42 / 50
第四十二話 レンチ
しおりを挟む
俺は眠りにつけなかった。戦時中の日本の夜はこんなに静かだと思わなかった。静かすぎると逆に不安な心がさらに増幅していった。その時襖が少し横に動くのが見えた。俺は寝返りをうつように襖の方を向くと目を細めた。人影は物音ひとつ立てずそのまま外へ出ると襖を閉めずに影はだんだんと小さくなっていった。
もしかしたら戦時中だとなかなか寝れないやつもいるのかもしれない。俺は人恋しさからその人影を追うことにした。
隣で寝ている泰斗はいつものように爆睡していた。その横で全く同じ寝相で岸本という男も寝ていた。俺はそんな二人を起こさないようにゆっくり襖に向かい外へ出た。
外はもっと静かだった。穏やかな夜風が戦争中であることを忘れさせてくれた。人影はどうやら飛行機の格納庫へと向かったようだった。夜が静かすぎると何か物音がするとかなり響くようだ。俺は格納庫へと向かった。
格納庫に入ると確かに誰かが戦闘機をいじっていた。
「この時間に寮を出るのは規則違反だぞ。」男は俺に背を向けながら言い放った。
「それ本気で言ってますか?平越さん。」
「さぁ?」俺はその答えに憤りを感じつつもさっきとは少し違う雰囲気を感じていた。
「何してる・・・」
「お前たち未来人かなんかか?」俺の質問を遮って質問をしてきた。
「それはその彼ってやつに関係が?」
「彼?」その時、突然平越の顔色が変わった。俺もその様子を見て周りに神経を研ぎ澄ませた。すると突然平越がレンチのような道具を手に取った。
「伏せろ!」平越の声に俺は身をかがめた。すると平越はそのレンチを俺の方に向かって投げつけると、後ろで何か・・・誰かに当たったようだった。その瞬間平越が俺を飛び越えて、後ろにいた人影にタックルをするとそのまま男の上に乗っかると何か鋭い何かを首元の突きつけていた。
「またあんたかい。」
「またってなんですか?あなたは何か誤解をしているようですが?」平越の言葉に男は毅然とした態度だった。俺は平越に倒されている男を覗き込むとそこに倒れていたのは、田中だった。
「お前!」
「知り合いか?」平越は俺に尋ねながら田中から目を離さなかった。
「雅志、話しても良いが、歴史がどうなるかわからんぞ?」俺はその言葉に躊躇してしまった。そもそもこうなったのも安易に歴史を変えようとした結果だった。
「なんの話か知らんがお前もなんかしてんだろ?」平越が自然に話に入ってくるという不自然な現象に田中の気づいたようだった。
「我々の話を理解できていそうですね。」
「まぁこう軍隊にいるといろいろあるんでね。」全く腑に落ちない答えが返ってきた。
「で、あんたが俺を殺そうとしたのはどういうつもりだぁ?」
「何を言っているのですか?今殺そうとしたのはあなたではなく・・・」
「今の話じゃない。」平越は静かにさらに威嚇を増していた。
「なぜそんなことを・・・」
「最近、飛行機の異変だったり食事や衣服の異変が多くてね。しかも気づかなかったら取り返しのつかないことが起きてたりしてね。」田中はニヤニヤにしながら平越の話を聞いていた。
「しかも、あんたが現れたあの日からそれが起き始めてなぁ。単なる偶然か?」
「偶然ですねぇ」田中は笑っていた。
「偶然ならこの話は関係ないかもしれんが、もし平越時蔵を殺そうとしているなら無意味だぞ。」今度は平越がニヤつきながら言い出した。
「それはなぜ?」
「おや?ご興味がおありで?偶然なら気にする話じゃないですけど?」
「単なる探究心ですよ。もしあなたを殺そうとしている私があなたを殺すことが無意味というのはいささか奇妙ではありませんか?」なんかよくわからない駆け引きが行われていた。俺よりも平越の方が状況を飲み込めてすぎて逆に奇怪だった。
「そんなことより自分の命の心配をしたらどうだ。お前がここで死んでも、処理方法はいくらでもある。」それに対しても田中ずっと笑いながら聞いていた。
「確かに、今の状況はこちらに武があるとは思えませんね。」
「そうだろ?」平越もニヤニヤとはしているもののよく見ると目は少し臆病な目をしていた。
「では取引をしましょう。」俺は田中が何を言い出すのか固唾を呑んで見守った。
「私もあなたが知りたいことを言いますので、あなたも言っていただけませんか?先ほどの言葉の意味を。」
平越の顔色が少しひきつっているように見えた。
「そこまで言うなら別にあんたに隠している必要もない。ただし、その行動のせいでお前が俺を殺そうとしていることを俺は確信した。この体勢のままにしてもらうぞ。」
「わかりました。では、何を話したらよろしいですか?」田中はまだヘラヘラしていた。
「なぜ俺とあいつを殺そうとした?」平越は田中をまっすぐ見ながら尋ねた。
「二つも答えないといけないのですか?欲張りですねぇ。特別ですよ?」
「早く答えろ!」体勢は平越の方が有利そうなのに、表情はどことなく逆に感じた。
「わかりました。どちらにしても共通しているのでね。」そう言うと田中は顔色を変えた。
「復讐ですよ。」
「復讐って俺がお前に何をしたって言うんだよ。」
「正確にはあなたの子孫の皆様ですかね?」その時平越がチラッと俺を見た気がした。
「なるほどな。じゃあ尚更無意味だ。」そう言うと平越の表情が少し柔らかくなった気がした。
「俺は平越時蔵じゃないからな。」流石の田中もこの返答に驚きを隠しきれなかった。
もしかしたら戦時中だとなかなか寝れないやつもいるのかもしれない。俺は人恋しさからその人影を追うことにした。
隣で寝ている泰斗はいつものように爆睡していた。その横で全く同じ寝相で岸本という男も寝ていた。俺はそんな二人を起こさないようにゆっくり襖に向かい外へ出た。
外はもっと静かだった。穏やかな夜風が戦争中であることを忘れさせてくれた。人影はどうやら飛行機の格納庫へと向かったようだった。夜が静かすぎると何か物音がするとかなり響くようだ。俺は格納庫へと向かった。
格納庫に入ると確かに誰かが戦闘機をいじっていた。
「この時間に寮を出るのは規則違反だぞ。」男は俺に背を向けながら言い放った。
「それ本気で言ってますか?平越さん。」
「さぁ?」俺はその答えに憤りを感じつつもさっきとは少し違う雰囲気を感じていた。
「何してる・・・」
「お前たち未来人かなんかか?」俺の質問を遮って質問をしてきた。
「それはその彼ってやつに関係が?」
「彼?」その時、突然平越の顔色が変わった。俺もその様子を見て周りに神経を研ぎ澄ませた。すると突然平越がレンチのような道具を手に取った。
「伏せろ!」平越の声に俺は身をかがめた。すると平越はそのレンチを俺の方に向かって投げつけると、後ろで何か・・・誰かに当たったようだった。その瞬間平越が俺を飛び越えて、後ろにいた人影にタックルをするとそのまま男の上に乗っかると何か鋭い何かを首元の突きつけていた。
「またあんたかい。」
「またってなんですか?あなたは何か誤解をしているようですが?」平越の言葉に男は毅然とした態度だった。俺は平越に倒されている男を覗き込むとそこに倒れていたのは、田中だった。
「お前!」
「知り合いか?」平越は俺に尋ねながら田中から目を離さなかった。
「雅志、話しても良いが、歴史がどうなるかわからんぞ?」俺はその言葉に躊躇してしまった。そもそもこうなったのも安易に歴史を変えようとした結果だった。
「なんの話か知らんがお前もなんかしてんだろ?」平越が自然に話に入ってくるという不自然な現象に田中の気づいたようだった。
「我々の話を理解できていそうですね。」
「まぁこう軍隊にいるといろいろあるんでね。」全く腑に落ちない答えが返ってきた。
「で、あんたが俺を殺そうとしたのはどういうつもりだぁ?」
「何を言っているのですか?今殺そうとしたのはあなたではなく・・・」
「今の話じゃない。」平越は静かにさらに威嚇を増していた。
「なぜそんなことを・・・」
「最近、飛行機の異変だったり食事や衣服の異変が多くてね。しかも気づかなかったら取り返しのつかないことが起きてたりしてね。」田中はニヤニヤにしながら平越の話を聞いていた。
「しかも、あんたが現れたあの日からそれが起き始めてなぁ。単なる偶然か?」
「偶然ですねぇ」田中は笑っていた。
「偶然ならこの話は関係ないかもしれんが、もし平越時蔵を殺そうとしているなら無意味だぞ。」今度は平越がニヤつきながら言い出した。
「それはなぜ?」
「おや?ご興味がおありで?偶然なら気にする話じゃないですけど?」
「単なる探究心ですよ。もしあなたを殺そうとしている私があなたを殺すことが無意味というのはいささか奇妙ではありませんか?」なんかよくわからない駆け引きが行われていた。俺よりも平越の方が状況を飲み込めてすぎて逆に奇怪だった。
「そんなことより自分の命の心配をしたらどうだ。お前がここで死んでも、処理方法はいくらでもある。」それに対しても田中ずっと笑いながら聞いていた。
「確かに、今の状況はこちらに武があるとは思えませんね。」
「そうだろ?」平越もニヤニヤとはしているもののよく見ると目は少し臆病な目をしていた。
「では取引をしましょう。」俺は田中が何を言い出すのか固唾を呑んで見守った。
「私もあなたが知りたいことを言いますので、あなたも言っていただけませんか?先ほどの言葉の意味を。」
平越の顔色が少しひきつっているように見えた。
「そこまで言うなら別にあんたに隠している必要もない。ただし、その行動のせいでお前が俺を殺そうとしていることを俺は確信した。この体勢のままにしてもらうぞ。」
「わかりました。では、何を話したらよろしいですか?」田中はまだヘラヘラしていた。
「なぜ俺とあいつを殺そうとした?」平越は田中をまっすぐ見ながら尋ねた。
「二つも答えないといけないのですか?欲張りですねぇ。特別ですよ?」
「早く答えろ!」体勢は平越の方が有利そうなのに、表情はどことなく逆に感じた。
「わかりました。どちらにしても共通しているのでね。」そう言うと田中は顔色を変えた。
「復讐ですよ。」
「復讐って俺がお前に何をしたって言うんだよ。」
「正確にはあなたの子孫の皆様ですかね?」その時平越がチラッと俺を見た気がした。
「なるほどな。じゃあ尚更無意味だ。」そう言うと平越の表情が少し柔らかくなった気がした。
「俺は平越時蔵じゃないからな。」流石の田中もこの返答に驚きを隠しきれなかった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

西涼女侠伝
水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超
舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。
役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。
家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。
ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。
荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。
主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。
三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)
涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜
紫 和春
SF
二〇二〇年の現代から、一九三六年の世界に転生した八人の若者たち。彼らはスマートフォンでつながっている。
第二次世界大戦直前の緊張感が高まった世界で、彼ら彼女らはどのように歴史を改変していくのか。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる