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10.幸守君が守りたかった命
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明くる日。カーテンの隙間からさす朝日で目が覚めた。何の夢を見たのかは覚えていないが、昨日起きた出来事を瞬時に思い出し、ベットサイドに置いたホタル玉のストラップに目をやった。夢じゃない。本当に幸守君に会って約束したんだ。
今日は仕事が休みで特に予定もない。朝の支度をしてぼーっとしながら朝食を食べていた。
母「弥生。ケータイ鳴ってるわよ」
マナーモードにしたままだったので母に言われるまで気付かなかった。画面には幼馴染の金井美穂の表示。
美穂とは近所という事もあり、今だに仲が良く、長電話したり、買い物行ったり、ご飯食べに行ったりしている。
昨日の事をたんまり話そうと思ってるので長電話になる事は間違いない。朝食を食べ終わってからゆっくり話そうと思い、とりあえず今は無視した。そんな事をしても友情にヒビが入る関係ではない。
着信は1度切れたが、すぐにまたかかってきた。まだ食べ終わってないのでもう1度無視したら、またすぐにかかってきた。3回連続でかけてくるなんてよっぽどの急用なのか?
味噌汁を一気に飲み干して自室へ行き、4回目の着信に出た。
弥生「おはよう。4回もかけてくるなんてどうしたの?」
美穂「今寝起き?」
美穂の声は何か焦っているように聞こえた。私はベットに寝っ転がりウキウキ気分で昨日幸守君からもらったホタル玉のストラップを手に持ち眺めると自然に顔がニヤける。
弥生「うん。ねぇ聞いてよ、昨日ね……」
美穂「大変なの!! ニュース見た?」
弥生の話を割って美穂が話を切り出してきた。それに圧倒されつい話を止めた。よほどの要件なのだろう。
弥生「今日はまだ見てないけど、昨日のタンクローリーが電車に突っ込んだヤツ?」
美穂「違う。宝石店で強盗があったヤツ。確か弥生の職場の近くの駅じゃなかった?」
弥生「あぁ。それね。昨日ネットニュースで見たよ。撃たれそうになった女性客を庇って男性客が撃たれたとか。そのあとすぐその女性客も撃たれて死んだやつでしょ? それで犯人がジュエリーを袋に詰めてる隙に撃たれた男が最後の力を振り絞って椅子で殴ったって。マジヒーローだよね」
事件の話を早く終わらせて早く昨日の話をしたかった。
美穂「そう、それ!! 今テレビ見れる?」
弥生「うん」
焦っている美穂に言われるままテレビをつけ、ニュース番組にチャンネルを合わせた。生憎今は天気予報のコーナー。
弥生「あっ。今日はずっと晴れじゃん、ラッキー」
美穂「そんな事言ってる場合じゃないんだから!! 落ち着いて聞いてね」
弥生「何よ」
弥生は美穂の声に耳を集中させた。
美穂「その宝石店で撃たれた男性が幸守君だったの」
私の体に落雷が落ちたような衝撃が走った。手足に力が入らなくなってスマホが床に落ちる。スマホからは私の名前を何回も呼ぶ美穂の声がするが妙に遠く聞こえた。
おかしいのだ。宝石店の事件が起きたのは幸守君と会う前の話。幸守君は確かに昨日私と会っているし、ホタル玉のストラップも目の前にある。
このタイミングでテレビのニュースが例の事件を映し出したのだが、確かにそこには被害者の名前に『多田幸守』と書かれていた。私はスマホを拾いもう1度耳に当てた。
弥生「同姓同名の人じゃないの?」
美穂「私もそう思った。でも違う。本人だよ。今日たまたま車で多田家の前を通ったら葬儀の用意がされてたの」
顔が引きつる。
弥生「うっ……嘘でしょ?」
美穂「嘘じゃない。この目で見たもん。ちなみに情報通のうちのママいわく、宝石店でかばった女性は幸守君の彼女だったんだって。2人は婚約してて、結婚指輪を探しに行った矢先の事件だったみたい」
彼女?そういえば他界したと辛そうに語っていたじゃないか……いやいや、待て。やっぱりおかしい。じゃあ昨日私が会ったのはいったい誰?
私はホタル玉のストラップを握ったまま家を出て幸守君ちまで猛ダッシュで走った。この目で確かめるまで信じない。
息を切らしながら走る。何回も嘘だ嘘だと心の中で叫んだ。歩くと30分かかる道のりを半分の時間で到着させた。
現実は残酷だ。『多田幸守 儀 葬式会場』の看板が目に入る。
幸守君の死が現実だとわかった瞬間ゾッとして鳥肌がたった。昨日の不思議な出来事がなんで起きたのかなんとなく理解出来た。幸守君が私を生かしてくれたんだ。全ては私の幸せを守るために……。
幸守君のワガママを聞き入れてなかったら私は今頃この世にいなかった。そう思うと震えが止まらない。
私は目の前の光景に絶望した。眩暈がするほどに。体の力が抜けて地面に膝をつく。目の前がぼやけて涙が滝のように溢れ出てきた。
天国から地獄に引きずり下ろされた気分だ。心臓が痛い。呼吸がおかしい。頭の中がパニックを起こしてる。
私の脳内であの時のあの人の言葉が何回も何回もリピートされて止まらない。
『ただ……大切な人の幸せを守りたかっただけだから……』
私は絶対に幸せになるんだ。絶対に。私は心からそう誓った。ホタル玉のストラップを強く握りしめ心の中で呟いた。
『ありがとう幸守君。大好きだよ。来世で一緒になろうね。約束だよ』
完
最後まで読んでくれてありがとうございます(^^)
今日は仕事が休みで特に予定もない。朝の支度をしてぼーっとしながら朝食を食べていた。
母「弥生。ケータイ鳴ってるわよ」
マナーモードにしたままだったので母に言われるまで気付かなかった。画面には幼馴染の金井美穂の表示。
美穂とは近所という事もあり、今だに仲が良く、長電話したり、買い物行ったり、ご飯食べに行ったりしている。
昨日の事をたんまり話そうと思ってるので長電話になる事は間違いない。朝食を食べ終わってからゆっくり話そうと思い、とりあえず今は無視した。そんな事をしても友情にヒビが入る関係ではない。
着信は1度切れたが、すぐにまたかかってきた。まだ食べ終わってないのでもう1度無視したら、またすぐにかかってきた。3回連続でかけてくるなんてよっぽどの急用なのか?
味噌汁を一気に飲み干して自室へ行き、4回目の着信に出た。
弥生「おはよう。4回もかけてくるなんてどうしたの?」
美穂「今寝起き?」
美穂の声は何か焦っているように聞こえた。私はベットに寝っ転がりウキウキ気分で昨日幸守君からもらったホタル玉のストラップを手に持ち眺めると自然に顔がニヤける。
弥生「うん。ねぇ聞いてよ、昨日ね……」
美穂「大変なの!! ニュース見た?」
弥生の話を割って美穂が話を切り出してきた。それに圧倒されつい話を止めた。よほどの要件なのだろう。
弥生「今日はまだ見てないけど、昨日のタンクローリーが電車に突っ込んだヤツ?」
美穂「違う。宝石店で強盗があったヤツ。確か弥生の職場の近くの駅じゃなかった?」
弥生「あぁ。それね。昨日ネットニュースで見たよ。撃たれそうになった女性客を庇って男性客が撃たれたとか。そのあとすぐその女性客も撃たれて死んだやつでしょ? それで犯人がジュエリーを袋に詰めてる隙に撃たれた男が最後の力を振り絞って椅子で殴ったって。マジヒーローだよね」
事件の話を早く終わらせて早く昨日の話をしたかった。
美穂「そう、それ!! 今テレビ見れる?」
弥生「うん」
焦っている美穂に言われるままテレビをつけ、ニュース番組にチャンネルを合わせた。生憎今は天気予報のコーナー。
弥生「あっ。今日はずっと晴れじゃん、ラッキー」
美穂「そんな事言ってる場合じゃないんだから!! 落ち着いて聞いてね」
弥生「何よ」
弥生は美穂の声に耳を集中させた。
美穂「その宝石店で撃たれた男性が幸守君だったの」
私の体に落雷が落ちたような衝撃が走った。手足に力が入らなくなってスマホが床に落ちる。スマホからは私の名前を何回も呼ぶ美穂の声がするが妙に遠く聞こえた。
おかしいのだ。宝石店の事件が起きたのは幸守君と会う前の話。幸守君は確かに昨日私と会っているし、ホタル玉のストラップも目の前にある。
このタイミングでテレビのニュースが例の事件を映し出したのだが、確かにそこには被害者の名前に『多田幸守』と書かれていた。私はスマホを拾いもう1度耳に当てた。
弥生「同姓同名の人じゃないの?」
美穂「私もそう思った。でも違う。本人だよ。今日たまたま車で多田家の前を通ったら葬儀の用意がされてたの」
顔が引きつる。
弥生「うっ……嘘でしょ?」
美穂「嘘じゃない。この目で見たもん。ちなみに情報通のうちのママいわく、宝石店でかばった女性は幸守君の彼女だったんだって。2人は婚約してて、結婚指輪を探しに行った矢先の事件だったみたい」
彼女?そういえば他界したと辛そうに語っていたじゃないか……いやいや、待て。やっぱりおかしい。じゃあ昨日私が会ったのはいったい誰?
私はホタル玉のストラップを握ったまま家を出て幸守君ちまで猛ダッシュで走った。この目で確かめるまで信じない。
息を切らしながら走る。何回も嘘だ嘘だと心の中で叫んだ。歩くと30分かかる道のりを半分の時間で到着させた。
現実は残酷だ。『多田幸守 儀 葬式会場』の看板が目に入る。
幸守君の死が現実だとわかった瞬間ゾッとして鳥肌がたった。昨日の不思議な出来事がなんで起きたのかなんとなく理解出来た。幸守君が私を生かしてくれたんだ。全ては私の幸せを守るために……。
幸守君のワガママを聞き入れてなかったら私は今頃この世にいなかった。そう思うと震えが止まらない。
私は目の前の光景に絶望した。眩暈がするほどに。体の力が抜けて地面に膝をつく。目の前がぼやけて涙が滝のように溢れ出てきた。
天国から地獄に引きずり下ろされた気分だ。心臓が痛い。呼吸がおかしい。頭の中がパニックを起こしてる。
私の脳内であの時のあの人の言葉が何回も何回もリピートされて止まらない。
『ただ……大切な人の幸せを守りたかっただけだから……』
私は絶対に幸せになるんだ。絶対に。私は心からそう誓った。ホタル玉のストラップを強く握りしめ心の中で呟いた。
『ありがとう幸守君。大好きだよ。来世で一緒になろうね。約束だよ』
完
最後まで読んでくれてありがとうございます(^^)
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