イカロスのプロペラ

かなたろー

文字の大きさ
上 下
14 / 35
才能の開花

第15話 お父さんゆずりなんだね

しおりを挟む
 一階のエントランスに行くと、代田だいだくんがいた。

「おはよう」

 代田だいだくんが、さわやかに声をかけてくる。制服姿じゃない、私服姿の代田だいだくん。やっぱりカッコいい。

「おはよう、こ、これ、おみやげ。マカロンつくったの。お母さんと一緒に」

 わたしは、何をしゃべっていいかわからなくて、すぐにひざの上に置いていた紙袋を代田だいだくんに手渡した。わざわざ正直に、お母さんと一緒に作ったことも白状してしまった。

「さんきゅ。あとで俺ん家で食べよう。そのまま持っといてくれないか?」

 そう言って。代田だいだくんは私のうしろにまわって車椅子を押しはじめた。
 マンションの自動ドアが開いて、わたしの車椅子は、代田だいだくんに押されて進んでいく。
 代田だいだくんは、マンションの敷地と道路の間にあるちょっとした段差を慎重に降りて、歩道を進んでいく。

「今日、結構暑いな。長袖着たの失敗した」
「うん、わたしも……」
「でも、斑鳩いかるが、そういう服似合っている」
「ありがと、代田だいだくんもストリート系なんだ」

 今は梅雨真っ盛りだけど、やっぱり晴れの日となると暑い。わたしは、パーカーはいらなかったかな? と思いながら、暑くなったのが、陽気のせいだけじゃないことに気がつく。

 緊張している。胸の奥がドキドキしている。

 今更ながら気がついてしまったのだけど、この状況をクラスメイトに見られてしまったら、言い訳ができない。学校でクラブ活動が一緒だから。なんて言い訳は通用しないのだ。

 けっきょく、そんな心配はとりこし苦労に終わって、五分くらいで代田だいだくんの家についた。

 代田だいだくんの家が町工場なのは、金曜日に知っていた。詳しくはわからないけれど、アルミを加工している工場らしい。そしてもうひとつお店をやっている。ペット用の車椅子を作るお店だ。

 これも、金曜日に知った。お母さんの車で、代田だいだくんを家までおくった時に知った。わたしは家に帰ってから、スマホで代田だいだくんのお店のホームページを見た。何百件もペット用の車椅子を作ってきているらしい。

 そして値段の安さにビックリした。チワワやプードルみたいな小型犬用は二万円からで、芝犬やフレンチブルドッグのような中型犬は四万円から、ゴールデンレトリバーみたいな大型犬でも六万円から。ちょっと信じられないくらい安い。人間用の車椅子から比べると、桁がひとつ違っている。

 わたしは、代田だいだくんに車椅子を押してもらって、代田だいだくんの家の工場におじゃました。

 工場どくとくの、鉄と油、そしてほこりが混ざったにおいがする。
 工場のスペースに、作っている途中の車椅子があった。そしてその壁にはコルクボードがたてかけてあって、犬の写真が貼ってあった。フレンチブルドッグだ。そしてその写真の下にはメモがはってある。

 メモには、「さくらちゃん」って名前と、全身のサイズ、そしてヘルニアがきっかけで半身不随になっていることが記されていた。犬の病状によって、車椅子の形状を変える必要があるからだ。

 この車椅子は、完全にフレンチブルドッグのさくらちゃん専用のフルオーダーメイドの車椅子だ。ますます信じられないくらい安い。わたしがもし、フルオーダーメイドの車椅子を作ったら、いくらかかるんだろう。

「まあ、半分は、父さんの趣味だから」

 そう言って代田だいだくんは笑ったけど、わたしは、素敵な趣味だなって思った。そして、代田だいだくんが、障害を持つわたしにやさしいのは、お父さんの性格を引き継いだからなのかなって思った。

 だからわたしは、思ったことをそのまま言った。

代田だいだくんの性格は、お父さんゆずりなんだね」

 代田だいだくんってやさしいんだね。そんなつもりで言った。でも、

「だと思う! 機械好きなのは、ゼッタイ父さんの影響!」

って、ちょっと期待外れの返事があった。そして、家にさそってきてくれたのも、ちょっと期待はずれの理由だった。でも、わたしが今、一番悩んでいることを解決できる、最高にうれしい理由だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完】ノラ・ジョイ シリーズ

丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴* ▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー ▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!? ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*

荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。  そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。  そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。  今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。  かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。  はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

ホントのキモチ!

望月くらげ
児童書・童話
中学二年生の凜の学校には人気者の双子、樹と蒼がいる。 樹は女子に、蒼は男子に大人気。凜も樹に片思いをしていた。 けれど、大人しい凜は樹に挨拶すら自分からはできずにいた。 放課後の教室で一人きりでいる樹と出会った凜は勢いから告白してしまう。 樹からの返事は「俺も好きだった」というものだった。 けれど、凜が樹だと思って告白したのは、蒼だった……! 今さら間違いだったと言えず蒼と付き合うことになるが――。 ホントのキモチを伝えることができないふたり(さんにん?)の ドキドキもだもだ学園ラブストーリー。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

最強メイド!おぼっちゃまたちをお守りします!

緋村燐
児童書・童話
ハンターの父とヴァンパイアの母の間に生まれた弧月望乃。 ヴァンパイアでありながらハンターになる夢を持つ彼女は、全寮制の学園に通うための準備をしていた。 そこに突然、母の友人の子供たちを守る護衛任務を依頼される。 楽しみにしていた学園に行くのは遅れるが、初めての依頼とあってワクワクしていた。 だが、その護衛対象の三兄弟とは中々仲良く出来なくて――。 メイドとして三兄弟を護衛するJCヴァンパイアの奮闘記! カクヨム、野いちご、ベリカ にも掲載しています。

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1、ブザービートからはじまる恋〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※第15回童話・児童書大賞用作品のため、アルファポリス様のみで掲載中。→noichigoさんに転載。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

処理中です...