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スナゴとこれから
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ちょっと追加説明入れました。
「あの村との付き合いもおわりよ、今の村長たちはいい狗族だけれども、その後が問題よ。こちらからどれだけの物を交換しているのか、分かっていないのだから」
山道を駆け抜けながら、シルヴィアが吐き捨てるような声で言う。
それをなだめる誰かの声。
「落ち着いてくれよ、シルヴィア。あんたが落ち着いて話さなかったら、誰が怒り狂った状態のまま、あんたの両親に怒鳴りに行くんだ」
おれたちだって腹が立ってしょうがない、とまた声。
スナゴはしっかりと乗っている背から落ちないようにがんばっていた。
ここまですごい勢いで、いろんなものを無視して奔る状態の背中に、乗った事が無かったのだ。
トリトンはあれで、スナゴが振り落とされないように極めて気を使っている。
流石トリトン先輩と言っていいが、それとこれとは違う。とにかく皆早く早く、村に帰りたいのだ……
「あれ、交換したものどうするの」
「置き捨てた方がいいわよ。それのつながりで色々言われても業腹、縁っていうのはしっかり断ち切らないと後々もめるでしょ」
「もったいなかったな……あの薬草探すの、ちびたち頑張ってたのに」
「次から隣の村に持っていく分が減るから、雨の中でも探しに行かなくなるわ。トリトン言っていたじゃない。交換の分探しに行くって言って、ちび達がトリトン連れて山の中駆け回ったって。それも匂いが消えやすい雨の中。最後全員トリトンの背中に乗って帰ってきたあれ」
「村長激怒だったあれだな」
「山の主も大激怒していたあれだな。山の主雨でトリトンの親父なくしたんだっけか」
そんな事を言う間に、もう村が見えて来る。皆相当な速さで走ってきたからか、息が上がっていた。
そして村の入り口のあたりに何故かいた、トリトンが目を丸くした。
「あんたら帰ってくるの、明日だって遠吠えで連絡してたじゃないか!」
「父さんに話があるのよ、山の長にも。山の長起こしてきて、トリトン」
シルヴィアが、スナゴが背中から下りていく間に告げる。
何かあったと即座に気付いたトリトンが、黙ってうなずき、家の方に走って行った。
あくる日。村の一同を全員集めて、隣村に言った狗族の話を大体聞いた村長が、あっさりと言った。
「別に軽蔑されてまで、取引したいわけじゃないからな。今回で終わりだ、皆それでいいな?」
「欲しいっていうから色々探していたのにね」
「必要だっていうから、こっちの分も分けていたのに、ずいぶんな言い方をされたものね」
「この村は米より栗と魚と肉と薬草だからな……実は米なくても困らないし」
「物々交換できてたから交換してただけだしなあ、俺たちも一応育ててるし、税のための米」
「でも実際に俺らの所の米、あまりにも出来が悪いってんでもっぱら他の物で税払ってんだろ、薬草とか、干し魚とか、布とかで」
「わりとここら辺の布地って丈夫だから、下級役人の服に重宝するらしいぜ、だから結構大目に見てもらってるって知り合いの友達の役人だった奴が言っていた」
「いつ聞いたんだよ」
「二回前の歌垣できいた。そこで妹の旦那に欲しいって言われたから、妹逆に嫁に来いって言ったら、妹この山の中に来させられない、山歩きむりだって断られた」
スナゴはそこまでの友人が出来ている村人に感心した。スナゴは匂いが変だという理由で、異世界族特有の匂いだから仕方がないのだが、友達は出来なかったのだ。
出来た友達はアシュレイだけだったのだし。
他の所との交流をきちんと持とうとしている、村人えらい。
余所の話もある程度は知らなければ、生き残れないのは当たり前なのだから。
病などがどこまで広がっていたか、という情報や、どの草が効果を発揮したとかも大変に大事な話だ。
何せこの山の中には、他所では手に入らない薬草だったり、他所では群生地なんてできない珍重される木の実だったりが、群生していたりたくさん実っていたりするのだから。
実はこの村が縄張りとしている山は。大変に豊かな山なのだ。
この村の誰もが、他所へ移住しないのもそれが理由の一つである。
なにしろ森狼族なので、暮らすだけだったらこの山の中でも何不自由ないのだ。
皆が大好きなのはお米よりもお肉であるのだし、この山は大変に獣は豊富だし、魚も採れるし、いろんな物が季節ごとに問題なく食べられる。
「食べられる時は食べたいけどね。まあ手に入らないならそれはそれで」
「山だからどんぐりも多いしな」
「食べるものに事欠く事はあんまりないね」
事実でしかないため、スナゴも頷いた。実はこの村は、山の恵みだけで暮らしていけるとんでもない自活力の村なのだ。交易しなくてもやって行けちゃうのだ……本当に自分で食べる物を作れる村は、偉大である。
「じゃあ、どんぐりの食べ方を教えてほしい、俺は狩りの役には立たないから、それを覚えていて問題はない」
アシュレイが子供たちに、大真面目に聞いていた。
「アシュレイは覚えたらどんぐり拾いも上手そう」
「手先の細かい作業上手だもんねー」
「木にも登れるもん」
「皆とは種族が違うから、得意不得意は違うんだ」
子供たちはいつまでもアシュレイにじゃれている。アシュレイがいまだに着替えていないからだ。
着替える隙もなく、村人全員に召集がかかったともいえる。
子供たちは事の重大さはよく分かっていないので、アシュレイのぽんぽこ姿を奪い合っている。
首白狸の大きさは、子供たちが膝に乗せる大きさとしてちょうどいいらしいのだ。
そしてアシュレイは大変にふわふわの毛並みであるがゆえに、大人気になってしまう。
元々何かにつけて、子供たちは着替えて団子のように丸まってじゃれるのが大好きなのだから。
「そうだスナゴ」
トリトンが彼女の方を見て聞く。
「お前も見たか? 出所不明の雄狗族」
出所不明の雄狗族。
そう言われて思いつくのは一件だけ、あの時だけだ。
スナゴはこくりと頷いた。
「……この前、家の簾の前まで来てて」
「は!? なのに誰も気付かなかったのか!?」
村長が驚きの声をあげる。
「何で叫んでくれなかったんだい、そうしたら駆けつけたのに、息子が」
山の主、つまりトリトンの母親が言う。自分ではなくて息子が駆けつけると断言する当たりが、息子に対する信頼である。
息子が村の仲間の危機に駆け付けないわけがない、と信頼しているからこその発言だ。
「かあちゃんに言われないでも駆けつけたぜ! スナゴ、本当にどうしてだ?」
「……だってその狗族、変過ぎたんだもの。トリトン先輩のこと好き? って聞いてきて」
スナゴが正直に言うと、なんだかトリトンの母親が、微笑ましいという顔になった。
べっしん、と何故かトリトンの背中を叩く。なぜそこでトリトン先輩が叩かれるのかわからない物の、彼が文句を言わないため、突っ込まない事にする。
「……その出所不明の狗族の特徴は」
トリトンが、なんとも言えない顔になって、周りの村の仲間がにやける中聞く。
「きれーな緑の眼だったのは確か」
「……あー、スナゴ、そいつだったら絶対に、お前の嫌がる事しないから、大丈夫」
トリトンが、妙に歯切れ悪く言った。
しかし、絶対とまで言うのだから、本当に危害を加える奴ではなかったのだろう。
「トリトン先輩がそこまで言うなら、信じておく」
「しかし、そうとう真面目な狗族だったんだな」
アシュレイが真剣に言う。
「簾の前まできたのに、絶対に中に入ろうとしないで、立っているだけなんて。スナゴが入っていいというまで入らないつもりだったんだろう。誠実な雄だ」
「だったらある程度自己紹介してほしかったよ……不気味だったんだから」
「でもスナゴはアシュレイの婚約者だからな? そこ忘れるなよ」
トリトンがため息交じりに言い、それには誰もが頷いた。
忘れられてはたまらない中身であった。
「あの村との付き合いもおわりよ、今の村長たちはいい狗族だけれども、その後が問題よ。こちらからどれだけの物を交換しているのか、分かっていないのだから」
山道を駆け抜けながら、シルヴィアが吐き捨てるような声で言う。
それをなだめる誰かの声。
「落ち着いてくれよ、シルヴィア。あんたが落ち着いて話さなかったら、誰が怒り狂った状態のまま、あんたの両親に怒鳴りに行くんだ」
おれたちだって腹が立ってしょうがない、とまた声。
スナゴはしっかりと乗っている背から落ちないようにがんばっていた。
ここまですごい勢いで、いろんなものを無視して奔る状態の背中に、乗った事が無かったのだ。
トリトンはあれで、スナゴが振り落とされないように極めて気を使っている。
流石トリトン先輩と言っていいが、それとこれとは違う。とにかく皆早く早く、村に帰りたいのだ……
「あれ、交換したものどうするの」
「置き捨てた方がいいわよ。それのつながりで色々言われても業腹、縁っていうのはしっかり断ち切らないと後々もめるでしょ」
「もったいなかったな……あの薬草探すの、ちびたち頑張ってたのに」
「次から隣の村に持っていく分が減るから、雨の中でも探しに行かなくなるわ。トリトン言っていたじゃない。交換の分探しに行くって言って、ちび達がトリトン連れて山の中駆け回ったって。それも匂いが消えやすい雨の中。最後全員トリトンの背中に乗って帰ってきたあれ」
「村長激怒だったあれだな」
「山の主も大激怒していたあれだな。山の主雨でトリトンの親父なくしたんだっけか」
そんな事を言う間に、もう村が見えて来る。皆相当な速さで走ってきたからか、息が上がっていた。
そして村の入り口のあたりに何故かいた、トリトンが目を丸くした。
「あんたら帰ってくるの、明日だって遠吠えで連絡してたじゃないか!」
「父さんに話があるのよ、山の長にも。山の長起こしてきて、トリトン」
シルヴィアが、スナゴが背中から下りていく間に告げる。
何かあったと即座に気付いたトリトンが、黙ってうなずき、家の方に走って行った。
あくる日。村の一同を全員集めて、隣村に言った狗族の話を大体聞いた村長が、あっさりと言った。
「別に軽蔑されてまで、取引したいわけじゃないからな。今回で終わりだ、皆それでいいな?」
「欲しいっていうから色々探していたのにね」
「必要だっていうから、こっちの分も分けていたのに、ずいぶんな言い方をされたものね」
「この村は米より栗と魚と肉と薬草だからな……実は米なくても困らないし」
「物々交換できてたから交換してただけだしなあ、俺たちも一応育ててるし、税のための米」
「でも実際に俺らの所の米、あまりにも出来が悪いってんでもっぱら他の物で税払ってんだろ、薬草とか、干し魚とか、布とかで」
「わりとここら辺の布地って丈夫だから、下級役人の服に重宝するらしいぜ、だから結構大目に見てもらってるって知り合いの友達の役人だった奴が言っていた」
「いつ聞いたんだよ」
「二回前の歌垣できいた。そこで妹の旦那に欲しいって言われたから、妹逆に嫁に来いって言ったら、妹この山の中に来させられない、山歩きむりだって断られた」
スナゴはそこまでの友人が出来ている村人に感心した。スナゴは匂いが変だという理由で、異世界族特有の匂いだから仕方がないのだが、友達は出来なかったのだ。
出来た友達はアシュレイだけだったのだし。
他の所との交流をきちんと持とうとしている、村人えらい。
余所の話もある程度は知らなければ、生き残れないのは当たり前なのだから。
病などがどこまで広がっていたか、という情報や、どの草が効果を発揮したとかも大変に大事な話だ。
何せこの山の中には、他所では手に入らない薬草だったり、他所では群生地なんてできない珍重される木の実だったりが、群生していたりたくさん実っていたりするのだから。
実はこの村が縄張りとしている山は。大変に豊かな山なのだ。
この村の誰もが、他所へ移住しないのもそれが理由の一つである。
なにしろ森狼族なので、暮らすだけだったらこの山の中でも何不自由ないのだ。
皆が大好きなのはお米よりもお肉であるのだし、この山は大変に獣は豊富だし、魚も採れるし、いろんな物が季節ごとに問題なく食べられる。
「食べられる時は食べたいけどね。まあ手に入らないならそれはそれで」
「山だからどんぐりも多いしな」
「食べるものに事欠く事はあんまりないね」
事実でしかないため、スナゴも頷いた。実はこの村は、山の恵みだけで暮らしていけるとんでもない自活力の村なのだ。交易しなくてもやって行けちゃうのだ……本当に自分で食べる物を作れる村は、偉大である。
「じゃあ、どんぐりの食べ方を教えてほしい、俺は狩りの役には立たないから、それを覚えていて問題はない」
アシュレイが子供たちに、大真面目に聞いていた。
「アシュレイは覚えたらどんぐり拾いも上手そう」
「手先の細かい作業上手だもんねー」
「木にも登れるもん」
「皆とは種族が違うから、得意不得意は違うんだ」
子供たちはいつまでもアシュレイにじゃれている。アシュレイがいまだに着替えていないからだ。
着替える隙もなく、村人全員に召集がかかったともいえる。
子供たちは事の重大さはよく分かっていないので、アシュレイのぽんぽこ姿を奪い合っている。
首白狸の大きさは、子供たちが膝に乗せる大きさとしてちょうどいいらしいのだ。
そしてアシュレイは大変にふわふわの毛並みであるがゆえに、大人気になってしまう。
元々何かにつけて、子供たちは着替えて団子のように丸まってじゃれるのが大好きなのだから。
「そうだスナゴ」
トリトンが彼女の方を見て聞く。
「お前も見たか? 出所不明の雄狗族」
出所不明の雄狗族。
そう言われて思いつくのは一件だけ、あの時だけだ。
スナゴはこくりと頷いた。
「……この前、家の簾の前まで来てて」
「は!? なのに誰も気付かなかったのか!?」
村長が驚きの声をあげる。
「何で叫んでくれなかったんだい、そうしたら駆けつけたのに、息子が」
山の主、つまりトリトンの母親が言う。自分ではなくて息子が駆けつけると断言する当たりが、息子に対する信頼である。
息子が村の仲間の危機に駆け付けないわけがない、と信頼しているからこその発言だ。
「かあちゃんに言われないでも駆けつけたぜ! スナゴ、本当にどうしてだ?」
「……だってその狗族、変過ぎたんだもの。トリトン先輩のこと好き? って聞いてきて」
スナゴが正直に言うと、なんだかトリトンの母親が、微笑ましいという顔になった。
べっしん、と何故かトリトンの背中を叩く。なぜそこでトリトン先輩が叩かれるのかわからない物の、彼が文句を言わないため、突っ込まない事にする。
「……その出所不明の狗族の特徴は」
トリトンが、なんとも言えない顔になって、周りの村の仲間がにやける中聞く。
「きれーな緑の眼だったのは確か」
「……あー、スナゴ、そいつだったら絶対に、お前の嫌がる事しないから、大丈夫」
トリトンが、妙に歯切れ悪く言った。
しかし、絶対とまで言うのだから、本当に危害を加える奴ではなかったのだろう。
「トリトン先輩がそこまで言うなら、信じておく」
「しかし、そうとう真面目な狗族だったんだな」
アシュレイが真剣に言う。
「簾の前まできたのに、絶対に中に入ろうとしないで、立っているだけなんて。スナゴが入っていいというまで入らないつもりだったんだろう。誠実な雄だ」
「だったらある程度自己紹介してほしかったよ……不気味だったんだから」
「でもスナゴはアシュレイの婚約者だからな? そこ忘れるなよ」
トリトンがため息交じりに言い、それには誰もが頷いた。
忘れられてはたまらない中身であった。
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