イカロスのプロペラ

かなたろー

文字の大きさ
上 下
23 / 35
才能の開花

第26話 楽しい。楽しい! 楽しい‼︎

しおりを挟む
 わたしは思いっきり、左の親指前に倒した。
 地面に、棒高跳びのポールを突き刺すような感覚が頭の中によぎる。

 フィ~~~~~~~~~~~~~~~~ん!

 ドローンは、きっちり四メートルの高度を保った。

 眼下に、迷路のように入り組んだサバイバルゲームのフィールドが広がっている。わたしは、それを頭の地図の中におしこむと、車椅子に乗って右手で操作した感覚とすり合わせる。

「いくよ!」

 わたしは、思いっきり左指を下に引いて、高度を高さ一メートル五センチに合わせる。わたしが車椅子に乗っている時の目線だ。わたしは右スティックを前に倒した。
 ドローンはたちまち加速する。いつも部活で使っているホビー用のドローンとは大違いだ。でも、スピードが早いだけだ。わたしは、前に倒した右スティックをゆるめながら、左スティックを思いっきり右に倒す。ドローンは、減速しながらわたしの思い通りに右折をした。

 次のカーブは、直角だから一旦止まって左旋回。わたしは四メートルの高さで見下ろした平面の画面と、車椅子を走らせて体で覚えさせた立体の地図を頭の中でくっつけてドローンを操作した。まるでドローンに自分が乗り込んだみたいだ。

 楽しい。楽しい! 楽しい‼︎

 わたしは、夢中でコースを一周した。次はもっとスピードを上げよう‼︎ あの直角カーブも全速で突っ込んで、旋回じゃなくってそのまま横移動すればもっとスムーズに移動できる。

 楽しい。楽しい! 楽しい‼︎

 もっと上手く飛べる。わたしはもっとドローンになりきれる。わたしは、無我夢中でコースをもう一周すると、ドローンをわたしの足元にゆっくりと着地させて、右手でゴーグルをはぎとった。

 身体がちょっとフワフワする。楽しかった。本当に楽しかった。

斑鳩いかるが、マジか! プロ並みだろ!」
露花ろかさん……すごいです……」
露花ろか、バッチリ撮影したよ」
斑鳩いかるがさんのドローンが早すぎて、上手く撮影できているか心配だよ」

 みんなが口々に驚いている。わたしはちょっと興奮がとまらなくて、愛想笑いしかできなかった。
 わたしのあとに、今度はアリアちゃんもドローンを飛ばした。アリアちゃんのドローン操作は、やっぱり丁寧。最初に、天井近くまで飛んで全景を撮影してから、着実にコースを一周した。

 コースを跳び終わって、ゴーグルを外したアリアちゃんは、汗をびっしょりかいていた。

「……これ……ぼくは無理です……露花ろかさんや代田先輩みたいにスピードをだすのは……怖くて……」
「アリアは、どっちかというと空撮向きかもしれない」

 代田くんは、代田くんとわたし、あとアリアちゃんが操作したカメラ画像ファイルを、三つ同時再生してくれた。

「たしかに、アリアちゃんの映像は見ていて気持ち悪くならないかも」

 わたしが感想を述べる。

「てか、代田くんと露花ろかの映像が気持ち悪いんだって、よくこれつけて平気でいられるよね……」

 遊梨ゆうりが信じられないって顔をする。

「でも、これで決まったな。うちの代表は斑鳩いかるがだ」
「え? 代田くんとわたし、タイム同じくらいじゃない?」

 わたしが言うと、代田くんが首を降った。

「全然違うよ、全然。俺はコースを一周できていない。ちゃんと一周しようとしたら、アリアくらい慎重に飛ぶ必要がある。それに、これはチーム戦でもあるんだ。操作するドローンは、他のメカニックがチューニングしてもいいらしいから。むしろ俺はそっちをやりたい」

 代田くんはそう言うと、わたしの目をまっすぐ見た。

「頼む、斑鳩いかるがが出場してくれ」

 わたしは、考えるまでもなかった。自由に飛べるんだ。こんなにうれしいことはない。

「うん! あ、でも書類選考通らないと参加できないよね……」
「あぁ。だからこっから先は斑鳩いかるがだけが飛んでくれ。その動画を編集して、七月末のしめきにに提出するから!」

 ブルブルッ!

 緊張じゃない。もちろん七月に寒いわけがない。それなのに、なぜだかわたしの身体はふるえていた。
 わたしはこのふるえを経験したことがある。これは、棒高跳びで四メートルをジャンプをする前に感じたふるえと全く同じだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オオカミ少女と呼ばないで

柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。 空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように―― 表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

ホントのキモチ!

望月くらげ
児童書・童話
中学二年生の凜の学校には人気者の双子、樹と蒼がいる。 樹は女子に、蒼は男子に大人気。凜も樹に片思いをしていた。 けれど、大人しい凜は樹に挨拶すら自分からはできずにいた。 放課後の教室で一人きりでいる樹と出会った凜は勢いから告白してしまう。 樹からの返事は「俺も好きだった」というものだった。 けれど、凜が樹だと思って告白したのは、蒼だった……! 今さら間違いだったと言えず蒼と付き合うことになるが――。 ホントのキモチを伝えることができないふたり(さんにん?)の ドキドキもだもだ学園ラブストーリー。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?

待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。 けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た! ……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね? 何もかも、私の勘違いだよね? 信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?! 【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!

氷鬼司のあやかし退治

桜桃-サクランボ-
児童書・童話
 日々、あやかしに追いかけられてしまう女子中学生、神崎詩織(かんざきしおり)。  氷鬼家の跡取りであり、天才と周りが認めているほどの実力がある男子中学生の氷鬼司(ひょうきつかさ)は、まだ、詩織が小さかった頃、あやかしに追いかけられていた時、顔に狐の面をつけ助けた。  これからは僕が君を守るよと、その時に約束する。  二人は一年くらいで別れることになってしまったが、二人が中学生になり再開。だが、詩織は自身を助けてくれた男の子が司とは知らない。  それでも、司はあやかしに追いかけられ続けている詩織を守る。  そんな時、カラス天狗が現れ、二人は命の危険にさらされてしまった。  狐面を付けた司を見た詩織は、過去の男の子の面影と重なる。  過去の約束は、二人をつなぎ止める素敵な約束。この約束が果たされた時、二人の想いはきっとつながる。  一人ぼっちだった詩織と、他人に興味なく冷たいと言われている司が繰り広げる、和風現代ファンタジーここに開幕!!

処理中です...