イカロスのプロペラ

かなたろー

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ドローンレース大会

第34話 思いっきりぶっ飛ばせ!

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 準決勝は、一回戦の第四試合で完走したのはわたし一人だったから、準決勝は三台のレースになった。

 わたしはここでも安全運転をこころがけた。そして一位になった。わたしの後ろには一台のドローンしか走っていなかった。
 わたしは、完走ねらいの安全運転で、決勝に進出した。

「ラッキーだったね」

 遊梨ゆうりがごきげんでハイタッチを求めてくる。

「ラッキーじゃないよ! 作戦勝ち‼︎」

 わたしはムッとしながら、遊梨ゆうりの手を強めにグーでパンチした。まちがいなく、安全運転をすすめてくれた代田だいだくんの作戦勝ちだ。

「いや、完全に斑鳩いかるがの実力だよ」

 代田だいだくんは、遊梨ゆうりの感想も、わたしの感想も否定した。そして、わたしたちにノートパソコンをみせながら言った。

「ほら、タイムが物語っている。さっきの斑鳩いかるがのタイムは、いままで全レースの中で最高のタイムだ。さっきの走りをもう一回やれば、優勝できる可能性は十分にある!」

 ブルブルッ!
 わたしは、武者ぶるいがした。

 ステージ上では、司会の人とほのかさん、あと解説の人が喋っている。ドローンメーカのえらい人らしい。

「ほのかちゃんは、誰を応援するの?」
「もちろん、一回戦で戦った斑鳩いかるが露花ろかちゃんです!」
斑鳩いかるがさんは、準決勝で、今回の最高タイムを出しているんですよね」
「はい。斑鳩いかるが選手は、左腕に障害があって、親指しか動かないのですが、そのハンデをものともしない堂々とした成績です。走りも安定していますし、優勝の本命と言ってもいいかもしれませんよ?」
「本当ですか⁉︎ いやー、がぜん期待しちゃう! 露花ろかちゃんガンバレ‼︎」
「あとは、やはり昨年のチャンピオンの林田はやしだ選手ですね。一回戦からすべて二位フィニッシュなのが不気味です」

 ステージ上では、会話がつづいている。

露花ろか! 本命だってさ!」

 遊梨ゆうりが興奮しながら言った。アリアちゃんも、こくこくとうなずいている。そんなふたりに、わたしは釘をさした。

「あくまで、今のタイムがってことだよ」

 代田だいだくんがうなずいた。

「うん。去年のチャンピオン林田はやしださんも、ずっと安全重視って感じだった。チャンピオンですら、相当に難しいコースなんだと思う」

 わたしは、代田だいだくんに、さっきからずっと悩んでいたことを聞いてみた。

「決勝も安全運転の方がいいかな?」
「わかんない。てか、もう斑鳩いかるがの方が俺なんかよりずっと上手だし、斑鳩いかるがの好きにやったほうがいいよ」

「そっか……」

 わたしは、悩んでいた。いや、本当はもうとっくに、どうしたいかは決まっている。自分の気持ちはハッキリと決まっている。わたしは、もうひと押しが欲しかった。
 アリアちゃんが消えそうな声で聞いてきた。

「……露花ろかさんはどうしたいんですか……」

 アリアちゃんは、顔をまっかにして話をつづけた。

「……そ、その露花ろかさん……代田だいだ先輩に言ってほしい言葉があるんじゃないかなと思って……あ、そ、その……ナマイキ言ってごめんなさい……でも……だって……露花ろかさんは…………ことが………………だし」

 アリアちゃんは、顔を真っ赤にして、本当に真っ赤にして、水色のワンピースのすそをぎゅっとにぎって、消え入りそうな声でつぶやいた。
 最後の言葉はちょっと聞き取れなかった。ちょっと何を言っているか、わからなかったけど、わたしは、アリアちゃんが何を言いたいのか、すごくわかった。ものすごく理解できた。

 ばっしーーーーーーーん!

 突然、背中の後ろでおっきな音がした。
 首をひねると、遊梨ゆうり代田だいだくんの背中を思いっきり引っ叩いていた。

 そして遊梨ゆうりは、代田だいだくんをみながら、あごを「くいっ」てわたしのほうに向けている。代田だいだくんは、「はーーーーっ」って、ものすごくおっきなため息をついて、頭をわしわしとかきむしった。そして、もう一度、「はーーーーーーーーっ」って、もっとおっきなため息をつくと、わたしの目の前に立った。

「そ、その、ドローンは、カンペキに整備しているから……アルミプレートも、斑鳩の筋力があがったから、ラバー素材のすべりどめをつけたのが功を奏していると思う……」

「そーゆーんじゃないと思うんですけどー」

 遊梨ゆうりが棒読みが、代田くんにグサリと刺さる。

「……つ、つまりだ! ガンバレ! 斑鳩いかるが‼︎ 思いっきりぶっ飛ばせ!」

 ブルブルブル!

 わたしは、ふるえた。そして背筋がゾクゾクっとした。
 そして、モヤモヤと心の中でくすぶっていた気持ちが、北風にふき飛ばされたみたいにすっとんでいった。

「うん! 思いっきりぶっ飛ばすね!!」

「さあ、いよいよ決勝線! 選手の入場です!」

 司会の人が、ステージで叫んでいる。
 わたしは、勢いよく車椅子のコントローラーのレバーを前に倒した。 
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