35 / 69
35話:母のぬくもりと銃の修理
しおりを挟む
久々にタリム子爵家に帰ってきた。
屋敷の様子は変わらなかったが、町の様子は変わったように思う。
お菓子の町タリムは今や戦争のための後方支援の地となっているようだった。
食料や武器弾薬などの集積場が広場にできており、活気ある市場の雰囲気は失われていた。
「お帰りミリア」
「お帰りなさいませお姉様」
お母様と妹のアイシャに出迎えてもらいながら屋敷に入る。
「ただいま戻りました…お母様ライフルなのですが」
そういって母にライフルを渡す。
既にスコープが外されている銃を見ただけでお母様の顔が険しくなる。
「潜伏中に帝国の暗殺者に襲われました。退けることは出来ましたがミリア様が銃を構えたところを蹴り上げられスコープ等にダメージが入ってしまったようです」
ルーナの説明を聞きながら歪んでいる後部アイアンサイトを確認したり構えてみたりしているお母様の顔がどんどん歪んでいく。
構えた銃を下ろしたあとお母様がフゥと息を吐く。
「ミリアが無事でよかったわ。まさか蹴りでライフルを破壊するような暗殺者が本当にいるとは思わなかったわね」
「壊れたのはスコープとアイアンサイトだけではなかったですか?」
「えぇ、ミリアよく見てみなさい。ストックにもひびが入っているわ、銃身は大丈夫そうだけれど組み直しが必要ね」
「そんなにダメージがあったの…」
「撃てるとは思うけど、長距離で当てることは難しいでしょうね…
問題はスコープ、あれは替えがないのよ」
やっぱり替えはないらしい。
「修理は全くできないのでしょうか?」
「修理はできるでしょうけど、スコープとして使うとなるとすぐには無理ね」
「どうしてですの?」
「望遠鏡としての能力はレンズを直して焦点を合わせればできるわ。でもあのスコープには目盛りが付いていたでしょ?」
確かにレンズには十字の各線に目盛りが付いていた。
距離や風速に合わせてその目盛りをもとに狙いをつけることで必中をだせたわけだけど…
「あの目盛りの調整が大変ってこと?」
「そういうことよ。残念ながらあのライフルに合わせられるスコープはあれしかないの…ウィルお願い」
「かしこまりました、早速修理いたしましょう」
「まずは分解しておいて、本当に銃身にゆがみが無いか確認するわ」
お母様が執事のウィルに私のライフルを渡すと彼はさっそうとロビーを出ていった。
「ミリアは一度しっかり休みなさい。顔色がよくないわ…死線を潜り抜けた影響もあるでしょけれど」
そういってお母様が私を抱きしめてくれる。
その温かさにほっとしたのか思わず涙がこぼれる。
アイシャがそっと涙を拭いてくれた。
「お姉様、大変おつらい経験をされたのですね…」
「アイシャ、領地を守るのが貴族の役目とはいえ、人を殺すというのは並大抵の覚悟ではないのよ」
「お姉様はご立派です」
妹の言葉に何とか頷く。
ご立派なもんか…戦争じゃなければ私は只の人殺しだ。
領の為、市民の為と言ったってやったことには変わりはない…人の作った法の下で罪に問われないだけだ。
*****
一度部屋に戻って、お風呂をいただいて部屋着に着替えた。
久々に家のお風呂に入ったおかげか気持ちが少しだけ楽になった。
「お嬢様、奥様がお呼びです。ライフルの修理がひとまず終わったそうですよ」
「そう、ずいぶん早かったわね…」
そんなに簡単に直るものだったのだろうか?
ストックにヒビがあったということだけれど、予備があったのかな?
とにかく、お母様の部屋へ向かった。
屋敷の様子は変わらなかったが、町の様子は変わったように思う。
お菓子の町タリムは今や戦争のための後方支援の地となっているようだった。
食料や武器弾薬などの集積場が広場にできており、活気ある市場の雰囲気は失われていた。
「お帰りミリア」
「お帰りなさいませお姉様」
お母様と妹のアイシャに出迎えてもらいながら屋敷に入る。
「ただいま戻りました…お母様ライフルなのですが」
そういって母にライフルを渡す。
既にスコープが外されている銃を見ただけでお母様の顔が険しくなる。
「潜伏中に帝国の暗殺者に襲われました。退けることは出来ましたがミリア様が銃を構えたところを蹴り上げられスコープ等にダメージが入ってしまったようです」
ルーナの説明を聞きながら歪んでいる後部アイアンサイトを確認したり構えてみたりしているお母様の顔がどんどん歪んでいく。
構えた銃を下ろしたあとお母様がフゥと息を吐く。
「ミリアが無事でよかったわ。まさか蹴りでライフルを破壊するような暗殺者が本当にいるとは思わなかったわね」
「壊れたのはスコープとアイアンサイトだけではなかったですか?」
「えぇ、ミリアよく見てみなさい。ストックにもひびが入っているわ、銃身は大丈夫そうだけれど組み直しが必要ね」
「そんなにダメージがあったの…」
「撃てるとは思うけど、長距離で当てることは難しいでしょうね…
問題はスコープ、あれは替えがないのよ」
やっぱり替えはないらしい。
「修理は全くできないのでしょうか?」
「修理はできるでしょうけど、スコープとして使うとなるとすぐには無理ね」
「どうしてですの?」
「望遠鏡としての能力はレンズを直して焦点を合わせればできるわ。でもあのスコープには目盛りが付いていたでしょ?」
確かにレンズには十字の各線に目盛りが付いていた。
距離や風速に合わせてその目盛りをもとに狙いをつけることで必中をだせたわけだけど…
「あの目盛りの調整が大変ってこと?」
「そういうことよ。残念ながらあのライフルに合わせられるスコープはあれしかないの…ウィルお願い」
「かしこまりました、早速修理いたしましょう」
「まずは分解しておいて、本当に銃身にゆがみが無いか確認するわ」
お母様が執事のウィルに私のライフルを渡すと彼はさっそうとロビーを出ていった。
「ミリアは一度しっかり休みなさい。顔色がよくないわ…死線を潜り抜けた影響もあるでしょけれど」
そういってお母様が私を抱きしめてくれる。
その温かさにほっとしたのか思わず涙がこぼれる。
アイシャがそっと涙を拭いてくれた。
「お姉様、大変おつらい経験をされたのですね…」
「アイシャ、領地を守るのが貴族の役目とはいえ、人を殺すというのは並大抵の覚悟ではないのよ」
「お姉様はご立派です」
妹の言葉に何とか頷く。
ご立派なもんか…戦争じゃなければ私は只の人殺しだ。
領の為、市民の為と言ったってやったことには変わりはない…人の作った法の下で罪に問われないだけだ。
*****
一度部屋に戻って、お風呂をいただいて部屋着に着替えた。
久々に家のお風呂に入ったおかげか気持ちが少しだけ楽になった。
「お嬢様、奥様がお呼びです。ライフルの修理がひとまず終わったそうですよ」
「そう、ずいぶん早かったわね…」
そんなに簡単に直るものだったのだろうか?
ストックにヒビがあったということだけれど、予備があったのかな?
とにかく、お母様の部屋へ向かった。
0
お気に入りに追加
438
あなたにおすすめの小説
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR
ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。
だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。
無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。
人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。
だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。
自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。
殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

【完結】追放された実は最強道士だった俺、異国の元勇者の美剣女と出会ったことで、皇帝すらも認めるほどまで成り上がる
岡崎 剛柔
ファンタジー
【あらすじ】
「龍信、貴様は今日限りで解雇だ。この屋敷から出ていけ」
孫龍信(そん・りゅうしん)にそう告げたのは、先代当主の弟の孫笑山(そん・しょうざん)だった。
数年前に先代当主とその息子を盗賊団たちの魔の手から救った龍信は、自分の名前と道士であること以外の記憶を無くしていたにもかかわらず、大富豪の孫家の屋敷に食客として迎え入れられていた。
それは人柄だけでなく、常人をはるかに超える武術の腕前ゆえにであった。
ところが先代当主とその息子が事故で亡くなったことにより、龍信はこの屋敷に置いておく理由は無いと新たに当主となった笑山に追放されてしまう。
その後、野良道士となった龍信は異国からきた金毛剣女ことアリシアと出会うことで人生が一変する。
とある目的のためにこの華秦国へとやってきたアリシア。
そんなアリシアの道士としての試験に付き添ったりすることで、龍信はアリシアの正体やこの国に来た理由を知って感銘を受け、その目的を達成させるために龍信はアリシアと一緒に旅をすることを決意する。
またアリシアと出会ったことで龍信も自分の記憶を取り戻し、自分の長剣が普通の剣ではないことと、自分自身もまた普通の人間ではないことを思い出す。
そして龍信とアリシアは旅先で薬士の春花も仲間に加え、様々な人間に感謝されるような行動をする反面、悪意ある人間からの妨害なども受けるが、それらの人物はすべて相応の報いを受けることとなる。
笑山もまた同じだった。
それどころか自分の欲望のために龍信を屋敷から追放した笑山は、落ちぶれるどころか人間として最悪の末路を辿ることとなる。
一方の龍信はアリシアのこの国に来た目的に心から協力することで、巡り巡って皇帝にすらも認められるほど成り上がっていく。
南洋王国冒険綺譚・ジャスミンの島の物語
猫村まぬる
ファンタジー
海外出張からの帰りに事故に遭い、気づいた時にはどことも知れない南の島で幽閉されていた南洋海(ミナミ ヒロミ)は、年上の少年たち相手にも決してひるまない、誇り高き少女剣士と出会う。現代文明の及ばないこの島は、いったい何なのか。たった一人の肉親である妹・茉莉のいる日本へ帰るため、道筋の見えない冒険の旅が始まる。
(全32章です)

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる