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兄の結婚と、今後の方針

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1898年4月26日、前世通りに長男であるクリスチャンがドイツの公爵令嬢アレクサンドリーネ様と結婚しました。
アレクサンドリーネ様はメクレンブルク=シュヴェリーン大公家の出で、音楽を嗜む心穏やかな方ですが、芯の強いお方でもあります。
お兄様との仲も良好で、WWⅡにおいてもナチスドイツには組せず、ダンマーク王妃として独立の旗印となりました。
「おめでとうございます。クリスお兄様、アレクサンドリーネ様」
「わざわざありがとうテューラ」
「これからも仲良くしてくださいねテューラ様」
私が頷くと二人とも微笑んでくれる。
というのも、婚約してから私とアレクサンドリーネ様は前世同様に仲を深めておりまして、今では親友のようなお付き合いをさせていただいております。
アマリエンボー宮殿に滞在されておりましたから度々お茶にお誘いして、今の情勢などのお話をしておりますのよ。
たまにお兄様も参加されますけどね。
「ところで、テューラはいまだに婚約者が決まらない状態だが…何か考えはあるかい?」
「ないとは言いませんが、ここでは少し」
「わかった、三日後に執務室で聞こう」
「お願いいたしますわ」
クリスお兄様と会話を終えて、元の持ち場に戻ります。
そこにはマリーナが待っておりまして…なんかやたらと怖い顔をしていますわね。
「どうしたんですマリーナ?」
「来週には航空法の草案についての専門部会での会議が始まりますのよ?どうしたってこんな顔にもなります」
「こんな年齢から眉間にしわを寄せていると早くから皴が残ってしまいますわよ」
私の言葉にマリーナはスッと手を額に当ててムニムニともんで、ため息をつきました。
「はぁ、どうしても気が張り詰めますわね」
「別に責任を全部マリーナが持つわけではないのですから、少しは気楽になさいましね」
「ところでテューラ様、この後お時間ありますか?」
ちょっとは表情が穏やかになったマリーナが私に問うてきました。
特に問題ないので頷いて答えます。
「では、披露宴が終わり次第、テューラ様のお部屋にお邪魔しても?」
「わかりましたわ」
これで午後の予定が決まりましたわね。

*****
「お聞かせいただきたいのは、テューラ様が考える今後のダンマーク王国についてです」
私の執務室に来たマリーナは早速切り出してきた。
確かにこの手の話では外でおいそれとできないわね。
「航空機の開発によって世界各国の技術進歩は確実に前倒しになっていますが、世界で起こる大きな流れについての変化はそれほどありません」
私の答えにマリーナが頷く。
実際、ドイツ帝国による飛行船商業運用だとか、イギリスやフランスの航空機の軍事転用などの話は進んでおりますが、大きな歴史に変化はありません。
万博も開催されていますし、今現時点において戦争も起こっていない状態です。
ただ、イギリスとロシアの関係は悪化してきています。
「問題となるのは来年に起こるであろう義和団の乱という清国で発生した事変の収拾目的とするロシアの満州侵攻が決定的な決裂になりますが…わざわざこれを防ぐ意味はないでしょう」
「つまり、日露戦争阻止には動かないと?」
「わざわざダンマークがやることではありませんね。むしろ中立を高らかに宣言する良い機会だと考えています」
「テューラ様、一つだけよろしいですか?日露戦争後に日本は朝鮮半島を併合します。
これについて何か思うところはおありですか?」
「いいえ?特にありませんが…極東でそのようなことがあったのですね」
「そうですよね…テューラ様は生粋のダンマーク人でした…では、私のほうで少々小細工をしてもよろしいでしょうか?」
「マリーナ自身を危険にさらさないならお好きになさるとよいかと」
「ありがとうございます」
そういえば、マリーナもレーナも前世は日本人でしたね…何か思うところがおありなんでしょう。
そのあたりは好きにすればよいと思います。
「少なくとも、日露戦争時にイギリスにもロシアにも組せずが私の方針です。
それはお父様やお爺様にも伝えてあります。
あくまでダンマーク王国は中立である、この方針を貫きますわ」
「わかりました。ところでテューラ様」
なんだかマリーナの顔がにんまりしているのですがどうしたのでしょう?
「なんでも最近、宮廷医にカウンセリングを受けていらっしゃるとか」
なんでマリーナはそんなことを知っているのかしら?
うちのメイドたちを調査しないといけないかしらね?
「…事実ですわ」
「この時代ではまだ難しいと思いますが、陰ながら応援いたしておりますわ」
「3日後にお兄様に会いに行った後であれば表立って応援していただいてもよいですわよ」
私の回答にまぁ!という顔をしたマリーナがちょっと面白かったです。
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