上 下
96 / 392
鶏を買ったら……知り合いが増えた。

料理の食べ方

しおりを挟む
「ルパ、髪を拭くよ。頭に触るけどいいかな?」

「う、うん……」

 僕は乾いた布をルパの頭に被せる。耳に注意して拭いていく。

「よし。じゃあ、次は尻尾を拭いていくからね。少しくすぐったいかもしれないけど、許してよ」

「わかったから、さっさと拭いて……」

 僕はルパの尻尾に触れ、布で拭いていく。

「これでいいかな。プルス、この布の水気を切ってくれる?」

「了解です」

 プルスは湿った布に炎を吐くと水分が一瞬で蒸発してしまった。水気がなくなり、乾燥し布に戻る。この布を使ってルパの体を拭いていく。背中は僕が拭き、前側はルパが自分で拭いた。同じ要領で汗まみれだった服も水で洗った後、プルスの火で瞬間に乾燥させて再度着れるようにした。僕は初めから火を体に吹きかけてもらい、水分を蒸発させる。

「それじゃあ、家に戻ろうか。って、ルパ、服を早く着ないと風邪ひいちゃうよ。ただでさえ今の季節は冷えやすいんだから、なるべく体を冷やさないようにしないと、風邪をすぐにひいちゃうよ」

「でも、ニクスが体綺麗って言うから……。もうちょっとくらい見せてあげてもいいかなって思ったんだけど……」

「すっごく嬉しいけど、今は僕の方よりも自分の方を大切にしてよ。風邪を引いたら辛いよ」

「それもそうか……」

 ルパは下着と服を着た。立ち上がって歩こうとするが、すぐに転ぶ。どうやら、脚を上げる力すら残っていなかったらしい。それなのに、川に飛び込むなんて何を考えていたんだか……。

 僕はルパを背負い、家の前にある焚火場におろす。

「じゃあ、僕は夕食を取ってくるから、ルパは火起こしをお願い。病み上がりだからそこまで沢山食べなくてもいいよね」

「五羽くらいでいい」

「わかった」

 僕は草原で角ウサギを七羽狩り、焚火場にまで戻ってきた。

 焚火はまだできていなかった。理由として薪が無かったからである。

 ルパが動けないのに薪を置いておくのを忘れていた。ルパは頑張って動こうとしたという意思を僕に主張していたので、本当なのだろう。僕はすぐに薪を取りに行き、ルパに手渡す。すると、ほんの数分で焚火が完成した。真っ赤な炎が暗くなり始めた空間を彩る。

「プルスは丸まる一羽、僕も一羽、ルパは五羽」

 僕はプルスの前に角ウサギを置き、僕とルパの分は革を剥いで焼いて行った。プルスは食事を始めたが、僕達は焼き上がるまでの時間、石の加工を行っていた。

「ニクス、こんな感じでいいの?」

 ルパは宝石の綺麗な部分だけを残して綺麗に岩を落としていた。

「うん、それでいいよ」

「今、ニクスは何をしているの? 私とは違うことしているよね?」

「僕は宝石の綺麗な部分以外を削り取っているんだ」

「綺麗じゃない部分ってどこ? あんまりわからないんだけど……」

「ほら、例えばこことか。あと、ここにもある。なんか宝石の中に小さな気泡があるでしょ。これがあると綺麗に輝かないんだ。無駄に光が反射して濁っちゃうから、削り取っていくんだよ」

「でも、そうしたら綺麗な部分が少なくなるよ。なんか、もったいない」

「確かにそうだけど、石の中に気泡があると割れやすくなるし、綺麗に見えない。たとえ大きな宝石だとしても気泡だらけだと誰も買おうとしない。逆に小さくても気泡が一切なく、綺麗な宝石なら、いくらでも買い手が見つかるんだよ。大雑把より洗礼されている方が皆欲しがるんだ」

「なるほど……」

 ルパは理解してくれたのか、原石の岩を割っていく。僕は宝石を削っていく。二人して長時間できる作業をしていると、プルスが僕に話しかけてきた。

「主、角ウサギの肉が焼けましたよ。二人とも作業に集中していたので私が綺麗に焼き上げておきました」

「え、ああ。ありがとう。すっかり忘れていたよ。ルパ、もう角ウサギの肉が焼けたみたいだ。早く食べないと焦げちゃうよ」

「え……。あ、本当だ。早く食べないと」

「でも、ルパ。あまり早く食べすぎると喉を詰まらせるからよく噛んで食べるんだよ」

「そんなこと言われなくても子供じゃないんだからわかる。私はそこまで間抜けじゃない」

 ルパは角ウサギの肉を手に取り、食べ始めた。モグモグと口を動かして頬を膨らませリスのようになっている。狼には頬袋がないと思うのだが……、彼女の食い意地によって頬が膨らんでいた。

「ルパ、口の中に入れ過ぎると喉を詰まらせるよ。少しずつ食べないと……」

 ルパはもごもごと何かを喋っているが、口に多くの肉が入っているため聞き取れない。

「ルパ、喋る時は口の中身を全部食べきってから放さないと行儀が悪いよ」

 口の中を一杯にしているルパは全て飲み込んだあと、大きな声を出して言う。

「もう! いちいちうるさい! 食べ方くらい好きにさせてよ!」

「でもルパ、人の前で汚らしい食べ方をしたら見っともないって思われるよ。僕はルパを可愛いなと思うけど、他の人が同じように思うかはわからない。ルパは人族と共存していかないといけないんだから、料理を食べる時も気を配っておこうよ」

「うぅ……。ガツガツ食べたら駄目だっていうの?」

「冒険者さん達の前ならいいかもしれないけど、お店の中とか他のお客さんがいる場合は避けた方がいいんじゃないかな。食べ方は家柄や人柄が出るから、綺麗にしておくことに間違いはないよ」

「口いっぱいに入れて一気に食べるの好きなのに……」

「食べる量は変わらないから、食べ方だけを変えてみようよ。角ウサギの脚を食べてから次の部位を持つ。口の中に詰め込むんじゃなくて部位ごとの味や触感を楽しんで食べてみたらいいんじゃないかな。一気に満腹になるわけじゃないけど、食べる量が同じなら、お腹も膨れるし、少しずつ食べれば行儀よく見える。ね、やってみようよ」

「うぅ……。わかった……。じゃあ、ニクスが食べさせて……」

「誰かに食べさせてもらうのは凄く子供っぽいけどいいの?」

「一口の配分がわからないから、教えて」

「そういうことなら、いいか。じゃあ、まずはこれから」

 僕は角ウサギの脚をルパの口に持っていく。ルパは角ウサギの肉を美味しそうに噛み、飲み込む。口の中がなくなったら、背中、また食べ終わったらお腹と言った感じでルパに部位ごとのお肉を渡していった。

 ルパはおとなしく僕のいうことを聞き、肉をモグモグと食べている。今のところ不満は零していない。

 僕は角ウサギをルパに一羽食べさせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...