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八話 デビュタントのドレス 後編
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そしてサイヴァが荷物を運び終えて、最後に部屋に戻ると、そこは布地が大量に散らばっていて、そこでリリージュが仮縫いのドレスを着て、立っていた。
たくさんの御針子たちが、裾の長さ、襟の長さ、襟繰りの広さを確認している。
「どうでしょう?」
「そこはもっと短くていいわね」
「こちらは?」
「そんなに短くしたら、つんつるてんじゃないの、考えなさいよ!」
お嬢さまは立ってじっとしている物の、鏡の前で自分が、素敵な衣装に身を包む事に、うれしさを隠せないのだろう。
興奮しているのか、頬が紅色に染まっていてきれいである。
サイヴァは他のメイドたちと同じように、彼女たちから少し離れた位置に立ち、メイド仲間たちの会話を聞く事にした。
「お嬢様とってもきれい」
「あのシルエットは今年の流行りですってね」
「バッスルがきいていますわね」
「裳裾のあの長い事! これで歩いたらきっととても優雅だわ」
「にしてもお嬢様、白いお召し物がお似合いですわね……」
「感動して泣くんじゃありません、今泣いてどうするんです、デビュタント当日に泣くんですよ私たちは!」
こんなやり取りである。サイヴァも、もともと綺麗だったのに、さらに上乗せされたお嬢様の綺麗さに、言葉が出ない位なのだ。彼女よりも長い事、リリージュお嬢さまにお仕えしているメイド仲間たちは、皿に感動ものなのだろう。
「ビーズ刺繍はこの刺繍でお願いね」
「はい」
「レースはどうします? リリージュ、好きなレースを選んでいいわ」
「このお衣装なら、これらのどれかから選ぶとお似合いですよ」
デザイナーが見本のレースを差し出してくる。
リリージュはちょっと考えてから、花模様の美しい、レースを選んだようだった。
「これがいいわ」
「お嬢様はお目が高い、これは今年最新のレースなんですよ」
「冠はどのようなものになりますか?」
お針子さんが問いかける。確かに、これでデビュタントに使う冠とミスマッチだったら、それは悲しい事だろう。
「おばあさまの時代の冠ですわ」
「! それはすばらしい。その時代の冠は、ちょうど、今の流行のドレスにぴったりだと、デザイナーたちは噂しているんですよ」
「あら運がいい事」
そう言われて悪い気はしないだろう。奥方様がにこにこと微笑む。それにしても、美人の奥様も、お嬢様であるリリージュも、華やかな美貌である。二人は似たのだろう。
ただし奥方様は、輝くような金の髪で、お嬢様は宵闇のような漆黒の髪の毛である。
どちらも甲乙つけがたい美しい髪の毛に、間違いはなかった。
サイヴァは内心で、自分もあんなつやつやの髪の毛だったらよかったのに、と少し思う。
サイヴァの髪の毛は、どことなく緑がかった茶髪で、まるで苔むした土の様な色で、さらに手入れがあまりされていない結果、艶もなくくすんだ色なのだ。
村の皆も茶髪が多かったのだが、サイヴァほど変な色の髪の毛はなかったため、サイヴァはミミズだの何だのと、言われる羽目になったわけだった。
そんな事を思っているサイヴァとは違い、デザイナーさんと奥方様が、冠のデザインについて熱心に話し込んでいる。
「それでここに宝石飾りがついているのよ」
「いかにも当時の流行ですね。しかし冠自体は、由緒正しい数百年の歴史が詰まっている形と思われます」
「おばあさまの頃に、宝石をたくさんつけることが流行ったから、冠に追加したと聞くわ」
「それはそれは、大変にきらびやかなものになりますね」
その冠だったらこれをこうしてそっちをこうして、とデザイナーさんがスケッチを描く。
満足げに見つめている奥方様。
リリージュお嬢さまもそのスケッチが見たいご様子だ。
しかし、メイドが先に奥方様たちに、話しかけていいわけがない。
そのためサイヴァは、お嬢さまと視線が合わないかな、と思いつつ、どんどん出来上がっていくドレスを見つめていた。
そうして半日以上の時間をかけて、ドレスの仕上げのデザインの確認、それから使うビーズ刺繍と刺繍とレースの確認が終わり、サイヴァはお針子さんたちが片付けた箱をもう一度馬車に次々と運び入れ、機嫌のいいデザイナーさんたち一行を見送った。
この時サイヴァも、他のメイドたちも、そしてリリージュお嬢さまも奥方様も、当日までには直している最中の冠が、届くはずだと信じていた。
まさかあんな事になるとは、誰も思わなかったのである。
そして当日、奥方様が、メイドから耳打ちされて、信じられない、と声をあげた。
「冠を運んでいた馬車が、賊に襲われて盗まれたですって!?」
たくさんの御針子たちが、裾の長さ、襟の長さ、襟繰りの広さを確認している。
「どうでしょう?」
「そこはもっと短くていいわね」
「こちらは?」
「そんなに短くしたら、つんつるてんじゃないの、考えなさいよ!」
お嬢さまは立ってじっとしている物の、鏡の前で自分が、素敵な衣装に身を包む事に、うれしさを隠せないのだろう。
興奮しているのか、頬が紅色に染まっていてきれいである。
サイヴァは他のメイドたちと同じように、彼女たちから少し離れた位置に立ち、メイド仲間たちの会話を聞く事にした。
「お嬢様とってもきれい」
「あのシルエットは今年の流行りですってね」
「バッスルがきいていますわね」
「裳裾のあの長い事! これで歩いたらきっととても優雅だわ」
「にしてもお嬢様、白いお召し物がお似合いですわね……」
「感動して泣くんじゃありません、今泣いてどうするんです、デビュタント当日に泣くんですよ私たちは!」
こんなやり取りである。サイヴァも、もともと綺麗だったのに、さらに上乗せされたお嬢様の綺麗さに、言葉が出ない位なのだ。彼女よりも長い事、リリージュお嬢さまにお仕えしているメイド仲間たちは、皿に感動ものなのだろう。
「ビーズ刺繍はこの刺繍でお願いね」
「はい」
「レースはどうします? リリージュ、好きなレースを選んでいいわ」
「このお衣装なら、これらのどれかから選ぶとお似合いですよ」
デザイナーが見本のレースを差し出してくる。
リリージュはちょっと考えてから、花模様の美しい、レースを選んだようだった。
「これがいいわ」
「お嬢様はお目が高い、これは今年最新のレースなんですよ」
「冠はどのようなものになりますか?」
お針子さんが問いかける。確かに、これでデビュタントに使う冠とミスマッチだったら、それは悲しい事だろう。
「おばあさまの時代の冠ですわ」
「! それはすばらしい。その時代の冠は、ちょうど、今の流行のドレスにぴったりだと、デザイナーたちは噂しているんですよ」
「あら運がいい事」
そう言われて悪い気はしないだろう。奥方様がにこにこと微笑む。それにしても、美人の奥様も、お嬢様であるリリージュも、華やかな美貌である。二人は似たのだろう。
ただし奥方様は、輝くような金の髪で、お嬢様は宵闇のような漆黒の髪の毛である。
どちらも甲乙つけがたい美しい髪の毛に、間違いはなかった。
サイヴァは内心で、自分もあんなつやつやの髪の毛だったらよかったのに、と少し思う。
サイヴァの髪の毛は、どことなく緑がかった茶髪で、まるで苔むした土の様な色で、さらに手入れがあまりされていない結果、艶もなくくすんだ色なのだ。
村の皆も茶髪が多かったのだが、サイヴァほど変な色の髪の毛はなかったため、サイヴァはミミズだの何だのと、言われる羽目になったわけだった。
そんな事を思っているサイヴァとは違い、デザイナーさんと奥方様が、冠のデザインについて熱心に話し込んでいる。
「それでここに宝石飾りがついているのよ」
「いかにも当時の流行ですね。しかし冠自体は、由緒正しい数百年の歴史が詰まっている形と思われます」
「おばあさまの頃に、宝石をたくさんつけることが流行ったから、冠に追加したと聞くわ」
「それはそれは、大変にきらびやかなものになりますね」
その冠だったらこれをこうしてそっちをこうして、とデザイナーさんがスケッチを描く。
満足げに見つめている奥方様。
リリージュお嬢さまもそのスケッチが見たいご様子だ。
しかし、メイドが先に奥方様たちに、話しかけていいわけがない。
そのためサイヴァは、お嬢さまと視線が合わないかな、と思いつつ、どんどん出来上がっていくドレスを見つめていた。
そうして半日以上の時間をかけて、ドレスの仕上げのデザインの確認、それから使うビーズ刺繍と刺繍とレースの確認が終わり、サイヴァはお針子さんたちが片付けた箱をもう一度馬車に次々と運び入れ、機嫌のいいデザイナーさんたち一行を見送った。
この時サイヴァも、他のメイドたちも、そしてリリージュお嬢さまも奥方様も、当日までには直している最中の冠が、届くはずだと信じていた。
まさかあんな事になるとは、誰も思わなかったのである。
そして当日、奥方様が、メイドから耳打ちされて、信じられない、と声をあげた。
「冠を運んでいた馬車が、賊に襲われて盗まれたですって!?」
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