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第三十五話 手紙
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あの時お袋は泣いていた。そして俺にこう告げた。
「お父さん、亡くなったらしいわよ。」震える声を押し殺してお袋は俺にいつもの自分を演じた。こんな時にそんなことしなくても良いのに・・・
どうせ俺はひねくれてる。死体もないのになぜ死んだなんて。今となってみたらその俺の疑いは間違っていなかったかもしれんな。
俺はこの半生、親父はどこかで生きていると信じて行動していた。必ず親父はどこかで生きていると。
そして俺は10年前・・・俺は親父を見つけた。
親父が帰ってこなかったあの時と見た目が変わっていない親父を。気づけば俺もそんな親父と同じくらいの歳になっていた。
俺は何十年ぶりの親父との再会を楽しみにしていた。しかし、向こうはそうではなかったようだ。
親父の隣にはお袋のよく似た別の女性が寄り添い、俺とは似ても似つかない子供を気にかけていた。
俺は親父との再会を目の前で諦めた。親父の中に俺はもういない。俺は元の世界に戻ると気づいたら病床に横たわる母の横に座っていた。
「どうしたの?何かあった?」俺はお袋の問いかけに答えなかった。
「ほんとあんたは変わらないわね。」お袋は笑いながら言った。
「何が?」
「なんかあるとすぐ下を見る。そして私の問いかけは全部無視。」昔の俺だったらうるせぇの一言や二言言い放ってたかもしれない。でも今の俺にはなぜか謝罪の言葉しか見つからなかった。
「ごめん。」するとお袋の表情が僅かに変わった。
「あんた、親を舐めるんじゃないわよ。」
「え?」不意な言葉に俺は戸惑った。
「あんたに謝られる筋合いはないわよ。でも少しは話してほしかったわね。」本当にお袋はずるい。だが今回に関してはお袋の予想は外れているに違いない。
死期が近づいているお袋に今更親父の話をすれば、この世に未練を残してしまう。
親父の元へ行けると思ってくれてば、看取るも方も心穏やかだ。
「私に気を使って言えないことなのかい?」俺が黙っているとお袋はどんどんと英気を取り戻すかのように聞いてきた。確かにこんな会話をしたのは親父がいなくなって以来だ。多分俺のこの姿をひさしぶりにみて懐かしかったのかもしれない。
これは言うべきなのか?俺がそう迷っていると、お袋の視線が天井に向いた。
「あんた、いつまであの人を追いかけるつもりだい?」その言葉に俺の心臓が少し大きく打った。
「あんたももういい歳なんだからいい人でも見つけて幸せになりなさい。」俺はふと少し前の言動が気になり始めた。
なぜお袋は俺が親父を追いかけていると知っているのか?と言うよりもし死んでいると思っている人間を探しているとしたら・・・
俺の中で話す決心がついた。一つ一つの言葉が変に緊張する。
「実は・・・親父に会った。」お袋は少し驚いた様子だった。
「どうだった?」お袋は思わず動かないはずに体を前のめりに動かした。
「え?」
「あの人は元気だったかしら?」やはりお袋は知っていた?
「どういうこと?なぜ驚かないの?」俺がそういうとお袋は体をゆっくりと起こし始めた。俺はそっと手を背中に添えた。するとお袋は病室の横の引き出しから一枚の手紙を取り出した。
その手紙はもうすでにくしゃくしゃになっており、所々濡れた跡が残っていたが、かろうじて文は読めた。
中を見てみると、親父がタイムスリップをして戦時中の日本にいること。どうやって戻っていいかわからないこと。そして自分は死んだと思ってほしいなどということが長々と書かれていた。
「あの人に会ったということはあんたも戦時中に行ったの?」そう、親父を見つけたのは現代。タイムスリップはしていない。
「ああ」
「また何か隠してるわね?」正直見透かされていることは分かっていた。
俺は、あったことを全部お袋に話した。するとお袋はゆっくりと状態を病床に置いた。
「あの人らしいわね。」お袋は笑いながらしみじみと言った。
「何言ってんだよ?あいつは俺たちを捨てたんだぞ?」俺は病室であることを忘れて大声を上げた。しかし、お袋は全く動じず静か無表情のままだった。
「きっと何か理由があるはず。わたしには少し想像がつくかもしれないわね。」
「何さ?」
「さぁ?何かしらね?」お袋の嬉しそうな笑みを久しぶりに見た気がした。
そしてそれから一週間後、お袋は息を引きとった。お袋とちゃんと会話を交わしたのはそれが最期になってしまった。
あの時、お袋が俺に親父が死んだことを伝えた時の涙は、おそらく単に悲しかっただけではなかったはず。
飛行機事故で死んだと思っていた親父から手紙が来たと思えば、また死を知らせる便り。
多分お袋が一番親父を諦めていなかったに違いない。
俺はお袋の遺骨を抱きながらそう思うと尚更親父のあの光景が許せなかった。俺は次第に親父に対しての憎しみがこみ上げてきた。
俺は今の話を全部親父に聞かせた。だがもう止められない。これも全て元に戻すため。過去の俺やお袋のための犠牲と考えれば・・・
今の俺はどうなってもよかった。
「お父さん、亡くなったらしいわよ。」震える声を押し殺してお袋は俺にいつもの自分を演じた。こんな時にそんなことしなくても良いのに・・・
どうせ俺はひねくれてる。死体もないのになぜ死んだなんて。今となってみたらその俺の疑いは間違っていなかったかもしれんな。
俺はこの半生、親父はどこかで生きていると信じて行動していた。必ず親父はどこかで生きていると。
そして俺は10年前・・・俺は親父を見つけた。
親父が帰ってこなかったあの時と見た目が変わっていない親父を。気づけば俺もそんな親父と同じくらいの歳になっていた。
俺は何十年ぶりの親父との再会を楽しみにしていた。しかし、向こうはそうではなかったようだ。
親父の隣にはお袋のよく似た別の女性が寄り添い、俺とは似ても似つかない子供を気にかけていた。
俺は親父との再会を目の前で諦めた。親父の中に俺はもういない。俺は元の世界に戻ると気づいたら病床に横たわる母の横に座っていた。
「どうしたの?何かあった?」俺はお袋の問いかけに答えなかった。
「ほんとあんたは変わらないわね。」お袋は笑いながら言った。
「何が?」
「なんかあるとすぐ下を見る。そして私の問いかけは全部無視。」昔の俺だったらうるせぇの一言や二言言い放ってたかもしれない。でも今の俺にはなぜか謝罪の言葉しか見つからなかった。
「ごめん。」するとお袋の表情が僅かに変わった。
「あんた、親を舐めるんじゃないわよ。」
「え?」不意な言葉に俺は戸惑った。
「あんたに謝られる筋合いはないわよ。でも少しは話してほしかったわね。」本当にお袋はずるい。だが今回に関してはお袋の予想は外れているに違いない。
死期が近づいているお袋に今更親父の話をすれば、この世に未練を残してしまう。
親父の元へ行けると思ってくれてば、看取るも方も心穏やかだ。
「私に気を使って言えないことなのかい?」俺が黙っているとお袋はどんどんと英気を取り戻すかのように聞いてきた。確かにこんな会話をしたのは親父がいなくなって以来だ。多分俺のこの姿をひさしぶりにみて懐かしかったのかもしれない。
これは言うべきなのか?俺がそう迷っていると、お袋の視線が天井に向いた。
「あんた、いつまであの人を追いかけるつもりだい?」その言葉に俺の心臓が少し大きく打った。
「あんたももういい歳なんだからいい人でも見つけて幸せになりなさい。」俺はふと少し前の言動が気になり始めた。
なぜお袋は俺が親父を追いかけていると知っているのか?と言うよりもし死んでいると思っている人間を探しているとしたら・・・
俺の中で話す決心がついた。一つ一つの言葉が変に緊張する。
「実は・・・親父に会った。」お袋は少し驚いた様子だった。
「どうだった?」お袋は思わず動かないはずに体を前のめりに動かした。
「え?」
「あの人は元気だったかしら?」やはりお袋は知っていた?
「どういうこと?なぜ驚かないの?」俺がそういうとお袋は体をゆっくりと起こし始めた。俺はそっと手を背中に添えた。するとお袋は病室の横の引き出しから一枚の手紙を取り出した。
その手紙はもうすでにくしゃくしゃになっており、所々濡れた跡が残っていたが、かろうじて文は読めた。
中を見てみると、親父がタイムスリップをして戦時中の日本にいること。どうやって戻っていいかわからないこと。そして自分は死んだと思ってほしいなどということが長々と書かれていた。
「あの人に会ったということはあんたも戦時中に行ったの?」そう、親父を見つけたのは現代。タイムスリップはしていない。
「ああ」
「また何か隠してるわね?」正直見透かされていることは分かっていた。
俺は、あったことを全部お袋に話した。するとお袋はゆっくりと状態を病床に置いた。
「あの人らしいわね。」お袋は笑いながらしみじみと言った。
「何言ってんだよ?あいつは俺たちを捨てたんだぞ?」俺は病室であることを忘れて大声を上げた。しかし、お袋は全く動じず静か無表情のままだった。
「きっと何か理由があるはず。わたしには少し想像がつくかもしれないわね。」
「何さ?」
「さぁ?何かしらね?」お袋の嬉しそうな笑みを久しぶりに見た気がした。
そしてそれから一週間後、お袋は息を引きとった。お袋とちゃんと会話を交わしたのはそれが最期になってしまった。
あの時、お袋が俺に親父が死んだことを伝えた時の涙は、おそらく単に悲しかっただけではなかったはず。
飛行機事故で死んだと思っていた親父から手紙が来たと思えば、また死を知らせる便り。
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俺はお袋の遺骨を抱きながらそう思うと尚更親父のあの光景が許せなかった。俺は次第に親父に対しての憎しみがこみ上げてきた。
俺は今の話を全部親父に聞かせた。だがもう止められない。これも全て元に戻すため。過去の俺やお袋のための犠牲と考えれば・・・
今の俺はどうなってもよかった。
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