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第七話 番組収録

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 時々私はなんのためにこんなことをしているのだろうと思う時がある。もちろん明確な理由はある。だが、ありとあらゆる科学分野に触れ、いくつかは博士課程もとっている私ならまともな研究をしていれば、おそらく何不自由なく、妻子も持ち今頃は子育てを終え妻と二人で余生を静かに過ごしていたかもしれない。
 今の私は、よくわからない番組の取材で発明品と称した手作りのガラクタをテレビで紹介する世間の変わり者だ。今もよくわからない日常で役に立ちそうなガラクタを、自分で使って見せるところだ。もうかれこれ4回目になると、取材に来るスタッフたちの目線も羨望の眼差しになっていた。それはもちろん実験の成功を期待しているわけではなく、面白い失敗を彼らは期待している。もちろん私は彼らのその期待に応えるつもりだ。意外にもその失敗方法を考え、計算している時間を楽しんでいる自分がいたりする。
 そして、今回も失敗までの流れはバッチリだ。重要なのはいかに本気でこのガラクタを作ったことを演じれるかだ。スタッフたちの乾いたような見下した笑いも頂けた。いよいよ失敗する時。その時突然、電流が走るようなバチバチっというような雑音が聞こえた。すると大きなマイクを持った音声のスタッフが急に撮影の中断を求めた。どうやら私だけが聞こえていたわけではなさそうだ。
 私はスタッフに待機を求められ、快く応じた。もしかしたら時哉が上で何かしてるのか?まさか、あの装置を触った?だが彼にはここのものに触れるなと言うルールを課してかれこれ20年守ってきている。ピンポイントにそのルールを今日破るとは考え難かった。
 ではなんの音?私はプロデューサーに詰められている音声スタッフに近づいた。
 「なにかありましたか?」
 「すいません。ちょっと雑音が入ってしまったよみたいで。」プロデューサーの男がぶっきらぼうに答えた。
 「どんな音ですか?」私が尋ねると、音声スタッフが答えようと、私を見た。しかし、それを遮るようにプロデューサーの男が
 「そんな大したことじゃないので。」とまたもや低いぶっきらぼうな声で答えた。
 「もしかしたらうちの機械の音かもしれないのでもしよろしければ聞かせていただけませんか?」するとプロデューサーの男は鼻で笑うと、その場から一歩下がった。
 「この音です。」音声スタッフがそういうと、その音がなっている部分を再生した。先ほどのやりとりの中で確かに、私が聞いた電流が流れるような音が入っていた。
 「ありがとうございます。もしかしたら電波の微妙な音を拾ってしまっているのかもしれませんね。」私がそういうと、プロデューサーの男が再び鼻で笑った。彼は私が少し博識なことを言うと決まって同じ反応をする。偏見でしか物を見れない惨めな人間なのである。
 「とりあえず機械の電源を切ってきた方がよさそうですね。」私がそう提案すると、今度はかなり不機嫌そうにプロデューサーの音が
 「いや、もう実践していただくだけなのでもう撮っちゃいましょう。」といかにもやっつけのように提案というより指示をしてきた。彼が良いならそこに異論を唱える必要がある人間はいなかった。
 私たちは再び持ち場に戻って撮影が再開された。もちろん、私の計算し尽くした失敗は大成功をおさめ、大爆笑を得ることができた。まぁ私からしたら何が面白いのか全く理解できなかったが、プロデューサーの男の大笑いを見ると、まぁ致し方ないという気持ちになった。
 撮影が終わり放送する上での承諾事項的な物を書き出演料を手渡しでもらった。手渡しでもらえるにしてはなかなか良い額だった。そんなこんなで撮影も終わり番組スタッフたちは撤収していった。準備はあれだけ時間をかける割に撤収はほんと一瞬の出来事過ぎていつも感心していた。
 彼らが帰ると私は決まって掃除をする。別に私が潔癖症だからではなく本当に汚くなるからだ。一通り掃除機をかけると私は時哉を呼びに屋根裏へ向かった。よくもまぁあのヒントに気づいたものだ。私は感心しながらボタンを押し、階段を出した。しかし人がいる気配が全くしなかった。
 「寝てるのか?」私はそうつぶやいた。まぁ彼が私の家で居眠りこいて朝帰りするなど日常茶飯事だ。まぁどうせ今日も夕食を食べていないであろう。ピザでもとるか。私はそんなことを考えながら二階へ上がった。
 しかし、時哉の姿はなく文字通り人気がなかった。
 「時哉?」私は彼の名前を呼びながら部屋中を見渡した。しかし、そもそもこの部屋に人が隠れられるスペースなどどこにもなかった。もし部屋を出ていけば、あん何人がいたのだ。一人くらいは気づいてそれこそ彼はテレビの餌食にされる。
 まさか・・・
 私は部屋にあるラジオの装置を見ると確かに電源がついていた。だがもし私が懸念していることが起きたとすれば、周波数が変わっているはず。
 変わっている。私が危惧していることが一歩現実味を帯びはじめた。だが彼のことだ。仮にこの装置をラジオと勘違いしてつけても音が鳴らなければ恐らく使っていないであろう。それにこの装置はあくまで観測用で、実際に使うのは古いポケットラジオである。もちろん、私が大事にしているものは、一番下の引き出しにしまってある。私は一応の確認で机の一番下の引き出しを確認した。
 すると中にあったのはこれまた古いポケットラジオと置き手紙だった。
  
  「先生へ
   ここにあったポケットラジオ借ります。
  もし 時間があれば治しておいてもらえると助
  かります。      
                   時哉」
  
 私の中で結論が出てしまった。私は今人生で一番興奮しているに違いない。だが、それよりも彼の安否が心配だ。体がバラバラになっていないと良いが・・・
 そんなことを考えていると再びさっき聞いた雑音が聞こえてきた。すると下の部屋で人の声がした。
 「先生?先生?どこいっちゃったんですか。」私は急いで下の階に降りた。するとそこにはポケットラジオのイヤホンをしながら驚いた表情で私を見ている時哉の姿があった。
 「いや素晴らしい。素晴らしいよ!」私は有頂天になりながら彼に近づき抱きしめた。
 私の人生の努力が身を結んだ瞬間かもしれない。
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