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貧乏貴族の臆病者

経由地

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――最後の石が、僕が最初に磨き上げた石だなんて。なんか感慨深いな。どれも丹精込めて磨いた石だ。ディアさんなら大切にしてくれるはず。

 僕は握り締めていた石を開く。

 太陽の光が半透明の石の中に入り込み、乱反射する。

 僕が一番好きな削り方『ダイアモンドカット』を真似して磨いたので、素人が見たら本物のダイヤモンドに見えるかもしれない。

「な……。こ、これは宝石なのか?」

 ディアさんは眼を見開き、驚いている。

「いえ、これはただの石です。僕が川で拾った半透明の石を綺麗に磨いただけのまがい物ですよ。でも、宝石初心者のディアさんにならうってつけだと思って」

「なるほど! 確かにな! もしかして、私にくれるのか?」

「はい。ぜひ受け取ってください。再会の印ということで」

「ありがとう。大切にするよ! 王都に早速帰って、最高の鍛冶師にペンダントにしてもらわねば!」

 ディアさんは石を受け取り、お父さんへのお土産を買わずに颯爽と走り去っていった。

「な、なんか、凄い元気そうで何よりです」

 僕は全ての石を配り終わり、気兼ねなく船場に向える。

 小瓶の中に残った粉々の赤い石は昨日、父さんに言われた『誰がこんな石ころを買うんだ。バカ者め!』を忘れないよう、取っておこう。

「父さん。僕の磨いた石を受け取ってくれた人は皆、嬉しそうな顔をしてたよ。僕だって無駄な時間を過ごしてたわけじゃないみたいだ。立派に成長して、父さんを優に超えるお金持ちになって見返してやる!」

 僕はフランツの街の港にやってきた。

「フェニクス島に向うのは誰だ。いたら返事をしてくれ」

 肌が日に焼けて黒くなり、赤色の短髪がよく目立つ漁師の男性が声を張り上げていた。

「あ、はい。僕です」

「お前が、クワルツの弟か?」

「はい。今日はよろしくお願いします」

「未開拓の土地へ本当に行くのか?」

「はい、父に開拓しろと言われているので……」

 僕は苦笑いを浮かべる。

「そうか、わかった。それじゃあ、フェニクス島に早速向う。俺の船にさっさと乗ってくれ」

「分かりました」

 隣に超大きな客船がある中、僕はこじんまりした漁船に乗る。

 僕はクワルツ兄さんの知り合いである漁師の男性に船で運んでもらえるようだ。

 なぜ漁師の方がこれほどまで聞いてくるのかと言えば、この街に帰ってくるのが難しいからと言うのが理由だろう。

 今から向かうフェニクス島は経由地だ。

 フェニクス島の更に奥へ行くためにも、船で行かなければならない。そうなると、この街へは簡単に帰ってこれない。

 僕の素性を知っているからか、漁師の男性も終始不安そうな顔で、僕に『引き返そうか?』と聞いてくる。

 その度に僕は『大丈夫です』と自信満々に言い返した。いったいなんで自信に満ち溢れていたのだろうか。

 フェニクス島までは船で三日ほどかかる。

 船に揺られて一日目。

 僕は……海を見ながら吐き続けた。

「う……うぅ……、き、気持ち悪い……」

「おいおい、大丈夫か? まだ、一日も経っていないぞ。でもまぁ、最初は皆そうなるか。何とか慣れてもらわないと困るな」

「こんな気持ち悪いのに……慣れるとかあるんですかね。僕、ここで死ぬんですかね……」

 僕は漁師の方を涙目になりながら見つめた。

「漁師になって一五年、船酔いで死んだやつを俺は一人も知らない。だから大丈夫だ」

「ぼ、僕がその最初の一人になる可能性も……、オロロロ……」

 僕は船の上から海に嘔吐する。

「しっかりと飯食って寝てれば治る。さ、夕食だ。少しでも食っておけ」

「は、はい……ありがとうございます」

 僕は漁師の男性に魚の蒸し焼きを貰った。海の味がして美味しかったが……すぐに海に戻してしまった。

――魚さん……ごめん。君は海に帰れて本望だろうか。

 船に乗って二日目。

「船酔いに結構慣れたな……。人の環境適応能力、凄い。そうだ、これくらい慣れたら、石を磨けるな。よし、磨こう」

 僕はショルダーバッグから磨いている途中の石を取り出し、ナイフで粗めに削っていく。

 初めの工程でほとんど形が決まってしまうので慎重に削っていく。一ミリ二ミリずれるだけで形の見栄えが全く変わってくる。

 それを船の上でするのだから相当な集中力が必要だ。

 でも、集中力に関しては相当あると自負している。

 僕は集中すると周りの音が聞こえなくなるので、父さんによく怒られていた。でも、今は怒る人が誰もいない。集中し放題だ。

「すげぇな……。朝から晩までずっと船の先端で石をちまちま削ってやがる。ほんとに騎士なのか?」

『ギギ……ギギ……ギギ……』

 石をナイフで削る。手は粉まみれだが気にしない。

「ここはもう少し、削った方がいいか」

「おい……」

「いや、もうちょっと滑らかに仕上げたい」

「おい」

「ん~~。あと少しだけ削ろう……」

「おい!!」

「は! はい!」

「何回呼んでも返事がないから死んだかと思たぞ。ほら、夕食だ。さっさと食べろ」

「え……もう、夜ですか。まだ朝だと思ってました……」

「お前、どんな感覚してんだ」

 漁師の男性は呆れた表情で僕を見ていた。

「グウウウ~」

 僕のお腹は大きな音を出して鳴いた。

「あ~、もう夜だからか。おかしいなと思ってたんですよ。何で僕はこんなにお腹空いてるんだろうってずっと考えていました」

 僕は苦笑いして夕食を貰いに行く。

 昨日と同じく魚。でも、今日は何も食べていなかったので格別に美味しかった。

 船が出向して三日目。

「あ、あれがフェニクス島ですね」

「そうだ。特に何もないただの島だが、お前の望む物は売ってる」

「経由地ですから、お店はあるんですよね?」

「そうだな。多くの島の中で世界のほぼ中心に位置している島だ」

「世界の中心……」

「フェニクス島は長い航海のオアシスみたいなところで、漁師はあんまり利用しないが、海の安全を守る海上騎士や未開拓の土地をめぐる冒険者達は挙って利用するな」

「なんでフェニクス島を経由するんですか?」

「経由地はフェニクス島だけじゃないが、長い航海の時は中心のフェニクス島を使う場合が多いそうだ。だから何でも売っている」

「なるほど。フェニクス島で買わないと、僕の行き先の間に、他の経由地は無さそうですね」

「ああ、無いだろうな。お前が行こうとしている場所は誰も寄り付こうとしない場所だ。何度も聞いたが本当に行くのか?」

「当たり前ですよ。行かないと僕は働かなければならなくなります。それは、死ぬのと同等、またはそれ以上に苦痛ですよ」

「そこまでか……」

「僕は自分のしたいことをしたいんです。どうせ仕事するなら好きな仕事をします。騎士なんてまっぴらごめんです」

「兄貴が聴いたら泣くぞ……」

 僕は未開拓の土地に向うための経由地、フェニクス島に上陸した。

「さてと、僕のなけなしのお金を使って開拓地に持っていく物資を買わないとな」

 木材は未開拓の土地にあるとして、のこぎりとスコップ、桑も欲しい。

 あとは動物達も欲しい。でもそこまでお金があるのかが心配だ。

「動物達はたくさん買ったら、安くしてくれないかな」

 きっと話がうまい人なら交渉して値段をまけてもらうんだろう。だが僕にそんな話術ない。

「定価で買うしかないか……」

 僕はブツブツと呟きながらフェニクス島の中心部へ向かう。

 漁師の方が言うには、フェニクス島は円形をしており、中心から八方位に駆けて道が伸びているのだとか。

 それによって八つの区域に分かれており、それぞれの特色があるのだという。

「へぇ……ここがフェニクス島の中心。そしてこれが、世界の中心の証『ロンズデーライト』か」

 『ロンズデーライト』は別名『灰色の石』と呼ばれている。

 かつて不死鳥が好んで食べた鉱石だと言われてるそうだ。

 この中に不死鳥いると言う噂もあるみたいだが、さすがに噂でしかないと思う。

「おっと、石にかまけている場合じゃない。僕は道具を買いに行かないと」

 中心に到着した僕は初めに家具や道具などを売っている第二区域に向った。

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