上 下
28 / 68

何とかニールスと近づくための我儘と新たな計画

しおりを挟む
1898年2月、アマリエンボー宮殿の医務室の一つで今日もカウンセリングという名の交流を続けてる。
「テューラ様は恋愛小説もお好きなのですね」
「はい、幼少期から科学雑誌をひっくり返してたせいで意外に思われるかもしれませんが」
もうすでに小さなお茶会状態ですわよね。
ある意味仕事を妨害しているかもしれませんが、ニールスも嫌そうなそぶりはありませんし、私は甘えている状態です。
「そうですね、飛行機の構想をたちあげたのはテューラ様と聞いておりますから、意外ではありますが…女性らしい趣味と思いますよ」
にっこりと微笑むニールスが眩しい。
12歳上ということを忘れてしまうわ。
数え年数だと、私はすでに80歳近いおばあちゃんですけど…この恋心に終わりはないのよ。

*****
カウンセリングの翌日、T H I本社に赴いた私に最近彼氏との関係が良好でボチボチ結婚式を挙げるかもしれないとレーナに惚気られながら報告を聞いています。
「つまり、次に出来上がる4発輸送機はコペンハーゲンからロンドンやベルリン、さらにはサンクトペテルブルグに向けての旅客を期待できるというわけね?」
「そうです、ですが流石に飛行高度の問題がありますから、イタリアローマへ行くのは難しいと言わざるを得ません」
「でも、ヨーロッパ北側の大都市は結べるのよね?」
「そうなります。ロンドン、パリ、オスロ、サンクトペテルブルグ、ベルリン、ワルシャワなどへの路線と各都市からの相互飛行が可能です。
問題はパイロットの確保と、航路の安全です」
「パイロットの育成はわかるけれど、航路の安全?戦争をしているわけではないのだから、撃墜されるなどの心配はありませんでしょう?」
第一次大戦までにはこの4発機を護衛する戦闘機が必要になるでしょうが、今それが必要だとは思えませんし、どういう事でしょう?
「ちがいますテューラ様。
航路の安全というのは飛行そのものの安全のことです。
船だってぶつかるんですよ?
航空機が行き交うようになり空を飛行機が飛び回るようになると飛行機同士の衝突などが起こらないようなルール作りとそれを指示する方法を確立しないといけないわけです」
なるほど、自動車と同じようにルールを国際的なものとしないといけませんし、さらには無線についても進化させないといけないわけですね。
今の無線通信といえばモールス信号しかありません。
聞いて、それを解読して、返信してというのは時間がかかりますから、船や車より圧倒的に早いスピードで飛ぶ飛行機がそんなことをやっていると指示が伝わった時には時すでに遅しとなりそうですわね…
「ので、テューラ様にお願いなのですが」
「…なんですかレーナ」
「イギリスの叔母さんに連絡をとって無線通信についての技術開発協力をとりつけてもらえませんか?」
「レーナは私のこと単なる便利ツールと思っていませんこと?」
「それは否定しません」
そこは否定して欲しかったわね。
「まぁ分かりましたわ。詳しい情報とどこへアプローチするのか教えてくださいまし」
「あと、できればドイツからの技術も欲しいのです」
「…お兄様に相談してみますわ」
お兄様の婚約者はドイツ帝国の公爵令嬢ですからね…チャンスはありますわ。
「ところで、4発機のテストはどうなのです?」
「今の所良好です。一部修正箇所が見つかってきていますが、今年中に就役自体はできます」
「となると、そろそろ航空会社の設立が必要ですわね…」
この構想自体は昨年のドイツによる飛行船商業運行時に決まった内容ではありますが、いよいよ本格的に動き始める必要がありそうです。
マリーナにいって法整備などについては研究会が発足しており官民一体の検討会がだいぶ煮詰まっておりますので、T H Iと違って完全民間の企業として成立する予定です。
それに伴う法整備についても、すでに進んでおりますが、安全に"運行"するための技術がまだ不足している状況です。
「無線、レーダーなどの電子機器についての強化が必要ですわね」
「そのあたりの技術は私では太刀打ちできませんから、政治的な力でねじ伏せてくださいテューラ様」
「ねじ伏せてどうするのですレーナ…」
まぁともかく、世界初の民間航空会社を設立させねばなりません。
これはマリーナとも相談ですわね。

*****
「レーナの言う通り時期尚早感が否めませんが、各機体が十分距離を取れるような時間割で飛べばしばらくは誤魔化せると思いますよ」
「まぁそうなりますわよね」
相談した開口一番マリーナは私も考えていたことを答えてくれました。
まぁそうなりますよね。
時間を開ければ通信のタイムラグがあっても安全を確保できます。
「ただ、他国が乗り入れるようになるとそうも言っていられないでしょう。
事故が起こる前に航空管制のルール作りをしないと人命を失う事故が起きかねませんよ」
「そのためにも電子機器の開発ですわね。
すでにアリックス叔母さまを通じてイギリス科学相には問い合わせ中ですの。
今回はドイツにも依頼を出しておりますわ。
お兄様の婚約者であるヘレーネ公爵令嬢を通じてですけれど」
ふむとマリーナが頷く。
「どちらにせよ、その他の技術を航空技術が追い越している状態ですから、待っているぐらいなら開発資金を確保した方がいいでしょうね。
いま、ダンマークはかなり外貨を獲得していますから」
そう、航空機だけでなく、資源輸出が好調で我が国はかなり外貨を獲得している状態です。
特にドイツのアルミニウム需要が飛行船の関係でかなり高い影響です。
我が国から鉄道を使って陸路でドイツへ輸出されている氷晶石はかなりの量です。
自国でも使っていますけど、使用量はドイツが圧倒的ですわね。
「そうですね、たまには技術ではなくてお金で解決できないかお父様と相談してみますわ」

こうして、金の力で徐々にではありますが、航空機に関連する必要技術を我が国は買い漁り始める事になりました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

富嶽を駆けよ

有馬桓次郎
歴史・時代
★☆★ 第10回歴史・時代小説大賞〈あの時代の名脇役賞〉受賞作 ★☆★ https://www.alphapolis.co.jp/prize/result/853000200  天保三年。  尾張藩江戸屋敷の奥女中を勤めていた辰は、身長五尺七寸の大女。  嫁入りが決まって奉公も明けていたが、女人禁足の山・富士の山頂に立つという夢のため、養父と衝突しつつもなお深川で一人暮らしを続けている。  許婚の万次郎の口利きで富士講の大先達・小谷三志と面会した辰は、小谷翁の手引きで遂に富士山への登拝を決行する。  しかし人目を避けるために選ばれたその日程は、閉山から一ヶ月が経った長月二十六日。人跡の絶えた富士山は、五合目から上が完全に真冬となっていた。  逆巻く暴風、身を切る寒気、そして高山病……数多の試練を乗り越え、無事に富士山頂へ辿りつくことができた辰であったが──。  江戸後期、史上初の富士山女性登頂者「高山たつ」の挑戦を描く冒険記。

Millennium226 【軍神マルスの娘と呼ばれた女 6】 ― 皇帝のいない如月 ―

kei
歴史・時代
周囲の外敵をことごとく鎮定し、向かうところ敵なし! 盤石に見えた帝国の政(まつりごと)。 しかし、その政体を覆す計画が密かに進行していた。 帝国の生きた守り神「軍神マルスの娘」に厳命が下る。 帝都を襲うクーデター計画を粉砕せよ!

天上の桜

乃平 悠鼓
歴史・時代
世界が欲しくば天上の桜を奪い取れ 世界を死守したくば天上の桜を護り抜け 西遊記の平行世界のような場所で繰り広げられる三蔵一行、妖怪、人間、神仏の攻防。のはず、……多分……きっと……。 天上の桜は聖樹か、それとも妖樹か。神仏の思惑に翻弄される人々。 戦いなどの場面が多々入ります。残酷な描写もありますので、ストレスを感じる方もいらっしゃるかもしれません。m(__)m できる限り直接的な言葉にならないよう、あえて遠回しなわかりにくい言い方になっています。 小難しい言葉、昔の表現がちょくちょく出ます。 玄奘三蔵一行と言うより、神仏の方の出番が多かったりするかも。三人称です。 十数年前に趣味で書いていた話を元に、つくり直しています。 この話は、絵空事、ご都合主義です。誤字脱字もあろうかと思われます。初投稿ですので色々不備もあるかと思いますが、よろしくお願いいたします。m(__)m ※亀更新です。m(__)m

幼女のお股がツルツルなので徳川幕府は滅亡するらしい

マルシラガ
歴史・時代
(本文より抜粋) 「ここと……ここ。なの。見て」  霧が着物の裾を捲って、二人に自分の股ぐらを披露していた。  な、なにをしておるのじゃ?  余三郎は我が目を疑った。  余三郎側から見ると霧の背中しか見えないが、愛姫と百合丸の二人は霧の真っ正面に頭を寄せて彼女の股ぐらを真剣な目で観察している。 「ううむ……ツルツルじゃな」 「見事なまでにツルツルでござるな」  霧はまだ八歳児だぞ、当たり前だろうが!  余三郎は心の中で叫ぶように突っ込んだ。 「父様は霧のこれを見て……殺すしかないと仰った。なの」  二人は目を見開いて息を呑んでいた。聞き耳を立てていた余三郎の顔は驚愕で歪んだ。  な、なにぃー!? 自分の娘の股ぐらがツルツルだから殺すとな!? 立花家はあれか? みな生まれた時からボーボーじゃなきゃダメなのか?

通史日本史

DENNY喜多川
歴史・時代
本作品は、シナリオ完成まで行きながら没になった、児童向け歴史マンガ『通史日本史』(全十巻予定、原作は全七巻)の原作です。旧石器時代から平成までの日本史全てを扱います。 マンガ原作(シナリオ)をそのままUPしていますので、読みにくい箇所もあるとは思いますが、ご容赦ください。

刑場の娘

紫乃森統子
歴史・時代
刑場の手伝いを生業とする非人の娘、秋津。その刑場に、郡代見習いの検視役としてやってきた元宮恭太郎。秋津に叱咤されたことが切っ掛けで、恭太郎はいつしか秋津に想いを寄せるようになっていくが――。

総統戦記~転生!?アドルフ・ヒトラー~

俊也
歴史・時代
21世紀の日本に生きる平凡な郵便局員、黒田泰年は配達中に突然の事故に見舞われる。 目覚めるとなんとそこは1942年のドイツ。自身の魂はあのアドルフ・ヒトラーに転生していた!? 黒田は持ち前の歴史知識を活かし、ドイツ総統として戦争指導に臨むが…。 果たして黒田=ヒトラーは崩壊の途上にあるドイツ帝国を救い、自らの運命を切り拓くことが出来るのか!? 更にはナチス、親衛隊の狂気の中ユダヤ人救済と言う使命も…。 第6回大賞エントリー中。 「織田信長2030」 共々お気に入り登録と投票宜しくお願い致します お後姉妹作「零戦戦記」も。

処理中です...