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第三十九話 壊れたポケットラジオ

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 「先生大丈夫ですか?」ぼーっと物思いにふけているように朝日を見つめていた。珍しく先生の反応は薄かった。
 「息子さんの事ですか?」すると先生はため息混じりの声で話し始めた。
 「ああ、あの子には本当に悪いことをしたと思ってるよ。」
 「でも仕方なくないですか?先生も好きでこの世界に居たわけじゃないじゃないですか?」すると先生はゆっくりとこちらを黙って見ていた。
 「違うんですか?」先生の様子はいつもと明らかに違っていた。すると先生は再びため息混じりに答えた。
 「俺は最低な父親であり、旦那だったと思うよ。」そうだ。息子さんがいるなら奥様もいるはず。この先の話は俺からは聞き出すことはできないと感じた。しかし、先生はゆっくりと語り出した。
 「俺は何が原因でこっちの世界にきていたのか最後に飛行機で行っていた行動を一つずつ思い出した。コーヒーを飲んでいたことと、ラジオを聞いていたことのふたつだった。」
 「そんな飛行機内は落ち着いてたんですか?」
 「いや、ラジオはもしかしたらパイロットの無線を傍受できるかもって言う淡い期待で周波数を動かしながら聴いていた。」その時点で察しがついた。
 「周波数を動かす・・・」
 「そう。その時の俺もその周波数を動かしながらラジオをラジオを聴いていたことが原因としか考えられなかった。」そう言いながら先生はポケットから壊れたポケットラジオを取り出した。
 「俺はまたポケットラジオを手に取り、周波数を動かしながら聞いてみた。するとやはり効果があり、俺は電流に包まれた。」だが先生はさらにうつむきこのあとさらに状況が悪化することが安易に予想できた。
 「もしかしてタイムスリップ?」先生は俺の言葉に静かにうなずいた。
「時代は?」
「太平洋戦争真っ只中の日本だ。」先生の顔は険しくなった。俺もただものじゃないと思った。
「しかも運悪く到着した直前に空襲に襲われた。」見晴らしの良い田舎というか何もない草原のような場所だった。そして俺の目の前で子供が撃たれて死んだ。」聞いているこっちも気が滅入りそうになった。だが話している先生の方がきついと思い俺は気を持ち直して聞き続けた。
 「だが俺はその子供に駆け寄ることもできず一目散に防空壕へと逃げのびた。」そう言いながら手にしていた壊れたポケットラジオを見つめた。
 「その時にこいつはこうなってしまった。」恐らくその当時も同じ顔をしたであろう絶望に満ちた顔をしていた。
 「こうして俺は同じ日本でありながら地獄のような世界で生きなければならなくなった。」俺はつくづく先生の境遇が不運でしかないと思った。
 「とは言っても日本は日本。そこで出会った人々は温かい反面、時代は時代。厳しいこともあった。それは時代は関係ないかもしれんがな。」先生のわずかな笑顔に俺は安心した。
 「そして俺はそこで色々あっていわゆる特攻隊ってやつになった。」
 「特攻隊・・・」俺はその言葉を聞いただけでなんか胃がおかしくなる感じがした。だが、先生の話は止まらなかった。
 「ああ、そこでの出会いが俺の人生を大きく変えたのかもしれない。まぁそれに気がついたのもついさっきのことだがな。」どこか先生はさっきより表情が明るく見えた。
 「俺はそこで平越時蔵という男と出会った。」平越・・・俺は黙って話を聞くことにした。
 「その男は大層貧弱な男で俺が思っていた日本男児とは思えんかった。その分で言えばお前に似ていたかもな。」俺は何も言い返す言葉が見つからなかった。
 「俺が年上だったこともあり、俺と時蔵は兄弟のように仲良くなった。時蔵が俺に飛行機の操縦。そしては俺は未来の話をして聞かせた。」
 「時蔵さんには話したんですか?」
 「まぁな。彼は本当にお前に似て好奇心が旺盛で何でもかんでも興味を持って聞いてくれた。」そして先生の顔をまた暗くなった。
 「だが、そんな話も戦況が変わり、出撃が増えて来れば俺たちに会話も変わっていった。死んでいく戦友たちを弔い、次第に俺たちの会話は減っていった。」俺には想像もできない事だった。
 「そしてある満月の日だった。綺麗な月を見ながら外で物思いに耽っている時蔵を見つけた。時蔵は俺に静かに聞いてきた。」
 「なぁ、我が国は勝つのか?我々は憎き鬼畜米兵を根絶やしにして勝利を収められるのか?」
 「俺は何も答えられなかった。時蔵はそれで結果を察すると泣きながら俺に訴えかけた。」
 「教えてくれ。悪しき結果と分かってあんたは何のために戦うのさ?」
 「俺はこう答えた。」
 「生きるためさ。家族のため、自分のため、この国に未来のために。戦争は終わっても未来は終わらない。お前にも話したはずだ。未来は明るいと。お前はその未来を家族見なければならない。そのためにはこの戦を生き延びなければならないんだよ。」俺は先生の言葉に感銘を受け、思わず涙を流してしまった。
 「そう言っていた俺も自信はなかった。毎日のように出撃し、急死に一生を得ながら生きた心地がしない毎日。俺は自然と手紙を書いていた。宛先は家族だった。」それがさっき話していた内容につながるということになるようだ。
 「俺はそこに自分がタイムトラベルしたことや戦時中の日本にいることも書いた。信じてくれるかどうかは分からない。それに届くかも分からないがとにかく家族への想いを文に残したかった。俺のことは忘れて前を向いて欲しいと・・・」先生の目にも光る何かが浮かんでいた。
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