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41話:コーラシル砦攻防戦5
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レイノルド・タリムは各防衛隊の報告書に目を通してため息をつく。
「ミシェルから聞いていたとはいえ、戦争は変わったな」
招集され一時的に訓練された平民兵に突撃させ、崩れた軍列に対して騎兵突撃をするのが今までの一般的な戦術だった。
それが、ある程度訓練された常備兵による銃兵が先陣を切り、それだけで戦争の勝敗が決する。
さらには大砲までもが対歩兵装備として使われた。
20年前の戦争では砦攻略用としてのみ使われ、絶大な威力を発揮した大砲は、今では平野での戦いにおいて対人兵器としての威力を示した。
おかげでアルミナ王国軍第三騎士団は壊滅したわけだ。
ブドウ弾の砲撃を受けた部隊に五体満足な兵士はほとんどいなかった。
そして、銃による射撃は訓練された軍人の命をいとも簡単に奪う。
それは此方も同じだった。
タリム再建を始めてからこの砦の拡張工事が行われたわけだが、その計画に妻ミシェルは随分と首を突っ込んだ。
砦本体よりも城壁の形状に気を配り、ただ川にそった形状にするだけでなく、一部は突出させてそれぞれの突出部をカバーできる形状としていた。
そして銃だけでなく大砲類も据え付け、敵攻城兵器に対応し今までの城壁よりも厚みを増した設計とされた。
おかげで従来の城壁よりも高さは低いが、砲撃によるダメージはほとんど受けていない。
相手側は渡河攻撃となるため攻城塔のようなものが使えない上に、こちらの銃や大砲で完全に進軍を阻止できていた。
「今日だけで狙撃兵が約1,000人を死傷させた。銃兵も合わせれば帝国軍の死傷者は3,000を超える。これだけの損害が出ても帝国側は攻撃を続けるだろうか?」
そんな考えがよぎる中、執務室のドアが叩かれる。
入出を許可すると若い伝令兵だった。
「どうした?」
「はっ、帝国軍が撤退を始めたようです」
「そうか…気を抜かず状況を見張れ!」
「はっ!」
伝令兵は部屋を出て行った。
「ようやく撤退を始めたか…とはいえ、こちらから追撃に出ることも難しいだろう」
コーラシル砦の橋を下ろせばすぐにでもこちらから渡河可能だが、木造の橋は今回の戦いで破壊されてしまっている。
それに、渡河後は帝国軍と王国軍は同条件で戦うことになる。
互いの戦力差がそのまま勝敗につながることを考えれば、互に動くことは難しいだろう。
*****
「撤退していきますね」
ルーナが双眼鏡にて敵の動きを確認している。
私が夜の狙撃をしたしばらく後、帝国軍はすべての明かりを消した。
そして突如として撤退が始まった。
もしかすると私が最初に狙撃した将校はかなり上級の将校だったのかもしれない。
「一息付けるわよね?」
「あまり気を抜きすぎてもいけませんが、とりあえずは大丈夫でしょう」
コーラシル川を渡河しようと思った場合、ここより南側は川幅が広く、他の貴族領も砦などで防衛しており攻略はさらに難しくなる。
かといって北側は流れが速いうえに谷となってくるため軍の移動は難しい。
ここでの戦いは20年前の戦争でも分け目となった地だ。
帝国軍は初戦の快進撃で渡河してきたため、タリムの町は略奪されてしまったが、その後王国軍が包囲殲滅した後は川を挟んでのにらみ合いになった。
今回はガリム伯爵領まで帝国軍は攻め入れなかった時点でこれ以上の侵攻は無理だろう。
後はどう押し返すかになってくるのだろう。
「ルーナ、この後どうなると思う?」
「互いに一時休戦状態でしょうが…停戦には至らないでしょうね」
「そうよね…」
月明かりに照らされながら撤退する帝国軍を眺めつつ、私は今後どうなるのか漠然とした不安を抱えていた。
「ミシェルから聞いていたとはいえ、戦争は変わったな」
招集され一時的に訓練された平民兵に突撃させ、崩れた軍列に対して騎兵突撃をするのが今までの一般的な戦術だった。
それが、ある程度訓練された常備兵による銃兵が先陣を切り、それだけで戦争の勝敗が決する。
さらには大砲までもが対歩兵装備として使われた。
20年前の戦争では砦攻略用としてのみ使われ、絶大な威力を発揮した大砲は、今では平野での戦いにおいて対人兵器としての威力を示した。
おかげでアルミナ王国軍第三騎士団は壊滅したわけだ。
ブドウ弾の砲撃を受けた部隊に五体満足な兵士はほとんどいなかった。
そして、銃による射撃は訓練された軍人の命をいとも簡単に奪う。
それは此方も同じだった。
タリム再建を始めてからこの砦の拡張工事が行われたわけだが、その計画に妻ミシェルは随分と首を突っ込んだ。
砦本体よりも城壁の形状に気を配り、ただ川にそった形状にするだけでなく、一部は突出させてそれぞれの突出部をカバーできる形状としていた。
そして銃だけでなく大砲類も据え付け、敵攻城兵器に対応し今までの城壁よりも厚みを増した設計とされた。
おかげで従来の城壁よりも高さは低いが、砲撃によるダメージはほとんど受けていない。
相手側は渡河攻撃となるため攻城塔のようなものが使えない上に、こちらの銃や大砲で完全に進軍を阻止できていた。
「今日だけで狙撃兵が約1,000人を死傷させた。銃兵も合わせれば帝国軍の死傷者は3,000を超える。これだけの損害が出ても帝国側は攻撃を続けるだろうか?」
そんな考えがよぎる中、執務室のドアが叩かれる。
入出を許可すると若い伝令兵だった。
「どうした?」
「はっ、帝国軍が撤退を始めたようです」
「そうか…気を抜かず状況を見張れ!」
「はっ!」
伝令兵は部屋を出て行った。
「ようやく撤退を始めたか…とはいえ、こちらから追撃に出ることも難しいだろう」
コーラシル砦の橋を下ろせばすぐにでもこちらから渡河可能だが、木造の橋は今回の戦いで破壊されてしまっている。
それに、渡河後は帝国軍と王国軍は同条件で戦うことになる。
互いの戦力差がそのまま勝敗につながることを考えれば、互に動くことは難しいだろう。
*****
「撤退していきますね」
ルーナが双眼鏡にて敵の動きを確認している。
私が夜の狙撃をしたしばらく後、帝国軍はすべての明かりを消した。
そして突如として撤退が始まった。
もしかすると私が最初に狙撃した将校はかなり上級の将校だったのかもしれない。
「一息付けるわよね?」
「あまり気を抜きすぎてもいけませんが、とりあえずは大丈夫でしょう」
コーラシル川を渡河しようと思った場合、ここより南側は川幅が広く、他の貴族領も砦などで防衛しており攻略はさらに難しくなる。
かといって北側は流れが速いうえに谷となってくるため軍の移動は難しい。
ここでの戦いは20年前の戦争でも分け目となった地だ。
帝国軍は初戦の快進撃で渡河してきたため、タリムの町は略奪されてしまったが、その後王国軍が包囲殲滅した後は川を挟んでのにらみ合いになった。
今回はガリム伯爵領まで帝国軍は攻め入れなかった時点でこれ以上の侵攻は無理だろう。
後はどう押し返すかになってくるのだろう。
「ルーナ、この後どうなると思う?」
「互いに一時休戦状態でしょうが…停戦には至らないでしょうね」
「そうよね…」
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