イカロスのプロペラ

かなたろー

文字の大きさ
上 下
32 / 35
ドローンレース大会

第33話 一回戦

しおりを挟む
 大会は波乱の連続だった。
 一回戦で外国の招待選手のふたりがいきなり脱落した。

 夜だし、ステージコースがかなり遠くにあるし、ステージ上でみんなに見つめられながらドローンを操作しないといけない。そしてなにより、このコースがとにもかくにも難しい。

 わたしは、一回戦の最終レース、第四試合だったことに感謝した。
 いきなりこのコースを飛んだら、完走できなかったかもしれない。それくらい、このコースは難しい。

 招待選手のふたりが、クラッシュでリタイアしたのがなによりの証拠だ。

 第一試合と第二試合は、二台がクラッシュ。第三試合でも一台がクラッシュした。みんなどんどん安全運転になっていく。

 つぎはわたしの番だ。わたしは、代田だいだくんと、アリアちゃん、あと遊梨ゆうりといっしょにステージにあがる。
 アリアちゃんがわたしにVRゴーグルをつけてくれて、代田だいだくんがいっしょにわたしのVRゴーグルの視点を確認してくれる。
 遊梨ゆうりは特に何もしないけど、応援は人一倍してくれる。

 わたしはけっこう動く右手で、親指しか動かない左手をつかんだ。そして、胸の高さまで持っていくと、つかんだ左手を手放す。
 力なく落下する左手の親指が、心臓に「トン!」と突き刺さる。そして左手の親指にありったけの力をこめて、「くいっ」っって上にあげる。左手がほんの少しだけ上を向く。
 やってやる。このコースを完走して、準決勝に進むんだ!!

「つづいては、第四レースです」

 観客の歓声が一気に大きくなる。そして、会場は一面真っ赤なペンライトが咲き乱れる。
 アイドルの佐々木ほのかのイメージカラーで、第一コースのイメージカラーだ。

露花ろかちゃん! あと、君たちも!」

 わたしは、ほのかさんに、いきなり声をかけられた。
 ほのかさんは、私の前に右の手の甲を差し出した。わたしと、代田だいだくんとアリアちゃんと遊梨ゆうり、そしてほのかさんと一緒に円陣をくんだ。

 ほのかさんは、大きく息をすってから、

「ひとりじゃない 仲間とともに 高く飛べ! 思いっきり楽しもう!!」

 って叫んだ。

 そしてまるでエンジンがかかったみたいに、ステージへと飛び出していった。

 ブルブルッ!

 わたしは、武者ぶるいをした。わたしの身体もエンジンがかかったんだ!
 エンジンのかかったわたしは、電動の車椅子のコントローラーを思いっきり前に倒してステージに出て行った。観客の視線は、ほとんどほのかさんに向かっている。でも、ちょっとだけ、ちょっとだけだけど、わたしへの視線も感じた。

 第四レースは、わたしと、ほのかさん、そして四十歳くらいのおじさんと、大学生のおにいさん。予選のタイムは、この四組目が一番遅い。
 だから、わたしにだって、充分に勝ち残れるチャンスはある。

「各選手、準備が整ったようです。それでは、一回戦第四試合を開始します」

 司会の人が声をはると、会場はたちまちしずかになる。そして、発音のいい英語のアナウンスが会場に響きわたる。

「ラウンド、ワン……………………ゴー」

 スタートした途端、会場にはまるでゲームのようなBGMが大音量で流れる。そして四台のドローンは一斉に飛び立った。

 うん! スタートは悪くない。わたしは、プロポの右スティックを思い切り前に倒した。最初のスラロームは、チョンチョンと左右に右スティックを細かく倒してすり抜ける。
 そして上部が密閉したゲートをくぐる。

 そして次が最大の難所!

 わたしは、すぐに左スティックを思い切り前に倒す! フルスロットルでドローンを上昇させて、そしてすぐに右スティックを下に倒して折り返す。

 いい感じだ。わたしは二位につけている。目の前には、赤いLEDライトを光らせ
たドローンが飛んでいる。

 ほのかさんだ! すごい! 負けたくない!

 でも、わたしはこのまま二番手につけばいい。
 慌てるな。このまま、このまま、このままだ! わたしはゆっくり息をはきながら、大きなカーブと、ふたつのゲートをくぐる。

 二週目! 突然、ほのかさんのドローンがスラロームにぶつかった。

 え? こんな簡単なところで?

 手が少しふるえる。だめだ落ち着け! 抜かされてもいい! 二位でもいいんだ! わたしは、つとめて安全運転で二週目をゴールした。わたしの前には誰もいなかった。そして、わたしの後ろにもだれもいなかった。

「一位は、斑鳩いかるが選手! 残念ながら三選手はリタイアだ!」

 わたしのゴーグルをアリアちゃんが外してくれる。
 わたしは、ステージの左端に座るほのかさんを見た。

 ほのかさんは。私と目があうとにっこり笑って、胸元で小さく拍手をしてくれた。くちが「おめでとう」って言ってくれている。でも、そのあとほのかさんは、手のひらで目頭をぬぐっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

ホントのキモチ!

望月くらげ
児童書・童話
中学二年生の凜の学校には人気者の双子、樹と蒼がいる。 樹は女子に、蒼は男子に大人気。凜も樹に片思いをしていた。 けれど、大人しい凜は樹に挨拶すら自分からはできずにいた。 放課後の教室で一人きりでいる樹と出会った凜は勢いから告白してしまう。 樹からの返事は「俺も好きだった」というものだった。 けれど、凜が樹だと思って告白したのは、蒼だった……! 今さら間違いだったと言えず蒼と付き合うことになるが――。 ホントのキモチを伝えることができないふたり(さんにん?)の ドキドキもだもだ学園ラブストーリー。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?

待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。 けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た! ……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね? 何もかも、私の勘違いだよね? 信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?! 【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

秘密

阿波野治
児童書・童話
住友みのりは憂うつそうな顔をしている。心配した友人が事情を訊き出そうとすると、みのりはなぜか声を荒らげた。後ろの席からそれを見ていた香坂遥斗は、みのりが抱えている謎を知りたいと思い、彼女に近づこうとする。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

処理中です...