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才能の開花
第21話 才能の開花
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「よーい! スタート!」
三台のドローンは一斉には羽音をならして浮き上がった。
わたしは、左の親指でスティックをおもいっきり上に押し上げる。ドローンは急速に浮き上がってドンピシャで机に乗せた椅子の高さになった。
調子いい!
わたしは、すぐさま右スティックでドローンを前進させて、机の上に置かれた椅子をくぐりぬける。
次は左の親指を思いっきり下に動かす。握力が弱いから、さっきよりも、もっと思いっきり!
するとドローンは、面白いくらいピタリと椅子の高さで停止した。
わたしは、右スティックをずっと上に入れて前進する。
そして、左スティックを左右にちょんちょんと入れて最短ルートで、三つの机をくぐり抜けて、最後にほんのちょっとだけ左スティックを下に入れて高度を下げると、右スティックを思い切り倒して、全速力で二つの椅子のど真ん中をくぐり抜けた。
わたしの圧勝だ。
え? なにこれ? 面白いくらい思い通りに動かせる。
「えーと、露花の勝利……で、いいんだよね?」
「あ、ああ……」
代田くんが、ポカンと答えた。
「……すごい……」
アリアちゃんも消えるような声で驚いた。
「え? なにこれ?」
最後にわたしも、声にだして驚いた。まるで、左スティックが、自分の体の一部になったみたい。
「うん、予想通り、いや予想以上か! もう一試合、いや、いつものように三セット先取でやってみよう。磐田、またスタートの合図たのむ」
「うん! ヨーイ! スタート!」
結局、二回やってもおんなじだった。わたしは、ぶっちぎりで一位になった。手を、アルミの台につけるだけで、左の親指が面白いようにドローンを操れる。それに、ちっとも疲れない。手の甲がアルミの板に固定されて、余分な力が入らないからだ。
「すごいです! 露花さん! カッコイイ‼︎」
「あ、ありがとう」
アリアちゃんが、突然おっきな声をだした。アリアちゃん、こんなおっきな声出せるんだ。
「やっぱり、斑鳩はドローンを操作する才能がある! あのとき、はじめてドローンを飛ばした時とおんなじだ! おれが、左手を支えていたときのフライトと一緒だ」
あのとき……そっか、代田くんが、片膝をついて王子様みたいにわたしの左手を、やさしくささえてくれた時のことを……わたしはドローン越しに、VRゴーグル越しに、その映像を見た時のことを思い出した。多分だけど、わたしはあの瞬間から代田くんを好きになったのだと思う……。
「ん? なになに? その左手を支えるって」
遊梨が、耳ざとくニヨニヨと質問をする。
「斑鳩さ、初めてドローンを操作した時から、めちゃくちゃ上手かったんだよ。最初は、ビキナーズラックかなって思ったんだけど、なんか違うんだよな。度胸が違うって言うか……で、ずっと考えていたんだ。多分、ホールドがしっかりすればいいんだって。特に左手の」
「左手?」
「そう、左手。斑鳩の左手は、ドローンを操作するのに最適なんだと思う。スロットル操作って本当に繊細だからさ。ちょっとでもスロットルを入れすぎると、浮き上がりすぎちまう。でも斑鳩の左手はほとんど動かないから、ドローンを操作するのには、最適なんだと思う。
斑鳩は俺たちと違って左手がほとんど動かないからうらやましい……」
「代田先輩!」
興奮して喋る代田くんを、アリアちゃんがいきなりおっきな声でさえぎった。さっきよりももっとおっきな声。こんなにおっきな声が出るんだ。
「それ、差別ですよ! 障害者差別‼︎」
アリアちゃんは、すっごい顔して、代田くんをにらんだ。
え? どういうこと?
「あ~うん。ワタシもちょっと感じた。ちょっと……露花の気持ちというか、はいりょに に欠ける?」
遊梨もアリアちゃんにつづいた。〝配慮〟だなんて。ふだんの遊梨からは絶対に出てこない言葉だ。
「そうです! よりにもよって、『左手が動かないからうらやましい』だなんて! ハンディキャップが嬉しいだなんて……普通じゃないことがうらやましいだなんて……いくらなんでも露花さんに失礼です!」
アリアちゃんは、怒っていた。顔を真っ赤にして怒っていた。
そして、アリアちゃんが起こっている理由がちょっとだけわかった。だってアリアちゃんも、ちょっと変わっている自分の身体の事で、なやんできたはずだから。
顔を真っ赤にして怒っているアリアちゃんを見て、自分が言っていることに気が付いた、代田くんははっとして顔が青ざめた。
「そっか、ご、ごめん、斑鳩、俺、アホだわ。お前の気持ちなんてちっとも考えてなかった。ごめん。本当にごめん」
代田くんは、わたしに向かって、キッチリと九十度に体を曲げて、頭を下げてあやまった。
わたしは、なんとも言えない複雑な気持ちになってしまった。
ちがうよ……代田くんは、わたしのことをちっともわかっていない。
遊梨も、わたしのことをちっともわかっていない。
そして、わたしのために起こってくれたアリアちゃんも、やっぱり、わたしのことをちっともわかっていない。
だれも、わたしのことをわかっていない。だから、言った。言ってやった。
「ぜんぜんへいきだよ。むしろ、うれしい!」
みんなが、ビックリしている。「え?」って顔をしている。うーん……どう説明すればいいんだろう……頭がぐるぐるする。とても一言では言えっこない。だから、わたしはあきらめて全部言うことにした。
わたしの……斑鳩露花という女の子の性格を、あきらめて全部言うことにした。
三台のドローンは一斉には羽音をならして浮き上がった。
わたしは、左の親指でスティックをおもいっきり上に押し上げる。ドローンは急速に浮き上がってドンピシャで机に乗せた椅子の高さになった。
調子いい!
わたしは、すぐさま右スティックでドローンを前進させて、机の上に置かれた椅子をくぐりぬける。
次は左の親指を思いっきり下に動かす。握力が弱いから、さっきよりも、もっと思いっきり!
するとドローンは、面白いくらいピタリと椅子の高さで停止した。
わたしは、右スティックをずっと上に入れて前進する。
そして、左スティックを左右にちょんちょんと入れて最短ルートで、三つの机をくぐり抜けて、最後にほんのちょっとだけ左スティックを下に入れて高度を下げると、右スティックを思い切り倒して、全速力で二つの椅子のど真ん中をくぐり抜けた。
わたしの圧勝だ。
え? なにこれ? 面白いくらい思い通りに動かせる。
「えーと、露花の勝利……で、いいんだよね?」
「あ、ああ……」
代田くんが、ポカンと答えた。
「……すごい……」
アリアちゃんも消えるような声で驚いた。
「え? なにこれ?」
最後にわたしも、声にだして驚いた。まるで、左スティックが、自分の体の一部になったみたい。
「うん、予想通り、いや予想以上か! もう一試合、いや、いつものように三セット先取でやってみよう。磐田、またスタートの合図たのむ」
「うん! ヨーイ! スタート!」
結局、二回やってもおんなじだった。わたしは、ぶっちぎりで一位になった。手を、アルミの台につけるだけで、左の親指が面白いようにドローンを操れる。それに、ちっとも疲れない。手の甲がアルミの板に固定されて、余分な力が入らないからだ。
「すごいです! 露花さん! カッコイイ‼︎」
「あ、ありがとう」
アリアちゃんが、突然おっきな声をだした。アリアちゃん、こんなおっきな声出せるんだ。
「やっぱり、斑鳩はドローンを操作する才能がある! あのとき、はじめてドローンを飛ばした時とおんなじだ! おれが、左手を支えていたときのフライトと一緒だ」
あのとき……そっか、代田くんが、片膝をついて王子様みたいにわたしの左手を、やさしくささえてくれた時のことを……わたしはドローン越しに、VRゴーグル越しに、その映像を見た時のことを思い出した。多分だけど、わたしはあの瞬間から代田くんを好きになったのだと思う……。
「ん? なになに? その左手を支えるって」
遊梨が、耳ざとくニヨニヨと質問をする。
「斑鳩さ、初めてドローンを操作した時から、めちゃくちゃ上手かったんだよ。最初は、ビキナーズラックかなって思ったんだけど、なんか違うんだよな。度胸が違うって言うか……で、ずっと考えていたんだ。多分、ホールドがしっかりすればいいんだって。特に左手の」
「左手?」
「そう、左手。斑鳩の左手は、ドローンを操作するのに最適なんだと思う。スロットル操作って本当に繊細だからさ。ちょっとでもスロットルを入れすぎると、浮き上がりすぎちまう。でも斑鳩の左手はほとんど動かないから、ドローンを操作するのには、最適なんだと思う。
斑鳩は俺たちと違って左手がほとんど動かないからうらやましい……」
「代田先輩!」
興奮して喋る代田くんを、アリアちゃんがいきなりおっきな声でさえぎった。さっきよりももっとおっきな声。こんなにおっきな声が出るんだ。
「それ、差別ですよ! 障害者差別‼︎」
アリアちゃんは、すっごい顔して、代田くんをにらんだ。
え? どういうこと?
「あ~うん。ワタシもちょっと感じた。ちょっと……露花の気持ちというか、はいりょに に欠ける?」
遊梨もアリアちゃんにつづいた。〝配慮〟だなんて。ふだんの遊梨からは絶対に出てこない言葉だ。
「そうです! よりにもよって、『左手が動かないからうらやましい』だなんて! ハンディキャップが嬉しいだなんて……普通じゃないことがうらやましいだなんて……いくらなんでも露花さんに失礼です!」
アリアちゃんは、怒っていた。顔を真っ赤にして怒っていた。
そして、アリアちゃんが起こっている理由がちょっとだけわかった。だってアリアちゃんも、ちょっと変わっている自分の身体の事で、なやんできたはずだから。
顔を真っ赤にして怒っているアリアちゃんを見て、自分が言っていることに気が付いた、代田くんははっとして顔が青ざめた。
「そっか、ご、ごめん、斑鳩、俺、アホだわ。お前の気持ちなんてちっとも考えてなかった。ごめん。本当にごめん」
代田くんは、わたしに向かって、キッチリと九十度に体を曲げて、頭を下げてあやまった。
わたしは、なんとも言えない複雑な気持ちになってしまった。
ちがうよ……代田くんは、わたしのことをちっともわかっていない。
遊梨も、わたしのことをちっともわかっていない。
そして、わたしのために起こってくれたアリアちゃんも、やっぱり、わたしのことをちっともわかっていない。
だれも、わたしのことをわかっていない。だから、言った。言ってやった。
「ぜんぜんへいきだよ。むしろ、うれしい!」
みんなが、ビックリしている。「え?」って顔をしている。うーん……どう説明すればいいんだろう……頭がぐるぐるする。とても一言では言えっこない。だから、わたしはあきらめて全部言うことにした。
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