8 / 39
~第一章~
第8話 勇者と敵と、時々、オトン
しおりを挟む
モンスターに襲撃された勇者アカデミーは、緊迫したムードに包まれていた。
主にモンスター自体の影響ではなく、いかにも弱そうなモンスターに倒された太郎を人工呼吸で蘇生しようとした網走先生の迫力に対するものである。
パンチパーマで髭面のおっさんにファーストキスを奪われては、太郎だって浮かばれまい。いや、死んでないけど。
「ねー勇者アカデミーの学園長って凄いんでしょ?モンスターくらい倒せないの?」
安倍が網走先生に訊ねる。どうでもいいけどタメ口か。
「確かに学園長の強さは半端やない、けどな」
「なに?」
「学園長はその御老体故か己の力を制御できず、モンスターを倒そうとしたら学園ごと吹き飛ばしてしまうかもしれんのや!」
「ボケてるの!?ボケてるのおじいちゃん!!」
モンスターを倒すのに学園が壊滅してしまったら、そりゃ大問題である。
「うーん、あとワシが使える武器は、ドスにハジキに……」
(はいリアルな武器出たー!)
※ドス=刃物 ハジキ=拳銃
「いや、ここはやっぱり役所の人に駆除して貰った方がええな」
「んなシロアリみたいに!」
どうやらこの世界、モンスターを退治する専門職があるらしい。ってそれが勇者なんじゃないの?
いや、もしかすると勇者の就職先が役所なのかもしれない。なかなか堅実な未来が見えてきたぞ。ある意味安定した職に就きたい太郎にピッタリなんじゃないか?
「なんや、知らんのか?この国の役所にはモンスター討伐課、通称『すぐ殺る課』があるんやで」
「通称が物騒すぎる!」
「電話したらすぐ駆けつけてくれるそうやからもう安心やで」
「安倍、この国の公務員って凄いね……」
「うん……」
どんな世界も世の中を支えているのは平凡なサラリーマンなのかもしれない。
さて、モンスター襲来でゴタゴタの勇者アカデミー。学園長はと言うと壇上でお昼寝中である。どうやら何もしないで座っているうちに眠くなっちゃったらしい。いやあね、おじいちゃん。そんなところで寝ちゃダメでしょ。
すぐ殺る課が来るとは言え、モンスターが校内に居る事に変わりはない。役所の方がお越しくださるまで、どうにかモンスターから逃げなければ。
特にさっき死にかけた太郎は必死である。
「おーい太郎、大発見大発見~♪」
「なんだよ安倍!こんな時に!」
「このモンスター、段差は登れないみたいだぞ」
安倍はちゃっかり学園長の居る檀上に登っていた。文字通り高みの見物である。
「段差とは盲点やったな……」
「まあ、これで少しは安全ですね……」
先程モンスターは身を重ね合い太郎の口へと目掛けてきたので、壇上へ登ってくるのも時間の問題だろう。
しかし、くどいようだがモンスターは動きが鈍いので今のところそうなるには時間がかかりそうである。
ちょっとだけ安心した太郎は網走先生に質問してみた。
「先生、勇者アカデミーの先生はみんな強いんですよね?何故モンスターを倒さないんですか?」
「ああ、それな。確かにここの教師はモンスターと戦うスキルくらい持ってるけどな、学園内にモンスターが現れた場合、いくら倒しても給料は増えへんのや」
「結局金か」
「まあ生徒達が戦った場合は成績にプラスされるんやけどな、今ここに居るのは新入生ばっかやろ?いきなり戦わせるのも酷なもんや。だから今回はすぐ殺る課に頼んだんや」
「そうだったんですね……」
意外と細かく考えている網走先生の話を聞きながら、
(あれ?という事はそのうち俺もモンスターと戦わないといけないんじゃ)
と不安になる太郎であった。
その時、セレモニーホールの外から男の声が響いた。
「こんにちはー!役所の者でーす。すぐ殺る課でーす!」
「おお、役所の人もおいでなすったで!」
男は扉を開け悠々とホールへ入ってきた。その男とは……。
「モンスター駆除しに来ましたー」
「とととと、父さん!!」
そこに居たのは太郎の父、勇者ヒロシであった。バッチリ作業着を着ていかにも何かを駆除しそうな感じで。
「父さん……?」
「た、太郎!」
父と息子、感動の対面……でもないか。今朝別れたばっかりだし。
「うわ!息子に働く父の姿を見られてしまった!恥ずい!」
「恥ずいってあんた……」
「んーでも仕事だしなあ~、働くパピィを見せなくちゃなあ~」
困ったフリをしているがその割には嬉しそうである。どうやら父ヒロシ、息子に活躍の姿を見せたくてたまらないらしい。
「じゃあちょっくら駆除しちゃってもいいですかあ?」
「はい、宜しく頼みますわ」
モンスター駆除っていったいどうやるんだろう……?なんだかんだでちょっと気になる太郎であった。
その時、父ヒロシは驚くべき行動に出た。なんと口から火を吹いてモンスターを焼き討ちし始めたのである!
いや、大抵のギャラリーは駆除の方法ではなく、突然口から火を吹いたドラゴンのおっさんに驚いているのだが。
「ひええええええ!」
あまりにもワイルドな駆除法に、太郎は叫びっぱなしである。
「そーれ汚物は消毒じゃーい!!」
「父さん!あなたは世紀末の男かね!?」
みるみる焼き殺されていくモンスターの姿を見て、改めて勇者と言う職業の恐ろしさに身震いするしかない太郎。
そしてやっぱり、どんなモンスターより父ヒロシが一番凶悪モンスターなんじゃないかと確信するのであった。
【つづく】
主にモンスター自体の影響ではなく、いかにも弱そうなモンスターに倒された太郎を人工呼吸で蘇生しようとした網走先生の迫力に対するものである。
パンチパーマで髭面のおっさんにファーストキスを奪われては、太郎だって浮かばれまい。いや、死んでないけど。
「ねー勇者アカデミーの学園長って凄いんでしょ?モンスターくらい倒せないの?」
安倍が網走先生に訊ねる。どうでもいいけどタメ口か。
「確かに学園長の強さは半端やない、けどな」
「なに?」
「学園長はその御老体故か己の力を制御できず、モンスターを倒そうとしたら学園ごと吹き飛ばしてしまうかもしれんのや!」
「ボケてるの!?ボケてるのおじいちゃん!!」
モンスターを倒すのに学園が壊滅してしまったら、そりゃ大問題である。
「うーん、あとワシが使える武器は、ドスにハジキに……」
(はいリアルな武器出たー!)
※ドス=刃物 ハジキ=拳銃
「いや、ここはやっぱり役所の人に駆除して貰った方がええな」
「んなシロアリみたいに!」
どうやらこの世界、モンスターを退治する専門職があるらしい。ってそれが勇者なんじゃないの?
いや、もしかすると勇者の就職先が役所なのかもしれない。なかなか堅実な未来が見えてきたぞ。ある意味安定した職に就きたい太郎にピッタリなんじゃないか?
「なんや、知らんのか?この国の役所にはモンスター討伐課、通称『すぐ殺る課』があるんやで」
「通称が物騒すぎる!」
「電話したらすぐ駆けつけてくれるそうやからもう安心やで」
「安倍、この国の公務員って凄いね……」
「うん……」
どんな世界も世の中を支えているのは平凡なサラリーマンなのかもしれない。
さて、モンスター襲来でゴタゴタの勇者アカデミー。学園長はと言うと壇上でお昼寝中である。どうやら何もしないで座っているうちに眠くなっちゃったらしい。いやあね、おじいちゃん。そんなところで寝ちゃダメでしょ。
すぐ殺る課が来るとは言え、モンスターが校内に居る事に変わりはない。役所の方がお越しくださるまで、どうにかモンスターから逃げなければ。
特にさっき死にかけた太郎は必死である。
「おーい太郎、大発見大発見~♪」
「なんだよ安倍!こんな時に!」
「このモンスター、段差は登れないみたいだぞ」
安倍はちゃっかり学園長の居る檀上に登っていた。文字通り高みの見物である。
「段差とは盲点やったな……」
「まあ、これで少しは安全ですね……」
先程モンスターは身を重ね合い太郎の口へと目掛けてきたので、壇上へ登ってくるのも時間の問題だろう。
しかし、くどいようだがモンスターは動きが鈍いので今のところそうなるには時間がかかりそうである。
ちょっとだけ安心した太郎は網走先生に質問してみた。
「先生、勇者アカデミーの先生はみんな強いんですよね?何故モンスターを倒さないんですか?」
「ああ、それな。確かにここの教師はモンスターと戦うスキルくらい持ってるけどな、学園内にモンスターが現れた場合、いくら倒しても給料は増えへんのや」
「結局金か」
「まあ生徒達が戦った場合は成績にプラスされるんやけどな、今ここに居るのは新入生ばっかやろ?いきなり戦わせるのも酷なもんや。だから今回はすぐ殺る課に頼んだんや」
「そうだったんですね……」
意外と細かく考えている網走先生の話を聞きながら、
(あれ?という事はそのうち俺もモンスターと戦わないといけないんじゃ)
と不安になる太郎であった。
その時、セレモニーホールの外から男の声が響いた。
「こんにちはー!役所の者でーす。すぐ殺る課でーす!」
「おお、役所の人もおいでなすったで!」
男は扉を開け悠々とホールへ入ってきた。その男とは……。
「モンスター駆除しに来ましたー」
「とととと、父さん!!」
そこに居たのは太郎の父、勇者ヒロシであった。バッチリ作業着を着ていかにも何かを駆除しそうな感じで。
「父さん……?」
「た、太郎!」
父と息子、感動の対面……でもないか。今朝別れたばっかりだし。
「うわ!息子に働く父の姿を見られてしまった!恥ずい!」
「恥ずいってあんた……」
「んーでも仕事だしなあ~、働くパピィを見せなくちゃなあ~」
困ったフリをしているがその割には嬉しそうである。どうやら父ヒロシ、息子に活躍の姿を見せたくてたまらないらしい。
「じゃあちょっくら駆除しちゃってもいいですかあ?」
「はい、宜しく頼みますわ」
モンスター駆除っていったいどうやるんだろう……?なんだかんだでちょっと気になる太郎であった。
その時、父ヒロシは驚くべき行動に出た。なんと口から火を吹いてモンスターを焼き討ちし始めたのである!
いや、大抵のギャラリーは駆除の方法ではなく、突然口から火を吹いたドラゴンのおっさんに驚いているのだが。
「ひええええええ!」
あまりにもワイルドな駆除法に、太郎は叫びっぱなしである。
「そーれ汚物は消毒じゃーい!!」
「父さん!あなたは世紀末の男かね!?」
みるみる焼き殺されていくモンスターの姿を見て、改めて勇者と言う職業の恐ろしさに身震いするしかない太郎。
そしてやっぱり、どんなモンスターより父ヒロシが一番凶悪モンスターなんじゃないかと確信するのであった。
【つづく】
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
『ラノベ作家のおっさん…異世界に転生する』
来夢
ファンタジー
『あらすじ』
心臓病を患っている、主人公である鈴也(レイヤ)は、幼少の時から見た夢を脚色しながら物語にして、ライトノベルの作品として投稿しようと書き始めた。
そんなある日…鈴也は小説を書き始めたのが切っ掛けなのか、10年振りに夢の続きを見る。
すると、今まで見た夢の中の男の子と女の子は、青年の姿に成長していて、自分の書いている物語の主人公でもあるヴェルは、理由は分からないが呪いの攻撃を受けて横たわっていた。
ジュリエッタというヒロインの聖女は「ホーリーライト!デスペル!!」と、仲間の静止を聞かず、涙を流しながら呪いを解く魔法を掛け続けるが、ついには力尽きて死んでしまった。
「へっ?そんな馬鹿な!主人公が死んだら物語の続きはどうするんだ!」
そんな後味の悪い夢から覚め、風呂に入ると心臓発作で鈴也は死んでしまう。
その後、直ぐに世界が暗転。神様に会うようなセレモニーも無く、チートスキルを授かる事もなく、ただ日本にいた記憶を残したまま赤ん坊になって、自分の書いた小説の中の世界へと転生をする。
”自分の書いた小説に抗える事が出来るのか?いや、抗わないと周りの人達が不幸になる。書いた以上責任もあるし、物語が進めば転生をしてしまった自分も青年になると死んでしまう
そう思い、自分の書いた物語に抗う事を決意する。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~
つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。
このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。
しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。
地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。
今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。
けだものだもの~虎になった男の異世界酔夢譚~
ちょろぎ
ファンタジー
神の悪戯か悪魔の慈悲か――
アラフォー×1社畜のサラリーマン、何故か虎男として異世界に転移?する。
何の説明も助けもないまま、手探りで人里へ向かえば、言葉は通じず石を投げられ騎兵にまで追われる有様。
試行錯誤と幾ばくかの幸運の末になんとか人里に迎えられた虎男が、無駄に高い身体能力と、現代日本の無駄知識で、他人を巻き込んだり巻き込まれたりしながら、地盤を作って異世界で生きていく、日常描写多めのそんな物語。
第13章が終了しました。
申し訳ありませんが、第14話を区切りに長期(予定数か月)の休載に入ります。
再開の暁にはまたよろしくお願いいたします。
この作品は小説家になろうさんでも掲載しています。
同名のコミック、HP、曲がありますが、それらとは一切関係はありません。
2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件
後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。
転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。
それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。
これから零はどうなってしまうのか........。
お気に入り・感想等よろしくお願いします!!
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる