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わたしは飛べる!
第25話 必殺のルーティーン
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わたしは、校長先生にスマホの使い方を教えている代田くんを見ながら言った。
「ちょっと、コースを下見していい?」
「あぁ。もうしばらくかかりそうだから、その方がいいと思う」
わたしは、代田くんの返事を背中に受けながら、右手のコントローラーで車椅子を走らせた。
フィールドは、教室の二つ分くらい。この施設では一番小さい施設らしい。プレハブづくりで、ベニヤの板で作った敷居がそこかしこにあって、コンクリートで立てた公園の公衆トイレくらいの大きさの小屋が中央にたっている。
そして、百三十センチ十センチくらい? のところに、不自然に穴があいてある。ここ穴からモデルガンを出して、打つのかな?
とにかく、狭い道がたくさん作られてあって、サバイバルゲームをするために、専用につくられたんだなって感じ。
そしてこの障害物の散らばり具合が、ドローンの練習にもうってつけに思えた。動画で見たドローンレースの大会も、こんな会場で試合をしていたし。
わたしは、わりと念入りにフィールドの下見を済ませると、みんながいる場所にもどった。
「お、撮れてる、代田くん、斑鳩さんがしっかりと撮れているよ」
校長先生は、フィールドを下見しているわたしをずっと撮影していたらしい。
わたしは、代田くんと一緒に、校長先生が撮影してくれた動画を観た。
「……露花さんだ」
「なになに? これ校長先生が撮ったの?」
ふたりでおしゃべりしていた。アリアちゃんと、遊梨も加わった。
「ふーん、露花かわいく撮れてるじゃない。とくに、これ、ひかりが差し込んでちょっと幻想的。校長先生、結構センスある!」
「いやー? それほどでも?」
遊梨の感想に、校長先生は胸をはる。
「車椅子の少女の、どこかはかなげな感じがすっごくいい!」
目をまん丸に光らせて、ニヨニヨと口のはしっこを上げながら続けた。
「代田くん、この動画は永久保存版かな?」
ちょ! 遊梨! なんてこと言うのよ。遊梨はニヨニヨしながら、わたしにめくばせする。そんなオセッカイ良いってば。マジで余計なおせっかいだから。
そんな遊梨の言葉に気がついたか気が付かないのか、代田くんは、そっけなく答えた。
「そうだな……そうする」
え? どういうこと⁇
わたしは、耳まで赤くなるのがわかる。そして遊梨はニヨニヨしながら、わたしの耳元でこっそりささやいた。
(露花、あれは脈ありだよ!)
よ、余計なお世話よ!
で、でも、ちょっと、いや、かなりうれしかった。ひょっとしたら、わたしの想いは、完全な一方通行でもないのかもしれない……。
わたしは、代田くんを見た。慣れた手つきでVRゴーグルをつけている。
「じゃあ、とりあえず、フィールド一周してみる」
わたしは、ノートパソコンの画面を観た。ドローンは、ゆっくりとしたスピードで飛んでいる。そしてスマホをかまえた遊梨と校長先生を移した後、コースを一周すると、ノートパソコンを観ているわたしとアリアちゃんを映した。
ドローンは、わたしの上空を通過すると、ノートパソコンの前でホバリングする。わたしとアリアちゃんがノートパソコンにうつった。初めてVRゴーグルをつけた時も思ったけど、自分が映るのってへんな感じだ。スマホの自撮りとは随分と雰囲気が違う。そして、わたしと一緒に映っているアリアちゃんを見て、アリアちゃんはやっぱりカワイイなって思った。
今日のアリアちゃんは、私服だ。そしてその私服がカワイさに拍車をかけている。水色のフリルいっぱいのふわふわのワンピース。いわゆるロリータ服。しかも甘ロリだ。着る人を本当に選ぶ服。わたしじゃあ、絶対に似合わない。うらやましい……。
「じゃあ、次は、速度上げてみるから!」
そう言うと、代田くんのドローンは、一気に速度をあげた。小さなドローンはたちまち羽音を高音でうならせる。ぞくぞくした。わたしは、校庭を飛んだ時のことを思い出した。あの時の高揚感を思い出した。わたしは、やっぱりこっちの方がすき。ドローン目線で操作する方が好き。その時だった。
「しまった!」
VRゴーグルをつけた代田くんが叫んだと思ったら、ノートパソコンの画面が大きく乱れた。
「きゃああ!」
アリアちゃんが思わず目を閉じる。
ドローンが障害物にぶつかったのだ。ノートパソコンは、地面と天井を激しく交互に移して、そして最後に地面を移して動かなくなった。
「うーん、やっぱり速度をあげると曲がりきれないか……」
代田くんは、ゴーグルを外しながら、
「つぎ。どっちがやる?」
と、訪ねてきた。
「……ぼくは、さいごで……」
アリアちゃんが消え去りそうな声でつぶやく。
「じゃあ、わたしがやるね」
「了解。プロポの操作モードを変えるよ。校長先生、スマホちょっと貸して」
そう言うと、代田くんは校長先生から受け取ったスマホにコードを挿して、プロポをつなげた。操作方法を〝モード1〟から、わたし専用の〝モード2〟に変更するためだ。左スティックでスロットル……上昇と下降をコントロールする操作モードだ。
わたしは、代田くんが設定をしている間にVRゴーグルをかぶった。視線が地面スレスレになる。ドローンの置いている場所だ。
わたしは「ふううううう」とゆっくり息をはくと、けっこう動く右手で、親指しか動かない左手をつかんだ。そして、胸の高さまで持っていくと、つかんだ左手を手放す。
力なく落下する左手の親指が、心臓に「トン!」と突き刺さる。そして左手の親指にありったけの力をこめて、「くいっ」って上にあげる。左手がほんの少しだけ上を向く。
わたしの体の中に、わたしの左親指が埋め込まれていく感覚。わたしはこれで、このルーティーンで道具と一体となる。このルーティーンで四メートルも飛んだんだ。このルーティーンは、必殺のルーティーンなんだ。
「斑鳩、設定終わったよ」
そう言うと、代田くんは、車椅子に取り付けたアルミのテーブルの上においてある、わたしの両手にそっとプロボを置いてくれた。わたしは、そっと両手をスティックの上にあてがう。
「じゃあ、始めるね!」
わたしは思いっきり、左の親指前に倒した。
「ちょっと、コースを下見していい?」
「あぁ。もうしばらくかかりそうだから、その方がいいと思う」
わたしは、代田くんの返事を背中に受けながら、右手のコントローラーで車椅子を走らせた。
フィールドは、教室の二つ分くらい。この施設では一番小さい施設らしい。プレハブづくりで、ベニヤの板で作った敷居がそこかしこにあって、コンクリートで立てた公園の公衆トイレくらいの大きさの小屋が中央にたっている。
そして、百三十センチ十センチくらい? のところに、不自然に穴があいてある。ここ穴からモデルガンを出して、打つのかな?
とにかく、狭い道がたくさん作られてあって、サバイバルゲームをするために、専用につくられたんだなって感じ。
そしてこの障害物の散らばり具合が、ドローンの練習にもうってつけに思えた。動画で見たドローンレースの大会も、こんな会場で試合をしていたし。
わたしは、わりと念入りにフィールドの下見を済ませると、みんながいる場所にもどった。
「お、撮れてる、代田くん、斑鳩さんがしっかりと撮れているよ」
校長先生は、フィールドを下見しているわたしをずっと撮影していたらしい。
わたしは、代田くんと一緒に、校長先生が撮影してくれた動画を観た。
「……露花さんだ」
「なになに? これ校長先生が撮ったの?」
ふたりでおしゃべりしていた。アリアちゃんと、遊梨も加わった。
「ふーん、露花かわいく撮れてるじゃない。とくに、これ、ひかりが差し込んでちょっと幻想的。校長先生、結構センスある!」
「いやー? それほどでも?」
遊梨の感想に、校長先生は胸をはる。
「車椅子の少女の、どこかはかなげな感じがすっごくいい!」
目をまん丸に光らせて、ニヨニヨと口のはしっこを上げながら続けた。
「代田くん、この動画は永久保存版かな?」
ちょ! 遊梨! なんてこと言うのよ。遊梨はニヨニヨしながら、わたしにめくばせする。そんなオセッカイ良いってば。マジで余計なおせっかいだから。
そんな遊梨の言葉に気がついたか気が付かないのか、代田くんは、そっけなく答えた。
「そうだな……そうする」
え? どういうこと⁇
わたしは、耳まで赤くなるのがわかる。そして遊梨はニヨニヨしながら、わたしの耳元でこっそりささやいた。
(露花、あれは脈ありだよ!)
よ、余計なお世話よ!
で、でも、ちょっと、いや、かなりうれしかった。ひょっとしたら、わたしの想いは、完全な一方通行でもないのかもしれない……。
わたしは、代田くんを見た。慣れた手つきでVRゴーグルをつけている。
「じゃあ、とりあえず、フィールド一周してみる」
わたしは、ノートパソコンの画面を観た。ドローンは、ゆっくりとしたスピードで飛んでいる。そしてスマホをかまえた遊梨と校長先生を移した後、コースを一周すると、ノートパソコンを観ているわたしとアリアちゃんを映した。
ドローンは、わたしの上空を通過すると、ノートパソコンの前でホバリングする。わたしとアリアちゃんがノートパソコンにうつった。初めてVRゴーグルをつけた時も思ったけど、自分が映るのってへんな感じだ。スマホの自撮りとは随分と雰囲気が違う。そして、わたしと一緒に映っているアリアちゃんを見て、アリアちゃんはやっぱりカワイイなって思った。
今日のアリアちゃんは、私服だ。そしてその私服がカワイさに拍車をかけている。水色のフリルいっぱいのふわふわのワンピース。いわゆるロリータ服。しかも甘ロリだ。着る人を本当に選ぶ服。わたしじゃあ、絶対に似合わない。うらやましい……。
「じゃあ、次は、速度上げてみるから!」
そう言うと、代田くんのドローンは、一気に速度をあげた。小さなドローンはたちまち羽音を高音でうならせる。ぞくぞくした。わたしは、校庭を飛んだ時のことを思い出した。あの時の高揚感を思い出した。わたしは、やっぱりこっちの方がすき。ドローン目線で操作する方が好き。その時だった。
「しまった!」
VRゴーグルをつけた代田くんが叫んだと思ったら、ノートパソコンの画面が大きく乱れた。
「きゃああ!」
アリアちゃんが思わず目を閉じる。
ドローンが障害物にぶつかったのだ。ノートパソコンは、地面と天井を激しく交互に移して、そして最後に地面を移して動かなくなった。
「うーん、やっぱり速度をあげると曲がりきれないか……」
代田くんは、ゴーグルを外しながら、
「つぎ。どっちがやる?」
と、訪ねてきた。
「……ぼくは、さいごで……」
アリアちゃんが消え去りそうな声でつぶやく。
「じゃあ、わたしがやるね」
「了解。プロポの操作モードを変えるよ。校長先生、スマホちょっと貸して」
そう言うと、代田くんは校長先生から受け取ったスマホにコードを挿して、プロポをつなげた。操作方法を〝モード1〟から、わたし専用の〝モード2〟に変更するためだ。左スティックでスロットル……上昇と下降をコントロールする操作モードだ。
わたしは、代田くんが設定をしている間にVRゴーグルをかぶった。視線が地面スレスレになる。ドローンの置いている場所だ。
わたしは「ふううううう」とゆっくり息をはくと、けっこう動く右手で、親指しか動かない左手をつかんだ。そして、胸の高さまで持っていくと、つかんだ左手を手放す。
力なく落下する左手の親指が、心臓に「トン!」と突き刺さる。そして左手の親指にありったけの力をこめて、「くいっ」って上にあげる。左手がほんの少しだけ上を向く。
わたしの体の中に、わたしの左親指が埋め込まれていく感覚。わたしはこれで、このルーティーンで道具と一体となる。このルーティーンで四メートルも飛んだんだ。このルーティーンは、必殺のルーティーンなんだ。
「斑鳩、設定終わったよ」
そう言うと、代田くんは、車椅子に取り付けたアルミのテーブルの上においてある、わたしの両手にそっとプロボを置いてくれた。わたしは、そっと両手をスティックの上にあてがう。
「じゃあ、始めるね!」
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