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第十四話 意外な提案
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「サイヴァのおかげで本当に助かったわ」
「そうだな、牢屋に入れられていたら、この先お先真っ暗もいい所だった」
帰りの馬車の中で、心底安心した、と言いたげな声で、旦那様と奥方様が言う。
サイヴァもほっとしているのだ。これでとにかく、雇い主たちが不幸な目に合う事はない。
とてもいい人たちだから、彼等に何か厄介ごとが降りかかるのが、サイヴァはとても嫌だった。
「お役に立てて本当に良かったです」
「謙遜しなくていいんだ。君があの時魔法の耳飾りを使わなかったら、本当に私たちの未来は保証されなかったんだから」
「でもサイヴァ、あなた一体どこで、麗しの国の住人とのかかわりを持っていたのかしらね」
奥方様が不思議そうだ。サイヴァもそこはよく分かっていない。
だって彼女は、通りを泥まみれで走っていたら、声をかけられただけなのだから。
「サイヴァ」
何か考えたのだろう。旦那様が真面目な声でこう言った。
「あとで出身地を教えてもらえないだろうか、確認したい事がある」
「はい、かしこまりました」
そして屋敷に戻って来ると、先触れが戻って来る事を知らせたのだろう。
玄関の前では、お嬢様が、不安でいっぱいという顔をして待っていた。
馬車が玄関の前につけられ、そこからサイヴァが先に馬車を出て、それから旦那様、奥方様が手を借りて出て来ると、お嬢様が、涙をこらえた顔で、両親に飛びついた。
「お父様、お母様! ああよかった、何事もなくお帰りになられて! 私、とても心配で心配で、何かあったらどうしようとそればかり考えて!!」
「サイヴァのおかげで何事もなく、王女殿下との対面は終わったのよ」
「本当にそうだな、サイヴァがいなかったら今頃どうなっていたか」
「その前に、サイヴァがいなかったらデビュタントも先延ばしになっていた事でしょう」
「終わり良ければ総て良し、といったわけだな、あっはっはっは」
旦那様と奥方様が機嫌よく言うものだから、リリージュは心から安心したらしい。
サイヴァをちらっと見て言う。
「あなた、なかなかやるのね」
「ありがとうございます」
「さて、私は少し調べ物をしたいんだ、ヨハン、後は頼んだぞ」
旦那様が執事に言い、執事がかしこまりました、と頭を下げて、王宮に言って少し疲れたであろう奥方様のために、メイドたちに指示を出す。
サイヴァもそれに続き、ほっとするためのお茶を用意するべく、厨房に向かった。
彼女が力仕事をする、というのはすっかりメイドたちの中では当たり前で、誰も疑問に思わないのである。
サイヴァ自身が全く思わないのだから、それはそうだろう。
彼女はお茶の用意を整え、他の手慣れたメイドたち、エミリーやメアリ達に後を任せる。
今日は奥方様が、お嬢さまとお茶をするつもりなのだ。
娘の顔を見て安心したいのだろう。
サイヴァはそっと扉の向こうに控えて、いざという時すぐに返事が出来るように立って待っていた。
そんな時だ。
使用人の一人がやってきて、彼女に声をかけたのは。
「サイヴァ、旦那様がお呼びだ。急ぎ執務室まで来るように、とのことである」
「わかりました、今すぐに」
「何かしら?」
不思議そうな声で言ったのはジョアンナで、サイヴァも首をかしげて言う。
「何か調べ物があるとおっしゃっていましたから、田舎の私の話が必要なのかもしれません」
「あるわそれ、私も故郷に帰った後は、旦那様に、故郷の状態を聞かれたっけ」
「旦那様は自分で末端まで行けないから、メイドたちからも情報を集めるのよ、不作だとかそう言うの」
ハンナも言うので、サイヴァはとにかく旦那様が待っているから、直ぐに執務室に向かった。
「失礼いたします」
扉を叩き、誰かと聞かれて名乗り、それから挨拶をして扉を開く。
執務室で歯、旦那様が、地図を広げて何かを見ていた。どこか、だろうか。
「サイヴァでございます、御用とはいったい」
「サイヴァの村はここか?」
単刀直入に聞かれて、サイヴァは地図を見て、道を確認し、頷いた。
「はい、ここが私の暮らしていた村に間違いありません」
その地図は、リヴァンストンの領地の中でも、村が細かく書かれている地図で、かなり値打ちものに間違いのないものだった。
地図は貴重なのだ。
それを見て、サイヴァが村の位置を確認すると、旦那様が言う。
「サイヴァ、サイヴァの暮らしていた村には、立ち入り禁止の物置があったと言っていたな、その物置の特徴を、詳しく教えてもらえないか」
変な事を聞くものだ。だが隠しているわけじゃないのだし、もともとサイヴァは採用面接の際に、閉じ込められていた事を話した。
あの謎の声の事は、離していないけれども……言ったのは確かだ。
だから彼女はするすると、物置の特徴を話す。
「物置きなんですけど、四角くなくて、六面で、屋根が村でも珍しい瓦の屋根で、外には渦巻き模様が書かれていて、毎年祭司さんがその模様を描き直すんです。それで、庇があって、村でもかなり立派な造りをした建物でした」
「中に閉じ込められたと言っていただろう、その時の中が見れたか」
「いいえ、明り取りの窓なんてないから、隙間からの光が頼りで、中の様子なんてとても見られませんでした」
それを聞き、旦那様が難しい顔をした後に、彼女の顔を見てこう言った。
「サイヴァ、お前は、私たちの養女になる気はないかね?」
「え、養女……?」
「お前のおかげでリヴァンストンは没落の危機を免れたと言っていいだろう。リリージュの冠を探してきた事といい、我々のために麗しの国の商人を見つけてきた事と言い、立派な心だ。そんなお前を守るために、私はお前を養女にしたいんだ」
「……どうして……ですか?」
サイヴァはいきなりの事に混乱しながら言った。
旦那様が言う。
「お前の忠義に報いたいからだ」
「そうだな、牢屋に入れられていたら、この先お先真っ暗もいい所だった」
帰りの馬車の中で、心底安心した、と言いたげな声で、旦那様と奥方様が言う。
サイヴァもほっとしているのだ。これでとにかく、雇い主たちが不幸な目に合う事はない。
とてもいい人たちだから、彼等に何か厄介ごとが降りかかるのが、サイヴァはとても嫌だった。
「お役に立てて本当に良かったです」
「謙遜しなくていいんだ。君があの時魔法の耳飾りを使わなかったら、本当に私たちの未来は保証されなかったんだから」
「でもサイヴァ、あなた一体どこで、麗しの国の住人とのかかわりを持っていたのかしらね」
奥方様が不思議そうだ。サイヴァもそこはよく分かっていない。
だって彼女は、通りを泥まみれで走っていたら、声をかけられただけなのだから。
「サイヴァ」
何か考えたのだろう。旦那様が真面目な声でこう言った。
「あとで出身地を教えてもらえないだろうか、確認したい事がある」
「はい、かしこまりました」
そして屋敷に戻って来ると、先触れが戻って来る事を知らせたのだろう。
玄関の前では、お嬢様が、不安でいっぱいという顔をして待っていた。
馬車が玄関の前につけられ、そこからサイヴァが先に馬車を出て、それから旦那様、奥方様が手を借りて出て来ると、お嬢様が、涙をこらえた顔で、両親に飛びついた。
「お父様、お母様! ああよかった、何事もなくお帰りになられて! 私、とても心配で心配で、何かあったらどうしようとそればかり考えて!!」
「サイヴァのおかげで何事もなく、王女殿下との対面は終わったのよ」
「本当にそうだな、サイヴァがいなかったら今頃どうなっていたか」
「その前に、サイヴァがいなかったらデビュタントも先延ばしになっていた事でしょう」
「終わり良ければ総て良し、といったわけだな、あっはっはっは」
旦那様と奥方様が機嫌よく言うものだから、リリージュは心から安心したらしい。
サイヴァをちらっと見て言う。
「あなた、なかなかやるのね」
「ありがとうございます」
「さて、私は少し調べ物をしたいんだ、ヨハン、後は頼んだぞ」
旦那様が執事に言い、執事がかしこまりました、と頭を下げて、王宮に言って少し疲れたであろう奥方様のために、メイドたちに指示を出す。
サイヴァもそれに続き、ほっとするためのお茶を用意するべく、厨房に向かった。
彼女が力仕事をする、というのはすっかりメイドたちの中では当たり前で、誰も疑問に思わないのである。
サイヴァ自身が全く思わないのだから、それはそうだろう。
彼女はお茶の用意を整え、他の手慣れたメイドたち、エミリーやメアリ達に後を任せる。
今日は奥方様が、お嬢さまとお茶をするつもりなのだ。
娘の顔を見て安心したいのだろう。
サイヴァはそっと扉の向こうに控えて、いざという時すぐに返事が出来るように立って待っていた。
そんな時だ。
使用人の一人がやってきて、彼女に声をかけたのは。
「サイヴァ、旦那様がお呼びだ。急ぎ執務室まで来るように、とのことである」
「わかりました、今すぐに」
「何かしら?」
不思議そうな声で言ったのはジョアンナで、サイヴァも首をかしげて言う。
「何か調べ物があるとおっしゃっていましたから、田舎の私の話が必要なのかもしれません」
「あるわそれ、私も故郷に帰った後は、旦那様に、故郷の状態を聞かれたっけ」
「旦那様は自分で末端まで行けないから、メイドたちからも情報を集めるのよ、不作だとかそう言うの」
ハンナも言うので、サイヴァはとにかく旦那様が待っているから、直ぐに執務室に向かった。
「失礼いたします」
扉を叩き、誰かと聞かれて名乗り、それから挨拶をして扉を開く。
執務室で歯、旦那様が、地図を広げて何かを見ていた。どこか、だろうか。
「サイヴァでございます、御用とはいったい」
「サイヴァの村はここか?」
単刀直入に聞かれて、サイヴァは地図を見て、道を確認し、頷いた。
「はい、ここが私の暮らしていた村に間違いありません」
その地図は、リヴァンストンの領地の中でも、村が細かく書かれている地図で、かなり値打ちものに間違いのないものだった。
地図は貴重なのだ。
それを見て、サイヴァが村の位置を確認すると、旦那様が言う。
「サイヴァ、サイヴァの暮らしていた村には、立ち入り禁止の物置があったと言っていたな、その物置の特徴を、詳しく教えてもらえないか」
変な事を聞くものだ。だが隠しているわけじゃないのだし、もともとサイヴァは採用面接の際に、閉じ込められていた事を話した。
あの謎の声の事は、離していないけれども……言ったのは確かだ。
だから彼女はするすると、物置の特徴を話す。
「物置きなんですけど、四角くなくて、六面で、屋根が村でも珍しい瓦の屋根で、外には渦巻き模様が書かれていて、毎年祭司さんがその模様を描き直すんです。それで、庇があって、村でもかなり立派な造りをした建物でした」
「中に閉じ込められたと言っていただろう、その時の中が見れたか」
「いいえ、明り取りの窓なんてないから、隙間からの光が頼りで、中の様子なんてとても見られませんでした」
それを聞き、旦那様が難しい顔をした後に、彼女の顔を見てこう言った。
「サイヴァ、お前は、私たちの養女になる気はないかね?」
「え、養女……?」
「お前のおかげでリヴァンストンは没落の危機を免れたと言っていいだろう。リリージュの冠を探してきた事といい、我々のために麗しの国の商人を見つけてきた事と言い、立派な心だ。そんなお前を守るために、私はお前を養女にしたいんだ」
「……どうして……ですか?」
サイヴァはいきなりの事に混乱しながら言った。
旦那様が言う。
「お前の忠義に報いたいからだ」
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