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七章 おやすみミコ様

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「温泉……ですか」
 と、いぶかしむタバナの声は、昨日のことのように耳に残っている。
 そりゃ、言ってすぐに用意できるモンじゃないのは、分かってる。5か年計画のつもりで言ったのだ。
 タバナにも、それはすぐに伝えた。
「今すぐの話ではない」
 と。

「山の麓で、動物たちが集まっている泉を見つけるのです。それが温かいお湯なら、動物たちが浸かっているかも知れません。動物が浸かるなら、人とて浸かれるということ。それが温泉です」
「ミコ様が、そこに?」
 頷く。
「温泉には身体を癒やす効果があります。水でこするより、お湯のほうが身体も綺麗になる。若返りの効果も……」
 と言いかけて、ハッとした。古い記憶がよみがえる。確か卑弥呼が、不死の薬を探させたという逸話があったよな。
 昔の人なら、温泉探しも不死の薬も、同じようなモンだったかも。
「ミコ様?」
「あ、いえ」
 つい笑ってしまった。
「とにかく温泉は、良いことだらけなの。もし見つかったら、もちろん私だけでなくムラの全員に、温泉を使って欲しい」
 そう言ってフツを見ると、なんかちょっと引いていた。山から湧いてるお湯ですと? って顔だ。
 まぁ、見知らぬものに遭遇した時ってのは、人はなかなか受け入れられないよねぇ。

 でも、さすがタバナは順応が早かった。
「かしこまりました」
 と、要求をのんでくれたのだ。
 拒否られるかと思ったんだけどな?
「いいの?! ……ですか?」
 思わず地が出ちゃってから取りつくろったけど、ダダ漏れだよねー。タバナは苦笑している。いい顔だ。
「ミコ様の受託なれば、従わぬなど有り得ません」
「あ」
 忘れてた。受託、神託ね! あったな、そんなの。
 ミコから出た言葉は、すべて神託となる。温泉なんて酔狂なこと言い出すのだって、ミコだからこそ。
「とはいえ、やみくもに探して見つかるものでもない。まずは人々の暮らしを見て、話を聞いて、そうした場所がありそうな地に使者をつかわすが良い」
 っていうことぐらいは、タバナだって分かってるだろうけど。
「お主には、わらわの側にいてもらわねばならぬ」
「むろん」
 と、顔を上げたタバナと、目が合った。
 目が合った、それだけだったけど。
 何かが変わった気がした。
 どちらからともなく、ふっと笑みが漏れた。
「楽しみにしておるぞ」

 温泉に入るんじゃーっ! という意欲を自分のパワーにしたのが良かったのか、それからの私は、なかなかの勢いで回復した。
 何しろ、やらなきゃいけないことは山ほどある。
 どうやって進めたら良いのか誰にも教えてもらえないので困ったけど、やれることをやるしかない。
 最終目標は、天下統一だ。って、そんな織田信長みたいなこと考えてたのかよ卑弥呼?! ってビックリだけど、アイツの記憶によると、そういうことになっている。
 卑弥呼は、遣隋使を立てた女王だ。
 ってことは外国の存在を知ってたってことだし、そこと渡り歩く方法も考えてたってことになる。外交政策を進めるためにも、クニグニの統合も欠かせない。
 こないだの、ナコクとの戦いみたいな、ああいうのが必要になる。
 日神子が日本の、この日の本の女王だと内外に知らしめる力が要る。
 でも、なるだけ戦争なんて、やりたくない。
 国力を削りたくない。

 と、なれば、アレしかない。

 全快した私は、その春から、めちゃくちゃに働いた。
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