君と暮らす事になる365日

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依里は指摘されてぎょっとした。まさか玄関続きのキッチンを見るだけで、それが察せられるとは思わなかったのだ。
確かに、変な所をよく見ている事でも知られた幼馴染だったが……まさかのまさかだ。

「ヨリちゃんが段ボールに囲まれて暮らすなんてありえないもの。真新しい段ボールが多いし、何か荷物がたくさん詰められているし。って事は引っ越すんでしょ」

「二年契約が満了になるちょうどいいタイミングだから、引っ越そうと思って」

「なんで?」

「週末になるとわかる」

依里が真顔で言った時だ。なんの偶然か、今日は世間一般では花金と呼ばれる週末である。
不意に隣の部屋から、何か物が大きく倒されるような音が響いた。

「ぎゃ!」

想定外だった幼馴染が、身を縮める。

「隣人が酔っ払って……」

依里が冷静に言葉を続けると、またまた隣の部屋から、高笑いのような、いかにも酔っぱらってます、という声が響いた。
さらにはどんどんがんがん、よろめいて倒れているんだか何だかわからない音も響く。
先ほどまでは静かだったのに、あっという間に騒音に包まれた我が家にため息をつきつつ、依里はこう言ったのだ。

「まともに週末寝れやしない」


「お風呂ありがとう、彼氏君から逃げまわって、もう体中汗臭かったんだ」

「逃げまわる前に話し合いはなかったのか」

「いきなり家にやってきて、一目見たら叫ばれて、さらには台所の刃物を掴んで追い回されたら、話し合いにならないって」

風呂に入って体を温めて、無料動画サイトで体のコリをほぐすストレッチを行っていると、幼馴染は風呂から上がってきた。ちなみに上半身が裸なのは、スーツケースから上に着るものを引っ張り出していないからだろう。
ごそごそとスーツケースをあさっている事からも明らかだ。
依里がちらっと横目で見る、幼馴染の見た目は、まあ、実に整っている。
腹も割れているし、何気に二の腕などの筋肉ががっつりついていて、目の保養になるいい見た目をしている。
幼馴染は、そうなのだ。見た目だけなら本当に褒められるような男なのだ。
これで性格が、通訳を必要とするものでなければいいのに、もったいない男でもあった。
子供の頃は、見た目に数値が全振りされたんじゃないか、と内心で疑った事もある位である。

「二股彼女はどうしたんだ、庇ってくれなかったのか」

依里の言葉に、スウェットをスーツケースから発掘した幼馴染は、哀し気に鼻を鳴らした。

「彼女の中で、僕が言い寄ってきたっていう風に変換されちゃってて。うっかり流されちゃったって涙混じりに言われたら、……誰でも悲しいよ」

「実際は相手がアプローチしてきたんだろう?」

「そうだね、熱心にお店に通って、僕のファンですって言ってアピールして……なのになんで二股だったんだろ、それも僕が二股の相手で、本命じゃないなんて」

「……」

依里は少ししょぼんとしたその頭を、犬を撫でるように乱暴になで回した。

「確かに、あっちの相手の方がお金持ちに見えたんだろうけれど……うん」

「お前仕事の給料相当あるだろ」

「だいたい貯めてる。あとは料理道具を新調したりするのに使ってる」

「お前も結構稼いでんのに、よくまあ元カノに貢がされなかったね」

「本命彼氏の方が貢いでたから、いらなかったんじゃないのかな、僕がプレゼントした物を使って、二股に気付かれたら、元も子もないし」

「そんな泥沼事情は聴きたくなかった」

言いつつ、依里はクッションシートを片付けて、押し入れの中から使っていない布団を引っ張り出した。
とんでもない騒音は今も響いているし、この騒音に関してはあらゆる住人が迷惑しているのだが、不動産は動く気配がなかった。
やる気あんのかよ、と思われる不動産であるが、もうじき引っ越す依里は、忍の一文字である。
この騒音問題が来るまでは、大学時代の友達が遊びに来て、一泊して女子会をしたりしていたのに、この騒音問題の結果、誰も招けなくなった依里である。
慰謝料とれっかな、と思う事も少しはあった。

「やったあ、お布団で寝るなんて久しぶりかもしれない」

「普段何で寝てんだよ……」

「寝袋」
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