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第二十話 病床
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目を覚ますと俺は病室のベッドに横たわっていた。俺は意識はもうろうとしていたが、特に自分の体に不調は感じなかった。むしろどこで俺は今の状況になっているのか見当がついていなかった。
俺は上体を起こし、辺りを見回した。だが、自分の病室には誰もいなかった。個室に運ばれているようで、本当に自分しかいない空間が広がっていた。
すると突然、病室の扉が横に開いた。その音に反応し俺は、扉の方を見た。
「良かった。生きてたか。」そこに立っていたのは、田中先生だった。安心した表情で俺を見る田中先生の姿に、俺は少し違和感を感じた。
「大丈夫か?けつとか痛いところはないか?」俺は朦朧としている意識をどうにか保ちながら、今一番気になっていることを尋ねた。
「俺はどうやってここに?」どこか声に出しにくさを感じた。俺の曖昧な記憶ではあの時・・・はっきりとは思い出せなかったが、あの二人がいたはず。
「よくわからないけど、通りすがりの人が助けてくれたらしいぞ。」やはり俺が見たのはあの二人だったのか?
「その人たちは?」俺はそう言いながら眼球を動かそうとした時、急に立ちくらみのように視界が白くなり、意識が一瞬遠退いた。
「まだ寝ていなさい。」そういうと先生は、俺の傍に来ると、病床に寝かしつけた。
「彼らはもう帰ってしまったようだ。もうここにはいない。」先生はそう言いながら、俺に掛け布団をかけた。
この光景っていつから見なくなったのだろう。
俺はベッドから見る先生の光景から幼少の記憶がぼんやり浮かんでいた。
「なんかお前にこんな世話やくの久しぶりだな。」先生も同じことを考えていたようだった。
「なんの話っすか?」俺は照れくささから、話を軽くあしらった。
「まぁいうて逃亡したときくらいか・・・」先生の言葉を最後にしばらく病室に沈黙が流れた。俺もそこから先生になんて声をかけて良いかわからなかった。そんな気まずい沈黙を破ったのは先生だった。
「極度のストレスのせいらしいから、明日の朝には退院だとよ。」一瞬なんの話をしているのかわからなかった。俺は随分と中途半端な返事をしてしまった。そのせいか先生は少し顔を曇らせながら、俺の荷物を整理していた。
「もっと昔みたいに俺を頼ってくれればいいのに。」先生の低い声が静かに響いていた。確かに昔はなにかと先生に迷惑をかけていた。親のいない自分にとっては、父親・・・兄貴?いや先生は先生だったかも。そもそも兄弟や父親ってどんなもんなんだろう?それに俺の周りにいた人間の家族の中には、俺の思い描いていた家族像に程遠い実の家族がいたのも俺は知っている。
まぁそこは俺が施設で育ったからというのもあるだろうが、なおさら俺は先生の俺に対する対応は意味がわからなかった。
本当の家族でさえいろいろあるのに、なんで先生は赤の他人だった俺をここまで気にかけてくれるのだろうか?
「そういえばどうしてわかったんですか?」すると先生は病床の横に置いてあった俺の財布を指さした。
「緊急連絡先。まだ施設の番号にしてんだろ?」
「じゃあなんで先生が?」
「施設から電話かかって来たんだよ。」先生は別に施設の先生だから先生と呼んでいるわけではない。だから先生と施設は直接関係があるわけではないはずだった。
「なんで先生に?」俺はあえてストレートに聞いてみた。しかし先生からすぐに返答はなかった。俺はさらに質問を続けた。
「確かに身寄りはないけどだからってなんで先生に連絡するんですかね?」
「それは・・・幼少期から何かと面倒を見てたからじゃないかな?」先生はどこか寂しそうな雰囲気に見えた。しかし、俺はそれ以上に探求心が勝ってしまっていた。
「先生だって赤の他人の面倒を見るなんて迷惑でしょ?」すると俺のその一言に先生は異常に反応した。
「いや、そんなことはない。」あまりの声の大きさに、俺はキョトン顔で先生を見た。しばらく気まずい時間が病室に流れた。
「すまない。つい大きな声を・・・」先生は笑顔でごまかした。俺はさらに府に落ちなかった。すると先生は俺の頭に手を置いた。
「まぁ迷惑なんて気のするな。俺はお前が心配で、施設の連中もそれを知ってるから知らせて来た。ただ、それだけのことだ。」そういうと先生は上着をとり腕に折りたたむようにかけた。
「じゃあな。明日また迎えに来るからいい子にしてろよ。」そういうとまるで逃げるように、病室を後にした。
「だからなんで俺にそこまでするのか聞いてんだけどなぁ・・・」俺はそう呟きながら、再び病床に横になった。
白い天井をまた見ている気がした。白い天井を見つめていると、なんか脳裏で思い描いていることがその天井に映し出されている気がして案外気に入っていた。
よく良く考えたら、幼少期から学生時代ってずっと先生がそばにいてくれてたのかなと思うくらい、どの時代の記憶を辿っても先生がいた。
そして社会人になり、施設を出て一人で生活するようになってからは、盆と正月くらいしか会わなくなった。
「やっぱり迷惑かけたくないんだよなぁ。」会いになかなか行かなくなったのも、恐らく根底にはこの感情が強い。先生は違うと言うが、どこか俺が先生の人生を邪魔している気がした。
「明日は一人で帰ろう・・・先生何時に来るんだろう・・・」そう思いながら俺は目をつぶった。珍しく今日は睡眠に入るのが早かった。
俺は上体を起こし、辺りを見回した。だが、自分の病室には誰もいなかった。個室に運ばれているようで、本当に自分しかいない空間が広がっていた。
すると突然、病室の扉が横に開いた。その音に反応し俺は、扉の方を見た。
「良かった。生きてたか。」そこに立っていたのは、田中先生だった。安心した表情で俺を見る田中先生の姿に、俺は少し違和感を感じた。
「大丈夫か?けつとか痛いところはないか?」俺は朦朧としている意識をどうにか保ちながら、今一番気になっていることを尋ねた。
「俺はどうやってここに?」どこか声に出しにくさを感じた。俺の曖昧な記憶ではあの時・・・はっきりとは思い出せなかったが、あの二人がいたはず。
「よくわからないけど、通りすがりの人が助けてくれたらしいぞ。」やはり俺が見たのはあの二人だったのか?
「その人たちは?」俺はそう言いながら眼球を動かそうとした時、急に立ちくらみのように視界が白くなり、意識が一瞬遠退いた。
「まだ寝ていなさい。」そういうと先生は、俺の傍に来ると、病床に寝かしつけた。
「彼らはもう帰ってしまったようだ。もうここにはいない。」先生はそう言いながら、俺に掛け布団をかけた。
この光景っていつから見なくなったのだろう。
俺はベッドから見る先生の光景から幼少の記憶がぼんやり浮かんでいた。
「なんかお前にこんな世話やくの久しぶりだな。」先生も同じことを考えていたようだった。
「なんの話っすか?」俺は照れくささから、話を軽くあしらった。
「まぁいうて逃亡したときくらいか・・・」先生の言葉を最後にしばらく病室に沈黙が流れた。俺もそこから先生になんて声をかけて良いかわからなかった。そんな気まずい沈黙を破ったのは先生だった。
「極度のストレスのせいらしいから、明日の朝には退院だとよ。」一瞬なんの話をしているのかわからなかった。俺は随分と中途半端な返事をしてしまった。そのせいか先生は少し顔を曇らせながら、俺の荷物を整理していた。
「もっと昔みたいに俺を頼ってくれればいいのに。」先生の低い声が静かに響いていた。確かに昔はなにかと先生に迷惑をかけていた。親のいない自分にとっては、父親・・・兄貴?いや先生は先生だったかも。そもそも兄弟や父親ってどんなもんなんだろう?それに俺の周りにいた人間の家族の中には、俺の思い描いていた家族像に程遠い実の家族がいたのも俺は知っている。
まぁそこは俺が施設で育ったからというのもあるだろうが、なおさら俺は先生の俺に対する対応は意味がわからなかった。
本当の家族でさえいろいろあるのに、なんで先生は赤の他人だった俺をここまで気にかけてくれるのだろうか?
「そういえばどうしてわかったんですか?」すると先生は病床の横に置いてあった俺の財布を指さした。
「緊急連絡先。まだ施設の番号にしてんだろ?」
「じゃあなんで先生が?」
「施設から電話かかって来たんだよ。」先生は別に施設の先生だから先生と呼んでいるわけではない。だから先生と施設は直接関係があるわけではないはずだった。
「なんで先生に?」俺はあえてストレートに聞いてみた。しかし先生からすぐに返答はなかった。俺はさらに質問を続けた。
「確かに身寄りはないけどだからってなんで先生に連絡するんですかね?」
「それは・・・幼少期から何かと面倒を見てたからじゃないかな?」先生はどこか寂しそうな雰囲気に見えた。しかし、俺はそれ以上に探求心が勝ってしまっていた。
「先生だって赤の他人の面倒を見るなんて迷惑でしょ?」すると俺のその一言に先生は異常に反応した。
「いや、そんなことはない。」あまりの声の大きさに、俺はキョトン顔で先生を見た。しばらく気まずい時間が病室に流れた。
「すまない。つい大きな声を・・・」先生は笑顔でごまかした。俺はさらに府に落ちなかった。すると先生は俺の頭に手を置いた。
「まぁ迷惑なんて気のするな。俺はお前が心配で、施設の連中もそれを知ってるから知らせて来た。ただ、それだけのことだ。」そういうと先生は上着をとり腕に折りたたむようにかけた。
「じゃあな。明日また迎えに来るからいい子にしてろよ。」そういうとまるで逃げるように、病室を後にした。
「だからなんで俺にそこまでするのか聞いてんだけどなぁ・・・」俺はそう呟きながら、再び病床に横になった。
白い天井をまた見ている気がした。白い天井を見つめていると、なんか脳裏で思い描いていることがその天井に映し出されている気がして案外気に入っていた。
よく良く考えたら、幼少期から学生時代ってずっと先生がそばにいてくれてたのかなと思うくらい、どの時代の記憶を辿っても先生がいた。
そして社会人になり、施設を出て一人で生活するようになってからは、盆と正月くらいしか会わなくなった。
「やっぱり迷惑かけたくないんだよなぁ。」会いになかなか行かなくなったのも、恐らく根底にはこの感情が強い。先生は違うと言うが、どこか俺が先生の人生を邪魔している気がした。
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