あっちの自分とこっちの自分。あっちのあいつとこっちのあいつ

マフィン

文字の大きさ
上 下
24 / 50

第二十四話 カラオケボックス

しおりを挟む
 俺はこの時代に用事が出来てしまった。
 「とりあえず、一旦自分たちの時代に戻って出直さないと・・・」泰斗はそう言いながら、ポケットラジオいじりはじめた。
 「ちょっと待て。」俺の咄嗟の言葉に、泰斗は少しむっとした顔をした。今の泰斗に本当のことを言ってしまうと恐らくまた揉める予感しかなかった。しかも、今の泰斗はマジで何をし始めるか分からなかった。
 「ちょっとさっきのタイムリープしたときに、変に頭痛がしたからやるならもう少し待って欲しいんだけど。」なんかありがちな嘘をついてみた。すると泰斗の眉間のしわが少し深くなった。
 「確かに、なんか俺もさっきから気持ち悪いんだけどそれのせいかなぁ?」いい感じに嘘がはまったようだった。
 「何なら、今日はもう遅いしどっか入らない?」
 「入るったってどこに?」確かにもう夜中の3時過ぎ、ビジネスホテルとかというわけにもいかなかった。
 「カラオケ?」俺がそういうと、泰斗の顔が明らかに変わった。
 「行っちゃう?」俺は間違いなく提案した場所を間違えたと確信した。
 それからの記憶はとりあえずやつの十八番を永遠と聞くという時間だったことしかんかった。しかも、ずっと同じ曲のバージョンが違うものをお店の閉店時間である朝6時までの3時間近く聞いていた為、嫌でも覚えてしまった。もちろん寝れていない。   

              寝不足だ・・・・

 カラオケボックスから出ると、朝日が容赦なく俺たちに光のやりを降らしていた。俺が半目をつぶりながら歩いている横で泰斗は、とてもすがすがしい表情で歩いていた。
 「元気そうだね?」俺は少し引き気味の声で言った。
 「最高の気分!」
 「誰だよ?」泰斗の究極のどや顔ぶりに俺は返す言葉が無かった。
 とりあえず俺たちは元の駐車場まで向かうことにした。すると、突然大きな女性の怒鳴り声が聞こえてきた。
 「何今の?」俺がそういうと、泰斗は不思議そうな顔をしていた。
 「なんかどこかで聞いたことない?」不思議と俺も全く同じことを考えていた。ちょっと甲高く、少し怒り慣れていない聞き覚えのあるこの怒鳴り声、どこか懐かしい感じがした。
 「なぁ、ちょっと・・・」
 「ちょっとだけ!ちょっとだけ!」何の念押しか分からないが、お互いその言葉を連呼しながら、同じ場所に自然と足が動いていた。
 この道、この景色、全てが懐かしい。あの公園のブランコで良く遊んでた。あの川に流されかけた。あそこのおっさんウザイ。ただ歩いているだけなのに、俺の頭の中は今まで思い出してみなかったことが鎖に繋がっているように、どんどん引き上げられていく感覚だった。
 目的地近くになり、俺たちは兵の陰に隠れ、ある場所に視線を向けた。そこには一人の女性と一人の男の子がいた。女性は典型的な怒った表情で男の子を見下ろしていた。俺たちから男の子は、しょぼくれた後ろ姿しか映っていなかった。
 その怒っている女性は間違いなく田中先生だ。若い時って意外と綺麗だったんだなぁ。
 俺たちはあの擁護施設に来ていた。
 「あんた、今何時だと思ってんの?こんな朝っぱらまでどこで何してたの?」時間に関してはお互い様だと思う。ここから一発目の声が聞こえた場所は見えない位置にあるほどの距離だったのに聞こえるってどんな声?
 すると男の子は、ヒックヒックした声で一言だけ告げた。
 「逃亡。」
 俺と泰斗は思わず噴き出した。そういえば、遠い記憶だがなんか脱走して先生たちが必死で探してた事件があった気がした。まぁその気持ちは分からなくもなかった。新しい里親が見つかることはとても良いことだが、当時俺たちはそうは思っていなかった。それくらいあの施設での生活は楽しい時代だった。
 「なんでそんなことするの?マーシー?」田中先生からの一言で、俺たちは顔を見合わせた。
 「今マーシーって確かに言ったよね?」だが俺には逃亡した記憶はない。それに幼少期は何をするにも俺の横には泰斗がいたはずだ。
 「俺が知らないうちに、そんなことしてたんだぁ・・・」泰斗がそうなるのも無理はない。
 すると奥からもう一人のおっさんが現れた。
 「朝も早いし続きはとりあえず中に入って話したら?」
 「誰?」俺と泰斗は全く同じタイミングで、思わず言ってしまった。
 「なんか声がする・・・」男の子がそう言いながら俺たちの方を見た。俺たちは慌ててその場から立ち去った。慌てたせいで少ししか見えなかったが間違えなく、あの男の子は幼少時代の俺だった。
 「ほら、こんな朝から大騒ぎしてるから・・・・」
 「いやぁ、心配からつい大声で・・・・」田中先生とおっさんはどこか仲よさそうに見えた。旦那?いや旦那はいなかったはずだ。子供はいたが旦那は事故で亡くなっているはず。だが、あんなおっさんがいた記憶が俺にはなかった。
 とりあえず俺たちは近くの公園へ向かった。というより自然にその公園に立ち寄っていた。
 「そっか・・・そういう事だ・・・」泰斗は一人でつぶやいていた。
 「どこもかしこも全く一緒だったから全然思いもつかなかったけどここはパラレルワールドの過去なんだよ。」俺はその言葉を聞いて、さっきの田中先生との電話を思い出していた。
 この世界には泰斗はいないのか・・・?

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
国を、民を守るために、武田信玄は独裁者を目指す。 独裁国家が民主国家を数で上回っている現代だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 純粋に国を、民を憂う思いが、粛清の嵐を巻き起こす 【第弐章 川中島合戦】 甲斐の虎と越後の龍、激突す 【第参章 戦争の黒幕】 京の都が、二人の英雄を不倶戴天の敵と成す 【第四章 織田信長の愛娘】 清廉潔白な人々が、武器商人への憎悪を燃やす 【最終章 西上作戦】 武田家を滅ぼす策略に抗うべく、信長と家康打倒を決断す この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です))

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

静寂の星

naomikoryo
SF
【★★★全7話+エピローグですので軽くお読みいただけます(^^)★★★】 深宇宙探査船《プロメテウス》は、未知の惑星へと不時着した。 そこは、異常なほど静寂に包まれた世界── 風もなく、虫の羽音すら聞こえない、完璧な沈黙の星 だった。 漂流した5人の宇宙飛行士たちは、救助を待ちながら惑星を探索する。 だが、次第に彼らは 「見えない何か」に監視されている という不気味な感覚に襲われる。 そしてある日、クルーのひとりが 跡形もなく消えた。 足跡も争った形跡もない。 ただ静かに、まるで 存在そのものが消されたかのように──。 「この星は“沈黙を守る”ために、我々を排除しているのか?」 音を発する者が次々と消えていく中、残されたクルーたちは 沈黙の星の正体 に迫る。 この惑星の静寂は、ただの自然現象ではなかった。 それは、惑星そのものの意志 だったのだ。 音を立てれば、存在を奪われる。 完全な沈黙の中で、彼らは生き延びることができるのか? そして、最後に待ち受けるのは── 沈黙を破るか、沈黙に飲まれるかの選択 だった。 極限の静寂と恐怖が支配するSFサスペンス、開幕。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

戦艦タナガーin太平洋

みにみ
歴史・時代
コンベース港でメビウス1率いる ISAF部隊に撃破され沈んだタナガー だがクルーたちが目を覚ますと そこは1942年の柱島泊地!?!?

処理中です...