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鶏を買ったら……知り合いが増えた。

鶏と共に受け取った大きな袋

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「お、兄ちゃん。鶏に興味があるのかい?」

 露店で鶏を売っていたおじさんが話しかけてきた。

「え、あ、はい……。ちょっと」

「そうかい。雌一羽で金貨一〇枚。雄は一羽で金貨五枚だ」

「え! 鶏の雌が金貨一〇枚ですか!」

――ちょっと待って。フェニクス島で買った時は金貨一枚だったのに、一〇倍って高すぎるでしょ。どうしようプルス、買わない方がいいかな。と言うか、場所でこんなに値段が違うの?

「確かに場所によっては値段が変わって来るでしょうね。辺境の地ならこの値段が妥当なのかもしれません。ですが、この状況は先ほどできなかった交渉の練習ですよ。強気に思いを言ってみましょう」

 プルスは僕の頭を翼でバシバシと叩いてきた。

――そ、そうか。高いと思ったら交渉すればいいのか。でも、額に傷のある怖いおじさんに威圧されたら僕はたじろいじゃうんだけど。

「だとしても交渉は経験しておくべきですよ。お金は命みたく無限ではないんですから。少しでも安く物を買った方がこれかの生活が楽になります」

――プルスにしか言えない言葉だね……。普通、命は一つしかないんだってば。でも、安く買えるなら買えるに越したことはない。

「ちょ、ちょっと高すぎませんかね」

 僕は怖かったが、おじさんに値段交渉を持ちかける。

「あ~、そう言われてもな~。ここまでこいつらを運んでくるの結構大変なんだよ。輸送費の元を取るためにはこれくらい掛かっちまう」

「そ、そう……なんですか」

――だ、ダメだ。ここで引きさがったら、この値段で買ってしまうはめになる。もう少し安く買うためには、えっと……。

「あの、今、僕は金貨を四六枚持っているんです。鶏の雌を出来るだけたくさん買いたいんですけど、このままだと四羽しか買えません。金貨六枚余ってしまうので四六枚で鶏の雌を五羽売ってもらえませんかね」

「ん~~」

「いいですね主、相手がちゃんと悩んでますよ。割引額は少ないですが交渉成立すれば、金貨四枚浮きますね」

「そうだ、兄ちゃん。その額で構わないから、何も聞かずに一品もらってくれ」

「え……。逆に何かくれるんですか?」

「ああ、もらってくれるのなら、金貨四六枚で雌の鶏が五羽で構わない」

「えぇ……」

――ど、どうしよう。何かくれるなんて普通おかしいよね。何か嫌な物でも渡してくるのかな。

「どうでしょう。ですが、相手の顔からするに手放しておきたい物のようですね。いらなければ燃やせばいいですし、構わないのではないでしょうか。逆にもっと吹っ掛けてもいいかもしれませんよ」

――そうだね。相手も手放したい物がどれだけ手放したいかによるけど、相手も条件を付けたしてきたのなら、四六枚よりも価値があると言っているようなものだ。

「わ、わかりました。でも、それなら雄の鶏も一羽着けてください」

「く~~!」
 
 露店のおじさんは額に手を置き、悩んでいた。それほど手放したい品があるのか。

 きっと僕の話を飲むのなら金貨九枚より、手放した方が価値のある品なのだろう。雌の鶏を一羽逃がすようなものだ。いったいどれだけ厄介な品なのだろうか。

「わかった。その条件を飲もう。だが、返品はお断りだぜ」

 おじさんは少しにやけて前髪をかき上げた。

「ぴ、ぴよ……。やられました。どうやら相手の勝ちみたいです」

――え……。プルスは表情を見ただけで勝ち負けが分かるの?

「このおじさんは勝負師の顔をしていました。こういった顔はもう何一〇○回と見てきました。どうやら私達は、おじさんの上を行く価値を得られなかったようです」

――そうなんだ。でも、品の価値は皆それぞれ違うからさ。おじさんにとってはいらない品かもしれないけど。僕にとってはとても必要な品になるかもしれないし。

「それもそうですけど……」

「それじゃあ、ちょっと待っていてくれ。捨てる準備を丁度していたところだったんだ。いや~、引き取り手が見つかってよかったぜ」

 おじさんは露店から離れていき、道の端に置いてあった大きな馬車に走って行く。

 おじさんは人一人が入りそうな鉄檻を持って戻ってきた。鉄檻の中には大きめの麻袋があり、すでになにかが入っていた。

「こ、これは?」

「それは聞かない約束だろ。とりあえず受け取ってくれ。あと、雌の鶏五羽に雄一羽だな」

 おじさんは鶏の入っている鉄檻の蓋を開け、中くらいの鉄檻に僕が買った鶏を六羽を入れた。

「これで金貨四六枚だ」

「は、はい」

 僕はふところから金貨の入った袋を手渡す。

 おじさんは金貨の入った袋を受け取り、中身を確認する。

「確かに入っているな。んじゃ、交渉成立だ」

 おじさんは自身の露店を片付け、馬車に他の品を持っていく。何か急いでいる様子だったが何か用事でもあるのだろうか。

「もういなくなっちゃった……。いったい何だったんだろう」

「そうですね。ですが、動物を買うという主の目的は達成されました」

「うん。じゃあ、僕達も帰ろうか。それにしても、この麻袋の中身はいったい何なんだろう」

「家に戻ってから調べた方が周りの視線が気になりませんよ」

「え?」

 プルスに言われ顔を上げると、街の人たちが僕の方をなぜか見ていた。

――うわ、いっぱいみられてる。何でなんだ。

「さぁ、でも、居心地は悪いですね。早く撤退しましょう」

 僕は鶏の入った鉄檻と大きな麻袋の入った鉄檻を持ち上げ、街の入り口まで走った。

「お、もう帰るのか?」

 僕はこの街に来て最初に出会った傭兵のおじさんに話しかけられる。

「はい。目的は達成できたので満足です」

「そうか。だが、もうすぐ暗くなるのにこの時間から街の外に出ても大丈夫なのか?」

「はい。帰りも空を飛んでいくので問題ないと思います」

「飛んでいくからと言って油断はするなよ。空にも何があるかわからないからな」

「もちろんですよ。常に最悪な結果を想定しておきます。では、さようなら」

 僕はおじさんに別れを告げて街を出た。そのあと荒野を二から三キロメートルほど歩き、周りに誰もいないか確認する。

「誰もいないな。プルス『炎の翼』」

「了解です」

 プルスは僕の背中に移動する。

 僕は背中に魔力を流し炎の翼を出現させた。

「鉄檻は頑丈そうだけど大丈夫かな……。プルス、鉄檻は飛んでいる最中に壊れたりしないよね」

「心配ないと思いますよ。主がしっかりと持っていれば落としませんし、例え壊れたとしても、空中で捕まえればいいだけです」

「まぁ、そうだけど、僕は『炎の翼』で空中を小回りするのがまだ難しいよ。速度がでてたらなおさら……」

「その時は私が操作しますから、主は捕まえる方に集中すればいいですよ」

「そっか。その手があったね。よし、これで安心して空を飛べるよ」

 僕は鉄檻が落ちないように両手でしっかりと持ちながら、飛び上がる。

「うわぁ……。日が地平線に沈んでいくのが見えるよ」

「主は東方向に飛んでください。そうすれば家に帰れるはずです」

「わかった」

 僕は西日と反対方向に体を動かす。そのまま翼をはためかせて高速で飛行した。日が沈んだが僕の周りは『炎の翼』によって赤く照らされており、二○メートル先は見える。だがその先は暗く、何も見えなかった。

「プルス。暗くて先がよく見えないから、何か感知したら自動で避けてくれる」

「わかりました」

 プルスの感知は優秀で結構遠くの物も分かるらしい。ヒヨコなのに感知の能力でも持っているのだろうか。まぁ、今は僕たちの身の安全を確保する方法がそれしかないので頼るほかない。

 僕はプルスに身の安全を任せるのはどうかと思ったが僕が全て賄うよりは安全だと思い妥協する。

 買い物や移動時間が結構かかり、想定よりも日が落ちてしまったので出来るだけ早く帰りたい。そのためには速度をあげなくてはならない。怖かったが行よりも速度を上げて移動時間を短縮することにした。

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