り上がりで、負けたリリルさん側も、リリルさんのあられもない姿を見てお金を払った価値が生まれた! なんたらこうたらと叫んでいた。まぁ、僕としてはミートさんが勝ってくれたおかげで金貨一枚が二倍になった。

「ルパ、二人の試合を見てどうだった?」

「お、面白かった……。手の中がグチャグチャになってる……」

 ルパは自分の手汗に気付き、驚いていた。とんでもなく手に汗握っていたようだ。

「え、え~っと。ただいまの試合はリリルさんの降参によって、ミートさんが勝利しました。両者共に温かい拍手をお願いします!」

『パチパチパチパチパチ!』

 拍手は長い間鳴り響いていた。少々恥ずかしそうにしていた二人はステージ上から降り、控室へと歩いていく。

「ニクス、ニクス。あんなにシュンシュン動いて、なんで簡単に剣が触れるんだろう。なんか、私の戦いの中に組み込めそうな動きがいっぱいあった。もう一回見たい!」

「今の試合をもう一回見るなんて出来ないよ。頭の中でしっかりと覚えて、理想と近づけるように体を動かす。でも、ルパはすごく強い二人の動きを見て色々学べた。いい経験だったよね」

「もう一回見たかったな……。私の戦い方が増えれば、ニクスをもっと翻弄して勝利に近づけるのに……」

「ま、何度も練習あるのみだよ。ところで、ルパはどっちを選んだの?」

「ミートの方を選んだ。リリルって人は胸が大きすぎたから小さい方にしたの」

「そ、そうなんだ。じゃあ、僕と同じだね。僕もミートさんの方にお金をかけてたよ」

「に、ニクス。胸が大きい方が嫌で小さい方がいいの……」

「え? そういう意味で選んだじゃないよ。僕がミートさんを選んだのは始めの方に人気が無かったからさ。入れて置いたら当たったんだ」

「ふぅ~ん。じゃあ、同じ倍率だったらどうしてたの?」

「リリルさんの方に入れてたかもね……」

「やっぱりおっぱいが大きい方がいいんだ! このド変態!」

 ルパの声はリリルさんを選んだ男性全員をビクッと跳ねさせ、しゅんとさせる。
 良く通る声だなと思い、僕は苦笑いで返す。
 どうやらルパは自分の胸を気にしているらしい。自分で自分の胸に手を当てて落ち込んでいる。
 気にしなくていいよと言ってあげたいが、どうせまた怒るとわかっているので声はかけずに立ち上がり、換金をしてもらいに受付へと向かった。

「すみません。勝ったので投票権を換金してもらえますか?」

「わかりました。では、投票権を提示してください」

 僕はルパから受け取った汗でグニャグニャになってしまった投票権と自分の持っていた投票権を受付に渡す。

 すると、金貨四枚になって帰ってきた。

 初めてで勝てるなんて運がいい。入場料としてお金を払い、ジュースと熱い戦いを見て、金貨が増えて戻って来るなんて最高の娯楽だ。
 初めから金貨一枚はなくなると思っていたので、もっと気分が良くなってしまう。僕は駄目だ駄目だと頭を振り、この楽しかったという気持ちは戦いが楽しかっただけであってお金を貰えてうれしいからではない。

 僕とルパは闘技場を出た。どうやら、冒険者と騎士の戦いの後にも魔物と戦う闘士たちだとか、劇団とか、演奏会が開かれるらしく、盛上るらしい。
 でも、ルパがそろそろ限界らしく、いち早く闘技場を後にした。
 ルパの健康が第一だ。僕達は公園に戻り、ルパの気持ちが落ち着くまで待つ。
 人が周りに大量にいたせいで心が廃れていた。戦いを見終わったあとの良い気持ちと人に紛れて楽しんでいた自分の不甲斐なさが織り交ざった感情だと言う。

 ルパは僕の体に抱き着き。少々遅い昼寝をした。僕はルパの背中をさすり、心地良く眠れるように静かにしている。

 公園に設置されている時計を見ると午後四時を過ぎた。三○分程公園にいるらしい。僕もルパを抱いているとうつらうつらしてきた。
 ルパと抱き合う時はいつも眠る時と体が覚えているせいか、眠気がすごい。
 だが、こんなところで眠ってはいけないと思い。プルスに寝そうになったら頭を突いてとお願いしておいた結果、何度も何度も突かれ、頭から血が出てきた。
 もう、潔く寝てやろうかと思ったら、ルパが仮眠から起き、寝ぼけているのか、僕の頬に頬をこすりつけ、甘えてくる。一から二分ほど経つと、ルパは正気を取り戻し、ばっとはなれる。小声で感謝された後、僕はぐぐ~っと伸びて体を解す。

 辺りは春祭りとか言う催しで屋台が建てられていき、公園にも人が集まりだした。

「ルパ、人込みの少ない所に行こうか」

「うん。ニクス、私、お腹空いた。何か食べたい」

「まだ午後四時三〇分だよ。さすがに早すぎる。もう少し動いて街を見た後ね」

「ぶぅ……。お腹空いたのにぃ……」

 ルパは頬を膨らませ、呟いた。

「ルパ、何でもかんでもうまくいくと思ったら大間違いだよ。ルパが僕にいつも負けるように、思い通りに行かない時の方が断然多い。不貞腐れても仕方ないんだよ」

「わかってるよ。ニクスが食べ物を買ってくれないなら、自分で買うもん」

 ルパは先ほど勝った金貨二枚で何か買うらしい。まぁ、一枚は僕があげた金貨だが、ルパにあげてもいいか。ルパは金貨二枚で何を買うのだろうか。

 ルパは鼻を鳴らし、美味しそうな料理を出している屋台を回る。大量にある屋台に目もくれず、やってきたのは焼き菓子の売っている屋台だった。

「ん? どうしたんだい、嬢ちゃん。ベビーカステラが欲しいのかい?」

 ルパは屋台のおじさんに話かけられ、体を少々震わせるものの、頭を縦に動かした。

「分かった。じゃあ、銅貨五枚だ」

「ど、銅貨五枚……。安い……。一〇袋くだ……」

「二袋でお願いします」

「はいよ。二袋ね。銀貨一枚だ」

 ルパが大量買いするところだったので僕がすかさず割って入り、夕食前にカステラでお腹を膨らまされては困る。

 ルパはぷく~っと頬を膨らませ、怒っていた。

 僕はごめんの意味を込めて頭を撫でた後、自分のお金で銀貨一枚をおじさんに手渡した。
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