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恐れの塔から観測の塔へ…
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ラジオからアメリカで巨大噴火が起こったという報道を聞いた。
「そろそろ、終わりの始まりですねぇ」
のほほーんとトワさんが言う。
あった当時は小学生みたいなメイドさんだったが、今では中学生ぐらいの見た目にはなっている。
「じゃあ、塔を縮めちゃいましょう」
アノマさんはそういうと、するっと部屋を出て行った。
私が拡張した地下2階分と、上2階分が瞬く間に消滅し、いまいる1階フロアだけになった。
「さて、ユイちゃんは別の部屋がいい?狭くなるけれど壁作るけど」
「…いえ、アノマさんと一緒の部屋でいいです」
「そう?いやなら直に言ってね」
トワさんがニヨニヨしている。
その顔やめてほしい。
「あ、塔の一つは管理者が放棄しましたけど、もう一つは同じ方向で動くようですよ」
トワさんが突然気が付いたように告げる。
「じゃぁ最悪お友達が残るわね」
「お友達って言っていいんですかねそれ?」
一度も会話したことのない管理者は友達でいいんですかね?
たまにラジオをつけても、噴火のニュースだけしか報道されず、辛気臭い雰囲気が続いていた。
私は何となく購入していた小さなプランターにその辺で取れた花を植える。
「ふーん、それを持ってくことにしたの?」
「え?いえ、なんとなくなんですけれど」
「いいんじゃない?なんとなくって素晴らしい感覚よ」
お花を見たアノマさんがよくわからないことを言ってきた。
別にそれが気に食わないとかじゃないみたいなのでまぁいいや。
アノマさんが整えた部屋は、私が住んでいる部屋をベースに、ベッドがもう一個入った感じの部屋だった。
その代わりに勉強机がなくなった。
「この魔力消費量であれば、耐えられるんじゃないですかね?」
「トワがそういうなら間違いないわね」
「結構いい加減っ」
「まぁ何かあってもお嬢様と、ユイさんで修復し続ければいいんですよ」
あっけらかんというトワさんが怖い。
そんなことにならないほうがいいなぁとは思うんだけれど…
*****
例のニュースから3ヶ月ほどが過ぎると、毎日が曇り空の日になった。
太陽光が遮られているらしい。
「ユイちゃんのお花、このまま元気だといいわねぇ」
「そうですね…こんなに毎日曇り空なんて」
「大きな噴火だったっていうから、たぶんこうなるだろうなとは思っていたけれどね」
一緒に外を見ながら、アノマさんと会話をしている。
あれ以来、一つ屋根の下だけど、ぞれぞれ別のベッドで寝るのも慣れてきていたところに、こんな天気である。
日々暗くなっているようで、なんだか朝がわかりにくくなってきていた。
私の鉢植えの花も心配ではあるが、こうなってくると外の植物も心配だ。
日の光が無くては育たないのではないだろうか?
ラジオからアメリカのニュースは聞こえてこなくなっている。
今は日本国内のニュースばかりだ。
寒冷化で、今年の夏の日照時間や水の酸性度が上がっているとかそんな話をしている。
たまに流れてくる音楽も明るい調子のものが少ない。
なんでも、日本ではロケットを使ってどうやってか地球を脱出しようという計画もあるらしいが、それが間に合うかは議論の余地があると言われている。
どこかほかの星に逃げ延びようということらしいけど、みんなが逃げられるわけじゃないんだよね?それ。
ある日の夜、私は久しぶりに夢を見た。
ずっと昔の子供のころの記憶、両親がまだ元気で、私と一緒に公園で遊んでくれた時の記憶。
あの頃は私はまだ放置されていなかったし、仕事で忙しいと言っても両親とも時間を合わせて私と遊んでくれていた。
なんだかとても楽しかった記憶だけがある。
具体的に何かをしていたかは分からないけれど…
私が目を覚ますと、頬を涙が伝っていた。
「ユイちゃんどうかした?」
不意に声をかけられ、横を向くと、アノマさんがしゃがんでのぞき込んでいた。
「怖い夢でも見たのかな?」
私は首を横に振る。
でも、心がぽっかりと開いてしまったような感覚があって、どうしたらいいかわからなくなっていた。
「よし、ユイちゃん。一緒に寝ようか!」
そういって、アノマさんはあっさりと自分のベッドを消し去り、私が寝ていたベッドをダブルベッドにしてしまった。
「はい、ユイちゃんそっちよってね」
あれよあれよとアノマさんがベッドに入ってくる。
そして、今じゃ私よりも少し背の低いアノマさんは私をぎゅっと抱きしめて、頭をなでてくれる。
「怖い夢でも、寂しい夢でも私が慰めてあげるから安心して寝るといいよ」
気が付いたら、背中をポンポンされている。
妙に子ども扱いされてむずがゆかったけれど、すごく落ち着いてきた私はすぐに眠りに落ちてしまった。
*****
ユイちゃんは最近私に抱き着かないと寝られないらしい。
なんともかわいらしい家族ができたみたいで、ちょっと面白い。
彼女自身ははじめ恥ずかしがっていたのに、今ではそうしないと眠れないようだ。
「お嬢様は、こういったことに本当に鈍感で…」
トワから小言を言われるが何のことだかわからない。
ユイちゃんが可愛いことには同意しているので特に問題ないが。
そんなある日、徐々に外が灰で白くなりはじめ、ラジオも聞こえなくなったころ、ユイちゃんから思いもよらない言葉をもらった。
「私、アノマさんのことが好きみたいです」
「…ほへ、好き?」
「はい…」
頬を赤く染め、もじもじするユイちゃんを見て”好きってなんだっけ?”と思ってしまった。
そういえば、人は普通子孫を残すために愛をはぐくむなんて聞いていたがそういうことがしたいわけじゃなさそうだ。
「ユイちゃんは可愛いし、素敵だと思うけど、好き?うーん私ユイちゃんを大切には思っているけど好きなのかな?」
「…いえ、アノマさんのことだからそんな気はしていました」
「お嬢様は、事恋愛感情は皆無ですからね」
トワから酷いことを言われた気がする。
私だって恋愛小説ぐらいよむやい!
でも、そういった気持ちとはユイちゃんに抱く感情は違うと思うんだ。
「いいんです。アノマさんにこの気持ちが伝わってなくっても、大切に思ってくれていることはわかるので」
「そ、そう?なんかごめんね?」
「その代わり、もう我慢しないことにします」
なんだかさっぱりした表情でユイちゃんが宣言した。
トワは手を目に当てて上を向いている。
私は訳が分からなかったけど、その日の夜に思い知ることになった。
そういえば、ユイちゃんはそういう経験が豊富なんだった…
*****
下世話な言い方をすれば、アノマさんに思いを告げて踏ん切りをつけた私は、彼女を美味しくいただくことに決めた。
男からされるのはどれもくすぐったかったり、気持ち悪かったりしかしなかったけれど、自分の体をどうすれば気持ちよくなるかは分かる。
アノマさんだって女性だから同じだと思い実践。
見事にふやけた顔のアノマさんを拝むことができた。
ただ、翌日トワさんから何を言われたのか知らないけれど、アノマさん股間にありえないものが付いていて思わず悲鳴を上げてしまった。
ただ、今まで男とした経験では感じられない快楽を逆に叩き込まれるという事態に陥り、私はその日の夜記憶を飛ばした。
それからしばらく、アノマさんはなんでも「好きという感覚」がわかってきたとのこと。
いや、たぶんそれ違うと思います。
今まで知らなかった肉欲におぼれているだけですよね?
そして、私もそれにおぼれ気味なのでお互い様ですね…ずるくないですかね?私の感じるところを的確に刺激してくるの…そういう経験ないんじゃないんですか?
*****
気が付くと、常に夜みたいな日が続いており、日にちの感覚がなくなってきています。
愛を告白してからどれぐらいの時間がたったのかわかりません。
もしかしたら、何時までも寝ていたのかもしれませんし、そうでないのかもしれませんが…
「人類の人口ってんですか?が一千万人を下回ったようですよ。そろそろ滅亡ですかね」
トワさんがさらっととんでもないことを言った。
「あらそう?案外早かったわね」
「魔法を忘れ文明と科学を得た人類は科学と文化を失えばあとは滅びるだけですよ?お嬢様」
「そんなもんなのかな?」
「そんなものです」
分厚い窓の外から見える外の景色は、一面真っ白という感じだ。
度々アノマさんと二人で塔に修復魔法をかけているけれど、塔自体に大きな損壊はない。
そんな時、突然地面が大きく揺れ始める。
「あ、地震だねぇ」
「これは大きいですね」
「お二人は何でそんなに冷静なんですかぁ!!」
思わずローテーブルの下に潜り込んだ私だけど、揺れるだけで部屋の物が倒れてきたりとかは何もなかった。
ただ、揺れはすごかった。
私じゃ立っていられなかった…
「なんだったんでしょうか今の…」
「もうしばらく続くんじゃないかな?」
「でしょうね、そろそろ星も本気を出すでしょう」
「海底に沈まなければなんでもいいけどね」
あははとアノマさんとトワさんが笑っています。
好きになった人ではあるけれど、改めてこの二人は人外なんだなって思いました。
私も、もう人のこと言えませんけど…
きっとあれは某巨大地震だったのかもしれません。
*****
人間が言う愛し合い方を覚えた私は、ちょっと頭が悪くなっていたのでしょう。
トワからは呆れた言葉をかけられたぐらいですから。
ただ、ユイちゃんとのそんな愛し合う行為にふけっていたら、人類の滅亡が間近とのこと。
大きな地震もありましたし、そろそろ星も本気でしょう。
ただ、思っていたよりも、ゆっくりと、じんわりと絶滅に向かっているようで、ちょっと意外でした。
急激に人が減り始めてから、あるところで減り方が鈍化しているのがトワの報告で分かります。
”知恵”っていうのはすごいですね。
そして、生物の生きるってことへの執着も。
私一人だけだったら、ここで満足してしまって最後まで事を見守ることはしなかったかもしれません。
ただ、今はユイちゃんがいます。
ユイちゃんの夢は”再生するこの星を観察する”だそうです。
恐れの塔なんて人間からは呼ばれていましたが、ここはある種箱舟と呼ばれるものなのかもしれません。
私とユイちゃん、お花と、その土に居る微生物しかいませんが。
トワですか?あれは生き物なんですかね?星の意思とかじゃないでしょうか?
未だにその正体は不明です。
いいんですよ、塔の妖精ってことで。
「というわけで、ユイちゃんそろそろこの自堕落な生活もどうかと思うの」
「…他にやることなんてお花に水をやるぐらいしかなくないですか?」
「それはそうなんだけどさ…」
「外の様子でも見られればなぁ」
現在ユイちゃんとベッドでまどろみ中。
お互い服は着ていないけれど…こんなことばかりしているのもどうかと思ったものの、他にやることがないのもまた事実だったりする。
いまじゃラジオも聞こえなくなり無用の長物になり下がった。
「お嬢様方なら、お外に遊びに行っても問題ないと思うんですが?」
「トワさんどういうことですか?」
「魔法で障壁張りながら、瞬間移動を駆使してお散歩すればいいんですよ」
なるほどと思った。
障壁の魔法なんてすっかり忘れていた。
自然災害ぐらいなら障壁の魔法で防げるんだった。
本当に危なければ転移魔法で戻ってくればいいわけだし。
「ユイちゃんは見たいところある?」
「東京の街を見てみたいです」
私達はいそいそと着替えて、早速出かけることにした。
*****
アノマさんから障壁の魔法を教わった。
私はいつもの白いブラウスと青のセミロングスカートで東京駅の前に一人立っている。
周りに人の気配はない。
いや、うそ、その辺うろうろしているアノマさんがいる。
赤煉瓦の綺麗な建物は、灰色にすすけており周辺の高層ビル群も心なしかくたびれているように見える。
多くの雑居ビルは、地震と灰の重さに耐えきれなかったのか、倒壊している物が多かった。
植物の緑はなく、荒廃した雰囲気が漂う。
もっと、放置された車とか、壊された商店とかがあるかと思ったが、そうでもなかった。
人間が意外と冷静であることと、瞬間的に環境が破壊されたわけではなく、じわじわと蝕んでいったことがわかる。
流石にその辺に人骨が転がっているとかそういうこともなく、ただただ静寂が都市を包み込んでいた。
他にも、よく行かされた新宿や池袋の繁華街、観光名所のタワーなんかを眺める。
ちょっと、アノマさんがアレコレ聞いてきて面白いけれど、なんだか灰色一食の世界でデートしているみたいで面白い。
ショッピングモールはさすがに荒れていたけれど、日用品が全くなくなっている一方で、オシャレ着とかは放置されていた。
天窓なんかが割れて、足元は危ないし、風雨にさらされて洋服やぬいぐるみ、家具なんかは既にダメになっていた。
「人間って生き物は随分発達したんだねぇ」
「アノマさんはこういう大都市には来なかったんですか?」
「人が多いと、魔法を使いにくいからね~」
いろんなところに興味があるのか、本当にさっきからうろうろしているアノマさんが面白い。
たしかに、教えてもらった”お金の魔法”は人前では使いにくいかもしれない。
犯罪じゃんと思ったほどだ。
それに、都市部だと現金より電子マネーが普通になっていたから、確かにアノマさんの見た目と買い方は目立っただろう。
今日もばっちりゴスロリなアノマさんが一つのお店を見て立ち止まる。
「あ、本物初めて見た」
ロリータファッションのお店の前で、なんとも言えない発言が飛び出る。
本物ってアノマさんのあれは何なのだろう?
「こういうお店で見て作ったんじゃないんですか?」
「うんにゃ。私のは雑誌で見ただけ。本当にこういう服売ってるんだねぇ…それ」
アノマさんが何か魔法を唱えると、その店舗だけ突然綺麗になる。
灰色一食だった世界が赤黒白と色鮮やかになる。
「うんうん、やっぱり本物は可愛いね。ちょっと物色しようかな…ユイちゃんもどう?」
「私にそういうのは似合わないと思うんですけど…」
「いいのいいの、ちょっと楽しみましょう」
アノマさんがいい笑顔で服を物色し始める。
本当にこういうデザインが好きなんだなと思た。
私もアノマさんも今は魔法で服を作っているので、本物の服って最近触っていなかった。
私も一つ手に取ってみる。
深緑色で長袖のロリータ服は、滑らかな肌触りで触り心地がいい。
これならアノマさんにも似合うかもしれない。
「アノマさん、これ着てみませんか?」
「ん?いいよーじゃあユイちゃんはこれね」
なんだか青いロリータ服を渡された。フリルが黒なのかコレ。
アノマさんがいそいそとその場で着換え始めたので、私は試着室に入る。
これ着にくい…普通の服の構成はしているけど、いろんなところがひらひらしていて、整えるのが大変だ。
ようやく着替えて外に出ると、アノマさんはすでに着替え終わっていた。
「お、いいねぇユイちゃん!かわいいかわいい。はい、ヘッドドレス」
「あ、アノマさんも可愛いです」
「そう?ありがとう!ふふふー」
服に合わせたヘッドドレスを付けられて、フル装備になる私。
というか服しか渡していなかったのに、アノマさんもタイツから靴からフル装備だ。
きっと洋服に合わせて魔法を使ったんだろう。
「じゃデート再開ね」
そういってアノマさんに手をとられ、誰もいないショッピングモールの散策を再開する。
といっても、世界はほとんど灰色で、私達だけがその場で色をまとっていた。
*****
ユイちゃん曰くのデートから帰ってきた。
人間の文明は随分進んだんだなぁと思う反面、星の力であの建造物たちは壊しきれるのかな?とも思った。
塔の一番近くにある集落は、あんな高い建物なかったから、灰に埋まってしまっているだろうと思うけれど、まだまだその形を保っている建物たちが、この後どうなるのかなと興味がわいた。
けど、ユイちゃんはそうでもなかったみたい。
デート自体は楽しかったようだけど。
「地球がリセットされるのもまだ時間がかかりそうですね」
とはユイちゃんの言葉。
全くその通りだと思う。
となると、ユイちゃんにちょっとした提案をしよう。
「一緒に、生物が復活してくるぐらいまで眠りにつかないってお誘いなのだけど…どう?」
「え?人類が滅ぶところ見なくていいんですか?」
「もうどうせ後はじわじわ減っていくだけだろうし、特に未練はないかな。それにトワ曰く、もう1つ残っている塔は既に仮死状態で眠ってるんだって」
「それって復活できるんですかね?」
「出来るんじゃない?多分」
「うわぁ結構適当」
そのまま消滅してもあんまり悔いは残らないけどね。
「OKしてくれるなら、条件を付けて復活するように魔法をかけようと思うんだけど」
「…私はもう少しアノマさんとダラダラ生活したいです」
「うん、いいよ。無理強いするつもりはないから」
「ありがとうございます…じゃあ、それにも飽きたら眠りにつくって方向にしませんか?」
「いいね!ユイちゃんのそういう思い切りのいいところ好きだよ」
ユイちゃんがぽわんとほほを赤らめる。
うんうん、かわいいな。
「とりあえず、たまにはベッドから出たらどうですお二人とも」
トワがちょっとピリピリしている。
結構自堕落な生活をしていたからね…寝るなら寝ろってやつだよね。
「まぁそんなに長くはならないと思うから、大目に見てよ」
「これ以上大目に見ろと…まぁいいですよ私への魔力がずっと供給されているなら文句は言いませんから」
そういうと、トワはまた消えてしまった。
消えられるのは便利だなぁとおもうけど…さ、またユイちゃんをかわいがろうかな?
*****
目が覚める。
目の前にはアノマさんのお顔がある。
変わらぬ銀髪はつややかで、どれほど時間がったのかわからない。
でも一つ言えることは、アノマさんと愛し合いながら眠りについたこと。
外に植物が根付いたら目覚めましょうという約束で。
「…アノマさん?」
「んっ…」
色っぽい声が漏れて、アノマさんの目が開く。
変わらぬ赤い瞳が私を見つめ返す。
「おはようユイちゃん」
「お、おはようございますアノマさん」
「無事に目覚めたねぇ…外を見てみようか」
アノマさんがゆっくりと体を起こす。
どれぐらい長く寝ていたのかわからないけれど、私も体を起こすことができた。
眠っている間に衰弱するということはなかったらしい。
私はいつもの服装に着替えると、アノマさんもいつものゴスロリ衣装になる。
趣味は変わっていないらしい。
「トワ~いる?」
「はいはい、いますよ。どうしました?」
「私たちが目を覚ましたってことは、星は再生したのよね?」
「そうっすねぇ現在50本ほどの塔が稼働を始めてますよ。ただ、ここともう一カ所以外に人類だった者はいませんけど」
「そうなのね~」
「つまり、人じゃない生物が塔を再建したってことですか?」
「残念ながら知的生物じゃないよ。あれから五百万年ぐらい経ってるけど」
そんなに経ったのか…一度私たちの時代の生物は大量絶滅して、再度生き物たちが復活しているらしいことをトワさんから教わる。
「じゃ、行きましょう」
特に外に危ない生き物は居ないらしく、トワさんからは特に注意事項もなかった。
私とアノマさんが外に出ると、灰とは違う真っ白な風景が広がっていた。
「雪だ…」
「寒冷化したんだねぇ~こんな環境でも太陽は出てるからか、植物は育ってるね」
ツンドラだっけ?そんな感じの針葉樹林がまばらに広がっていた。
眠る前は落葉樹ばかりだった森は全く別の様相を呈している。
「これが、人類絶滅後の世界…」
「どっか他も見て回る?」
「いえ、それはゆっくり時間をかけてにします」
アノマさんと二人手をつないでゆっくりと周辺を散歩すると、見慣れない生き物たちがいた。
昆虫だろうか?ただ、哺乳類を全く見かけない。
寒いからか、爬虫類もいないようだ。
「様変わりしてる」
「そんなもんだよ。二千年の間にだって地球はいっぱい変わったんだから…でも、ここから人間みたいな生き物が出てくるまで、きっとゆっくりじっくり変わっていくんだと思うよ」
「そうですね…きっと」
二人で塔に戻り、この後どうするか話し合う。
「一気に魔力を消費して塔を他の生き物に譲ることもできるし、ずっと譲らないことも出来そうだね」
「アノマさんは魔力の低下は大丈夫なんですか?」
「ユイちゃんからも魔力をもらったからか、若返った気分だね」
「そ、そうですか」
「ユイちゃんはどうしたい?」
「ずっと、アノマさんと一緒に居たいです」
「じゃ、その方向で二人でがんばろっか」
「…はい」
どうやら、アノマさんも私に付き合ってくれるらしい。
「ようやく、人を好きになるってわかった気がするよユイちゃん」
「私はずっと好きでしたよアノマさん」
「ふふふーなんだか言葉だけでもくすぐったいねぇ」
私達は今後どれぐらい長い時間この星を見ていくんだろう。
もう地球なんて呼ばない。
私がいる”この星”っていうのが正しいんだなって思う。
アノマさんと二人で管理者として、観測者として…
「そろそろ、終わりの始まりですねぇ」
のほほーんとトワさんが言う。
あった当時は小学生みたいなメイドさんだったが、今では中学生ぐらいの見た目にはなっている。
「じゃあ、塔を縮めちゃいましょう」
アノマさんはそういうと、するっと部屋を出て行った。
私が拡張した地下2階分と、上2階分が瞬く間に消滅し、いまいる1階フロアだけになった。
「さて、ユイちゃんは別の部屋がいい?狭くなるけれど壁作るけど」
「…いえ、アノマさんと一緒の部屋でいいです」
「そう?いやなら直に言ってね」
トワさんがニヨニヨしている。
その顔やめてほしい。
「あ、塔の一つは管理者が放棄しましたけど、もう一つは同じ方向で動くようですよ」
トワさんが突然気が付いたように告げる。
「じゃぁ最悪お友達が残るわね」
「お友達って言っていいんですかねそれ?」
一度も会話したことのない管理者は友達でいいんですかね?
たまにラジオをつけても、噴火のニュースだけしか報道されず、辛気臭い雰囲気が続いていた。
私は何となく購入していた小さなプランターにその辺で取れた花を植える。
「ふーん、それを持ってくことにしたの?」
「え?いえ、なんとなくなんですけれど」
「いいんじゃない?なんとなくって素晴らしい感覚よ」
お花を見たアノマさんがよくわからないことを言ってきた。
別にそれが気に食わないとかじゃないみたいなのでまぁいいや。
アノマさんが整えた部屋は、私が住んでいる部屋をベースに、ベッドがもう一個入った感じの部屋だった。
その代わりに勉強机がなくなった。
「この魔力消費量であれば、耐えられるんじゃないですかね?」
「トワがそういうなら間違いないわね」
「結構いい加減っ」
「まぁ何かあってもお嬢様と、ユイさんで修復し続ければいいんですよ」
あっけらかんというトワさんが怖い。
そんなことにならないほうがいいなぁとは思うんだけれど…
*****
例のニュースから3ヶ月ほどが過ぎると、毎日が曇り空の日になった。
太陽光が遮られているらしい。
「ユイちゃんのお花、このまま元気だといいわねぇ」
「そうですね…こんなに毎日曇り空なんて」
「大きな噴火だったっていうから、たぶんこうなるだろうなとは思っていたけれどね」
一緒に外を見ながら、アノマさんと会話をしている。
あれ以来、一つ屋根の下だけど、ぞれぞれ別のベッドで寝るのも慣れてきていたところに、こんな天気である。
日々暗くなっているようで、なんだか朝がわかりにくくなってきていた。
私の鉢植えの花も心配ではあるが、こうなってくると外の植物も心配だ。
日の光が無くては育たないのではないだろうか?
ラジオからアメリカのニュースは聞こえてこなくなっている。
今は日本国内のニュースばかりだ。
寒冷化で、今年の夏の日照時間や水の酸性度が上がっているとかそんな話をしている。
たまに流れてくる音楽も明るい調子のものが少ない。
なんでも、日本ではロケットを使ってどうやってか地球を脱出しようという計画もあるらしいが、それが間に合うかは議論の余地があると言われている。
どこかほかの星に逃げ延びようということらしいけど、みんなが逃げられるわけじゃないんだよね?それ。
ある日の夜、私は久しぶりに夢を見た。
ずっと昔の子供のころの記憶、両親がまだ元気で、私と一緒に公園で遊んでくれた時の記憶。
あの頃は私はまだ放置されていなかったし、仕事で忙しいと言っても両親とも時間を合わせて私と遊んでくれていた。
なんだかとても楽しかった記憶だけがある。
具体的に何かをしていたかは分からないけれど…
私が目を覚ますと、頬を涙が伝っていた。
「ユイちゃんどうかした?」
不意に声をかけられ、横を向くと、アノマさんがしゃがんでのぞき込んでいた。
「怖い夢でも見たのかな?」
私は首を横に振る。
でも、心がぽっかりと開いてしまったような感覚があって、どうしたらいいかわからなくなっていた。
「よし、ユイちゃん。一緒に寝ようか!」
そういって、アノマさんはあっさりと自分のベッドを消し去り、私が寝ていたベッドをダブルベッドにしてしまった。
「はい、ユイちゃんそっちよってね」
あれよあれよとアノマさんがベッドに入ってくる。
そして、今じゃ私よりも少し背の低いアノマさんは私をぎゅっと抱きしめて、頭をなでてくれる。
「怖い夢でも、寂しい夢でも私が慰めてあげるから安心して寝るといいよ」
気が付いたら、背中をポンポンされている。
妙に子ども扱いされてむずがゆかったけれど、すごく落ち着いてきた私はすぐに眠りに落ちてしまった。
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ユイちゃんは最近私に抱き着かないと寝られないらしい。
なんともかわいらしい家族ができたみたいで、ちょっと面白い。
彼女自身ははじめ恥ずかしがっていたのに、今ではそうしないと眠れないようだ。
「お嬢様は、こういったことに本当に鈍感で…」
トワから小言を言われるが何のことだかわからない。
ユイちゃんが可愛いことには同意しているので特に問題ないが。
そんなある日、徐々に外が灰で白くなりはじめ、ラジオも聞こえなくなったころ、ユイちゃんから思いもよらない言葉をもらった。
「私、アノマさんのことが好きみたいです」
「…ほへ、好き?」
「はい…」
頬を赤く染め、もじもじするユイちゃんを見て”好きってなんだっけ?”と思ってしまった。
そういえば、人は普通子孫を残すために愛をはぐくむなんて聞いていたがそういうことがしたいわけじゃなさそうだ。
「ユイちゃんは可愛いし、素敵だと思うけど、好き?うーん私ユイちゃんを大切には思っているけど好きなのかな?」
「…いえ、アノマさんのことだからそんな気はしていました」
「お嬢様は、事恋愛感情は皆無ですからね」
トワから酷いことを言われた気がする。
私だって恋愛小説ぐらいよむやい!
でも、そういった気持ちとはユイちゃんに抱く感情は違うと思うんだ。
「いいんです。アノマさんにこの気持ちが伝わってなくっても、大切に思ってくれていることはわかるので」
「そ、そう?なんかごめんね?」
「その代わり、もう我慢しないことにします」
なんだかさっぱりした表情でユイちゃんが宣言した。
トワは手を目に当てて上を向いている。
私は訳が分からなかったけど、その日の夜に思い知ることになった。
そういえば、ユイちゃんはそういう経験が豊富なんだった…
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下世話な言い方をすれば、アノマさんに思いを告げて踏ん切りをつけた私は、彼女を美味しくいただくことに決めた。
男からされるのはどれもくすぐったかったり、気持ち悪かったりしかしなかったけれど、自分の体をどうすれば気持ちよくなるかは分かる。
アノマさんだって女性だから同じだと思い実践。
見事にふやけた顔のアノマさんを拝むことができた。
ただ、翌日トワさんから何を言われたのか知らないけれど、アノマさん股間にありえないものが付いていて思わず悲鳴を上げてしまった。
ただ、今まで男とした経験では感じられない快楽を逆に叩き込まれるという事態に陥り、私はその日の夜記憶を飛ばした。
それからしばらく、アノマさんはなんでも「好きという感覚」がわかってきたとのこと。
いや、たぶんそれ違うと思います。
今まで知らなかった肉欲におぼれているだけですよね?
そして、私もそれにおぼれ気味なのでお互い様ですね…ずるくないですかね?私の感じるところを的確に刺激してくるの…そういう経験ないんじゃないんですか?
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気が付くと、常に夜みたいな日が続いており、日にちの感覚がなくなってきています。
愛を告白してからどれぐらいの時間がたったのかわかりません。
もしかしたら、何時までも寝ていたのかもしれませんし、そうでないのかもしれませんが…
「人類の人口ってんですか?が一千万人を下回ったようですよ。そろそろ滅亡ですかね」
トワさんがさらっととんでもないことを言った。
「あらそう?案外早かったわね」
「魔法を忘れ文明と科学を得た人類は科学と文化を失えばあとは滅びるだけですよ?お嬢様」
「そんなもんなのかな?」
「そんなものです」
分厚い窓の外から見える外の景色は、一面真っ白という感じだ。
度々アノマさんと二人で塔に修復魔法をかけているけれど、塔自体に大きな損壊はない。
そんな時、突然地面が大きく揺れ始める。
「あ、地震だねぇ」
「これは大きいですね」
「お二人は何でそんなに冷静なんですかぁ!!」
思わずローテーブルの下に潜り込んだ私だけど、揺れるだけで部屋の物が倒れてきたりとかは何もなかった。
ただ、揺れはすごかった。
私じゃ立っていられなかった…
「なんだったんでしょうか今の…」
「もうしばらく続くんじゃないかな?」
「でしょうね、そろそろ星も本気を出すでしょう」
「海底に沈まなければなんでもいいけどね」
あははとアノマさんとトワさんが笑っています。
好きになった人ではあるけれど、改めてこの二人は人外なんだなって思いました。
私も、もう人のこと言えませんけど…
きっとあれは某巨大地震だったのかもしれません。
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人間が言う愛し合い方を覚えた私は、ちょっと頭が悪くなっていたのでしょう。
トワからは呆れた言葉をかけられたぐらいですから。
ただ、ユイちゃんとのそんな愛し合う行為にふけっていたら、人類の滅亡が間近とのこと。
大きな地震もありましたし、そろそろ星も本気でしょう。
ただ、思っていたよりも、ゆっくりと、じんわりと絶滅に向かっているようで、ちょっと意外でした。
急激に人が減り始めてから、あるところで減り方が鈍化しているのがトワの報告で分かります。
”知恵”っていうのはすごいですね。
そして、生物の生きるってことへの執着も。
私一人だけだったら、ここで満足してしまって最後まで事を見守ることはしなかったかもしれません。
ただ、今はユイちゃんがいます。
ユイちゃんの夢は”再生するこの星を観察する”だそうです。
恐れの塔なんて人間からは呼ばれていましたが、ここはある種箱舟と呼ばれるものなのかもしれません。
私とユイちゃん、お花と、その土に居る微生物しかいませんが。
トワですか?あれは生き物なんですかね?星の意思とかじゃないでしょうか?
未だにその正体は不明です。
いいんですよ、塔の妖精ってことで。
「というわけで、ユイちゃんそろそろこの自堕落な生活もどうかと思うの」
「…他にやることなんてお花に水をやるぐらいしかなくないですか?」
「それはそうなんだけどさ…」
「外の様子でも見られればなぁ」
現在ユイちゃんとベッドでまどろみ中。
お互い服は着ていないけれど…こんなことばかりしているのもどうかと思ったものの、他にやることがないのもまた事実だったりする。
いまじゃラジオも聞こえなくなり無用の長物になり下がった。
「お嬢様方なら、お外に遊びに行っても問題ないと思うんですが?」
「トワさんどういうことですか?」
「魔法で障壁張りながら、瞬間移動を駆使してお散歩すればいいんですよ」
なるほどと思った。
障壁の魔法なんてすっかり忘れていた。
自然災害ぐらいなら障壁の魔法で防げるんだった。
本当に危なければ転移魔法で戻ってくればいいわけだし。
「ユイちゃんは見たいところある?」
「東京の街を見てみたいです」
私達はいそいそと着替えて、早速出かけることにした。
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アノマさんから障壁の魔法を教わった。
私はいつもの白いブラウスと青のセミロングスカートで東京駅の前に一人立っている。
周りに人の気配はない。
いや、うそ、その辺うろうろしているアノマさんがいる。
赤煉瓦の綺麗な建物は、灰色にすすけており周辺の高層ビル群も心なしかくたびれているように見える。
多くの雑居ビルは、地震と灰の重さに耐えきれなかったのか、倒壊している物が多かった。
植物の緑はなく、荒廃した雰囲気が漂う。
もっと、放置された車とか、壊された商店とかがあるかと思ったが、そうでもなかった。
人間が意外と冷静であることと、瞬間的に環境が破壊されたわけではなく、じわじわと蝕んでいったことがわかる。
流石にその辺に人骨が転がっているとかそういうこともなく、ただただ静寂が都市を包み込んでいた。
他にも、よく行かされた新宿や池袋の繁華街、観光名所のタワーなんかを眺める。
ちょっと、アノマさんがアレコレ聞いてきて面白いけれど、なんだか灰色一食の世界でデートしているみたいで面白い。
ショッピングモールはさすがに荒れていたけれど、日用品が全くなくなっている一方で、オシャレ着とかは放置されていた。
天窓なんかが割れて、足元は危ないし、風雨にさらされて洋服やぬいぐるみ、家具なんかは既にダメになっていた。
「人間って生き物は随分発達したんだねぇ」
「アノマさんはこういう大都市には来なかったんですか?」
「人が多いと、魔法を使いにくいからね~」
いろんなところに興味があるのか、本当にさっきからうろうろしているアノマさんが面白い。
たしかに、教えてもらった”お金の魔法”は人前では使いにくいかもしれない。
犯罪じゃんと思ったほどだ。
それに、都市部だと現金より電子マネーが普通になっていたから、確かにアノマさんの見た目と買い方は目立っただろう。
今日もばっちりゴスロリなアノマさんが一つのお店を見て立ち止まる。
「あ、本物初めて見た」
ロリータファッションのお店の前で、なんとも言えない発言が飛び出る。
本物ってアノマさんのあれは何なのだろう?
「こういうお店で見て作ったんじゃないんですか?」
「うんにゃ。私のは雑誌で見ただけ。本当にこういう服売ってるんだねぇ…それ」
アノマさんが何か魔法を唱えると、その店舗だけ突然綺麗になる。
灰色一食だった世界が赤黒白と色鮮やかになる。
「うんうん、やっぱり本物は可愛いね。ちょっと物色しようかな…ユイちゃんもどう?」
「私にそういうのは似合わないと思うんですけど…」
「いいのいいの、ちょっと楽しみましょう」
アノマさんがいい笑顔で服を物色し始める。
本当にこういうデザインが好きなんだなと思た。
私もアノマさんも今は魔法で服を作っているので、本物の服って最近触っていなかった。
私も一つ手に取ってみる。
深緑色で長袖のロリータ服は、滑らかな肌触りで触り心地がいい。
これならアノマさんにも似合うかもしれない。
「アノマさん、これ着てみませんか?」
「ん?いいよーじゃあユイちゃんはこれね」
なんだか青いロリータ服を渡された。フリルが黒なのかコレ。
アノマさんがいそいそとその場で着換え始めたので、私は試着室に入る。
これ着にくい…普通の服の構成はしているけど、いろんなところがひらひらしていて、整えるのが大変だ。
ようやく着替えて外に出ると、アノマさんはすでに着替え終わっていた。
「お、いいねぇユイちゃん!かわいいかわいい。はい、ヘッドドレス」
「あ、アノマさんも可愛いです」
「そう?ありがとう!ふふふー」
服に合わせたヘッドドレスを付けられて、フル装備になる私。
というか服しか渡していなかったのに、アノマさんもタイツから靴からフル装備だ。
きっと洋服に合わせて魔法を使ったんだろう。
「じゃデート再開ね」
そういってアノマさんに手をとられ、誰もいないショッピングモールの散策を再開する。
といっても、世界はほとんど灰色で、私達だけがその場で色をまとっていた。
*****
ユイちゃん曰くのデートから帰ってきた。
人間の文明は随分進んだんだなぁと思う反面、星の力であの建造物たちは壊しきれるのかな?とも思った。
塔の一番近くにある集落は、あんな高い建物なかったから、灰に埋まってしまっているだろうと思うけれど、まだまだその形を保っている建物たちが、この後どうなるのかなと興味がわいた。
けど、ユイちゃんはそうでもなかったみたい。
デート自体は楽しかったようだけど。
「地球がリセットされるのもまだ時間がかかりそうですね」
とはユイちゃんの言葉。
全くその通りだと思う。
となると、ユイちゃんにちょっとした提案をしよう。
「一緒に、生物が復活してくるぐらいまで眠りにつかないってお誘いなのだけど…どう?」
「え?人類が滅ぶところ見なくていいんですか?」
「もうどうせ後はじわじわ減っていくだけだろうし、特に未練はないかな。それにトワ曰く、もう1つ残っている塔は既に仮死状態で眠ってるんだって」
「それって復活できるんですかね?」
「出来るんじゃない?多分」
「うわぁ結構適当」
そのまま消滅してもあんまり悔いは残らないけどね。
「OKしてくれるなら、条件を付けて復活するように魔法をかけようと思うんだけど」
「…私はもう少しアノマさんとダラダラ生活したいです」
「うん、いいよ。無理強いするつもりはないから」
「ありがとうございます…じゃあ、それにも飽きたら眠りにつくって方向にしませんか?」
「いいね!ユイちゃんのそういう思い切りのいいところ好きだよ」
ユイちゃんがぽわんとほほを赤らめる。
うんうん、かわいいな。
「とりあえず、たまにはベッドから出たらどうですお二人とも」
トワがちょっとピリピリしている。
結構自堕落な生活をしていたからね…寝るなら寝ろってやつだよね。
「まぁそんなに長くはならないと思うから、大目に見てよ」
「これ以上大目に見ろと…まぁいいですよ私への魔力がずっと供給されているなら文句は言いませんから」
そういうと、トワはまた消えてしまった。
消えられるのは便利だなぁとおもうけど…さ、またユイちゃんをかわいがろうかな?
*****
目が覚める。
目の前にはアノマさんのお顔がある。
変わらぬ銀髪はつややかで、どれほど時間がったのかわからない。
でも一つ言えることは、アノマさんと愛し合いながら眠りについたこと。
外に植物が根付いたら目覚めましょうという約束で。
「…アノマさん?」
「んっ…」
色っぽい声が漏れて、アノマさんの目が開く。
変わらぬ赤い瞳が私を見つめ返す。
「おはようユイちゃん」
「お、おはようございますアノマさん」
「無事に目覚めたねぇ…外を見てみようか」
アノマさんがゆっくりと体を起こす。
どれぐらい長く寝ていたのかわからないけれど、私も体を起こすことができた。
眠っている間に衰弱するということはなかったらしい。
私はいつもの服装に着替えると、アノマさんもいつものゴスロリ衣装になる。
趣味は変わっていないらしい。
「トワ~いる?」
「はいはい、いますよ。どうしました?」
「私たちが目を覚ましたってことは、星は再生したのよね?」
「そうっすねぇ現在50本ほどの塔が稼働を始めてますよ。ただ、ここともう一カ所以外に人類だった者はいませんけど」
「そうなのね~」
「つまり、人じゃない生物が塔を再建したってことですか?」
「残念ながら知的生物じゃないよ。あれから五百万年ぐらい経ってるけど」
そんなに経ったのか…一度私たちの時代の生物は大量絶滅して、再度生き物たちが復活しているらしいことをトワさんから教わる。
「じゃ、行きましょう」
特に外に危ない生き物は居ないらしく、トワさんからは特に注意事項もなかった。
私とアノマさんが外に出ると、灰とは違う真っ白な風景が広がっていた。
「雪だ…」
「寒冷化したんだねぇ~こんな環境でも太陽は出てるからか、植物は育ってるね」
ツンドラだっけ?そんな感じの針葉樹林がまばらに広がっていた。
眠る前は落葉樹ばかりだった森は全く別の様相を呈している。
「これが、人類絶滅後の世界…」
「どっか他も見て回る?」
「いえ、それはゆっくり時間をかけてにします」
アノマさんと二人手をつないでゆっくりと周辺を散歩すると、見慣れない生き物たちがいた。
昆虫だろうか?ただ、哺乳類を全く見かけない。
寒いからか、爬虫類もいないようだ。
「様変わりしてる」
「そんなもんだよ。二千年の間にだって地球はいっぱい変わったんだから…でも、ここから人間みたいな生き物が出てくるまで、きっとゆっくりじっくり変わっていくんだと思うよ」
「そうですね…きっと」
二人で塔に戻り、この後どうするか話し合う。
「一気に魔力を消費して塔を他の生き物に譲ることもできるし、ずっと譲らないことも出来そうだね」
「アノマさんは魔力の低下は大丈夫なんですか?」
「ユイちゃんからも魔力をもらったからか、若返った気分だね」
「そ、そうですか」
「ユイちゃんはどうしたい?」
「ずっと、アノマさんと一緒に居たいです」
「じゃ、その方向で二人でがんばろっか」
「…はい」
どうやら、アノマさんも私に付き合ってくれるらしい。
「ようやく、人を好きになるってわかった気がするよユイちゃん」
「私はずっと好きでしたよアノマさん」
「ふふふーなんだか言葉だけでもくすぐったいねぇ」
私達は今後どれぐらい長い時間この星を見ていくんだろう。
もう地球なんて呼ばない。
私がいる”この星”っていうのが正しいんだなって思う。
アノマさんと二人で管理者として、観測者として…
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