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第三十話 新聞紙

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 マーシーの様子がおかしい。なぜこんなに過去を変えることにこだわっているのだろう?正直俺はマーシーのことが分からない。いつもはマーシーと二人三脚でお互いの存在を感じていたが、今は多分マーシーは俺を認識しているのかさえ怪しい。
 「なぁ、今度はどんな算段なんだよ?」俺は少し飽き飽きした口調を前面に出した。しかし、マーシーの答えはそっけなかった。
 「まぁお前は見てろって。」こんなの初めてだった。基本的にマーシーは俺に何かしら指示していた。やっぱりマーシーは変わってしまったのかもしれない。俺とマーシーは例のあの施設の前で何かを待っていた。何って言われてもマーシーが話してくれないからわからない。まぁ過去を変えるなんか何だろうけど。
 すると背後から青いワンボックスカーが施設に近づいてきた。
 「あのワンボックスカーに乗れるかが、運命の分かれ目・・・。」マーシーがなんかぼそっと言った。
 すると施設のベランダの方から一人の男の子がこちらへ向かってきた。
 「あれ?平ちゃんがこっち来たよ?」その男の子は幼少期の苛ちゃんだった。
 「ねぇ、隠れなくていいの?」俺はマーシーにそういったが、平ちゃんの方をずっと見ていて何も返答してくれなかった。その間にも幼少期の平ちゃんはどんどん距離を詰めてきて、いよいよどこにも隠れる場所がないくらいのところまで近づいてきた。
 「来たよ。で、良いことって何?」平ちゃんは無邪気な質問をマーシーに投げかけた。なんかよくわからなかったが、恐らくマーシーが何か仕込んでいたのであろう。        俺は正直憤りを感じていた。今までマーシーが歩んできた過去と言うのは、ここまで干渉してでも変えなければいけない過去だったというわけで、それって俺はマーシーにとってそこまで影響していないってことだろ?俺はマーシーと出会えたことで、確かに今はほかの人からしたらみじめな生活をしているかもしれないが、俺にとっては過去を変えるほどのことではないし、むしろ変えてほしくない。
 確かに、過去を変えることを俺はマーシーに許した。でもすぐにあきらめてくれると思っていた。過去なんてそんな簡単に変えられるはずがない。
 まぁこんなことを今のマーシーに言っても何の意味もないかもしれない。何なら俺の存在自体もマーシーにとっては不要なのかもしれない。
 「よし、よくやったな坊主。じゃあな。」
 「バイバイ、おじちゃん。」
 「おじちゃんって年じゃねぇよ。」幼少の平ちゃんはそのまままた、施設へ戻っていった。
 「よし、これであの夫婦は俺を選ぶだろう。」マーシーは嬉しそうにつぶやいた。
 「満足?」俺は冷たく一言返した。
 「それは戻ってみるまで分からないって。」そう言うとマーシーは俺にイヤホンを渡した。
 俺はイヤホンを耳に着けると、辺りに稲妻のような電流がにょろにょろと現れた。
 「ここは俺たちの世界だよな。なんか変わってるか?」そう言いながらマーシーはポケットの中の荷物を確認した。マーシーの顔はどんどん曇っていった。それに追い打ちをかけるように、新聞紙が転がってきた。
 「日付間違ってるのか?」マーシーはおかしくなる寸前だった。まぁここまで来るのにいろんな時代を見ながらねんみつに計画を練って、ようやく計画通りに事を進めることが出来て、何も成果がないのはさすがに同情した。
 「まぁまだわからないじゃん?そうだ!俺らの部屋に行ってみたらいいんじゃない?」俺がそう言うと、マーシーは一目散に部屋へ向かった。俺らの部屋。もしかしたらマーシーの部屋か平ちゃんの部屋か、はたまたどちらの部屋でもないかもしれない。
 一階のエレベーターは10階の表記で止まっていた。マーシーは待っていられないようで、そのまま階段を駆け上がった。俺もそんな簡単に過去は変わらないと思ってはいるものの少し緊張していた。 
 マーシーはドアの前に立ち鍵を取り出した。まぁその時点で過去を変えることはできていないことは多分マーシーも悟っていた。
 マーシーは鍵を開けそのまま部屋の様子も見ずに、賃貸契約書がある棚へ向かっていった。俺が遅れて部屋に入ると、マーシーが膝から崩れ落ちている姿が入ってきた。
 「残念だったな。」だが、正直ほっとしていた。俺は別に今まででよかった。それになんかこのままこのことに首を突っ込んでいたら、何かめんどくさいことが起こりそうな、変な胸騒ぎがあった。
 「まぁしゃあないって。過去なんてそう簡単には変わらないよ。」しかし、マーシーは俺が思っている以上に過去に憑りつかれていた。
 「お前は悔しくないのかよ。」
 「え?」マーシーの目には悔しさから出ている光るものが出ていた。
 「同じ場所にいて、同じ境遇にいながらこんなに人生の差があるなんて。悔しくないのかよ。」
 「マーシー?」俺はかける言葉がなかった。
 「別に俺もあいつも恵まれない運が悪い子供だったはずなのに、ただ拾われたかそうじゃないかだけで、向こうは何不自由ない人生で、こっちは明日の飯の心配をしながら社会のお荷物みたいに扱われる人生。不公平すぎないか?」俺は、マーシーの事をちゃんとわかっているつもりだった。いや、わかっていたが理解しようとしていなかった。
 すると突然マーシーが立ち上がった。
 「そうだ!」そう言うとマーシーは部屋を飛び出していった。
 「マーシー!」俺の声は届かなかった。ただ俺が今何を奴に言っても喧嘩になるだけかもしれない。俺はとりあえず帰りを待つことにした。
 「新聞ねぇ。」俺はさっき拾った新聞を広げた。
 「はっ?」俺は新聞の一面に書かれている文字を見て、数少ない語彙力を失った。

              「平越時哉、急死」
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