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四十六話 卵入り漬物炒めと、具しかない味噌汁
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「色々作っても、こうちょこちょこ余ると、一気に具だくさんの汁物が作りたくなるんだよなあ」
「具がたくさんありすぎて、汁見えなくない?」
「これだけ具ばっかりだと、煮物みたいで食べ応えがあっていいぞ」
「ふうん……ねえ、これ位に切ればいいの? 大きさそろってないんだけど」
「大きさなんて大体目分量でいいだろ、これ位問題ねえさ、さてこれを鍋に入れて、さっき炒めた肉を入れて……」
「ブンブク、出汁入れなくていいの?」
「具の味で出汁が要らねえ汁物なんだよ、出汁がなくってもこれだけ色々入れてあったら、うまいぞぉ」
鶴は、おぼつかない手つきながらも、何とか言われた量の野菜を切り終えて、恐る恐る鍋に入れていった。
ブンブクのように、まな板から直接鍋に入れようとして、結構色々な量の野菜を、調理竈の上に落としてしまったのだが、それらはどうすればいいのだろう。
鶴が戸惑っている間に、ブンブクはそれらを包丁の背でさっとかき集めて、何事もなかったように鍋の中に入れてしまった。
「いいの?」
「床じゃねえし大丈夫大丈夫。それに煮ちまえば、こぼれたのなんてどうでもよくなっちまうものさ。さ、蓋して待とうぜ」
そんなものだろうか。鶴は疑問に思いながらも、言われた通りに蓋をした。
「その間何するの?」
「今日は猪肉と菜っ葉の漬物の炒め物だな、これもうまいぞ」
「菜っ葉の炒め物じゃなくて、漬物の炒め物……?」
「おう。漬物のうま味を肉が吸って、塩気もちゃんとついてるからとっつきやすい。あとから唐辛子入れるのが修二郎の好みだったけど、おいらは唐辛子いらねえな」
ブンブクは冷蔵室から、菜っ葉の漬物を一株も持って来る。
「そんなにいっぱい炒められないでしょ」
「だからここから切り分ける作業から始めるんだ。鶴、そう、そこを切って……」
鶴は株で漬けられた菜っ葉の切り分け方なんて知らなかったものの、ブンブクに言われた通りに包丁の刃を入れて、慎重に切り分けて行く。
そして切り分けた菜っ葉は、ざく切りにするのだが……
「どれくらい」
「肉と同じくらいの大きさだな!」
「定規で測った方がいい?」
「眼で似たような大きさだと思えば十分だろ」
真面目に定規が必要かと思った鶴だが、それはいらないらしい。鶴は調理台の脇に置かれている、猪肉の薄切りの大きさを、目で測った。
そして恐る恐る、菜っ葉を切り分けて行く。
「美味いじゃねえか、よしよし」
そんな事を言いながら、ブンブクは卵をといている。軽快な手首の動きだ。
そして鶴が漬物を切っているのを確認しつつ、ブンブク自体は調理竈に炒め鍋を置き、流れるような手つきで油を回し入れ、猪肉をそこに入れてしまう。
その動きと一連して、炒め物用の木べらが動き回り、肉を程よい色まで炒めて行く。
「鶴、そろそろ漬物いれるぞ」
ブンブクはそう言って声をかけ、鶴が切った漬物を炒め鍋に放り込む。
じゅうじゅう、じゃあじゃあ、と軽快な音を立てる鍋からは、肉の香ばしい匂いと、漬物の程よい酸味の香りが立ち上る。
そこにブンブクは、溶き卵まで投入し、大きくひと混ぜした後、片手で食器棚を指さした。
きっと大皿だろう、と鶴は予想し、大きな皿を出してくると、ブンブクは指さしていた手を鶴の頭に乗せてなで、そのまま大皿を受け取り、肉と漬物と卵の炒め物を、大皿に乗せた。
「そろそろ汁物も出来上がるな、味噌とか溶き入れてくれ」
「うん……」
「最初は誰でも間違うもんだからよ、あんまり肩ひじ張らなくっていいからな」
ブンブクはそう言った物の、鶴は味噌をどれくらい入れればいいのかわからない。
だがとりあえず、ブンブクがいつも入れていた量を思い出し、鶴は何とかおぼつかない手つきながらも、味噌汁の味噌を溶き入れた。
「うまいじゃねえか、結構結構」
卓に大皿を運んだブンブクが、彼女に小皿を渡してくる。
「はじめは味見も必要だぜ、お玉に少し入れて、皿で冷まして味を見るんだ」
言われるがままに味見をしてみて、鶴は小さく呟いた。
「……味が濃い気がする……」
「じゃあ水をちょっと足せばいいからな」
「適当だね」
「ん十年も作ってりゃあ、さじ加減ってのを覚えるってだけだ、あ、そんなに水入れるな、まずはちょっとで味を見ろ」
ブンブクに慌てて止められてしまったので、鶴は計量カップに入れた水の、半分の半分を、取りあえず鍋に注いでみる。
そして味を見ると……
「ちょ、ちょうどいい……」
「よし、これで味見の方法を覚えたな!」
ブンブクは、狸の顔で、楽しそうに笑った。
「具がたくさんありすぎて、汁見えなくない?」
「これだけ具ばっかりだと、煮物みたいで食べ応えがあっていいぞ」
「ふうん……ねえ、これ位に切ればいいの? 大きさそろってないんだけど」
「大きさなんて大体目分量でいいだろ、これ位問題ねえさ、さてこれを鍋に入れて、さっき炒めた肉を入れて……」
「ブンブク、出汁入れなくていいの?」
「具の味で出汁が要らねえ汁物なんだよ、出汁がなくってもこれだけ色々入れてあったら、うまいぞぉ」
鶴は、おぼつかない手つきながらも、何とか言われた量の野菜を切り終えて、恐る恐る鍋に入れていった。
ブンブクのように、まな板から直接鍋に入れようとして、結構色々な量の野菜を、調理竈の上に落としてしまったのだが、それらはどうすればいいのだろう。
鶴が戸惑っている間に、ブンブクはそれらを包丁の背でさっとかき集めて、何事もなかったように鍋の中に入れてしまった。
「いいの?」
「床じゃねえし大丈夫大丈夫。それに煮ちまえば、こぼれたのなんてどうでもよくなっちまうものさ。さ、蓋して待とうぜ」
そんなものだろうか。鶴は疑問に思いながらも、言われた通りに蓋をした。
「その間何するの?」
「今日は猪肉と菜っ葉の漬物の炒め物だな、これもうまいぞ」
「菜っ葉の炒め物じゃなくて、漬物の炒め物……?」
「おう。漬物のうま味を肉が吸って、塩気もちゃんとついてるからとっつきやすい。あとから唐辛子入れるのが修二郎の好みだったけど、おいらは唐辛子いらねえな」
ブンブクは冷蔵室から、菜っ葉の漬物を一株も持って来る。
「そんなにいっぱい炒められないでしょ」
「だからここから切り分ける作業から始めるんだ。鶴、そう、そこを切って……」
鶴は株で漬けられた菜っ葉の切り分け方なんて知らなかったものの、ブンブクに言われた通りに包丁の刃を入れて、慎重に切り分けて行く。
そして切り分けた菜っ葉は、ざく切りにするのだが……
「どれくらい」
「肉と同じくらいの大きさだな!」
「定規で測った方がいい?」
「眼で似たような大きさだと思えば十分だろ」
真面目に定規が必要かと思った鶴だが、それはいらないらしい。鶴は調理台の脇に置かれている、猪肉の薄切りの大きさを、目で測った。
そして恐る恐る、菜っ葉を切り分けて行く。
「美味いじゃねえか、よしよし」
そんな事を言いながら、ブンブクは卵をといている。軽快な手首の動きだ。
そして鶴が漬物を切っているのを確認しつつ、ブンブク自体は調理竈に炒め鍋を置き、流れるような手つきで油を回し入れ、猪肉をそこに入れてしまう。
その動きと一連して、炒め物用の木べらが動き回り、肉を程よい色まで炒めて行く。
「鶴、そろそろ漬物いれるぞ」
ブンブクはそう言って声をかけ、鶴が切った漬物を炒め鍋に放り込む。
じゅうじゅう、じゃあじゃあ、と軽快な音を立てる鍋からは、肉の香ばしい匂いと、漬物の程よい酸味の香りが立ち上る。
そこにブンブクは、溶き卵まで投入し、大きくひと混ぜした後、片手で食器棚を指さした。
きっと大皿だろう、と鶴は予想し、大きな皿を出してくると、ブンブクは指さしていた手を鶴の頭に乗せてなで、そのまま大皿を受け取り、肉と漬物と卵の炒め物を、大皿に乗せた。
「そろそろ汁物も出来上がるな、味噌とか溶き入れてくれ」
「うん……」
「最初は誰でも間違うもんだからよ、あんまり肩ひじ張らなくっていいからな」
ブンブクはそう言った物の、鶴は味噌をどれくらい入れればいいのかわからない。
だがとりあえず、ブンブクがいつも入れていた量を思い出し、鶴は何とかおぼつかない手つきながらも、味噌汁の味噌を溶き入れた。
「うまいじゃねえか、結構結構」
卓に大皿を運んだブンブクが、彼女に小皿を渡してくる。
「はじめは味見も必要だぜ、お玉に少し入れて、皿で冷まして味を見るんだ」
言われるがままに味見をしてみて、鶴は小さく呟いた。
「……味が濃い気がする……」
「じゃあ水をちょっと足せばいいからな」
「適当だね」
「ん十年も作ってりゃあ、さじ加減ってのを覚えるってだけだ、あ、そんなに水入れるな、まずはちょっとで味を見ろ」
ブンブクに慌てて止められてしまったので、鶴は計量カップに入れた水の、半分の半分を、取りあえず鍋に注いでみる。
そして味を見ると……
「ちょ、ちょうどいい……」
「よし、これで味見の方法を覚えたな!」
ブンブクは、狸の顔で、楽しそうに笑った。
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