イカロスのプロペラ

かなたろー

文字の大きさ
上 下
20 / 35
才能の開花

第21話 才能の開花

しおりを挟む
「よーい! スタート!」

 三台のドローンは一斉には羽音をならして浮き上がった。

 わたしは、左の親指でスティックをおもいっきり上に押し上げる。ドローンは急速に浮き上がってドンピシャで机に乗せた椅子の高さになった。

 調子いい!

 わたしは、すぐさま右スティックでドローンを前進させて、机の上に置かれた椅子をくぐりぬける。

 次は左の親指を思いっきり下に動かす。握力が弱いから、さっきよりも、もっと思いっきり!
 するとドローンは、面白いくらいピタリと椅子の高さで停止した。

 わたしは、右スティックをずっと上に入れて前進する。
 そして、左スティックを左右にちょんちょんと入れて最短ルートで、三つの机をくぐり抜けて、最後にほんのちょっとだけ左スティックを下に入れて高度を下げると、右スティックを思い切り倒して、全速力で二つの椅子のど真ん中をくぐり抜けた。

 わたしの圧勝だ。

 え? なにこれ? 面白いくらい思い通りに動かせる。

「えーと、露花ろかの勝利……で、いいんだよね?」
「あ、ああ……」

 代田だいだくんが、ポカンと答えた。

「……すごい……」

 アリアちゃんも消えるような声で驚いた。

「え? なにこれ?」

 最後にわたしも、声にだして驚いた。まるで、左スティックが、自分の体の一部になったみたい。

「うん、予想通り、いや予想以上か! もう一試合、いや、いつものように三セット先取でやってみよう。磐田、またスタートの合図たのむ」
「うん! ヨーイ! スタート!」

 結局、二回やってもおんなじだった。わたしは、ぶっちぎりで一位になった。手を、アルミの台につけるだけで、左の親指が面白いようにドローンを操れる。それに、ちっとも疲れない。手の甲がアルミの板に固定されて、余分な力が入らないからだ。

「すごいです! 露花ろかさん! カッコイイ‼︎」
「あ、ありがとう」

 アリアちゃんが、突然おっきな声をだした。アリアちゃん、こんなおっきな声出せるんだ。 

「やっぱり、斑鳩いかるがはドローンを操作する才能がある! あのとき、はじめてドローンを飛ばした時とおんなじだ! おれが、左手を支えていたときのフライトと一緒だ」

 あのとき……そっか、代田だいだくんが、片膝をついて王子様みたいにわたしの左手を、やさしくささえてくれた時のことを……わたしはドローン越しに、VRゴーグル越しに、その映像を見た時のことを思い出した。多分だけど、わたしはあの瞬間から代田だいだくんを好きになったのだと思う……。

「ん? なになに? その左手を支えるって」

 遊梨ゆうりが、耳ざとくニヨニヨと質問をする。

斑鳩いかるがさ、初めてドローンを操作した時から、めちゃくちゃ上手かったんだよ。最初は、ビキナーズラックかなって思ったんだけど、なんか違うんだよな。度胸が違うって言うか……で、ずっと考えていたんだ。多分、ホールドがしっかりすればいいんだって。特に左手の」

「左手?」

「そう、左手。斑鳩いかるがの左手は、ドローンを操作するのに最適なんだと思う。スロットル操作って本当に繊細だからさ。ちょっとでもスロットルを入れすぎると、浮き上がりすぎちまう。でも斑鳩いかるがの左手はほとんど動かないから、ドローンを操作するのには、最適なんだと思う。
 斑鳩いかるがは俺たちと違って左手がほとんど動かないからうらやましい……」
代田だいだ先輩!」

 興奮して喋る代田だいだくんを、アリアちゃんがいきなりおっきな声でさえぎった。さっきよりももっとおっきな声。こんなにおっきな声が出るんだ。

「それ、差別ですよ! 障害者差別‼︎」

 アリアちゃんは、すっごい顔して、代田だいだくんをにらんだ。
 え? どういうこと?

「あ~うん。ワタシもちょっと感じた。ちょっと……露花ろかの気持ちというか、はいりょに に欠ける?」

 遊梨ゆうりもアリアちゃんにつづいた。〝配慮〟だなんて。ふだんの遊梨ゆうりからは絶対に出てこない言葉だ。

「そうです! よりにもよって、『左手が動かないからうらやましい』だなんて! ハンディキャップが嬉しいだなんて……普通じゃないことがうらやましいだなんて……いくらなんでも露花ろかさんに失礼です!」

 アリアちゃんは、怒っていた。顔を真っ赤にして怒っていた。
 そして、アリアちゃんが起こっている理由がちょっとだけわかった。だってアリアちゃんも、ちょっと変わっている自分の身体の事で、なやんできたはずだから。

 顔を真っ赤にして怒っているアリアちゃんを見て、自分が言っていることに気が付いた、代田だいだくんははっとして顔が青ざめた。

「そっか、ご、ごめん、斑鳩いかるが、俺、アホだわ。お前の気持ちなんてちっとも考えてなかった。ごめん。本当にごめん」

 代田だいだくんは、わたしに向かって、キッチリと九十度に体を曲げて、頭を下げてあやまった。

 わたしは、なんとも言えない複雑な気持ちになってしまった。

 ちがうよ……代田だいだくんは、わたしのことをちっともわかっていない。
 遊梨ゆうりも、わたしのことをちっともわかっていない。
 そして、わたしのために起こってくれたアリアちゃんも、やっぱり、わたしのことをちっともわかっていない。
 だれも、わたしのことをわかっていない。だから、言った。言ってやった。

「ぜんぜんへいきだよ。むしろ、うれしい!」

 みんなが、ビックリしている。「え?」って顔をしている。うーん……どう説明すればいいんだろう……頭がぐるぐるする。とても一言では言えっこない。だから、わたしはあきらめて全部言うことにした。

 わたしの……斑鳩いかるが露花ろかという女の子の性格を、あきらめて全部言うことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

ホントのキモチ!

望月くらげ
児童書・童話
中学二年生の凜の学校には人気者の双子、樹と蒼がいる。 樹は女子に、蒼は男子に大人気。凜も樹に片思いをしていた。 けれど、大人しい凜は樹に挨拶すら自分からはできずにいた。 放課後の教室で一人きりでいる樹と出会った凜は勢いから告白してしまう。 樹からの返事は「俺も好きだった」というものだった。 けれど、凜が樹だと思って告白したのは、蒼だった……! 今さら間違いだったと言えず蒼と付き合うことになるが――。 ホントのキモチを伝えることができないふたり(さんにん?)の ドキドキもだもだ学園ラブストーリー。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?

待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。 けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た! ……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね? 何もかも、私の勘違いだよね? 信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?! 【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!

氷鬼司のあやかし退治

桜桃-サクランボ-
児童書・童話
 日々、あやかしに追いかけられてしまう女子中学生、神崎詩織(かんざきしおり)。  氷鬼家の跡取りであり、天才と周りが認めているほどの実力がある男子中学生の氷鬼司(ひょうきつかさ)は、まだ、詩織が小さかった頃、あやかしに追いかけられていた時、顔に狐の面をつけ助けた。  これからは僕が君を守るよと、その時に約束する。  二人は一年くらいで別れることになってしまったが、二人が中学生になり再開。だが、詩織は自身を助けてくれた男の子が司とは知らない。  それでも、司はあやかしに追いかけられ続けている詩織を守る。  そんな時、カラス天狗が現れ、二人は命の危険にさらされてしまった。  狐面を付けた司を見た詩織は、過去の男の子の面影と重なる。  過去の約束は、二人をつなぎ止める素敵な約束。この約束が果たされた時、二人の想いはきっとつながる。  一人ぼっちだった詩織と、他人に興味なく冷たいと言われている司が繰り広げる、和風現代ファンタジーここに開幕!!

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

秘密

阿波野治
児童書・童話
住友みのりは憂うつそうな顔をしている。心配した友人が事情を訊き出そうとすると、みのりはなぜか声を荒らげた。後ろの席からそれを見ていた香坂遥斗は、みのりが抱えている謎を知りたいと思い、彼女に近づこうとする。

処理中です...