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43話:新たな任務
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戦いが開けて翌日。
久しぶりにゆっくりお風呂にも入り、ごわついていた髪もきれいさっぱり、体も軽くなって心地よい眠りに就いたおかげでだいぶ体力的に回復した。
ゆっくり休んだおかげか悪夢も見ずに済んだ…のだが、朝食をとった後父に呼び出された。
執務室に入ると、こないだと同じく父と共にベアロン伯爵が向かい合って座っていた。
伯爵に促され私は父の横に座る。
「ミリア嬢には申し訳ない気もするが、新しい任務を与える」
私が父の方をちらりと見ると頷かれた。
どうやらすでに二人の間で話はついているらしい。
現時点では私はお父様の部下でしかないので命令されれば頷くしかないのだが、わざわざ呼び出された理由は何だろうか?
「やってもらいたいのは帝国軍への追撃だ。どうやら君の“狙撃”のおかげで帝国軍副司令官が死亡したようなのだ」
これがその根拠だと勲章が机の上に置かれる。
「帝国軍の勲章だ。第二皇子の率いる帝国軍でこの勲章を持つものは司令官であるゲッテン侯爵と副官であるドボルツキー伯爵しかいない。刻印の通り、ドボルツキー伯爵のモノで間違いないだろう」
勲章裏には名前が彫られており、確かにドボルツキーと記されている。
なるほど、それで誰だか分かったのか。
で、副司令官が射殺されたことで戦線維持が不可能と判断されて帝国軍は一度引いたという訳か。
「そこで、ミリア嬢の狙撃の腕を頼んで帝国軍を追撃してほしい」
その聞かれ方だと拒否権がありそうに聞こえるが、そんなものはない。
私が女性だから儀礼で気を使ってくれているだけなのは顔を見ればわかる。
「問題となるのは補給だ。残念ながら王国軍は大軍を率いての反撃は不可能だ。そのためミリア嬢ほか狙撃ができる兵を単独で動かしたい。
そうなると、当然困るのは補給だ。出来るならどこまで撤退しているのかの調査も含めてお願いしたいのだ」
本当に斥候の仕事だなコレは…しかも大規模な。
「王国第三騎士団からの依頼となる。タリム家からはミリアを含め3名の狙撃兵を出す予定だ」
なるほど、もう父としては話をまとめているのね。
「了解いたしました。すぐにでも追撃の準備を進めます…お父様、行軍については後程ご相談したいのですがよろしいですか?」
「そうしよう。無補給では戦えないからな」
私は二人に挨拶をして部屋を出た。
今回の仕事は長期潜伏が問題となる。
駐留する軍がいればそこに戻ればいいが、今回の任務はそうはいかない。
戻れる拠点はコーラシル砦だけ、帝国国境までは歩き通しで1週間~10日というところだろうか?
その分の物資をもっていかなくてはならないわけだが…
そこはもうルーナに相談しよう。
*****
「というわけで、帝国軍を追撃する任務に就くことになったわ」
ルーナに説明すると難しい顔をされる。
「間違いなく補給が問題になりますね…ミリア様1週間分以上も食料と水、弾薬を持って歩けませんよね?」
「無理ね」
即答である。
まったくもって無理である。
3日分の物資を持って歩くのでさえ精いっぱいだったのだ。しかもルーナと手分けしてだ。
「では、ある程度の量の物資をまとめた小さな拠点を作りながら帝国軍を追うしかありませんね」
なるほど、補給できる拠点を作ってしまうのか。
「私たち以外に2チーム出していただけるとのことですから、それぞれのチームでエリアを決めて拠点を作り、私達が先頭を切るのがいいのではと思います」
つまりルーナは私たちが安全を確保したところに拠点を作り物資を集積、さらに奥に進めたところにさらに構築という形をとるというのだ。
安全が確保できれば、砦から物資を拠点に輸送してもらい、そこからさらに奥の拠点にもっていく。
3日分の物資をもっていって1日進んで拠点を構築、1日分をそこにおいて、戻れば進んだ先に1日分の補給が置かれることになる。
見つからないように偽装は必要だけれど、それなら徐々に進める。
進軍速度は半分になるけれど、十分な食料と水を確保しながら倍の時間で進めるならそのほうが良い。
戦場での体調不良は死を意味するのだから。
この作戦をお父様に上申しよう。
久しぶりにゆっくりお風呂にも入り、ごわついていた髪もきれいさっぱり、体も軽くなって心地よい眠りに就いたおかげでだいぶ体力的に回復した。
ゆっくり休んだおかげか悪夢も見ずに済んだ…のだが、朝食をとった後父に呼び出された。
執務室に入ると、こないだと同じく父と共にベアロン伯爵が向かい合って座っていた。
伯爵に促され私は父の横に座る。
「ミリア嬢には申し訳ない気もするが、新しい任務を与える」
私が父の方をちらりと見ると頷かれた。
どうやらすでに二人の間で話はついているらしい。
現時点では私はお父様の部下でしかないので命令されれば頷くしかないのだが、わざわざ呼び出された理由は何だろうか?
「やってもらいたいのは帝国軍への追撃だ。どうやら君の“狙撃”のおかげで帝国軍副司令官が死亡したようなのだ」
これがその根拠だと勲章が机の上に置かれる。
「帝国軍の勲章だ。第二皇子の率いる帝国軍でこの勲章を持つものは司令官であるゲッテン侯爵と副官であるドボルツキー伯爵しかいない。刻印の通り、ドボルツキー伯爵のモノで間違いないだろう」
勲章裏には名前が彫られており、確かにドボルツキーと記されている。
なるほど、それで誰だか分かったのか。
で、副司令官が射殺されたことで戦線維持が不可能と判断されて帝国軍は一度引いたという訳か。
「そこで、ミリア嬢の狙撃の腕を頼んで帝国軍を追撃してほしい」
その聞かれ方だと拒否権がありそうに聞こえるが、そんなものはない。
私が女性だから儀礼で気を使ってくれているだけなのは顔を見ればわかる。
「問題となるのは補給だ。残念ながら王国軍は大軍を率いての反撃は不可能だ。そのためミリア嬢ほか狙撃ができる兵を単独で動かしたい。
そうなると、当然困るのは補給だ。出来るならどこまで撤退しているのかの調査も含めてお願いしたいのだ」
本当に斥候の仕事だなコレは…しかも大規模な。
「王国第三騎士団からの依頼となる。タリム家からはミリアを含め3名の狙撃兵を出す予定だ」
なるほど、もう父としては話をまとめているのね。
「了解いたしました。すぐにでも追撃の準備を進めます…お父様、行軍については後程ご相談したいのですがよろしいですか?」
「そうしよう。無補給では戦えないからな」
私は二人に挨拶をして部屋を出た。
今回の仕事は長期潜伏が問題となる。
駐留する軍がいればそこに戻ればいいが、今回の任務はそうはいかない。
戻れる拠点はコーラシル砦だけ、帝国国境までは歩き通しで1週間~10日というところだろうか?
その分の物資をもっていかなくてはならないわけだが…
そこはもうルーナに相談しよう。
*****
「というわけで、帝国軍を追撃する任務に就くことになったわ」
ルーナに説明すると難しい顔をされる。
「間違いなく補給が問題になりますね…ミリア様1週間分以上も食料と水、弾薬を持って歩けませんよね?」
「無理ね」
即答である。
まったくもって無理である。
3日分の物資を持って歩くのでさえ精いっぱいだったのだ。しかもルーナと手分けしてだ。
「では、ある程度の量の物資をまとめた小さな拠点を作りながら帝国軍を追うしかありませんね」
なるほど、補給できる拠点を作ってしまうのか。
「私たち以外に2チーム出していただけるとのことですから、それぞれのチームでエリアを決めて拠点を作り、私達が先頭を切るのがいいのではと思います」
つまりルーナは私たちが安全を確保したところに拠点を作り物資を集積、さらに奥に進めたところにさらに構築という形をとるというのだ。
安全が確保できれば、砦から物資を拠点に輸送してもらい、そこからさらに奥の拠点にもっていく。
3日分の物資をもっていって1日進んで拠点を構築、1日分をそこにおいて、戻れば進んだ先に1日分の補給が置かれることになる。
見つからないように偽装は必要だけれど、それなら徐々に進める。
進軍速度は半分になるけれど、十分な食料と水を確保しながら倍の時間で進めるならそのほうが良い。
戦場での体調不良は死を意味するのだから。
この作戦をお父様に上申しよう。
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